しばりやトーマスの斜陽産業・続 -86ページ目

そりゃあ甘口カレーが嫌いなやつはいねぇよ『Diner ダイナー』

※これは前ブログの過去記事(2019年07月18日)の再録です


 世界の連続殺人鬼についてのノンフィクション本『異常快楽殺人』や、ホラー(?)小説『メルキオールの惨劇』などで知られる平山夢明の小説の映像化。元殺し屋のシェフが切り盛りするダイナーは殺し屋専門店。狂った殺し屋だらけの店で働くことになったごく普通のウェイトレスは無事生き残ることができるか!?

 夢も希望もない人生を送っていた普通の女、オオバカナコ(玉城ティナ)は「日給30万円」という怪しげなバイトに手を出すと、それは二人組の銀行強盗を逃がすゲットアウトドライバーの仕事で、カナコはカウボーイ(斎藤工)とディーディー(佐藤江梨子)を逃がそうとするも失敗、悪党どもに捕まって拷問。カナコは「わたしが料理ができます!」と唯一の取柄があることを伝えて命乞い。殺し屋専門のダイナーを切り盛りする元殺し屋のシェフ、ボンベロ(藤原竜也)に売られることに。

 この藤原竜也の演技がいつも以上にひどく、

「俺はー、ここのー、王だ!」
「砂糖の一粒までもが俺に従う!」

 とカイジの「キンッキンに冷えてやがる!」とまったく同じノリの演技で見ていられない。でも彼が主役なのでこの映画はすべて彼がリードするのです。

「この店はー、皿の置き方ひとつで、殺されることもある!」

 という凶悪な店で、壁にはすでに殺された8人のウェイトレスの写真が飾ってある。トイレ掃除ひとつまともにできないカナコは9人目いりするのは間違いない、がボンベロの目を盗んで金庫のダイヤルを開け、中にしまってある1億円以上するディーヴァ・ウォッカを自分しかわからない場所に隠してしまう。ちなみにダイヤルの番号は5648、殺し屋!(こんな番号、誰でもわかるわ!)
 カナコはディーヴァ・ウォッカを人質ならぬ酒質にして自分を無事解放した時に隠し場所を教えるといい、とりあえず身の安全を図ることに成功。ボンベロはカナコを忌々しく思いながらも彼女を殺すわけにはいかなくなるのだった。

 店には入れ代わり立ち代わり色んな客(殺し屋)がやってきて、一騒動起こす。「砂糖の一粒までもが俺に従う!」とか言ってたけど殺し屋たちはボンベロのいうことなんか無視して騒いだり、殺しあったりする。殺しあうとはいっても、血の代わりに羽毛が飛び散る程度の描写なので、予告編などから相当にトチ狂った世界観を見せてくれるんだろうなーと期待した観客の気持ちを見事なまでにスルーしてくれる。殺し屋たちはいずれも無意味に「キャハハ」と笑って騒いで暴れまわる。なぜ笑うのか?そこには何の意味もなく、ただ「狂っているから」ぐらいの答えしかないのだろう。

 所詮、監督の蜷川実花の考える狂気の解釈がそれぐらいなのだろう。なにしろレイティング「G」だもんな!

 中盤からボンベロとカナコは心を許しあうようになる。カナコは小さいころに母親が姉を連れて家を出て行ってしまい、「自分は何の価値もないから捨てられた」と思いいつもひとりぼっち。この世に自分の居場所などないと思い込んでいるカナコは初めて自分を必要としてくれるダイナーを見つけることになるのだが、ボンベロが所属する組織の跡目争いに巻き込まれ命を狙われる。しかしボンベロが身を挺してカナコを助けだす。

「この世には、お前を必要としてくれるやつがきっといる!」

 カナコはうまく逃げられたら飲食店を開くから、そこで待ってると。うわっ、こんなしょっぱいラブロマンス劇になるとは・・・

 原作のカナコはどうしようもないクズ女で、できちゃった婚で生まれた子供を放って男遊びにふけったり、挙句その子供を自分のせいで死なせてしまったりする、読者がどうしたって共感できないキャラクターにされてるのに、映画では観客が共感して応援できる人物にされてしまい、その時点で蜷川実花のセンスのなさがねぇ・・・見ていられない。

