翌日。
亜依の幼なじみ、智大がバイトするカフェで
ランチ中の麦子、麻里、亜依。
智大おすすめのレディースプレートを
表向き和やかに食べている。
智大はランチが落ち着いた頃、顔を出すという。

麻里から亜依と智大の店で食事したいと提案され、
麻里は亜依と仲良くなりたいのねと
思い込んだ麦子を除き、
麻里と亜依が静かに牽制し合う中、
麻里が口火を切った。

「あなた、うちに来たいそうね」

麻里は亜依を見据えて言った。
亜依が返答する、その前に麦子が答えた。

「そうなの。来週はどうかなって

 午前中話してたの」

「そう。でも、私、いないわよ」

「えっ、そうなの?」

「ええ。家に帰るから」

「そう・・・」

麦子ががっかりする。
麻里はまた亜依を見据えて言う。

「じゃあ、私の家にいらっしゃいよ。

 家は高雄だけど、迎えを用意するから心配ないわ。

 帰りは泊まってくれてもいいし、

 日帰りでもどちらでも手配はするから

 予定が決まり次第教えて」

またしても麦子が先に口を開く。

「麻里、私も行っていい?

 麻里のお爺ちゃんにも会いたいわ」

「ええ。もちろんいいけど、由基は?

 由基と一緒にって言ってたわよね」

「あっ‥うん。聞いてみる‥

 亜依、ごめんね」

麦子がシュンとする。
亜依が言った。

「そんな‥気にしないでください」

亜依のこの言葉に、麦子は顔を上げ、
亜依にぎこちなく微笑んだ。
亜依も麦子に微笑み返す。
そして、亜依は表情を硬くし麻里を見た。
麻里は、カフェの店主が造った
小さな庭園を見ていた。

「麻里さん。あの‥私、私達も今度

 麦子さんが行く時にします。

 ごめんなさい」

こう言って亜依はぺこりと軽く頭を下げた。

「そう。じゃあ、渉達と行ってくるわ」

麻里は麦子に向かって言った。
これには亜依が素早く反応した。

「!!あの‥」

亜依は何か言おうとして口ごもった。
目は泳いでいる。

亜依は急にどうしちゃったの?と思った麦子は、
麻里を見た。
麻里は黙って亜依を見ている。
麦子は亜依に声を掛けた。

「亜依、大丈夫?」

麦子の声に亜依はびくっとし、
我に返るとふたりが自分を見ていた。
亜依は何か言わないと‥と、慌てた。

「あの‥私‥わたしっ、行ってもいいですか」

亜依が急に大きな声を出したので、
麦子と麻里は驚いて目を見開いた。

「あの‥ごっごめんなさい。私‥」

すぐに気を取り直した麻里は亜依に聞いた。

「行くってどこに?」

「あの‥麻里さんの家に」

「どういうこと?」

「はい‥」

「答えてよ。今さっき、ごめんなさいって

 言ってた人が、どうして行く気になったの?」

「そっそれは‥」

「渉なの?それとも周平?」

「えっ」

この展開に麦子が思わず声を上げた。
自分を見るふたりの視線に耐えきれず、
真っ赤な顔をした亜依は下を向いた。

「麻里、どういうこと?」

麦子は声を落として聞いた。

「どういうことって‥

 渉と周平、

 どっちが目当てなのか聞いただけよ」

「目当て?」

麦子の声が大きくなる。

「そうよ。

 麦子、残念だけど‥

 これであの子が屋敷に来たい理由、

 分かったでしょ」

こう麻里に言われ、力なく麦子は亜依を見た。
亜依は今にも泣きそうな顔をしている。

「麦子さん。私‥」




~~
☆次回、智大やっとのことで登場します。
 では、今回も読んでくださって感謝です。。
翌日。
本日、由基の会社はノー残業ディ。
午後も3時を回り、
今夜の予定を社員達が囁き合う中、
電話が鳴った。
宮原財閥会長秘書、沢口からだ。

この近くに来たと30分後に来ると言う‥

途端に社長は浮き足立ち、社員もざわつき出す。
生憎、由基は外出していた。
それに気づいた社長は、
「すぐ戻ってこい」と商談中の由基を
無理やり電話に出させ、
「とにかく帰ってくるんだ」とまくし立てる。
だが由基は、
「こちらが終わり次第、一旦戻ります」
と、決して引かない。
社長は折れた。
先方が由基目当てなのは明白だった。
「できるだけ早く戻ってくるように」と、
言い渡し、社長は電話を切った。

