しばりやトーマスの斜陽産業・続 -56ページ目

60歳ひきこもりオタクの悲しすぎる犯行

 先日、アニソンの帝王、水木一郎さんが亡くなったと伝えられ、さらに『超人ロック』シリーズなどで知られる漫画家の聖悠紀先生が10月に亡くなっていたと知らされる。80年代のオタクの僕にとっては偉人とされる人々の訃報の連続に冬の時期とあって

 

〽汚れつちまつた悲しみに
 今日も風さへ吹きすぎる

 

 そんなことを口ずさんでしまう事件がまたひとつ。

 

>起訴状などによりますと、被告は2021年6月、酒店だった自宅で父親(88)の首を電気コードで締めて殺害し、遺体を業務用冷蔵庫に遺棄したほか、母(87)も首を締めた上で冷蔵庫に押し込み窒息死させたとされています。

 

>14日の初公判で被告は「間違いありません」と起訴内容を認めました。 検察側は「被告は父親からトイレ介助を頼まれ、趣味のアニメ鑑賞などを邪魔されたと思い、怒りが爆発して殺害した」と指摘。

 

 被告はこの年でひきこもり生活を続けていたという。

 

 

 一部WEBメディアでは「初老のひきこもりオタクによる親殺し」と蔑まされているこの事件。まーたオタク叩きか?と思ったけど、週刊女性PRIMEには被告のぼっち人生と家族にまつわるイヤな感じの話が綴られていた。こりゃあ色々言われてもしょうがないかも・・・

 

 

>長男はというと、10年ほど前から自宅にいないという。不在の理由について、前出の叔母は、「長男は昔から精神的な疾患があってね。それで、いまは病院に入っとるから」

 

 被告は大学に行くもなんらかの理由で中退、父親にそのことを未だに責められていたという。この年になってそんな昔のことを責められたらねえ・・・

 ひきこもり30年、普段は何もしないで自室でアニメのDVDを見ている生活という、僕と大して変わらない生活しているよ!なぜだろう、涙が溢れて止まらないよ。母親の介護をしている父親も倒れ、代わりをしなければならなくなった被告は父親のトイレ介助を頼まれ、趣味のアニメ鑑賞を中断されたことにカッとなり父親を殺害、現場を母親に見られたため口封じに殺害。遺体を業務用冷蔵庫に隠した。

 こういう人が親と一緒に暮らしたらダメよ。離れて暮らさないと。しかし60オタクの被告、一体何を見てたんだろう?やっぱりヤマト?

アニソンの帝王、水木一郎逝く

 アニソンの帝王、‟アニキ”こと水木一郎さんが死去。74歳。アニソン歌手生活50周年を記念したベストアルバムの発売を来月に控えての別離だった。

 

 

 

 

 

 水木一郎さんは1968年に歌謡曲歌手としてデビュー。念願のデビューを果たしたものの、酒の席で失敗したり、あまり売れなかったことからマネージャーと揉めるなど順風満帆とはいかず、クラブのドサ回りを経て1971年、テレビアニメ『原始少年リュウ』の主題歌『原始少年リュウが行く』でアニソンデビュー。72年に『マジンガーZ』が大ヒットを飛ばし、アニソンを主戦場にしていく。今思えば石ノ森章太郎作品でデビューして、その弟子の永井豪作品でブレイクするという、この二つで水木さんのその後の人生は決まったともいえる。

 以降はアニソン、特撮ソングで話題作を連発するのみならず、「おかあさんといっしょ」のおにいさんに抜擢(この縁で‟アニキ”と呼ばれることに)、童謡、CMソングとあらゆるジャンルで歌い続けた。本人は熱狂的中日ドラゴンズファンで、2002年には山本正之作曲で知られるドラゴンズ応援歌『燃えよドラゴンズ』の2002バージョンの歌手に。その後も何度となくリニューアルを繰り返し歌い続けてきた。にも拘らずダイエーホークスの応援歌『我らが覇者福岡ダイエーホークス』、読売ジャイアンツの応援歌『闘魂こめて』、さらにはあの野茂英雄の公認応援歌『無敵の英雄ドクターK』まで歌ってたんだから、いかに幅広い活躍をして、あらゆる場所でその歌声が求められていたのかがわかろうというもの。

 1982年には主題歌セールス700万枚以上という記録でギネスブックに名を残した水木さん。アニソン歌手人生50年で歌った曲1200以上は前人未踏の記録。誰も破れない。

 僕は青春!ラジメニアのファンの集いで水木さんを目の前で見た。ささきいさお、子門真人、そして水木一郎という「アニソン御三家」そろい踏み。ささき、子門がすごいことはいうまでもないが、水木さんの声のド迫力ときたら二人に負けていなかった。このステージも二度と再現されなくなった。

 

 年末になると水木さんの歌った企画曲『超人バロム1のクリスマス』を歌うのが定番だが(誰の)今年のクリスマスはしみじみとこれを歌うしかないんか。

 

 

 コロナ過で延期され、来年行われる予定だった50周年企画、実現させてほしかったよ。ご冥福をお祈りいたします。水木一郎の雄たけびは永遠だZ!

