僕が僕のすべて240 S | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

怒っているかと、そう聞かれると自分でも疑問だ。

だけど潤さんがそう思うのも仕方のないことだとは思う。

自分でもこのモヤモヤする感情にどう向き合えばいいのか全然分かっちゃいないし、だからこそ何をどうすればいいのか、何を口にすればいいのか考えあぐねたままでいる。

 

”おまえがそれ言ったら…、俺ら終わるぞ?”

 

遠い昔の潤さんの言葉が重くのしかかり、俺が別れようと言えば潤さんはそれに従うことを知っているから。

そう、抗うことも、逆らうこともせず、

 

”分かった。おまえがそうしたいなら俺はいいよ”

 

あの日潤さんはそう言って簡単に俺を手放した。

潤さんは俺とは違う。

俺を好きだと言ってくれてる言葉に嘘がないことは伝わるけど、何が何でも潤さんがそばにいてくれなきゃ困るっていう俺の気持ちとはまるでかけ離れてる。

俺はそんな彼の淡泊な感情を目の当たりにしながら、心に霧のかかったまま生きていくのは辛すぎる。

 

どうしたらいい。

どうしたら。

 

離れたくないけど。

でもこのままじゃ。

 

「……怒って……ない…」

「……そう?ならいいんだけどさ」

 

真っ直ぐと前を見据える視界の片隅に、潤さんがこちらの様子をちらりと伺ったのが分かった。

それからコーヒーカップを手に取ると無言で口に含み、またそれをホルダーに戻す。

正直、空気が重くて息苦しい。

楽しい時間なはずなのになんでこんななんだ。

俺と潤さんって、思い返せばずっとこんなことの繰り返し。

せっかく一緒にいるのに。

潤さんのことを独り占めできて嬉しいはずなのに。

一緒に住んでもこの気持ちを持て余し続けて行くのが手に取るように分かる。

 

なぁ潤さん。

俺は、そんなのは嫌なんだ。

 

だからといって、どうしよう。

どうしたら。

 

「事務所には聞けた?」

「聞けた…ってなにを」

「はぁ?住む場所の条件だよ、聞いとけって言っただろ」

「あぁ、えっと…まだ聞けてない」

「そんな忙しかったの?」

「そういう…わけじゃ、」

 

俺がそう答えると、潤さんは呆れたようにため息を漏らした。

だってしょうがねぇじゃん。

一緒に住まない方がいいんじゃないかとか常に頭の中をぐるぐるとしているのに…、んな住む場所の条件とか聞く余裕なんかねぇよ。

だけど潤さんはまさか俺がそんなことを考えているなんて思ってもないんだろうな。

 

「おまえさ、やっぱなんか怒ってんだろ」

「だから、怒ってねぇって」

「あれか?俺が帰国した日のことまだ根に持ってんのか?」

「帰国した日?」

「俺が一方的に”おやすみ”だなんて言った夜のことだよ」

 

それは違う、と言おうと思ったけれど果たして本当に違うのか?なんて言葉が頭を過った。

元はといえば俺がこんな謎の不安に押し潰されそうになってんのはそれが根源だったんじゃないか。

そう…、潤さんがあまりにもあっさりしすぎていて。

あんなにも逢えるのを心待ちにしていた俺とは違って、いつだって彼は冷静で平気そうで。

だから。

 

「おかしいと思ってたんだよ。おまえならいくら仕事で遅くなろうが何が何でも会うって言いだすはずじゃん」

 

だから拍子抜けしたよ、って潤さんは少し寂しそうに付け足した。

 

「しかもそれからパタリと音沙汰無くなって。だけどそうか、そんだけ今忙しいってことなんだって落とし込んで、こっちから連絡するのも遠慮してた」

 

そんな潤さんの言葉を聞いても、だけど好きならもっとどうにかって…どうしても考えてしまう俺は、やっぱりまだまだガキなんだろうな。

この人と一緒にいる限り一生付きまとう、年齢差という溝。

 

「なんであの夜、会いに来なかったんだよ」

「……あの夜は撮影が終わったのが朝方に近い時間で。俺はそれからでも行くつもりだったけどマネージャーに止められて…」

「マネージャー?」

「うん、いくら恋人とはいえ相手に迷惑だって、もっと大人になってくれないと困るって、だから、」

 

そう言うと、

 

「はぁ、、、」

 

さっきのため息よりももっと大きな息を潤さんは吐いた。