社員達が社長のデスクの前に集まっていた。

「社長、室長は?」

電話を終えるなり、
うなだれた社長を見て社員は言った。
社長はすぐに気を取り直すと指示を出した。

「みんな掃除だ。急ぐんだ。時間がない」

「ええー」

皆、口々にブツブツ言って動こうとしない。

「大口の大切なお客様がいらっしゃるんだ。

 我が社の社運が懸かってるんだぞ。

 みんなボーナス要らないんだな」

社員は渋々動き出す。
社長は身だしなみチェックにトイレに走る。
そして、きっちり30分後、
沢口は部下を連れてやって来た。

形ばかりの応接スペースは、
パーテーションで区切られているだけで、
話の内容はほぼ丸聞こえになる。
いつにも増して社員達は、
皆、聞き耳を立てていた。
だが、一向に沢口は口を開かなかった。
部下がひと通り、
今回のプランを説明してしまうと、
後は双方手持ち無沙汰になった。
社長が頑張って話を振るも、会話は弾まない。
沢口の部下は、
余分なことを口にしないタイプであった。
と、ここで沢口がこの場を締めた。
「来週、お待ちしています」
と、最後に言い残して。
それが合図だったのか、
部下は二人分のチケットを差し出した。
それをすぐ手にした社長は、
「必ず伺います」
と即答したのだった。


その頃、由基は予定を調整して会社に戻ってきた。
由基が一階のエレベーターホールで待っていると、
上から一台下りてきた。
エレベーターが開くと、
奥にいた細身の男が由基に気づいた。
その男はすぐさま部下に頷いた。
部下はエレベーターを降りると、
ふたりをその場に残し、
由基の会社に電話を入れた。
社長は二つ返事で了承した。



