狂った男が世界を救う!『地球の危機』
※これは前ブログの過去記事(2019年08月07日)の再録です

ついこの間まで涼しかったのに、今や本格的な夏が到来。暑くて暑くてくたばりそうですよ。あまりの暑さに焼け死にそうとか言ってますが、本当に焼け死ぬほど地球の温度が上昇したらどうする?
60年代に『原子力潜水艦シービュー号』『宇宙家族ロビンソン』などのTV番組をヒットさせ、『ポセイドンアドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』といったパニック映画で一時代を築いたアーウィン・アレンが制作・原案・脚本・監督を手掛けた潜水艦映画が『地球の危機』(61)だ。
地球を取り巻くヴァン・アレン帯の異常で、地球の温度は急上昇。南極の氷山も解け始めてしまう。この地球の危機に挑むのは南極で進水式をおこなったばかりの原子力潜水艦シービュー号を発明したおさわがせ男・ハリマン・ネルソン提督だけだ!ネルソン提督を演じるのは58年にSF映画の金字塔、『禁断の惑星』に主演したウォルター・ピジョン。世界に名の知れた天才科学者だが、「お騒がせ男」などと言われる通り、独断的で頑固な男である。シービュー号の若き艦長、リー・クレイン(ロバート・スターリング)は生真面目な常識人であるが故に独断的なネルソンとは意見があわなくなり、対立する。
南極で燃える空を見たネルソン提督らはこのままでは地球が燃え尽きてしまうと知り、対策を練る。さすがは天才だけあってただちに対策を立て、ニューヨークの国連本部に殴りこむ。
世界中の科学者を前にネルソンはただちに行動を起こし、ヴァン・アレン帯にポラリスミサイル(潜水艦発射弾道ミサイル)を撃ち込めばヴァン・アレン帯は限度以上の温度に達して砕け散る。ただし、熱量を越えすぎると地球ごと爆発する恐れがあるため、完全に計算した角度でミサイルを打ち上げる必要がある。そのためには16日以内に目標のマリアナ諸島にたどり着かねばならない。
下手すれば地球ごと心中することになる作戦に、自然に火が消えるのを待つという消極論を唱える物理学の権威、ズッコ博士は猛反対。他人の意見になど惑わされないネルソンは「時間の無駄だ!」とさっさと国会を後にし、港まで追いすがってきた国連の人間を放り出して潜航する。シービュー号の乗組員たちも何がなにやらわからぬまま提督の命令どおり出港。この時点でネルソンの行動は大統領の承認を得ていないので、完全な独断なのだ。「そんなの、あとで取ればいい!」と即断即決の男ネルソンは大統領の意見すら必要としていない!一応は許可を取ろうとするのだが、結局連絡は取れず、「やるしかない」とシービュー号は突き進む。
この強引すぎるネルソンのやり口に、艦内の乗組員は賛同派、反発派に割れていく。賛同するのはサメに人間のいうことを聞かせようとしている科学者のエメリー准将(ピーター・ローレ)、艦長の婚約者でネルソンの秘書キャシー(バーバラ・イーデン)、小型潜水艇の搭乗員ジミー(マーク・スレイド)、彼は提督に反発する同僚と喧嘩を始めるぐらい心酔しているのだが・・・その3人ぐらいで、他は次第にネルソンへの不満を募らせてゆく。
特に艦長のクレインは南極で氷山を観測していたアルヴァレス(マイケル・アンサラ)を救出したあと、彼がうわごとで仲間のことを口にしたのに「間に合わなくなる」という理由で仲間を救出しようとしなかったり、潜水艦の外の世界がどうなっているのか、状況を知りたがっている乗員のためにラジオの音声をつないだら、あまりに絶望的な話ばかり聞かされるので「士気が落ちる」と音声を切ってしまったりするネルソンに詰め寄ろうとする。それを婚約者のキャシーがなだめようとするものだから、ますます意固地になるのだった。
さらに助けてやったアルヴァレスが「人類滅亡は神の思し召しだから、余計なことはせずに死を受け入れよう」などと乗組員相手にお諭しをはじめたり、スーザン医師(ジョーン・フォンティン)がネルソンを「被害妄想の気がある」と言い出すわ、さらに機雷源を取り除こうと小型潜水艇に乗り込んだジミーがあっさり爆死、おまけに艦内では絶望して自殺する者やテロを起こしてネルソンに逆らうやつまで出てくる。
ここに至ってもネルソンは自身の計画を微塵も疑わず、断固ミサイル発射を曲げない。提督に反発して艦を下りたがる人間が出てくると「下手に残ってテロを起こされたらたまらん」と半数以上の人間を下ろしてしまう。
自分に絶対の自信を持つ男、ネルソンは最終的に自分が残っていれば計画は実行できると思っているのだろう。不動の決意を固め、追手の潜水艦との死闘も乗り越えたネルソンのシービュー号は目的地にたどり着く。しかしテロを実行した裏切り者たちによって寸前でミサイル発射を邪魔される。残り時間はあとわずか。このまま地球は滅亡してしまうのか!?