 

僕の水木一郎ベスト。筋肉少女帯と水木一郎の『221B戦記』

 

 

 

 

 

公開のタイミングに意味がある『宮松と山下』

香川照之が14年ぶり(黒沢清の『トウキョウソナタ』以来)に主演した映画『宮松と山下』は瓦屋根の極端なクローズアップから始まる。

 香川が演じるのは宮松という映画のエキストラだ。時代劇で主役らしき侍に挑みかかり、一太刀で斬り捨てられる。しばらくして起き上がった宮松はセットの裏手を走り抜ける。そこで待ち受けるスタッフに小道具を渡され、さっきとは違う切られ役に変わった宮松はまた、切られて死ぬ。

 仕事が終わって帰宅する宮松は居酒屋にふらりと寄り、ビールとつくねを注文したところで撃ち殺され、しばらくするとまた立ち上がる。シームレスで別の作品の撮影になっているのがわかる。一瞬で別のチンピラに着替えた宮松はやはり撃ち殺されるのだった。そんな動きのある端役もやれば、ある日はビヤホールで同僚と乾杯しているサラリーマンを演じる。「歓談している」フリだけでセリフもない。

 普段はロープウェイの作業員をやっている宮松はエキストラの仕事だけで食えている人なんていないよ、と作業員仲間に自嘲気味に話す。しかし自宅には自分の出演シーンのが載っている台本を奇麗にスクラップしてまとめている。彼のパーソナリティーな部分は中々明かされないが、スクラップされたファイルや、カップ焼きそばの出来上がり時間にタイマーを使っているあたり、几帳面な様子が伺える。

 ビヤホールの撮影では本番待ちの間に同僚役の端役にいい腕時計をしているがブランドかと聞かれ、「わかりません。どこで誰にもらったのかもわかりません」と答える。わからないって、どういうこと?宮松には記憶がないのだ。

 

 撮影所に訪れた男から「お前、山下だろ?」と声をかけられる。男は谷(尾美としのり)といって山下の同僚だったという。谷によると山下はタクシー運転手をしていたが、ある日突然いなくなってしまったのだという。山下はあるトラブルから記憶喪失になってしまい、以降は「宮松」という名で別人として暮らしていたのだ。谷の計らいで実家に住む年の離れた妹、藍(中越典子)と再会する。記憶をなくしている間に結婚した藍は夫の健一郎(津田寛治)ともども再会を喜んでくれるのだが、宮松は山下の記憶が戻らないまま妹夫婦との同居生活を始める。

 なぜ記憶が失われたか、記憶をなくした際の経緯がなんだったのか、が物語の勘所と言える。記憶を失った宮松はなぜ端役をしているのか、なぜロープウェイなのか?

 

 実家の山下の部屋はそのままにされており、野球のグローブが何種類も飾ってある。山下は草野球で三つの内外野を守れる器用なプレイヤーとして重宝されていた。なんらかの資料が奇麗に整理されているのも端役の出番をスクラップしたファイルを整理している宮松の生活と似通っている。宮松を診た医者は過去だけを思い出せないといった記憶喪失のケースは珍しく、精神的な原因で過去を思い出したくないという意識が働いているのかもという。

 

 

※以下、映画のネタバレに触れています

 

 

 

 藍は血が繋がっていない異母妹で、二人の間には近親相姦的な愛情が匂わされる。そのことを指摘された山下は激昂し、言い争いになり、頭をぶつけて倒れてしまう。立ち上がった山下はその場を去り、帰らなかった。

 山下は記憶を失ったのではなく、これをいいことに別の人生を歩むことを決めたのでは?異母妹と暮らし続けることで越えてはならない一線を踏み越えてしまうかも知れない。自覚していなかったかもしれないが、心の奥底を見透かされた気がしたから激昂したようにも見える。

 