「沢口さんですね」

外へと急ぐ沢口の部下を見送りながら、
由基は沢口と向き合った。

「紫堂さん、急で悪かったね。

 この後、予定は?」

「この後?ですか」

「ああ。どこかで落ち着いて

 君と話でもしたいところなんだが、

 今も君の会社で珈琲をいただいてね。

 私は珈琲好きなんだが、既に四杯目なんだよ。

 勝手だが、夕食後に五杯目を

 美味しく飲みたくてね。

 君さえよければだが、君の次の目的地まで

 同行させてもらえないか。

 そこに向かうまでの間、

 君とふたりで話でもできればと思ってね」

「はい。僕は構いませんが」

「そうか。じゃ、遠慮なく

 君の車に乗せてもらうよ」

「はい。ただ‥狭いので申し訳ないのですが」

「はは‥そんな構わんでくれ。行こうか」

「はい」



「あの‥うちの社長とは?」

由基の車に乗り込んでからの沢口は、
「市内をドライブするのは久方振り」等と、
なぜか本題に入ろうとはしなかった。
会話が途切れたところで、由基は切り出した。

「来週、もちろん君も来るんだよね?」

沢口はにやりとしながら言った。

「はい。伺わせていただきます」

「うちの会長が君に会いたがってるんだ。

 会ってもらえるね?」

「えっ、あっはい。宮原会長とは、

 子供の頃にお会いして以来です。

 あの時は‥弟も一緒でした。

 豪快に笑われる方だと思いました」

「だからか」

「何か?」

「いや、くくっ」

沢口は口元に手をやり笑いを堪えている。

「先週まで弟は、会長宅でお世話になっていました。

 ご存じで?」

「ああ。君の弟さんがやって来た日、

 私もその場にいたんでね。

 君にも会えると聞いていたから残念に思ってたよ」

「それは‥申し訳ありません」

「いや、構わないよ。引っ越しじゃあ仕方がない。

 私は君がいないから早々に退散したんだが、

 君の弟がはじめましてと言った時、

 会長が幾つになったと聞いた意味が

 やっと分かったよ」

「会長はお怒りで」

「いや‥それこそ豪快に笑ってたよ。

 それにうちの会長ははっきりしてるから、

 気に入らないならその場で追い出してる。

 君の弟は、何というか‥

 憎めないところがあるだろ」

「はい」

「きっと私とも気が合うと思うんだ」

「弟とですか?」

「ああ。そう思わないか。

 君とも馬が合うと思うんだが」

「・・・」

「くくっ、正直だな。

 ところで、将来、君が紫堂グループに

 戻るとして、私という人材はどうかな?」

「えっ」

驚いた由基は、
思いっきり助手席の沢口を見た。

「前、前」

「あっ、すみません」

慌てて由基は前を見る。

「驚いたかな。だが、ここだけの話‥

 結構本気なんだが。

 そろそろ台北に拠点をと思っていた頃でね」 
 
「沢口さん。

 僕はあなたほどの人を、

 宮原会長が手放すとは思えません。

 しかも、紫堂グループなんて」

「不可能かね?」

「はい」

「可能にしてくれないか、君が」

「僕がですか」

「ああ。

 まあ、どちらにしても急を要する話じゃない。

 頭に入れておいてくれればいい。

 だが、ひとつ言えるのは

 君だから私は決めたんだ。

 それだけは覚えておいてくれ」

由基はちらり横を見た。
沢口の目線は窓側を向いていたが、
冗談を言っている顔つきではなかった。
由基は返答に困った。

「由基くん。先は長い。

 この先自分に、何が起こるか‥

 誰にも予測できないだろう。

 だから、私のことも長い目で

 見てくれればいい。

 君に何かが起こって、

 私を必要とする時がくるやも知れない。

 私が君を信用して言っているのは

 分かっているね」

「はい、それは」

「そうか、それならいい。

 まずは今回の契約、君に期待してるよ。

 そろそろじゃないか?」

「えっ、あっそうです」

沢口の言うとおり、
前方に目指していたビルが見えてきた。
沢口は由基の行き先を、
知っていたかのように言い当てた。

「そこの角で降りるよ。君のおかげで

 久しぶりにゆっくりドライブできたよ」

こう言いながら沢口はにやりとした。

「いえ。

 あの‥先ほどのお話、考えてみます」

「ああ。待ってるよ」

沢口は由基の車を降り、
後続の自分の車に乗り込んだ。
そして、道路脇に停車したままの由基に
軽く手を上げ、沢口を乗せた車は
すぐに見えなくなった。

由基はシートベルトを外し、
シートにもたれ掛かるとしばらく頭を休ませた。


これも古狸コンビのせいなのか‥

はあ‥


由基は深い溜め息をひとつすると、
すぐに頭を切り替えた。


なるようになれ‥

今はそうとしか‥


由基は自身の腕時計で時刻を確認すると、
静かに車を発進させた。




~~
☆お久しぶりです。皆さま、お元気ですか?
 私は先月下旬の台風の頃、風邪を引き、
 それがずーっと治らないまま、連日残業で‥
 続きを書けない日々が続いてしまいました。
 申し訳ないです。。
 それなのに、訪れてくださる方が
 いらっしゃってほんと感謝しております。
 ですので、すぐにでも続きをアップしたいと、
 この続きを書き始めていますが、
 また更新できない日々が続いてしまう
 予感がしてます。すみません(泣)
 皆さまは、くれぐれも風邪等引かないよう
 充分、気をつけてだいじにしてくださいね。
 その分、私が風邪引きになりますので‥
 
 では、今回もお読みくださって感謝です。。
 私的に沢口のイメージは、西島秀俊さん
  なのですが、どうでしょうか?
 日本の俳優さんですが、寡黙そうな(違う?)
 彼のイメージを壊そうと勝手に企んでます。
  
 あともうひとつだけ言わせてください。
 「ウーズンくん、お誕生日おめでとう」
  10日の日も、残業しながら心の中で
       お祝いしてたのよ‥

 それでは、早く風邪治します。。
その日の夕方、他の学生が各々の予定に従い
構内外に散って行く中、周平は響子の所に向かっていた。

午後、突然姿が見えなくなった渉を
心配した周平が連絡を取ると、
急用ができたと帰ってしまった後だった。
周平にも大学に友人はいたが、
やはりどこか一線を引いていた。
麦子や麻里と合流することも考えたが、
麦子の研修が再開されるため、
それは断念した。
屋敷に戻れば、恒例の教育プログラムが
待っていたが、渉がいないのなら‥と
響子を訪ねることにしたのだった。