もちろん滅亡は阻止されるのですが、ネルソンを助けるのがあんなに反発していたクレイン艦長だというのが男泣きのポイントですね。
アーウィン・アレンとその後『宇宙家族ロビンソン』などで組むことになるSFXマン、L・B・アボットによる潜水艦、海中の特撮は素晴らしく、巨大イカ、巨大タコとの死闘を見るだけでも一件の価値アリ。追手の潜水艦との手に汗握るバトルも「ただ逃げるだけ」のシーンの前にクレインがネルソンを拘束しようとする展開を挟んでいるため危機また危機と、別種の緊張感が持続するよう仕掛けてあり、アレンの巧みな演出が伺い知れる。
僕はこのネルソンという登場人物が結構好きで、本作のポイントはピジョン演じるネルソンが世界を救う英雄といった位置づけではなく、独断的な男が好き勝手にやっちゃったら、たまたま良い結果になっただけという感じが良い。
最後には生真面目な常識人に過ぎないクレインが正反対の狂人一歩手前のネルソンに魅入られてしまったようにも見えるわけです。これが誰にも好かれる、感情移入できるいかにもな英雄が世界を救った、という話じゃないところが、本作のたまらない魅力なわけです。
この後アレンは個人の献身的な犠牲とご都合主義だけが滅亡から世界を救うという『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリングインフェルノ』とか撮るようになって、伝説の大失敗映画『世界崩壊の序曲』で本当に崩壊したのだった・・・
冴えない男女の時間差ラブロマンス『1秒先の彼女』
台湾のアカデミー賞、 金馬奨(ゴールデン・ホース・アワード)で5部門制覇( 作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、視覚効果賞)の名誉を引っさげ日本上陸を果たした『1秒先の彼女』を見た。郵便局で働くシャオチー(リー・ペイユー)は子供の頃から何をするにも“1秒早く”行動してしまう。徒競走ではフライングし、映画を観れば他の客よりワンテンポ早く笑い出し、合唱では周りと合わせられない。写真を撮るときも「ハイ、チーズ」に合わせられないので目を閉じている写真しか撮れない。
周囲から浮きまくるシャオチーはアラサーになっても友人や恋人はいない。このまま隣のお局さんみたいに悲しい人生を送るのか?そんな彼女も恋をする。公園の無料のダンス教室を開いているスマートなイケメンのリウ(ダンカン・チョウ)だ。初デートまで一瞬でたどり着いたシャオチーはこれが運命なのかと舞い上がる。孤児のための施設育ちのリウは難病に苦しむ子供を助けてやりたいのだが金がない。シャオチーは七夕バレンタインの日に行われるカップルダンスコンテストに出場し、優勝賞金をその子のために使えばいいと提案。
台湾には2度バレンタインがある。2月14日と、旧暦7月7日に行われる七夕バレンタインだ。本格的に盛り上がるのはこちらの方らしく、映画もそちらがメインテーマだ。
