“さつき”と“e-や”のお話し。第3回目。

これは、現実か、空想か。フィクションか、ファンタジーか。2人の女の子のお話し。


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-さつきの異常-



“思春期”というものを経験したことのなかったさつきに、大学生になってからとある異変が顕著に起こっていた。まるで、遅れてきた思春期の様であった。


さつきは、小さい頃から痛みには鈍感であった。だから平気で、痛みによって現実を紛らわそうとしていた。抜毛癖で髪の毛を抜き、机に頭をぶつけ、目を駆使して視力をわざと落とすマネをした。

それが大学生になってからというもの、手にはカッターナイフが握られるようになったのだ。


所謂―

“リストカット”。


まるで原人が道具を使って進化したかの様に、さつきの自傷行為は小さな頃から沸々とその行為を、その傷を深めていっただけではある。そして、よく有りがちな、そんな言葉で呼ばれる行為へと移行しただけだった。


さつきは決まって、寝る前と嫌な事があると、1本から30本程まで幅広く、気が済むまでカッターナイフを腕に当て続けた。さつきはニコニコ笑っていた。ケータイのカメラ機能まで使って、記録までし出す余裕っぷりで、誰に見せるわけでもなく、完全に自己満足の世界。たった一人の世界の異常であった。


カッターナイフはコレクションや、お守りなんて言いながら、10本以上は所持していた。

とりあえず、何があってもいつもさつきは笑って過ごした。だって、カッターナイフがあるんだから―。


血が流れる量も、傷の深さも、悪化の一方を辿っていったさつきの自傷行為。

ある日、自分でつけたその傷の開きがさつきには“目”に見えた。


「見られている―」


そんな恐怖に耐えられず、しかしそれでもカッターナイフを置くことは出来ず、心療内科の門を叩くことにしたのだった。もう、さつき自身ではどうにもできずにいたのだ。


さつきはe-やにも何も相談はしなかったが、e-やもまた、傷が増えていくさつきの腕を黙って見ていた。

自信満々の気持ちで、大きな気分ですぐに行動してみるのだけれど、いざとなると行動してから後悔することの方が多くなった。


何でこんなにあたしは自信がないんだろぉ?

何でこんなにみんなは自信があるんだろぉ?


普通に過ごせない。


不安で、不安で、不安過ぎて、ぶっ壊せるなら、この地球ごと、いや、宇宙ごと壊れて欲しいと思っちゃう。美しい世界が好きで、嫌いで、でも多分生きていて、生きていかんとかんくて、センチメンタルになってしまう。

だって、無理なんだもん。


どこまで進めるだろぉ?

どこでまた止まるだろぉ?


普通ではいられないんさ。


自信、いっぱいあったのにな。

どこ置いてきたかな・・・もぉ探すことも無理だよ・・・。

うちの親は、やはり分からない。

放任かと思えば、急に手の平返す様に過保護へ。


確かにあたしが悪い部分は多いにあって、文句が言える立場ではないと分かっとるだけど。。。


でもさ、そんな自分の都合良く社会が動いてくれるわけないがん。

こっちから「これも」「あれも」って条件出しとったら、どっこも受け入れてなんてくれんさ。


親は「生きていてくれればいい」とは言った。

それは本意なのかどぉか疑いたくなってしまう自分がおって、こんな子供がおって、それがこの自分でと思うと、かなり屈辱だ。こんな自分が社会様に出てもいいのか。分からんくなる。


これは「無益な苦しみ」ってやつなんですか?

親友が教えてくれた多肉植物『サンシモン』。

赤黒い花が特徴的で、あたしの部屋にとってもよく合いそぉな予感。もっと部屋頑張らんと。


サンシモンはちょい珍しぃんか、近くの田舎のお店には売っとらんくて、結局ネットで注文したった。一苗250円ですた。それを2つ注文。多分だけれども、明日届くであろぉ。

高さが結構あるもんだで、バランス考えてチョッキンする予定。その為に・・・



風、薫る。
『サボテン・多肉植物の土』と、『かる~い鉢底石』をそれぞれ2㍑。ケッタマシーンこいでホームセンター行って買ってきやした。2つで、500円程。うん、予算以内。

プランターは前に、ミニひまわりなど育てとったんに使っとったやつ。大きさ丁度よし。


正直、サンシモンをちょん切って、挿し木みたいなんにしてちゃんと根っこが出てくるか不安であぁる。植物は機械でないんだよ。チョキンの、挿しーぃの、土&水ちょーぉだいしても、無理な時もあんかんね。


