メリークリスマス!三太爺とすぐる爺 最終回 | 音楽でよろこびの風を

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世間を騒がす夫婦音楽ユニット 相模の風THEめをと風雲録


メリークリスマス!
連載五回目。最終回です。
ここまでのご愛読、ありがとうございます!
和風クリスマスストーリー「三太爺とすぐる爺」
エンディングは大団円となるのか?

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 三太爺とすぐる爺 最終回

 ふと気が付くと天狗はいません。
 そして横にいる三太が、何事もなかったかのように、いや、三太はこの間時間が止まっていたのですから、実際に何もわかっていないのです。「なぁ、もうけっこう歩いたけれど、天狗はどこにいるんだろうなぁ。」
「三太よ、もう帰ろう。この森には天狗はいないのだよ、きっと。やっぱり爺二人で何とかなるほど、甘くはないってことじゃな。わしらも凍えてしまうから、帰ろう。」
三太もだいぶ体がつらくなっていたのでしょう。
「そうじゃなぁ、明日にはお医者殿も来てくれるかもしれないし、今日のところは帰ろうか。」
二人で中野村のほうに向かいます。

 森の出口に近づいてきた時にふわりと、また天狗が姿を現します。すぐる爺は「天狗様!」と声を出しそうになりますが、天狗はにやりと笑って口に しぃー、と手をあてます。
そして三太爺の耳元で何かを囁きますが、彼には何も聞こえていない様子。そもそも天狗の存在自体を、全く感じていないようです。
「ははぁ、これがさっき天狗様が言っていた むらおを治す方法を教える、ということなのじゃな。しかし、三太には全く聞こえていないようじゃが、大丈夫なのだろうか?」
すると天狗が向き直って「大丈夫じゃ。三太の耳には聞こえていないが、心の奥底のほうに聞こえるように伝えておいた。ちゃんとやってくれるよ。ただ、オレ様に何かを教えられた、ということは全く気付かないままにな。それではさらばじゃ。」
といって、天狗は再びにやりと笑ったかと思うと、その姿を消してしまいました。

 森の出口には道を挟むように二本の大きな杉の木が立っています。
                      
 その木の下にぎざぎざの葉っぱを持った、名も知らぬ一尺ほどの黄色い花が咲いています。
三太が急に立ち止まって言いました。
「なぁ、あの花を摘んでいこう。」
「なんでだ?」
「なんかよくわからないけれど、あの花と葉っぱが むらおの熱に効きそうな気がするんだ。」
「三太、お前 花や薬草なんか、別に詳しくないじゃないか。」
「うむ、そうなのだが、これは効きそうだ、って、なんだかわしの奥のほうから聞こえるんじゃよ。いいじゃないか。別に効かなかったとしても、持って帰るくらい。大して手間にもならんし。」
 すぐる爺にもようやく呑み込めました。「ははぁ。これが天狗の言っていた 病を治す方法なんだな。これが薬草か。」
 三太爺さんは、その花を根っこから引っこ抜いて両手に一株ずつ、持って歩き始めました。
 すぐる爺が声をかけます。「オレも一つ持ってやるよ。」
 
 
 十二月二十五日の早朝、三太爺とすぐる爺は村に帰り着きました。まっすぐにむらおが熱と戦っている 佐助ドンのあばら家に向かいます。
 「なぁ、うめさんや、すぐに湯を沸かしてくれ。そして、この花と葉っぱをすりつぶして、むらおに飲ませるのじゃ。ひょっとすると効くかもしれぬ。」

 煎じた薬草を飲まされたむらおは、今は穏やかな顔をしてすやすや寝ています。どうやら、「当たり」だったようです。集まっていた村のみんなは口々に三太爺をほめたたえます。「三太爺、よくあの花が病に効くと分かったもんだなぁ。」「さすが長老だぁ。」
三太爺も照れながら「いやぁ、なんとなくそんな気がしてな。」と笑っています。すぐる爺は神妙な顔で、特に口も出さず横で押し黙っています。
 とりあえず一安心。村の人たちも三々五々と、自分の家へ帰ろうと散り始めたその時。
 それまで晴れていた朝の空が、一転急に掻き曇りました。
                      
 あっという間に真っ暗。そしてピカピカっと、稲光が走ります。
「うわ、雷だ。」「みんな家へ帰れ」と村人たちが騒ぎ出した時、びかぁっと巨大な光が村を照らしました。と同時に大地を引き裂かんばかりの、「どどーーん」という音が。
みんな地べたにはいつくばるくらいの、すごい音と光です。
「雷が落ちたぁ。」「どこに落ちたべか??」

 ふと見ると、すぐる爺の家のほうが燃えています。
「て、てえへんだぁ。」
 すぐる爺を先頭にみんなが駈けていきます。爺の家の裏にある、彼にとっては一番大事な銭の蔵が燃えています。なんとすぐる爺の大事な大事な銭蔵に雷が落ちて、今やぼうぼうと燃えているのです。

 村人はみんなで力を合わせて、手に手に水桶を持って集まります。
「水だぁ、水。早くしろ!」
 村のみんなも必死な顔で水をかけますが、火の手の勢いも強い。
 みんなの奮闘のおかげで、全焼こそ食い止めましたが、銭蔵の半分以上は焼け落ちています。大事な銭はただの金属の塊になっています。

 そして、火の手がやっとおさまったのを見て、安心したせいでしょうか。みんなと一緒に、火を消すのに走り回っていた、三太爺さんが「む、胸が苦しい。」と言って、その場に倒れこみました。
「あ、三太ドンが!」「大丈夫か三太さん。」
 一難去ってまた一難。
 蔵の前にいたすぐる爺が、みんなをかきわけ三太さんのそばに駆け寄ります。「なぁ、三太、死ぬな!」三太を抱き上げ、ほほをバンバン叩きながら「オレを置いていくな!!」とあらん限りに大声で叫びます。
 ちょうど、昨夜村を出発した足の速い若者が、大きな町からお医者様を連れてきました。むらおを診てもらう前に、まず三太爺を診てもらうことになりました。
 三太爺は一番近い 村長のばび爺さんの家に運ばれていきます。それを見守る、すぐる爺と村人たち。
                     
 あのケチなすぐる爺の銭蔵が焼け落ちて、そのうえ幼馴染の三太爺まで倒れてしまいました。すぐる爺は悲しんでいるか、怒っているか。
 村人もどう声をかけたらよいか、迷っているようです。
 すぐる爺がみんなの方を振り向きました。
「三太がよくなるまで、オレが面倒を見るよ。」
 村のみんなはちょっとびっくりしました。ケチなすぐる爺が、そんなことを言い出すなんて。
「たった一人の幼馴染だからなぁ。お互い何十年と生き延びてきたんだ。」自分に言い聞かすように、みんなに言い聞かすように。
 そして、下を向いてみんなに聞こえないよう、小さな声で吐き捨てます。
「天狗め、大事なものをってそういうことか。ちくしょうめ」

「それにな、みんなのおかげで火を消せたよ。」
「しかし、あんたの大事な銭の半分か、それ以上が使い物になんなくなっちまったじゃねえか。」
「いや、いいんだ。」

 今までみんなが見たこともないくらい、すぐる爺はすっきりした顔をしています。
「大丈夫、まだ半分ある。命もある。オレは人よりちょいとばかり金を持っていたことで、どうやら天狗になっていたようだ。」

「みんな、ありがとう。」




               おしまい



最後まで読んでくださって ありがとうございます

来年もより佳き年でありますように


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