しばりやトーマスの斜陽産業・続 -92ページ目

演技派ジャッキーが開眼する『ザ・フォーリナー/復讐者』

※これは前ブログの過去記事(2019年05月26日)からの再録です



 ロンドンでレストランを経営している中国系移民のクワン(ジャッキー・チェン)は男手ひとつで育てた大学生の一人娘を爆破テロで失ってしまう。ロンドン警視庁にアイルランド独立を求める武装組織UDIから犯行声明が届く。北アイルランドの副首相ヘネシー(ピアース・ブロスナン)はテロのことを妻からの電話で聞く。その時彼は愛人のマギー(チャーリー・マーフィー)の元にいた・・・

 中国・イギリス・アメリカの合作映画『ザ・フォーリナー/復讐者』は撮影当時63歳のジャッキーがコミカル路線から演技派路線への脱皮を目指して試行錯誤していた、意欲的な一本だ。
 ジャッキーはいつものニコニコ笑顔を封印して、一人娘を失ったショックに沈み、疲れ切った60代男の顔の皺に刻んでいる(わざわ特殊メイクで皺を入れている)。警視庁のテロ対策部に「犯人は捕まったのか」と日参し、ヘネシーの存在を知るとオフィスまで押しかけ「犯人の名前を教えてくれ」と頼み込む。ヘネシーは元UDIで昔は過激派のひとりとぢて爆破テロも辞さない活動で名を挙げたが、逮捕、投獄の後、イギリスとアイルランドが対話、平和への道を探りだすと穏健派となった。「昔はひどいこともしたが、刑務所で反省した。今はテロをするような人間と関係を断っている」だからあなたには協力できない、と告げるがクワンは納得できない。

「テロと政治は蛇だ」
「どういうことです?」
「頭と尻尾がことなるだけで、同じ一匹の蛇だ」


 協力できないというヘネシーとの会話のあと、クワンは手製の時限爆弾でオフィスのトイレを吹き飛ばす。どこからか知ったヘネシーの携帯電話に「考えは変わったか?早く娘を殺した犯人の名前を教えるんだ」と脅しの連絡をするクワン。娘を失った悲しみのあまり暴走するどころではない、危険なテロリスト紛いと化したクワンはヘネシーの自宅の庭や自動車を次々吹き飛ばし、追手たちを容赦なく叩きのめす。

「ただの中国人じゃない・・・何者なんだ!」

 クワンの正体は中国の少数民族で、迫害から逃れるため亡命しイギリスにやってきた元ベトナム戦争を戦った特殊部隊員だった。ゲリラ戦法で追い詰められていくヘネシー。彼を追い詰めるのはクワンだけではない。爆破テロの犯人はUDIのメンバーで、ヘネシーの穏健路線に反旗を翻す過激派たちだった。テロに使われた爆弾はUDIが使っていたもので、ここから犯人を割り出そうとかつての仲間たちを招集する。しかし裏切り者はその仲間たちの中にいた・・・

 日本語字幕ではUDIとされているがこれはIRA(アイルランド共和軍暫定派)のことで、本作の物語の根底にはアイルランド独立運動があり、かつては独立戦争を戦い、爆弾テロで無関係の民衆を巻き込むことも辞さない過激活動をしていた、とヘネシーが語る場面があるが、そういった事件が本当にあったのだ。中盤から後半はヘネシーと仲間たち、UDI内部の内輪もめが描かれ、和平合意が成立した今も武装テロを行う勢力が存在しているアイルランド情勢の問題の根深さが伺える。そのためアイルランド情勢に関する最低限の知識がないと話がわかりにくくなるのでご用心。アイルランド出身のピアース・ブロスナンがIRAの闘士を演じるというのもヒリヒリするリアリティを感じる。
 そしてこの問題にまったく関係ないはずのクワンが乗り込んでくる、という話で実はジャッキーは主演だけど映画の主題ではない、という不思議な映画。タイトルの「フォーリナー」は外国人、余所者の意。

