僕が僕のすべて239 S | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

そんな俺の葛藤をよそに、あっさりと会う約束ができて…嬉しいはずなのになんでだろう。

彼に会ってどんな顔をすればいいのか、未だに分からなくて困ってる。

 

 

***

 

 

誕生日以来の生潤さん。

 

「久しぶり」

 

そう言って微笑む顔に胸がキュンとする。

どうしたってすげぇ好きだって思うよ。

だけど、それと同時にやっぱり自分じゃ潤さんには不釣り合いなんじゃないかって思いも募っいく。

心の中がぐちゃぐちゃすぎてマジで苦しいんだけど。

 

「うん、久しぶり」

「どうする?どこか店に入る?それとも天気もいいし、このままドライブでもする?」

「…どっちでも」

「じゃあ……、飲み物でも買ってちょっと遠出するか」

 

そう言って潤さんは、とあるコーヒーショップのドライブスルーへと運転する車を進めていき、慣れた様子でオーダーを始めて、

 

「翔はなににする?」

「なんでも」

「じゃあ翔はミルクが入ったやつにするか?」

「うん、」

 

それから暫くして、店側から受け取った桜柄のカップを俺へと手渡した。

 

「もう春だなぁ」

 

潤さんがそのカップを見つめながらそう呟く。

あれだけ寒かった冬はいつの間にか着々と歩み寄る春に追いやられ、車内は日差しを受けてポカポカと暖かい。

隣に潤さんがいることで、俺にとっちゃ相乗効果をも生みだしている。

受け取ったカップへと口付けると、いい香りが鼻腔をくすぐった。

これって……なんの香りだっけ?なんて小さく頭を傾げる俺に、

 

「どう?それ、Sakuraラテだって」

 

すかさず潤さんはそう教えてくれた。

 

「これ桜の味だったのか、うん、美味い」

「そう?ならよかった」

 

春だねぇ、潤さんはもう一度そう呟いて、まるで嬉しさを噛みしめるかのようにして口元を緩ませた。

どうにも冬が終わることが楽しみで仕方ないように見える。

それに比べて俺は、いつまでもグチグチと悩んでばかりで変わりゆく季節に目を向ける余裕すらない。

 

あぁ、これだよ。

こういう意識の差を見せつけられるのが辛いんだ。

早く大人になりたくて、だけどどうにもなりきれずに、もがいてばかりの俺が潤さんにはどう見えているのだろう。

このSakuraラテのように見た目は華やかで甘そうなのに…でも実際のところはほんのり苦味もあって。

幸せの絶頂にいるはずなのに、どこか心の奥で苦しんでる自分とリンクする。


どうしよう潤さん。

やっぱり俺はこのどうしようもない気持ちを隠したまま、あんたと一緒に暮らせるるほど器用じゃない。

それどころかあんたと一緒に過ごせば過ごすほど、そんな弱い自分を見透かされてしまいそうで…、そのうちあんたの俺に対する愛情が底をつきそうで。

 

怖いんだ。

 

 

「翔見て、超綺麗」

「あぁ」

 

そうこうしているうちに左手には太陽の光を浴びてキラキラと輝く真っ青な海が見えてきて、潤さんはそれはそれは楽しそうだ。

それなのに俺は、いつかこの笑顔を曇らせる時が来るかもしれないなんて怯えてる。

それでも潤さんは、そんな俺にいつもと変わらずに接してくれていたのに、

 

「おまえさぁ、なんか怒ってる?」

 

ついに言及した。