シャオチーは当日の朝を迎えるのだが、気が付くと翌日になっていた。なぜか真っ赤に日焼けした自分を見て愕然とし、リウとは連絡が取れない。警察に「私のバレンタインが消えたんです」と相談しても相手にされない(当たり前)。彼女は消えたバレンタインを探し求める。ある写真館に飾られていた一枚の写真。それはシャオチーがどこかの海岸で佇んでいる笑顔の写真だった。私が目をつぶらずに写真に写っている!こんな写真撮った記憶がない!そもそも誰が撮った?シャオチーはその写真から消えたバレンタインの手がかりを見つけ出そうとする。そのカギを握るのは毎日郵便局にやってくるバス運転手のグアタイ( リウ・グァンティン)だ。わざわざ窓口で切手を買い、封筒を出す変り者の彼は何をするにも”1秒遅い”男だった・・・消えた一日を探す旅を続けるシャオチーとグアタイの隠された秘密がリンクするとき奇跡が起こる。
時間差が生み出す展開はこちらの想像を軽くこえてくれる。シャオチーが主役の前半に散りばめられた伏線が、グアタイが主役の中盤以降で見事に回収されていくのが気持ちよく、視点を変えれば変態のハラスメントなんじゃないかと思える数々の行為が爽やかに見えてくるんだから不思議。
その理由はシャオチーを演じたリー・ペイユーにグアタイを演じたリウ・グァンティンも目を見張るような美人、イケメンっぽさがないってところだな。冴えない男女のラブロマンス!それだけで好感がもてますね。イケメンと美女のカップルだったらこの話、全然成立しないもんね。
台湾の恋愛映画、青春映画はたまに驚くものがあるので目が離せません。
チェン・ユーシュン監督の過去作品です
令和の時代にとっても恥ずかしい映画批評家・前田有一
令和の時代にもっとも恥ずかしい映画批評家の前田有一がSNSにとっても恥ずかしい投稿をしていました。
それは尾崎豊の『15の夜』についてのものです。
『15の夜』が発表されて以降、何十年にも渡って日本のどこかで何万回とされたであろう「解釈」を令和3年の今頃になってドヤ顔で披露されるとはさすがに思いませんでした。しかも、TwitterとFacebookの二つに、ほぼ同時間帯に投稿されたのです。前田有一はこの「解釈」をよっぽど気に入っているようで、Facebookの方にはこんな〆までついていました。
「 小説音楽映画漫画、なんでもいいのですが、わかりやすい解説者、のニーズは結構あるんじゃないかな 」
わかりやすい解説!これはわかりやすいとか、そういうのではないから!前田有一は本気で『15の夜』のわかりやすい解説をしてあげていると思っているのでしょう。
これが相当恥ずかしいことなのだと教えてあげないと、あちこちでドヤ顔をしながらこの「解釈」を吹聴するはずなのでお願い、早く気付いて盗んだバイクで走り去ってください。
2021年7月予定
7月予定
7月10日(土)
『アイドル十戒 無限列車編其の7』
アワーズルーム
開場:18:30 開演:19:00
出演:竹内義和 しばりやトーマス
料金:¥2000(1drink付)
人生に悩む人たちへのレクイエム!あとはロック!
