その日の夕方、他の学生が各々の予定に従い
構内外に散って行く中、周平は響子の所に向かっていた。
午後、突然姿が見えなくなった渉を
心配した周平が連絡を取ると、
急用ができたと帰ってしまった後だった。
周平にも大学に友人はいたが、
やはりどこか一線を引いていた。
麦子や麻里と合流することも考えたが、
麦子の研修が再開されるため、
それは断念した。
屋敷に戻れば、恒例の教育プログラムが
待っていたが、渉がいないのなら‥と
響子を訪ねることにしたのだった。
トントン
カチャ
「響子先生いる?」
「あっ周平くん。昨日はありがとう。
おかげでとても助かったわ」
「ううん、全然。いつでも言って。
それ運ぶよ」
響子が持っていた木製ケースを見て周平は言った。
「えっ?いいの。これ軽いのよ」
こう言いながら響子は渉を思い出していた。
さっきと同じね‥
考えるまでもない‥
と思いながら、
あれから渉のことが頭から離れなかった。
「どうかした?」
周平が響子の脇に立ち、心配そうな顔をしている。
「ううん‥何でもないのよ。
もしかして今日もお手伝いに来てくれたの?」
「あっうん・・・
ていうか‥俺、渉のことまた怒らせちゃってさ」
「そう」
「あっそれと‥響子先生に今朝のこと謝ろうと思って」
「今朝?」
「うん‥ごめん。響子先生の跡つけちゃって。
ほんとに反省してる。渉に凄い怒られたんだ」
「跡‥」
「うん。昨夜、渉に響子先生のこと聞かれたんだ。
俺、酔ってたんだけど‥
そのことだけは覚えてて。
でさ‥朝、響子先生のこと見かけて、
渉に知らせなきゃって、そう思ったら
なんか跡つけちゃって・・・」
「片瀬教授と一緒だった。だから謝るの?」
「うん、ごめん。でも、全然聞こえなかったんだ。
あっ、その‥ごめん。吾郎って言ったのは
聞こえて‥響子先生達は・・・何でもない
何でもないよ」
そう言って周平は下を向いた。
響子はいとこ思いのこの若者に、
何と声を掛けようか‥少し迷った。
周平も片瀬准教授とのことを気にしている。
「あのね‥」「渉は‥」
同時だった。
すかさず響子が引く。
「渉くんが何?」
「うん・・・渉はああ見えて‥いいやつなんだ。
優しいところもあるし、それに頭がいい。
人の考えてることが分かるんだよ。
凄いでしょ」
「そう‥凄いわね」
「うん・・・」
「どうしたの?周平くん」
周平は思い詰めた顔をして話を続けた。
「響子先生、渉はほんといいやつなんだ。
すぐ怒るけど、けどそれは‥
今朝みたいなこと俺がするからで、
ほんとにいいやつなんだ。
だから、響子先生とお似合いだと思うんだ」
響子はこの間、さり気なく周平から離れ、
自分の机に腰掛けていた。
離れていても、
今の周平の真剣な眼差しは見て取れた。
何か言わなきゃ‥と響子が口を開こうとしたその時、
周平がさらに続けた。
「余計だって、
また渉に怒られるかも知れないけど‥
渉は大学に残って、将来は教授になると思うんだ。
そしたら、先生とは同僚になる訳だし、
職場結婚はよくある話だろ」
周平は気づかないが、響子は驚いた顔をしていた。
てっきり渉も紫堂グループの一員になると
思っていたからだ。
とはいっても、大学も紫堂グループの物である。
となると、将来は学長にという話も有り得るだろう。
「先生?響子先生。あのさ、今の話。
実はまだ秘密なんだ。だから、誰にも言わないでね」
「ええ、言わないわ」
「響子先生はずっといるんだろ?」
「えっ?」
「ここに‥永菫大学にずっといてよ」
「それは‥私が決めることじゃないわ」
「そんな‥やだ。俺、学長に言ってやるよ。
あっじいさんに頼むよ。だから大丈夫だよ」
周平は無邪気に笑った。
響子はまだ決めていなかった。
産休中の前任が戻れば、響子は必要ない。
「周平くん。それは有り難い話だけど、
正直まだどうするか決めてないの。
だから、何も言わないで」
「響子先生‥」
「ごめんね」
「ううん、響子先生は悪くない。俺が悪いんだ。
俺が勝手に‥でも、先生・・・
できればここにいてほしいな。
ずっと‥なんかほんとの姉さんみたいな
気がするんだ。ずーと前から知ってるみたいな‥
昨日も初めて会った気がしなくって、
響子先生が渉の奥さんになってくれたら
俺‥ほんと嬉しんだけどな」
今度は満面の笑みを浮かべる周平。
反対に響子は苦笑い‥
「周平くん。もう帰った方がいいわ」
「えっ、もう?」
周平が自身の腕時計を見る。
「そっかな‥やっぱ帰った方がいいかな」
「そうよ。一流の先生方が揃ってるんでしょ」
「ああ。そうだけど‥帰りたくない。
渉、どっか行っちゃったんだ。
ひとりで‥なんて気が進まない」
「帰ったら渉くん。ひとりで教育プログラム
してるかもよ」
「えっそんなのやだ。じゃあ響子先生、俺帰るよ」
「はい。運転気をつけてね」
「うん。また明日ね」
周平はバイバイの手を振りながら、
走って部屋から出ていった。
残された響子は微笑んでいた。
ほんとに無邪気な子‥
響子は考えようと思った。
これからどうするのか‥
どうしたいのか‥
~~
☆今回も読んでくださって感謝です。。
構内外に散って行く中、周平は響子の所に向かっていた。