 死んだような目で淡々とヘネシーの追手をやっつけ、復讐の鬼と化すジャッキー。最近は演技派を目指して似たようなテーマの作品に出続けながら、その役をモノにできなかったジャッキー。やはりまだまだコミカルなジャッキーのイメージを払拭できないのか、「そんな重い役より軽~いノリのジャッキーが見たいんだ!」と言われたのかどうか、この路線で当てた作品がない中、『007ゴールデンアイ』のマーティン・キャンベルの元でついに演技派へと開眼。なにしろこの映画でジャッキーの役は「中国の少数民族で迫害から逃れて亡命してきた」役で、それってチベットとかウイグル・・・
 中国の少数民族迫害に関しては微妙なスタンスの発言をしてきたジャッキーが「あえて」この役を選び、63という結構な高齢にして尚皺まで増やす老けメイクまでしないと演技派にはなれない!と悟った結果が劇的にハマった。今までは必要以上に若さを売りにしてきたジャッキーが老けることを恐れなくなったのだから、向かうところ敵なし。今後のジャッキーにますます期待が膨らむ。

 

 

 

 

 

人の手で焼肉食べたい~50万のリターンに納得できる?

 週刊女性PRIMEにて以下の記事。

 

 

元SKEアイドルと「50万円で個室焼肉90分」が、お得に思えてしまう計算式

https://www.jprime.jp/articles/-/20511

 

 記事は元SKE48メンバーの北川綾巴が名古屋を拠点としたアイドルグループのプロデュースに挑戦するとあり、その資金をクラウドファンディングで募る。目標金額は500万。リターンが設定されていて一番の高額設定が「北川と個室で焼肉を食べながら語る」 (限定2名)と「北川とカラオケ」(限定1名)だ。ともに金額は50万円。

 

 

 4月12日時点で個室焼肉(ちなみに彼女が肉を焼いてくれるそう)とカラオケはすでに完売している。

 

 このリターンに一部で「パパ活と何が違うの?」と批判があるのだが、記事を書いたライターはSKEが普段やっている個別握手会を引き合いにして

仮に1枚1000円だとして、1分握手したいのなら6枚(6000円)購入が必要。1万円(10枚分)出せば1分40秒握手ができます。これを90分に換算すると54万円になるため、焼肉90分50万円という価格とちょうどいい金額になります

 

 なので「一見、高いようだけど、よく考えられた設定ですよね」と評している。果たしてそうだろうか?

 

 先日、指原莉乃がプロデュースするアイドルグループ=LOVEのメンバーで3月6日に卒業した佐竹のん乃が高級交際クラブでパパ活をしていたと文春が報道した。入会、年会費合わせて5万円、上級会員だと10万という「高級」クラブらしい。5万10万は絶対「高級」じゃないと思うんだけど・・・大衆店だよね。それはさておき、このクラブに登録しているとされる佐竹は< 希望10 セット15 >で会員と交渉したという。セットはセッティング料でクラブに払うお金。希望は女の子の側が会員にお手当として求めている金額。この場合10万円。佐竹は会員に10万円を希望して会う。そのあとどうするかは自由恋愛(都合の良い表現)ってことで・・・

 文春の取材に佐竹の事務所は「個室で食事をしただけ」と答えたそうだが食事だけで10万払うわけないだろ!色んなことしてるよ!あんた、10万払って食事だけで我慢するか?しないでしょ!

 

 指原プロデュースという話題性のあるアイドルでも10万程度でパパ活しているとはダンピングだなあ。それを考えると50万払って個室焼肉程度のどこが納得の金額なのか。搾取されているといっても過言ではない。

 

 ビートたけしが昔銀座のホステスに相当な額をつぎ込んだが、一度もやらせてくれずその女性はほどなくして店を辞めた。数年後たけしが地方の大衆ソープにいったところ、嬢をしている女性と再会。これまでつぎ込んだ何百分の一の金額でイタしたというが、それと同じ無情さを感じた。リーズナブルってどういうこと?

 

 

 

 

 

エロの匂いがしない長澤まさみは最高だ!『コンフィデンスマンJP-ロマンス編-』

※これは前ブログの過去記事(2019年05月19日)の再録です



 2019年公開の『マスカレード・ホテル』『キングダム』に出演し、どちらも40億超えのヒットを記録した。今、長澤まさみは数字を持っている!
 フジテレビの月9として放送された『コンフィデンスマンJP』は2018年に放送された月9枠で『民衆の敵』『海月姫』に続き、3作連続平均視聴率10%切りというドツボを記録してしまい、長澤は率を持たない女として評価が下り坂だったが・・・この勢いを見よ!