トントン
カチャ

「響子先生いる?」

「あっ周平くん。昨日はありがとう。

 おかげでとても助かったわ」

「ううん、全然。いつでも言って。

 それ運ぶよ」

響子が持っていた木製ケースを見て周平は言った。

「えっ?いいの。これ軽いのよ」

こう言いながら響子は渉を思い出していた。


さっきと同じね‥

考えるまでもない‥
と思いながら、
あれから渉のことが頭から離れなかった。


「どうかした?」

周平が響子の脇に立ち、心配そうな顔をしている。

「ううん‥何でもないのよ。

 もしかして今日もお手伝いに来てくれたの?」

「あっうん・・・

 ていうか‥俺、渉のことまた怒らせちゃってさ」

「そう」

「あっそれと‥響子先生に今朝のこと謝ろうと思って」

「今朝?」

「うん‥ごめん。響子先生の跡つけちゃって。

 ほんとに反省してる。渉に凄い怒られたんだ」

「跡‥」

「うん。昨夜、渉に響子先生のこと聞かれたんだ。

 俺、酔ってたんだけど‥

 そのことだけは覚えてて。

 でさ‥朝、響子先生のこと見かけて、

 渉に知らせなきゃって、そう思ったら

 なんか跡つけちゃって・・・」

「片瀬教授と一緒だった。だから謝るの?」

「うん、ごめん。でも、全然聞こえなかったんだ。

 あっ、その‥ごめん。吾郎って言ったのは

 聞こえて‥響子先生達は・・・何でもない

 何でもないよ」

そう言って周平は下を向いた。
響子はいとこ思いのこの若者に、
何と声を掛けようか‥少し迷った。
周平も片瀬准教授とのことを気にしている。

「あのね‥」「渉は‥」

同時だった。
すかさず響子が引く。

「渉くんが何?」

「うん・・・渉はああ見えて‥いいやつなんだ。

 優しいところもあるし、それに頭がいい。

 人の考えてることが分かるんだよ。

 凄いでしょ」

「そう‥凄いわね」

「うん・・・」

「どうしたの?周平くん」

周平は思い詰めた顔をして話を続けた。

「響子先生、渉はほんといいやつなんだ。

 すぐ怒るけど、けどそれは‥

 今朝みたいなこと俺がするからで、

 ほんとにいいやつなんだ。

 だから、響子先生とお似合いだと思うんだ」

響子はこの間、さり気なく周平から離れ、
自分の机に腰掛けていた。
離れていても、
今の周平の真剣な眼差しは見て取れた。

何か言わなきゃ‥と響子が口を開こうとしたその時、
周平がさらに続けた。

「余計だって、

 また渉に怒られるかも知れないけど‥

 渉は大学に残って、将来は教授になると思うんだ。

 そしたら、先生とは同僚になる訳だし、

 職場結婚はよくある話だろ」

周平は気づかないが、響子は驚いた顔をしていた。
てっきり渉も紫堂グループの一員になると
思っていたからだ。
とはいっても、大学も紫堂グループの物である。
となると、将来は学長にという話も有り得るだろう。

「先生?響子先生。あのさ、今の話。

 実はまだ秘密なんだ。だから、誰にも言わないでね」

「ええ、言わないわ」

「響子先生はずっといるんだろ?」

「えっ?」

「ここに‥永菫大学にずっといてよ」

「それは‥私が決めることじゃないわ」

「そんな‥やだ。俺、学長に言ってやるよ。

 あっじいさんに頼むよ。だから大丈夫だよ」

周平は無邪気に笑った。
響子はまだ決めていなかった。
産休中の前任が戻れば、響子は必要ない。

「周平くん。それは有り難い話だけど、

 正直まだどうするか決めてないの。

 だから、何も言わないで」

「響子先生‥」

「ごめんね」

「ううん、響子先生は悪くない。俺が悪いんだ。

 俺が勝手に‥でも、先生・・・

 できればここにいてほしいな。

 ずっと‥なんかほんとの姉さんみたいな

 気がするんだ。ずーと前から知ってるみたいな‥

 昨日も初めて会った気がしなくって、

 響子先生が渉の奥さんになってくれたら

 俺‥ほんと嬉しんだけどな」

今度は満面の笑みを浮かべる周平。
反対に響子は苦笑い‥

「周平くん。もう帰った方がいいわ」

「えっ、もう?」

周平が自身の腕時計を見る。

「そっかな‥やっぱ帰った方がいいかな」

「そうよ。一流の先生方が揃ってるんでしょ」

「ああ。そうだけど‥帰りたくない。

 渉、どっか行っちゃったんだ。

 ひとりで‥なんて気が進まない」

「帰ったら渉くん。ひとりで教育プログラム

 してるかもよ」

「えっそんなのやだ。じゃあ響子先生、俺帰るよ」

「はい。運転気をつけてね」

「うん。また明日ね」

周平はバイバイの手を振りながら、
走って部屋から出ていった。
残された響子は微笑んでいた。

ほんとに無邪気な子‥

響子は考えようと思った。
これからどうするのか‥
どうしたいのか‥




~~
☆今回も読んでくださって感謝です。。