7月15日(木)
『キネマサロン肥後橋』
アワーズルーム
開場:19:00 開演19:30
料金:¥1000(1drink付)
司会:しばりやトーマス
カルトを研究する若人の会。
今月は小松左京原作のSFスパイアクション、『エスパイ』
7月22日(木)
『スーパーヒーロートーク』
モノガタリ紅鶴
開場17:45 開演18:00
料金:¥1000(1drink別)
出演:にしね・ザ・タイガー ソエジマ隊員 花鳥風月 緒形 しばりやトーマス
7月28日(水)
『旧シネマパラダイス』
アワーズルーム
開場:19:30 開演20:00
料金:¥1000(1drink付)
司会:しばりやトーマス
7月31日(土)
『僕の宗教へようこそ第一四〇教義~まんがタイム白鯨』
なんば白鯨
開場:18:30 開演19:00
料金:¥1500(1drink付)
出演:しばりやトーマス アシスタント・トモ
今、読むべき漫画とラノベ大特集
喪失と再生『凪待ち』
※これは前ブログの過去記事(2019年08月05日)の再録です

この映画が公開されていた同時期には公開直後から話題になった『新聞記者』があり、かなり小規模の公開ながらスマッシュヒットを記録した。だが内容が時の政府に批判的なものだったせいか、大手メディアではまったく宣伝されないという異常事態(それでもヒットしたんだから大したものである)。改めていうと、その『新聞記者』と同時期公開で、こちらの作品もまったく大手メディアが宣伝しなかったのだ。主演が元SMAPならぬ現ニューマップ(新しい地図)の香取慎吾だから?
香取演じる中年男の郁男はギャンブル狂いで、職場の若者と揉めた同僚(同じく競輪狂いの)をかばったせいで仕事を辞める羽目に。内縁の関係である亜弓(西田尚美)のツテで彼女の故郷、宮城県石巻で人生をやり直すことに。
彼女の娘、美波(恒松祐里)とは仲も良く、石巻には競輪場もないためこれで一からやり直せると誓う郁男だが、彼女の父親で老いて病を患いながらも漁に出る勝美(吉澤健)になじめないことだけが気がかり。この家で勝美の世話を甲斐甲斐しくしている製氷会社の社員、小野寺(リリー・フランキー)に紹介してもらった印刷会社に勤め、東京で「放射能」と呼ばれ引きこもり気味だった美波も夜学で幼馴染の翔太(佐久本宝)と再会、数年ぶりにできた友達との毎日が楽しそうだ。みんながやり直せると思った頃、郁男は同僚に連れられていった競輪のノミ屋にハマってしまう。
美波は翔太と夜遊びするようになり、それを叱った亜弓と喧嘩して家に帰ってこない。亜弓が郁男とともに行方を捜すが「過保護すぎだ」という郁男に「あんたは本当の子供じゃないから心配しないだけ」と口走ってしまい、口論の挙句「それなら一人で探せ」と亜弓を車から降ろしてしまう。
郁男は無事美波を見つけ出すのだが、亜弓は何者かに殺害されてしまう。郁男も美波も自分を責め、家には重い空気が漂うのだった。
それ以来、郁男にはよくないことばかりが起きるように。警察には犯人ではないかと疑われ、同僚が会社の事務所からくすねた金を自分が取ったのではと決めつけられ、暴れて工場の機械を壊してしまい、解雇されてしまう。
逃げるようにハマったノミ屋で借金を重ね、酔った勢いで夏祭りの客に殴りかかる。絵に描いたように転落し続ける郁男を通りすがりの小野寺が救う。
「あんたダメだよ。こんなことしてたら・・・本当にダメになっちまうよ!」
どんなに立ち直ろうとしても周囲は郁男をボンクラでどうしようもない奴だとしか見てくれない。自暴自棄になって自分を責め続ける郁男にも最後の最後まで手を差し伸べようとする人が現れ続ける。なのに、それでも郁男はその人たちを裏切って、さらに転落し続ける。
周囲がどんなに「あんたは悪くないよ」といっても自分自身を許すことができない男の再生を描いた『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2017)を彷彿とさせる物語で、監督はボンクラ、ダメな人間の「喪失と再生」を描かせたら当代随一の白石和彌。芸能界という特殊な世界で喪失し、再生しようとしている香取慎吾と、震災で失われた町を再生しようとしている石巻を舞台に「喪失と再生」の映画を撮ろうという覚悟に魅せられた。
ボンクラにはそれでも救いの手を伸ばす人が必要なんだと。そしてノミ屋を信用してはいけない。