午後、突然姿が見えなくなった渉を
心配した周平が連絡を取ると、
急用ができたと帰ってしまった後だった。
周平にも大学に友人はいたが、
やはりどこか一線を引いていた。
麦子や麻里と合流することも考えたが、
麦子の研修が再開されるため、
それは断念した。
屋敷に戻れば、恒例の教育プログラムが
待っていたが、渉がいないのなら‥と
響子を訪ねることにしたのだった。
トントン
カチャ
「響子先生いる?」
「あっ周平くん。昨日はありがとう。
おかげでとても助かったわ」
「ううん、全然。いつでも言って。
それ運ぶよ」
響子が持っていた木製ケースを見て周平は言った。
「えっ?いいの。これ軽いのよ」
こう言いながら響子は渉を思い出していた。
さっきと同じね‥
考えるまでもない‥
と思いながら、
あれから渉のことが頭から離れなかった。
「どうかした?」
周平が響子の脇に立ち、心配そうな顔をしている。
「ううん‥何でもないのよ。
もしかして今日もお手伝いに来てくれたの?」
「あっうん・・・
ていうか‥俺、渉のことまた怒らせちゃってさ」
「そう」
「あっそれと‥響子先生に今朝のこと謝ろうと思って」
「今朝?」
「うん‥ごめん。響子先生の跡つけちゃって。
ほんとに反省してる。渉に凄い怒られたんだ」
「跡‥」
「うん。昨夜、渉に響子先生のこと聞かれたんだ。
俺、酔ってたんだけど‥
そのことだけは覚えてて。
でさ‥朝、響子先生のこと見かけて、
渉に知らせなきゃって、そう思ったら
なんか跡つけちゃって・・・」
「片瀬教授と一緒だった。だから謝るの?」
「うん、ごめん。でも、全然聞こえなかったんだ。
あっ、その‥ごめん。吾郎って言ったのは
聞こえて‥響子先生達は・・・何でもない
何でもないよ」
そう言って周平は下を向いた。
響子はいとこ思いのこの若者に、
何と声を掛けようか‥少し迷った。
周平も片瀬准教授とのことを気にしている。
「あのね‥」「渉は‥」
同時だった。
すかさず響子が引く。
「渉くんが何?」
「うん・・・渉はああ見えて‥いいやつなんだ。
優しいところもあるし、それに頭がいい。
人の考えてることが分かるんだよ。
凄いでしょ」
「そう‥凄いわね」
「うん・・・」
「どうしたの?周平くん」
周平は思い詰めた顔をして話を続けた。
「響子先生、渉はほんといいやつなんだ。
すぐ怒るけど、けどそれは‥
今朝みたいなこと俺がするからで、
ほんとにいいやつなんだ。
だから、響子先生とお似合いだと思うんだ」
響子はこの間、さり気なく周平から離れ、
自分の机に腰掛けていた。
離れていても、
今の周平の真剣な眼差しは見て取れた。
何か言わなきゃ‥と響子が口を開こうとしたその時、
周平がさらに続けた。
「余計だって、
また渉に怒られるかも知れないけど‥
渉は大学に残って、将来は教授になると思うんだ。
そしたら、先生とは同僚になる訳だし、
職場結婚はよくある話だろ」
周平は気づかないが、響子は驚いた顔をしていた。
てっきり渉も紫堂グループの一員になると
思っていたからだ。
とはいっても、大学も紫堂グループの物である。
となると、将来は学長にという話も有り得るだろう。
「先生?響子先生。あのさ、今の話。
実はまだ秘密なんだ。だから、誰にも言わないでね」
「ええ、言わないわ」
「響子先生はずっといるんだろ?」
「えっ?」
「ここに‥永菫大学にずっといてよ」
「それは‥私が決めることじゃないわ」
「そんな‥やだ。俺、学長に言ってやるよ。
あっじいさんに頼むよ。だから大丈夫だよ」
周平は無邪気に笑った。
響子はまだ決めていなかった。
産休中の前任が戻れば、響子は必要ない。
「周平くん。それは有り難い話だけど、
正直まだどうするか決めてないの。
だから、何も言わないで」
「響子先生‥」
「ごめんね」
「ううん、響子先生は悪くない。俺が悪いんだ。
俺が勝手に‥でも、先生・・・
できればここにいてほしいな。
ずっと‥なんかほんとの姉さんみたいな
気がするんだ。ずーと前から知ってるみたいな‥
昨日も初めて会った気がしなくって、
響子先生が渉の奥さんになってくれたら
俺‥ほんと嬉しんだけどな」
今度は満面の笑みを浮かべる周平。
反対に響子は苦笑い‥
「周平くん。もう帰った方がいいわ」
「えっ、もう?」
周平が自身の腕時計を見る。
「そっかな‥やっぱ帰った方がいいかな」
「そうよ。一流の先生方が揃ってるんでしょ」
「ああ。そうだけど‥帰りたくない。
渉、どっか行っちゃったんだ。
ひとりで‥なんて気が進まない」
「帰ったら渉くん。ひとりで教育プログラム
してるかもよ」
「えっそんなのやだ。じゃあ響子先生、俺帰るよ」
「はい。運転気をつけてね」
「うん。また明日ね」
周平はバイバイの手を振りながら、
走って部屋から出ていった。
残された響子は微笑んでいた。
ほんとに無邪気な子‥
響子は考えようと思った。
これからどうするのか‥
どうしたいのか‥
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☆今回も読んでくださって感謝です。。