でもとにかく、育ってくれる事を願います。

こんなあたしで良ければ、育つとこ見させて下さいな。

風、薫る。

キツく絞められた首。

動けないし、動かない。


キツく絞められた首。

苦しいし、苦しくない。


キツく絞められた首。

終わる、もう終わる。


気持ちいい位に今終わる。

全てが遠のいて、全てが無くなる。


あなただから許せるのだろう。

あなただから任せるのだろう。

あなただからなのだろう。


「苦しいね」

そんな声を出そうとしたら、喉が潰れて出なかった。


あなたもあたしも、苦しいんだ。

また絞めてよ。

もっと絞めてよ。


くだらなく遊ぼうよ。

タブーを犯して、

代わりを探して、

それで生きていけると思ってた。


でも、


タブーなものと、

代わりのものとに、

殺されてもいいと思ってしまった。


結局は生きてなんかないのかもしれない。

今のあたしは。


今のあたしは生きようとはしてないのかもしれない。

“さつき”と“e-や”のお話し。第2回目。その続き。

これは、現実か、空想か。フィクションか、ファンタジーか。2人の女の子のお話し。


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-講義受講-

(続き)



ちぃこの研究室には、いつも誰かしら生徒が居たが、卒業論文提出に向けての4年生達ばかりであった。そこに、まだ何も分かっていない1年生であるさつきとe-やの存在は実に珍しいものだったみたいだ。2人は全く気にすることなどなく、4年生達の色々な質問攻撃に素直に答えるだけだった。

しかし、e-やは何故か入学したばかりだというのに、たまに敬語ではなくタメ口で4年生と話す光景があった。何となくさつきが不思議に思った時、e-やはそれを察するかの様に、「実はね、さつきに話してないことがあるんだわ。」と言った。続けて、少し緊張した声で「あたし、さつきより4つ年上なんだ。」とカミングアウトする。でもさつきは、e-やの緊張をよそに、「そうなんだ。」と一言返しただけだった。別に興味がなかったわけでもないし、驚かなかったわけでもないが、さつきにとって、歳などさして大きな問題ではなかっただけのことだった。


マイペースで個性的な生徒に囲まれるちぃこもまた、変わった教授だった。色白で穏和な性格ではあったが、自分の研究に関してと、生徒への評価は厳しい姿勢で臨み、不平は絶対にしない。だから、不真面目な生徒に対しては、穏和な笑顔をしながらも、単位を容易くはあげずに平気で蹴落とすことをする。そんなちぃこは、いつもお弁当箱にセロリを入れていて、お昼にはポリポリかじっているのだった。セロリをかじる姿はお馴染みといった感じだ。そんな眼鏡のAB型。

元からあだ名をつけたがるさつきとe-やにとって、面白い教授としての立ち位置になってしまった「ちぃこ」。あだ名はすぐに命名となった。年上で、教授という立場や地位など、この2人にとっては全く関係ないのだ。


“ちぃこと愉快な仲間達”。


まさにそんな雰囲気の研究室だ。色々な話題が飛び交った。思春期と言われる時期は既に過ぎ去ったであろう大人達の悩みは、思春期時代に拗らせた引っ掛かりをまだ引き摺っている。“愉快な仲間達”の悩みは実に様々だった。卒業論文の相談はたまに出るくらいで、恋愛相談もあれば、精神面での相談も多かった。


ちぃこは、やはりいつも穏和だった。どんな悩みにもニコニコと答える冷静さは、まさに“大人”だった。研究室でも、講義室でもいつも何も変わらない態度である。それがきっと、この研究室に個性的で様々な仲間達が集まる要因にもなっているのであろう。


ちぃこの研究室に段々と入り浸る様になるさつきとe-やであるが、この2人もまた拗らせた悩みを抱えて生きていた。

“さつき”と“e-や”のお話し。第2回目。

これは、現実か、空想か。フィクションか、ファンタジーか。2人の女の子のお話し。


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-講義受講-



大学生活はすぐにスタートした。さつきとe-やは、打ち合わせした訳ではなかったのにも関わらず、偶然にも同じゼミに入った。いや、もしかすると、これは必然だったのかもしれない。


