シカタナイ81 S(潤翔) | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

「それでは気を取り直しまして」

「へ?」
 
にっこりと微笑む松元に、脚首を握られて思いっきり引っ張られる。
仰向けになった身体はずりずりと松元の下へと引きずり込まれた。
 
「わだかまりも無くなったことだし、ね?」
 
ね?じゃねぇよ。
今の今ヤったばっかじゃん。
そう思って不意に落とした時目線の先に、無造作に床に落とされた真っ赤なサンタの服が目に入った。
 
「あ!あっ…あーほらっ!えっと!」
「ん?」
「ほら!あれだ、えーと…ケーキ!そうケーキだよ!」
「ケーキ?」
「おまえケーキ持ってきたじゃん?」
「あー、あれ?そういや玄関で落っことしてそんままだ」
 
きっと中ぐっちゃぐちゃだよ?って、ケーキよりセックスを優先すんな。
だってどうせおまえが一生懸命作ったやつなんだろ?
 
「食おーぜ?ケーキ、クリスマスなんだし」
「…そう?」
 
まぁ夜は長いしねなんて言いながら、松元は衣服を拾って身に纏いながら玄関へと歩いていく。
その間に自分も服を着て、キッチンへ移動した。
 
抱き合えたことに不満はない。
だけど、どう考えたって連続はキツい。
 
「ねぇ翔さん、思ったほどひどくなかった」
「マジ?」
 
ケトルに水を入れてスイッチを押す。
テーブルの上に置かれたケーキを見てみると、確かに少し崩れてはいたけれど、思っていた程ではなかった。
落ちどころが良かったってやつ。
 
「それよりおまえ服着ろよ、風邪ひくぞ」
「あ、うん」
 
松元はロンTに袖を通して、それからズボンのポケットに手を入れてゴソゴソと…何かを探してる。
そして、
 
「あったあった」
 
そこからライターを取り出すとケーキの上に乗せられたレンガの家と、トナカイのロウソクに火をつけた。
暖かいオレンジの炎がゆらゆらと揺れる。
 
それを見ながら、俺が誰かと結婚するんだと失望して俺から離れていった松元が、なんで今ここにいて、こうして一緒にクリスマスケーキを食べようとしているのだろう。
なんて考えたら、それがまるで奇跡なようにも思えて。
込み上げる感情をセーブするために、スンと鼻を啜った。
 
しばらくすると湯が沸いた音が鳴って、フィルターに粉を入れる。
それに少しずつ湯を注いでいると、背中に松元がピッタリとくっついてきた。
 
「なぁ…、」
「んー?」
「おまえさ、今日なんでうちに来てくれたの」
「…会いたかったから」
 
ポトンポトン…と一定のリズムで落ちるコーヒーを見つめながら少しだけの沈黙。
そして松元がまた口を開く。
 
「翔さんが俺んちに詰め込んでたレシート…全部見たよ」
「レシート?」
 
あいつんちの玄関に詰めたレシート。
それがどうしたというんだ。
 
「めっちゃ分厚いレシート。全部違うケーキ屋のものだった」
「……っああ!」
 
そうだ思い出した。
俺、松元と連絡とれなくなって焦って。
あいつの実家が洋菓子店だって聞いてたから探し回ってたんだ。
 
「しかもさ、買ってんの全部プリンとチョコケーキ」
 
松元が思い出し笑いのように、ふふっと吹き出した息が首にあたってくすぐったい。
 
「おまえに作ってもらったやつ食ったのその二つだったから…。食えば分かるかなと思ったんだよ」
「翔さんって頭いいのか悪いのか、たまに分かんなくなる」
「はあ?」
 
どういう意味だよ。
そう思ったら、雅貴に聞けばよかったじゃんって。
そうだよ、相庭くんと松元が同級生だって前に聞いてたじゃん。
なんで俺はそこに気付かなかったんだ。
 
「でもさ、嬉しかったよ。俺、そのレシートなかったら今ここにいなかったかも」
 
今ここにいなかったかも…しれないんだ。
そう思った時、すっと背中から松元が離れて急激に背中が寒く感じた。
素直に嫌だって…思った。
 
松元は棚から取り出したカップに、ポットに溜まったコーヒーを注いだ。
 
「ケーキ切る?」
「このままでいいんじゃね?」
「このままフォークで食う?」
「このままでいいよ」
 
そうして二人して右手にフォークを握って向かい合わせに座って。
 
「いっただっきまーす!」
「そこはメリークリスマースじゃねーの?」
「作ってくれた人への礼儀」
「俺が作ったって言ってないよね?」
「えっ、違うの!?」
「ふふ、違わないけど」
 
なんだよー、そう頬を膨らませながら、ふと松元の顔を見れば、すげぇ嬉しそうな顔して俺のことを見つめてる。
 
「…なに?」
「ううん?」
「食わねーの?」
「食うよ?」
「早く食おーぜ」
「翔さんが先に食べて」
 
そんな見られたら食いづれぇんだけど。
だけどシカタナイからフォークですくって口いっぱいに頬張った。
 
「うんまっ!!」
 
やっべ。
超美味い。
体動かした後だからかな。
口いっぱいに広がる甘さが全然嫌じゃない。
 
「ほんとに、翔さんって食べさせがいがあるよね」
「うるせー。美味いから美味いって言ってるだけだろ」
 
松元のやつ。
ずっとニヤニヤした顔で人のことばっか眺めてやがる。
そんなに見られたら、気になって喉通んねぇだろっつーの。
 
「なんだよ」
「ふふ、その顔久しぶりに見た」
「はあ?」
「翔さん、怒った顔も可愛いよね」
 
ムカつく。
 
ムカつくけど。
 
好きなんだから、シカタナイ。
 
 
 
 
フォローしてね…
 
 
 
 
★初回プレス仕様★