クライマックス、妹に「お兄ちゃんはショートホープを吸っていた」と言われ、縁側でショートホープをくゆらす山下=宮松の背中からは何かが立ち上り(そんな風に見える)、振り向いた表情からは心の奥底に秘めていた「記憶」が現れる。それは決して見せてはいけない素顔だったのだろう。諍いで激昂した山下はすさまじい声をあげて襲い掛かる。一瞬のシーンだが、香川のあまりの強烈さに思わず仰け反ってしまう。ロープウェイの作業員という宙に浮く仕事をしていたのもこの素顔を決して露にしてはいけなかったからだろう。現実の香川も表してはいけない素顔を見せたことで世間から姿を消した。これは現実の香川照之と重複するような役柄に見えてしまう。

 

『宮松と山下』がこのタイミングで公開されたことは偶然でしかないが、あの事件がなく公開されていたらただの地味な映画で終わっていたかもしれない。このタイミングで公開されたからこそ意味を持つ映画なのだ。

 

 

 

 

 

ペプシ世代の冒険『ペプシよ、戦闘機はどこに? ~景品キャンペーンと法廷バトル』

 1990年代に「20世紀最後のアイドル」として人気を博していた高橋由美子は94年から95年にかけてミスタードーナツのCMに出演していた。そのCMのひとつが「高橋由美子のおべんとう箱 ミスターチン篇」だ。当時ミスドは電子レンジで直接温められる弁当箱「ミスター・チン」をキャンペーン商品にしていた。そのプロモーションで応募するとグッピー(高橋由美子の愛称)の手作り弁当がもらえるというCMをやっていた。

 グッピーファンが目の色を変えてハガキを書きまくった結果、手作り弁当が当選したのは女性ファンだった。この結果に多くのグッピーファン(男性限定)は憤った。なんで男に当たらんのや!これは…仕組まれたのではないか?♪いいことあるぞ~ミスタードーナツ って全然いいことないわ!それが影響したかどうかは知らないが、グッピーのミスドCMはその年で打ち切りになった。

 

 ネットフリックスで配信開始された『ペプシよ、戦闘機はどこに? ~景品キャンペーンと法廷バトル』はグッピー(とミスド)がファンの心を踏みにじった翌年にペプシがポイントを貯めると景品と交換できます、というTVCMを流し、景品のひとつにハリアーⅡという戦闘機が当たると聞いた大学生がポイントを集め、ハリアーをよこせと迫ったがペプシコ側はジョークと言い訳し、裁判にまで発展した「レナード対ペプシコ事件」の真相に迫ったドキュメントだ。

 

 さかのぼること1970年代に清涼飲料水のシェアでトップを走っていたコカ・コーラに対抗するため業界4番手以降のペプシコは挑発的なキャンペーンを仕掛けた。ペプシ・チャレンジだ。道行く人にコークとペプシの入ったドリンクをブランド名を隠して飲み比べしてもらう。「美味しいのはどちらですか?」するとほとんどの人はペプシの方が美味しいといった。これが評判になりペプシは勢いづく。有名人を器用したCMを連発。マイケル・ジャクソンを使った「君はペプシ世代」は瞬く間に浸透し、「ペプシはクール。コークはダサい」というイメージを世間に植え付けた。80年代はマーケティングの時代。‟コーラ戦争”はベトナム戦争も終わって社会正義、怒りをぶつけるところのない国民は砂糖水の戦いに熱狂した。

 

 そして95年。ペプシコはコーラを買ってポイントを貯めるとカタログの景品と交換できる「ペプシスタッフ」キャンペーンを開始。サンフランシスコで経営を学んでいた大学生のジョン・レナードはある日テレビでこのCMを見た。それはハイスクールの授業風景を映したもので、教室に突然突風が吹きこむ。生徒が外を見ると戦闘機ハリアーⅡに乗ったトム・クルーズ風の若者が下りてくる。そこで一言

 

「バスより早いぜ!」

 

 画面下には‟700万ポイント ハリアー”の文字。夢を追う学生だったレナードは「これだ!」と興奮し、ただちに得意の計算でハリアーの値段を割り出す。3200万ドルぐらいかな?だったら700万ペプシポイントを貯める方がお得だ!レナードは親を巻き込んでスーパーでペプシを箱買いし、毎日飲み続けた。そして一週間でこれは無理だってことがわかった。700万ポイント貯めるには100年間、1日190本のペプシを飲まないといけない!それもあるけど、そんなにたくさんのペプシを買う金はどこから?レナードは知人に頼むことにした。投資家のトッド・ホフマンだ。