アナーキズム学―。

アナーキズム派とは、政府を持たない人たちの派閥のことだ。

2人ともきちんと意志を持ってそのゼミに入ることを決めたのだが、2人共が同じ目的でゼミに入ったわけではなかった。さつきは、その全く知らないその学問に興味深々で、好奇心旺盛な性格が揺さぶられ、そのゼミに入ることにしたのであった。一方のe-やは、入学前からきちんと将来の目標に向かい、授業の雰囲気も踏まえた上で、そのゼミに入ることを決めたのであった。


講義が始まる前に、さつきとe-やは大学校内で再び顔を合わせ、それからというもの、決まって自然と隣りの席に座った。誰も座りたがらない1番前の真ん中の席にいつも着席していた。2人共、受講態度は真面目で、教授の話を聞いてノートを取った。


講義をする教授は、後にこの2人から勝手にあだ名を付けられて、男の教授なのにも関わらず、慣れ慣れしく「ちぃこ」と呼ばれるようになる。

ちぃこは、中々の偉い教授だったが、それを漂わせる様なこともなく、何だかいつもふんわりとした雰囲気で、淡々と講義をする。教授にしては若い男の人であった。


講義が始まった。

講義では、「自由」についてまず触れた。自由は5つに分類されるらしい。「能力」、「自律」、「放任」、「自足」、「選択」、そして「自己実現」。自由とは、本人の利益や幸福を実現する為の手段に過ぎないのだとか。それは功利主義に繋がってゆくのだそうだ。ちぃこはベンサムという人の言葉をサラサラと黒板に書いた。


「人間が何かをする時、快楽と苦痛が伴う。」


さつきもe-やも、真面目にノートにその言葉を書いていた。

その後も講義は続いたが、90分という、いつもなら長く感じる時間の流れは、真面目な2人にとって短く感じるものだった。


ある日の講義終わり、毎回一番前で講義を聴く2人に、ちぃこが「いつでも研究室に遊びにおいで。」と軽く言った。さつきもe-やも、周りの浮かれた大学生と違い、大人数で盛り上がることもなく、いつも2人だけで食堂の窓辺にぼんやりと座っていた日々だった。だから、時間ができるとすぐにちぃこの研究室へと足を運ぶようになる。

“さつき”と“e-や”のお話し。第1回目。

これは、現実か、空想か。フィクションか、ファンタジーか。2人の女の子のお話し。


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さつきは小さい頃、親の愛情不足によりなのか、元から壊れていたからなのか、恋も愛も何も分からない女の子であった。さつきの妄想ではいつも、とっても強気なお姉様が出て来て、さつきを可愛がり、また責めた。


さつきがいよいよ自虐的になり始めていた。でもまだ夢が満ち溢れ、情熱を持ち、希望の中未来を生きていた頃、e-やと出逢った。その出逢った時から始まる物語。とてもクレイジーだってこと、誰にも分からないし、知られてもいけない。




-二人ぼっちの始まり-



出逢ってはイケナイ2人の出逢いは、大学生になって間もない4月。身体測定の日だ。まだ2人共、“友達”と呼べる仲間はできておらず、2人共が一人ぼっちだった。さつきは、一人に慣れた振りをして、自然と周りにもそれを伝えていた。そんなさつきに、e-やがすーっと通る風の様に声をかけた。


「どこで着替えれば良いの?」


e-やは、背は低く可愛いのに、実にお姫様に見える美貌を持っていた。さつきと違い、恋多き女の子であった。見た目が綺麗なだけじゃなく、自分が手にする物も綺麗に扱う潔癖さで、病的に手から物までも洗う子だった。


そんなe-やは、スクールバスの中でさつきの事を「可愛い子だな」と何気なしに見ていた。いつも一人で居るさつきにふと声をかけたのである。

“友達”の始まり。女の子の友達なんて、そんな始まり方が多いものである。

それから身体測定を受ける為、大学校舎を一緒に周った。何の意味も無い様な会話もしたりしが、さつきは少し一般的には“重い”話題をe-やに振ったりもした。さつきは内心、「これでダメならダメなのだ」という諦めがついていたが、意外にもe-やは、またも通ってゆく風の様にそれに答えた。


気が合う2人であった。

タイプは全然違うのに。


風、薫る。
本当を言えば、貴方に願っている。

願うだけ願って、放っている。

放るだけ放ったら、集めている。

本当を言えば、貴方に投げている。