 信用詐欺師の3人、奇想天外すぎる言動のダー子(長澤)、お人よしの小心者(詐欺師に向いてないだろ!)のボクちゃん(東出昌大)、変装が得意なベテランのリチャード(小日向文世)は神出鬼没の五十嵐(小手伸也)や執事のバトラーを従え、悪徳なやり口で巨万の富を築いた連中から大金を巻き上げる義賊的な活動をしていた。
 ダー子たちの次なるターゲットは香港の裏社会を牛耳る「女帝」ことラン・リウ(竹内結子)の持つパープル・ダイヤ。あくどいやり口で金を稼いでいるため、香港の住民たちから忌み嫌われているランからならいくら巻き上げても心は痛まない。しかしラン・リウは人前にまったく顔を見せないのでネットを検索しても顔すらでてこない。まるでジャニー喜多川みたい。

 ダー子たちは「子猫ちゃんたち」と呼ばれる手下を使ってラン・リウの関係者に接触、本人の顔写真を手に入れる。香港につくなり、ダー子をせこい詐欺に嵌めようとしたモナコ(織田梨沙)を「使えるから仲間にしよう」と引き込み、着々とパープル・ダイヤをゲットする作戦を立てるが、同じ相手を結婚詐欺師のジェシー(三浦春馬)も狙っていた。
 ジェシーは以前、ダー子と同じ相手を信用詐欺にかけようとして、見事ダー子に勝った人物だが、常々ダー子が「スター」と呼んで崇め奉る、信用詐欺師の先輩こそがジェシーではないか?そして彼に惚れていたのでは?という疑惑が持ち上がる。
 小心者のくせに密かにダー子に好意を寄せるボクちゃんはダー子のことを信用して裏切るわけがない、と珍しく強気に。(これが「ロマンス編」というサブタイトルの意味なのか?)
 間の悪いことに香港にはかつてダー子に騙され20億円を巻き上げられた「日本のゴッドファーザー」こと赤星(江口洋介)がダー子に復讐を果たさんと姿を見せていた。


 テレビドラマの方は見たことないから知らんけど、イマイチな視聴率ながら熱狂的なファンを生み出していたというのもわかる。美人詐欺師なんだから、ハニートラップ的な展開を想像しても色気ゼロだからそれができず、ボクちゃんからエロババア呼ばわりされる上に少々エキセントリックな言動が周囲をかき回す長澤まさみのキャラに本人の魅力が溢れている。
 それはセッ クスの匂いがまるでしないってことだ。東出昌大や三浦春馬がいくら恋のさや当て、三角関係を匂わせても、泥臭い恋愛ドラマにならずコンゲーム(信用詐欺)にはなってもラブゲームにはならない、徹底してセッ クスの匂いを感じさせないヒロインによる「恋愛ごっこ」はむしろ広告代理店がしかける恋愛ドラマにハマれないサブカル好きな人々に受けていたのではないか。
 長澤を支持する人々の多くは角川映画で薬師丸ひろ子や原田知世を絶賛していた人々に繋がる。長澤にあの手この手でセッ クスの匂いを感じさせる役をやらせようとした企画のほとんどすべてが失敗しているが、いい加減学んでほしい。まさみタンにそんな役は合わない


 長澤の魅力にぶら下がった企画としては間違ってないが、詐欺師の騙しあいミステリーとしてはこの話完全に間違っていて、『探偵はBARにいる』『リーガル・ハイ』などをヒットさせた脚本家、古沢良太による最後の最後に全部をひっくり返す大どんでん返しはずるいなんてレベルではない、卑怯そのもの。

「みんなまんまと騙されたでしょ!」

 とは劇中のダー子のセリフだが、そりゃあ騙されたけどさぁ・・・まさか前提段階の設定やお話が全部嘘でした、なんてのは本当の詐欺ではないか・・・
 古沢、お前は江口洋介のように騙されて笑えるのか?

 

 

 

 

 

 

成長・進化から番狂わせへ『ガールズ&パンツァー 最終章 第3話』

 女子高生が戦車に乗る架空の「戦車道」を競うアニメ『ガール&パンツァー』のOVA第三弾。 冬季無限軌道杯第2回戦、全国大会優勝者の大洗VS知波単戦の後半部分が描かれる。

 1,2話では前回優勝者として周囲から注目を集めることになった大洗が奢って相手をなめ切った結果、大苦戦を強いられるという展開だったわけで、大洗の「王者の戦い」が見られると思った人には意外だった。知波単という突撃一辺倒の戦略を用いがちな学校が惨敗、弱小高の大洗の躍進を見て戦略の見直しなどをした結果、大洗を苦戦に追い込むまでになり、大洗の存在自体が周囲に影響を与えることに。

 