 ホフマンは根っからの冒険家。どれぐらいの冒険家なのかは彼の母親が証明する。「赤ん坊のころにベビーベッドから脱出したのよ」なるほど、それは根っからの冒険家だ。

 16歳のころに山登りに魅せられたホフマンは世界中の山を踏破し続けた。そして1992年。脳腫瘍が見つかった。手術は成功したが、歩くこともままならないリハビリ生活が続いた。あきらめない男ホフマンは再び山を目指す。北米最高の山アラスカ・デナリ山にガイドとともに挑んだ。そのガイドがレナードだった。40代の実業家と20代の学生はその登山を通じて友人になった。レナードはホフマンに相談した。ハリアーを手に入れられるか?ホフマンはCMを見て「事業計画書を書いてこい」といった。

 

 レナードはMS-DOSで(まだウィンドウズ95は出てなかった)事業計画書を書いた。700万ポイント分のペプシを購入し、保存する倉庫を借り、それを管理するスタッフ、その人件費…すべてを計算すると必要な金額は430万ドル。1600万本のペプシが必要だからだ。自信満々のレナードにホフマンは問題点を指摘した。

 

1.民間人がハリアーを所有するのは合法なのか?

2.ハリアーを手に入れて何をするのか?

3.期限内にポイントを貯められなかったら?

 

 1.についてレナードは素人の怖いもの知らずというかなんというか、直接ペンタゴン(アメリカ国防省)に問い合わせた!大学の研究課題だと説明して。電話に出たのは報道官のケネス・ベーコン。

 

「ハリアーって民間人でも所有できますか?」

「買うことは可能だが、武装化は違法。ミサイルなどは搭載できない」

「つまり、所有は合法?」

「合法だね」

 

 2.の問題。ハリアーで何をする?もらってすぐ売り飛ばしたらペプシへの嫌がらせと思われるぞ。

「人を乗せるんだ。航空ショーの機体に使ったり、機体に広告を貼ったりして映画の宣伝とかに利用してもらう、他にも…」

 

 そして最後。期限に間に合わなかったら?これはキャンペーンの期限はどこにも記されてない(CMには細則すらなかった)。これじゃあともう少し、というところでキャンペーンが終わった場合、ペプシが大量に残されるだけだ。

「君はいいやつだが、こいつは無理な相談だ」

 レナードの事業は泡と消えた。やる気をなくしたレナードは上の空で大学の授業に出、帰りにスーパーでペプシスタッフのカタログを見た。カタログの最後に書いてある一文に目を奪われた。

 

「ペプシポイントは購入も可能です。1ポイントにつき10セントで」

「最低15ポイントあれば残りは購入可です」

 

 その場でレナードは脳みその計算機を弾いた。ハリアーを手に入れられる金額は…70万ドル!ホフマンは70万ドルの小切手を用意。二人でペプシコ本社に送り付けた。コーラ戦争に勝つためには過激なCMを打つしかなかったという元CEOのブライアン・スウィッチはCMの内容をガチで信じるやつが出てきたことに頭を抱えた。こいつはジョークもわからないのか?

 ペプシコはあれはジョークですよと断りを入れた上で2ケース分の無料クーポンをレナードの家に送った。欲しかったのはペプシじゃない、ハリアーなんだ!バカにしてるのか?

 レナードはグッピーの手作りお弁当が寂しい男性ファンに当たらなかったどころの騒ぎではない決意でペプシに約束を果たせと返事を送り返した。

 ジョークです、いやジョークには見えないという両者のやり取りが続く中、ペプシコは突然ハリアーCMの文言「700万ポイント」「7億ポイント(これはジョークです)」に修正したバージョンを放送した。

 真似する人間が出てこないように、という修正だったのだがレナードらはCMの合法性を自ら認めたようなものだとさらに強気に出た。ペプシ側は訴訟を提起すると、レナードも訴え返した。互いに弁護士を立て、両者はついにペプシコ本社で相まみえる。

 

 CMを本気にしないでくれという敵の弁護士チームに、本気にさせるようなCMを流したのはそっちなのだから、契約を果たせと譲らないレナードとホフマン。両者の対話は平行を辿ったが、前向きに解決したいというペプシコの弁護士は75万ドルの和解金を提示した。

 20代の若者には信じられない金額だろう。ペプシコは訴訟になった場合、かかる費用は75万ドルでは済まないし、企業イメージもよくない。この程度の出費で済ませたいのは理解できる。

 レナードは揺らいだ。裁判になっても勝てるかどうかはわからない。ならば75万ドルで引き下がるべきでは?ちょっとごねれば100万ドルぐらいには増額するかも?ホフマンもこの金があれば経済的な余裕ができ、君は何かができるようになるかもしれないと助言。しかし選ぶのは君だ。

 自慢の計算機をレナードは働かせた。ハリアーが3200万ドルとして、100万は10分の1にも満たない。これって全然妥当じゃない!僕は…戦闘機が欲しいんだ!