 平山夢明の『異常快楽殺人』を読んだときは、本当に狂った殺人鬼の詳細なルポに胸糞悪くなるほどの嫌悪感を覚えたけど、何度も読んでしまうんだよなあ。本当にイカれた人間のすることになぜか心惹かれてしまうのだ。そんな風に思わせてしまう平山夢明の筆致のせいもあるのだろうが、やりすぎ、書きすぎにまで到達した表現には万人に受け入れられようとしたソフトな作品にはない、本物の中毒性がある。

 それを口当たりのよいまろやかな甘口カレーレベルに貶めた(そりゃあ甘口カレーが嫌いなやつはいねぇよ!ってわけでヒットはしているそうだが)蜷川実花は極刑に値する。
 もっと病みつきになるレベルの、ブラックカレーが食いたいんだよ!

 

 

 

 

 

ジャニーさんついに

※これは前ブログの過去記事(2019年07月10日)の再録です

 今年6月ごろに緊急入院の報道があったジャニー喜多川が亡くなった。


この情報化時代に本人の画像、動画が極端に少ないジャニー喜多川


「最愛の子供達の愛に包まれながら」ジャニー喜多川さんが死去、事務所が発表【全文】
https://abematimes.com/posts/7009932

 各局報道では日本のエンターテイメント業界にジャニー氏が残した功績の数々があらん限りの美辞麗句とともに語られ、散々噂として言われてきた彼のセクシャルハラスメント疑惑などは一切出てきていません。死体に鞭打つのはよくないとするきわめて日本的な考えがそうさせているのでしょうが、なんか腑に落ちない。
 そもそも、ジャニーズ事務所の公式のコメントですら、そういうのを匂わせているのに・・・

>病院のご協力もあり、ジャニーは、自身にとって子供のような存在でございますタレントやJr.との面会を果たすことができました。ジャニーがタレント達と過ごした病院での日々は、かけがえのない時問となりました

>新旧、様々な楽曲の流れる病室におきまして、年長のタレントからJr.までが同じ空問でジャニーとの思い出を語り合う、微笑ましく、和やかな時間が流れていきました。

>片時もジャニーが寂しい思いをしないよう、仕事の合間を縫ってタレント達は入れ替わり立ち替わり病室を訪れました。

>ときに危険な状態に陥ることもございましたが、タレント達が呼びかけ、体を摩るたびに危機を脱することができました。タレント達と過ごすことでジャニーの容体が一時的に回復するという奇跡的な出来事を繰り返し目の当たりにし、改めまして、ジャニーのタレントに対する育ての親としての深い愛情と子供達との絆の強さを感じました。


 タレントたちが体を摩る度に危機を脱することができたって・・・ねぇ、それって体のどこを摩ってたの?これが美談のように語られるって結構危機な感じのする報道だと思う。

 ジャニーズのタレントたちがジャニーさんのSexy Zoneあたりのjrをテゴマスしていると、亀と山Pが一時的に回復して、Hey!Say!とJUMPしたというわけですね。

 こういった下品なギャグも二度とできないので残念。惜しい人を亡くしました。

「新旧、様々な楽曲の流れる病室」とありますが、ブルドッグとか、スシ食いねェ!とか怪鳥人間バットマンとかも流れたんでしょうか。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

ファン感涙の映像化『モータルコンバット』(2021)

 

 映画『モータルコンバット』は『ストリートファイターⅡ』や『餓狼伝説』など対戦格闘ゲームのブームの真っただ中に海を越えてやってきた洋ゲーで、K.Oさせた相手に特殊コマンドで入力して決まる必殺技「フェイタリティ」が相手を焼き尽くしたり、首チョンパしたり、人体を真っ二つに裂いたりという残酷描写でアメリカ政府からいちゃもんつけられるほど衝撃的だった。

 ストⅡにはない独自性で長年の人気を誇る『モータルコンバット』はこれまで95年の最初の映画化をはじめ、2作の映画、ドラマ版があるのだが「フェイタリティ」はレイティングの関係でほとんど再現されず、ドラマ版『モータルコンバット:レガシー』が唯一スコーピオンの脊髄ぶっこ抜きを映像化していた。

 そんな映像化の度にがっかりさせられてきた『モータルコンバット』だが今回はどうか?