 他校の2回戦も黒森峰を率いることになったエリカがプラウダ相手に苦戦するところ、戦法を変えて反撃に転じるなど3話にして「成長」「進化」の物語になっていくので2話まではやや不満が残っていたがここにきてようやく満足のいくお話になってきたではないかと(出来には充分満足しているんですが・・・)

 あと必要なのは番狂わせなので、その点はラストにまさかのシーンが待ち受けていた!1年半後(多分)の4話にも期待。決勝は黒森峰じゃ同じパターンになるので、聖グロリアーナとの決勝を希望する。アニメ最初の親善試合から始まってぐるり一周するのでそのオチでお願いします。

 

 

 

 

 

海のストーカー物語『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』

 2021年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』を観た。この映画の製作者にして主演でもあるクレイグ・フォスターが約一年間に渡り野生のマダコとの交流を描いた作品だ。タコと交流って・・・何?

 

 クレイグはBBCのネイチャードキュメンタリー『Blue Planet Ⅱ』などを制作している人間で、ふとしたことから南アフリカに渡り、海に潜って魚などの生態を撮影していたところ一匹のマダコに出会う。そのマダコに魅せられたクレイグはその生態を追い求める。ありがちなネイチャー・ドキュメンタリーに思えるが、この作品は他と違う、というか変なところはクレイグのマダコや海の自然に対するアプローチの仕方だ。

 

 クレイグは一時期、仕事に疲れ果て家族と暮らすことさえ重荷になってしまう。人付き合いに疲れ果てた彼は子供時代に暮らしていた南アフリカ西ケープの荒海での暮らしを思い出す。地上の世界から逃れるように海中の世界に救いを求めて海藻で満たされたケルプ・フォレストに潜ったクレイグは海藻の森と名付けられた海の自然にのめり込む。

 そしてある日、クレイグは奇妙な光景を目にする。貝殻で自分の体を囲んで捕食生物から身を守る一匹のマダコだ。それからというもの、クレイグはこのマダコの生態を追い続けることに。

 そののめり込み方は異常で、マダコを「彼女」と呼んでつかず離れずの距離を取る。海中で彼女の姿を追い続ける独自の撮影システムをつくり、重い装備を抱えていては彼女の本当の姿を知ることはできない!と最小限の撮影機材以外は持たない。ボンベだって背負わない。常に素潜りだ(だから少し潜っては息継ぎのため何度も水面に上がる)。そんなクレイグの姿勢に心打たれた(?)彼女は得体の知れない人間であるクレイグに一本の足を延ばすまでになるが、クレイグはうっかりレンズを落としてしまう。驚いた彼女はそのまま泳ぎ去る・・・

 

「何日もかけて築き上げた信頼関係が壊れてしまった」

 

 巣穴にはもう彼女はおらず、ショックに打ちひしがれるクレイグ。それから彼は何日もかけて移動したであろう新たな巣穴を必死の捜索にて発見する。もはや海のストーカーと化している。これ相手が人間だったら犯罪だと思うんだけど!

 

 ストーカーにはストーカーの矜持があるということで、クレイグは彼女には近づいても手は出さない。彼女を狙う小型のサメやクモヒトデに襲われるのを見ても手は出さない、助けないのだ。それは撮影者として最低限の矜持なのだが、そっと見守るだけで捕食者の手から逃れる彼女を見てホッとするほど彼女に思い入れている様子が伝わる。が、ある日ついにサメに噛みつかれた彼女は腕一本を犠牲にして脱出する。衰弱しきっている彼女のあとを追い続け、ようやく元の巣穴にたどり着くまでの追い続ける映像には聞こえなくてもクレイグの「頑張れ!頑張れ!」という励ましの声が聞こえる。その後もう一本の腕が生えてくるに至っては大自然の神秘に観客の心も奪われる。

 

 劇中、クレイグが何度も彼女と心が通じ合っているといわれても相手タコやん!んなわけねーだろ!と斜に構えた観客もクライマックスに起こる触れ合いは人間の想像を超えた何かが育まれたとしか思えないのだ。これがイルカだのクジラだのが相手ならまだわかるが、タコだよ、相手!実はタコにはかなりの知性があるという研究もあってまったく世界は奥深い。何かに疲れた時、海に潜れば何かが発見できるかもしれない。冗談半分で再生ボタンを押したら海の中でとんでもないものを見つけてしまった。だからドキュメンタリーはやめられない。本作はNetflixにて現在配信中!

 

 

表紙が望月ミネタロウ!