特許取得年と発明者の年齢 | 特許翻訳 A to Z

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1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

全文検索「ではない」特許庁の全文データベース』からの続きです。

前述のように、esp@cenetは、米国特許庁より古い出願まで発明者名などのキーワード検索が可能です。
実際、発明者名にAlexander Bellを指定して、米国特許庁では発明者名で検索できなかった1875年の米国特許第161,739号や翌76年の同第174,465号も取得できます。

この状況から考えて、1884年特許説が正しいとすればesp@cenetで拾えても良さそうなのですが、試してみるとヒットしません。
かたや1844年のほうは、存在していても古すぎてデータベースで検索できない可能性があります。

そこでもうひとつ、Google Patentも検索してみることにしました。
こちらはesp@cenetよりさらに古い出願まで、キーワード検索が可能です。

今回は、探しているのが1800年代の特許ですので、登録期間を1800年1月1日から1889年12月31日までに限定して検索します。
(後ろは1899年でもよいのですが、できるだけ母数を減らすために、esp@cenetでカバーできていることが確実な最後の10年は削りました。)

Google Patent日付指定

キーワード「tooth brush」で最も古い特許は、1857年の Wadsworth特許。
検索結果の中に、発明者としてRheinの名は見当たりません。

キーワードを「Rhein」に変えて検索しても、それらしい特許は見つからず。

ここで、今回の調査の最初のほうでGoogleを使って
 "Meyer Rhein" "1844"

 "Meyer Rhein" "1884"
という検索をしたのを思い出してください。

このとき、「In 1844, Meyer Rhein invented the first three-row bristle brush; however, H.N. Wadsworth was the first to patent the toothbrush」という説明が出ていました。

発明しただけで特許を取得していなければ、特許公報の検索では見つかりません。

ただ、仮に発明だけだとして、今度は1910~1920年代に特許を出願しているRhein氏が当時「何歳なのか?」という素朴な疑問が生じます。
同一人物なら、1920年に90歳だとしても、1844年には弱冠14歳。

この点をはっきりさせるために、Rhein氏の生年月日を探してみることにしました。

米国特許をはじめとする各国の特許公報にはMeyer L. Rheinと表示されているのですが、esp@cenetには「RHEIN MEYER LOUIS」とミドルネームまで表示があります。

そこでこれをそのままGoogleで検索したところ、一番上に

 Rhein, Meyer Louis 1860-1928

という情報がヒットしました。
肩書きは、Dr.になっています。写真も掲載されています。
詳細情報の中に「Dental cosmos, v. 70, n. 9, p. 850」という表示があり、このDental cosmosを調べたところ、歯科分野の情報アーカイブにあたりました。

もうひとつ、Google Booksで次のような検索も試しています。

 Rhein Meyer louis dental

ヒットした結果はいずれもスニペット表示でしたので、検索の工夫をして可能な限り前後のデータを取得したものを示します(強調は筆者)。

RHEIN, Meyer Louis, dentist, was born in Albany, N.Y., Jan. 31, 1860, son of Max Louis and Caroline (Fish) Rhein. His father, also a dentist, came to this country from Germany in 1848 with Franz Seigel (q.v.) and settled in Albany. After receiving his preliminary training at the public schools of Albany and Union College, Schenectady, N.Y., Mever L. Rhein...
【出典】The National Cyclopaedia of American Biography - Page 71

Meyer Louis Rhein, M.D., D.D.S. Dr. Rhein was born January 31, 1860, in Albany, N.Y., the son of Max L. and Caroline (Fish) Rhein. Dr. Rhein's father was a practising dentist of Albany. He was educated in the public schools of Albany...
【出典】The Dental Cosmos - Volume 70 - Page 943

MEYER LOUIS RHEIN, M.D., D.D.S., is a son of Marx Louis and Caroline (Fish) Rhein. His father is a German by birth and studied at Heidelberg, later acquainting himself with the principles of dentistry. As he had become involved in the German Revolution of 1848 he emigrated to America and located at Albany, New York, where he married and practiced his profession of dentistry for forty-five years. Meyer Louis Rhein was born in Albany,
【出典】University of Pennsylvania: Its History, Influence, Equipment and Characteristics; with Biographical Sketches and Portraits of Founders, Benefactors, Officers and Alumni, Volume 2 - page 324


以上のとおり、非常に有意な情報が得られました。
両親の名前が出ましたから、これで Google Booksを検索したところ、いくつか似たような内容の資料が見つかっています。

今回の調査で出ている1910~1920年代の特許権を取得したRhein氏は、1860年1月31日にニューヨークで生まれたとされる、この人物だと考えて間違いないでしょう。

1884年には24歳ですから、特許を取得できない年齢ではないですね。
一方、1844年特許は誤りか、そうでなければ上のMeyer Rheinとは別人のものでしょう。
考案しただけで特許は取得していないという説もありましたが、そもそも生まれていないのです。

1884年の単純なタイプミスから1844年説が出てきた可能性もありますし、同じく歯科医だとされる父親の特許の可能性も、そして1884年と1844年のどちらも誤りの可能性もあります。

そこで、父親の名前がMarxなのかMaxなのかも含めて、次は1880年代の特許とRhein一家の周辺を確認します。


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