1884年のRhein特許は・・・ | 特許翻訳 A to Z

特許翻訳 A to Z

1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

特許取得年と発明者の年齢」からの続きです。

前回、1884年の特許はMeyer Rheinが発明者の可能性あり、1844年のほうは、少なくとも彼に関しては有り得ないというところまで至りました。

特許関連のデータベースを遡るのは限界がありますので、ここで発想の転換です。
あと古い情報を検索できるとすれば書籍ですから、Google Booksに検索の場を移してみましょう。

今までの調査で、Meyer Rhein氏は父親がドイツ人で米国への移民であること、本人はニューヨークで生まれたことが判明しました。
そこで、ニューヨークとRheinを掛け合わせてみます。

 Rhein Meyer "New York"

結果、「Annual Report of the Commissioner of Patents - Page 240」という検索結果の中に、非常に気になる1行が見つかりました。
「Rhein. Meyer L., New York, N. Y. Tooth brush」と書かれています。
そして、この書籍の発行年は、1885年。

中を確認してみると、Name, residence, and inventionとして、氏名や居住地、発明についての情報が一覧で掲載されています。
Rhein氏の欄には、ニューヨーク在住で特許番号として「第306,776号」が。

6桁の番号ですね。さっそく米国特許庁で検索してみると・・・・

発明者:M. L. Rhein
登録日:1884年10月21日
発明の名称:TOOTH BRUSH

米国特許第306776号

ビンゴ!
1884年特許説は、正しかったようです。見つかりました。
そしてキーワードを少し変えて

 Rhein dentist "New York"

とすると、彼に関する情報がもう少し出てきました。
なかには、プレビューが可能な普通の書籍も含まれます。
こうした情報を追う限り、1884年というのは、非常に重要な年のようです。

Another step toward prevention of dental disease was taken by M. L. Rhein of New York City in 1884.
【出典】『Principles of Dental Public Health』 45ページ

Rhein was a pioneer in the field of oral hygiene, reading a paper on the subject published in the New England Journal of Dentistry in 1884.
【出典】『The National Cyclopaedia of American Biography』 71ページ

一方、1860年生まれの彼が1844年に特許を取得することは不可能ですので、1844年特許説については単なる誤りか、あるとしても別の発明者の特許だということになります。

ただし、この連載の初回に①で1844年説をあげていたWIREDの英文記事には、Meyer Rhein patented a three-row toothbrush in 1844 with large tufts of serrated bristlesと記載されています。

「three-row」は③の「three-row "prophylactic" toothbrush in 1884」にも含まれますし、上にあげた図面から明らかなように米国特許第306,776号の歯ブラシもthree-row形式ですので、可能性として高いのは、単なる誤記でしょう。

このため、誤記の可能性が高いという前提で、一応、父親の周辺もあたります。
以前に、「Max」と「Marx」の2通りのスペルが出ていました。
どちらのスペルが正しいのか、あるいは両方誤りなのかの確認にチャレンジです。

 Max Rhein "New York"

 Marx Rhein "New York"

この検索では、有意な情報は得られませんでした。そこでNew YorkをAlbanyに変更します。

 Max Rhein Albany

 Marx Rhein Albany

最後の「Marx Rhein Albany」で、『Albany and Rensselaer, N.Y., Directory』という住所録のようなものが出てきました。1878年刊行版の207ページです。

中を確認すると、「Marx Rhein L.」が歯科医として 97 Hudson ave. h. do.に、そしてすぐ下の行で「Meyer Rhein L.」が同じ住所地に登録されています。

ここで、スニペット表示の形でヒットした資料のうち、Marxのスペルを使っていたのは『University of Pennsylvania』という大学関連資料でした。
念のため、Googleで

"Dr. Rhein" "University of Pennsylvania" dentist

と検索してみたところ、検索結果として表示されている中に、次のような一文が見つかりました。

Dr. Rhein received the M.D. degree from the Albany Medical College in 1880, and the D.D.S. degree from the University of Pennsylvania in 1881.
--Untitled - Journal of Dental Research より--

Rhein氏は、ペンシルバニア大学の「関係者」のようです。
そして同大学の歴史を扱った資料にある父親の名前のスペルと、上で見つけた住所録のような資料にあるスペルが、一致しました。

以上の点に鑑みると、父親のファーストネームは、Marxが正しいようですね。

1884年の特許も見つかりましたし、父親の名前も特定できました。
次は、1844年の特許の謎を追いかけます。

■関連記事(連載です)
誤情報の確認と特許データベース
全文検索「ではない」特許庁の全文データベース
特許取得年と発明者の年齢
1884年のRhein特許は・・・ ←現在地

■その他関連記事
世界初の超音波歯ブラシは?




インデックスへ