 

 

 忍者組織・白井流の戦士だったハサシ・ハンゾウ(真田広之)は殺しの世界から身を引き、家族と平穏な暮らしをしていたが対立する組織、燐塊の暗殺者ビ・ハン(演じたジョー・タスリムはインドネシアの格闘家で『ザ・レイド』にてヤヤン・ルヒアンと激突したり、水野美紀と共演していた)に家族を殺され、死闘の末絶命する。

 

「この顔を忘れるな」

 

 と言い残して・・・

 このオープニングシークエンスは『モータルコンバット:レガシー』の再現だが、かつて真田が出演した香港映画『龍の忍者』ぽくもある。『ラストサムライ』(2003)まで忘れていた人もいたかも知れないが、真田はJACのスターであり、世界に羽ばたくアクションスターだった(今も)

 本作ではコール・ヤング(ルイス・タン)なる総合格闘家の主人公がいるがあまりの影の薄さに驚かされる。物語の主軸は魔界と人間界の覇権を巡る争いであり、その対決に9連勝している魔界の戦士、シャン・ツン(チン・ハン)がV10を目指しているというもの。王者の割にはルールをギリギリ無視して攻撃を仕掛けたり、金で面をはたいて人間界の戦士をスカウト(買収)したりとまさに魔界の読売ジャイアンツ!

 あまりに薄すぎる主人公を食う勢いで活躍するのが真田演じるハンゾウで、彼は死にながらも冥界で復讐の戦士・スコーピオンとして蘇り、シャン・ツンの元で「絶対零度」サブ・ゼロと化したビ・ハンと決着をつけるというエピソードがメインとなり真田がほぼ主役級の扱い!(この判断、間違ってなかった)

 人間界の守護者として戦いを見守る雷神ライデン役の浅野忠信など日本人キャストが大活躍。特にライデンは浅野の要望「ずっと帽子を被っていて、常に目が光っている」というライデンの特徴を完全に再現していて、過去作もっともライデンに扮している!

 肝心のフェイタリティも忠実に再現されていて、95年の初映像化から26年かけてようやくここまできたか・・・とファン感涙の完全映像化です。ただ露骨に続編を匂わせる落とし方はどうかなと思ったけど。

 

 

 

 

 

創作について、夢と狂気の90分『映画大好きポンポさん』

『映画大好きポンポさん』は2017年にpixivで漫画が無料公開されるとすぐさま話題になり、書籍化、続編、そして劇場アニメ化と異例のスピードで展開した作品だ。その魅力はどこにあるのか?

 

 映画の都ニャリウッド(ハリウッドのパロディ)で伝説の大物プロデューサー、ペーターゼンの孫娘として祖父の才能、コネクションなどすべてを受け継いだ若きシネアスト、ポンポさんは映画会社ペーターゼンフィルムの代表である。そのポンポさんの元でアシスタントをしている青年ジーンは学生時代は友人もいない暗い青春を過ごしており、唯一の趣味は映画を見ることであった。そんな陰キャの彼はポンポさんから突然新作映画『MARINE』の予告編編集を任される。初めての編集作業に悪戦苦闘しながらも予告編を完成させるジーン。その後彼はポンポさんが脚本を手掛けた新作『MEISTER』の監督に抜擢される。ポンポさんがジーンを見出したのは「目に光がなかったから」という理由だった・・・

 

「幸福は創造の敵」

 

 というポンポさんは若いうちから目がキラキラして充実している、いわゆるリア充、陽キャの人間にはクリエイターとしての資格がないとし、ジーンのような目に光がない、社会に自分の居場所がない人間が自分だけの世界をつくるクリエイティブの能力が備わっていると断言する。

 褒められてるのかどうかわからないが(一応褒められてはいる)抜擢されたジーンは田舎から夢を追ってニャリウッドにやってきた新人女優ナタリ―や往年の名優マーティンらとともに大作『MEISTER』を完成させる。さああとは編集だ!

 

 編集のテクニックひとつで同じ物語がまったく違って見える様が展開され、普段は観客が意識することのない「編集」のワザをたっぷり堪能させてくれる。

 

 だがここでジーンはつまずく。数十時間にもわたるフィルムのすべてに愛情があるジーンはああでもこうでもないと悩み、編集作業はいつまでたっても終わらない!「映画を撮るか、死ぬか、どっちかしかないんだ」とこだわるジーンは追加撮影を希望する。ポンポさんは小言を言いながらもジーンの希望通りにしようとするが完成時期が遅れたためにスポンサーは離れてしまう。金がなければ映画はできない!夢は霞を食ってできるようにはなっていないのだ。

 

 苦境に立たされるジーンは街中で学生時代の同級生、アランと再会する。アランはジーンとは正反対のリア充、陽キャな青春を送り、大手銀行員として働ているが「深く考えずにそれなりになんでもこなしてきた」彼は就職すると自分がこれと言ってやりたいことがなかったがために人生ではじめて躓いてしまうのだった。学生時代うつむいてばかりいるジーンに「下ばっかり見てないで前も見ろよ、でないと大事なもの落としちまうぞ」と説教ぶったアランだが、今になってその言葉が自分に返ってくる!うつむいているようで、自分の前を見て夢を追い続けていたジーンのためにアランは奔走する。

 普通の作品ならアランのようなキャラクターは悪役として描かれがちだが、本作ではそうはならない。ジーンのように自分の夢ばかり追っているといえば聞こえはいいが、現実からひたすら逃げ続けそのために壁にぶち当たるジーンにそっと助けを差し伸べる(そのことで自分自身も救われる)キャラになっているのだ(ジーンはポンポさんやアランのような人がいなければ何ひとつ完成させられないだろう)。

 誰かの夢に自分の夢を投影する人間たちが現れることで映画が完成に向かっていくという展開は、ファンからの声で製作が再開した『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』の過程を見るようではないか。

 

 自分の身を切るようにフィルムを(文字通り)切って完成にたどり着くクライマックス。創作の楽しさ、辛さ、悲しさのすべてが詰まった夢と狂気の90分だった(この90分というランニングタイムにも意味が込められている)。

 創作は辛く苦しい。だがそれを乗り越えた時の快感を一度経験すれば止められないだろう。

 

 

 

 

小林亜星逝く~にんげんっていいな

 数々のCMソングで知られた作曲家の小林亜星が亡くなった。享年88歳。

 

 

 

  小林といえば大日本肥満者連盟(大ピ連)初代会長を務めたことでも知られる巨漢で、近年はさすがにほっそりしていたが「デブは健康に悪い」などというのが俗説であることを証明した偉人なのだ。

 それはともかく、僕は2014年に京都国際マンガミュージアムで行われた手塚治虫の担当編集だった橋本一郎氏の講演会を取材したことがある。その時の記事がまだ読めるので以下リンクをご覧ください。

 

 

 講演会ではアニソンの創成期にソノシートが果たした役割についての話で、橋本氏が『鉄腕アトム』の主題歌ソノシートを企画し、120万枚の大ヒットを記録。「犬でもアトムを歌える」といわれるほどのブームをつくった。次いで手掛けた『鉄人28号』の主題歌には日本で初のCMソングをつくった作詞・作曲家の三木鶏郎に依頼。あの♪グリコ~グリコ~である。これもまた大ヒットを叩き出す。三木鶏郎の時代が続く中、橋本氏はある日レコーディングスタジオで一人の若者がCM曲を収録している様子を見る。小林亜星だ。亜星の音楽に衝撃を受けた橋本氏は自分のところに依頼が来ていたアニメソングの仕事を小林に任せる。

 スタジオに打楽器を所狭しと並べて凄まじい音を轟かせる小林の音楽に時代の変わりを感じたという。それは『狼少年ケン』の主題歌だった。

 

 亜星は瞬く間にCMソング界の旗手として三木に代わる(CMソングの数では及ばないものの)存在となってゆく。『レナウン』、日立の『この木なんの木』など時代を越えた名曲を生み出し

 

 

 アニソンでも『魔法使いサリー』『ひみつのアッコちゃん』『花の子ルンルン』『科学忍者隊ガッチャマン』といったヒットを連発。中でも『まんが日本昔ばなし』の『にんげんっていいな』は最大の名曲だろう。

 

 

 いやあ~本当ににんげんっていいな!またひとつの時代が終わった気がする。小林亜星さんのご冥福をお祈りいたします。