 

 和解案を蹴り飛ばしたレナードは巨大企業に戦いを挑む。企業との闘いに精通した専門家、マイケル・アベネッティを雇って。アベナッティには巨大企業で働く父親がいた。週80~90時間労働であっても文句を言わないような会社の忠臣。でも解雇された。その時アベナッティは企業と戦う人間になることを決意した。

 挑発的で攻撃的姿勢を崩さない彼によってレナードはメディアに露出する。ラジオ、テレビ、雑誌、あらゆるメディアに出まくってペプシコは約束を果たせと口撃した。

 アベナッティの戦略もあったが、前後してアメリカではマクドナルド・コーヒー事件が起きていたことも影響したとされる。これはドライブスルーのコーヒーで火傷をした客が「コーヒーの熱さに対する注意書きがなかったこと」を理由に治療費の支払いを求めたもので、企業に対して賠償金目当てのヤカラ訴訟を起こす例として捉えられがちの事件だ。

 よってレナードにも金が目当てなんだろうという批判が起きたが、彼は一環して「CMで約束した景品を渡せ」と言っているだけなのだ。これに対してペプシコは企業の力をバックにした圧力を仕掛けていく。ペプシコがスポンサードしている番組にレナードが出られないように妨害したり、「民間人がハリアーを所有することは合法」といったペンタゴンのベーコン報道官は非武装化されていないハリアーを民間人は所有できないと会見で証言した。電話では所有できるって言ってたやん!

 真綿で首を絞めるように包囲網がとられていく中、アベナッティはペプシを攻撃できる、敵の弱みを見つけた。ナンバー・フィーバー事件だ。

 

 1992年、ペプシコはフィリピンに進出。シェアのトップを走るコカ・コーラに対抗するため500万フィリピンペソ(約2億4000万円)のキャンペーン「ナンバー・フィーバー」を実施。瓶の王冠裏に3桁の番号が印刷されており、後に発表される当選番号と一致すれば賞金がもらえるという仕組み。1等2口の賞金は100万フィリピンペソ(約480万円)。当時のフィリピンで豪邸一件が買える金額だ。困窮生活に苦しむ国民が多かった同国では食事をする金をペプシにつぎ込んだ。このキャンペーンでペプシのシェアは従来の4%から24.9%にアップ。大成功…ということにはならなかった。

 1等の当選番号がコンピューターの不具合で大量にミスプリントされ、なんと80万本も出荷されてしまった!ミスを謝罪したペプシコは当選番号を持っている人全員に500ペソ(約2400円)を支払うという措置を取ったが、納得いかない当選者たちは怒り狂った。そりゃあ480万円が2400円じゃあねえ(当時困窮していた人々がインタビューに答える。当時の証言者として登場するのはマニー・パッキャオ!元ボクシング世界チャンピオンの!突然パッキャオが出てくるので驚いた)

 フィリピンのペプシコ支社前にはデモが殺到し、拡大化。やがて暴動に発展。マニラ市内で焼き討ちが連鎖。警官隊との衝突で5人が死亡、ペプシコ本社は爆破され従業員も犠牲に。この騒動でペプシコは2000万ドル(約24億円)の損害を被ったという。

 

「ペプシは約束は交わすが、実行はしない」

 

 という一点を攻撃する広告キャンペーンを展開すべく、ポスターを製作した。ペプシの火炎瓶を中心にした、フィリピンでの暴動を揶揄する広告だ。このポスターをペプシコ本社の目のつくところに張り出すため、二人はホフマンに資金提供を持ち掛けたがあまりのネガティブさにホフマンは呆れた。

 

「これは‟脅迫”じゃないか」

 

 企業に正当な要求をするのではなく、企業のイメージを貶めたいだけの戦略には協力できない、それにレナードへのダメージが大きすぎる。ホフマンは二人と距離を置いた。

 その時アベナッティとも友人関係だったレナードはホフマンとの長年の友情を取るか、裁判のためにアベナッティのやり方に賛同するか。悩んだ末にレナードはホフマンを選んだ。ちなみにアベナッティはその後企業を脅迫したことで二度の有罪判決を受け、今も自宅で軟禁状態に置かれている。

 

 ネガティブ・キャンペーンは行われず、二人は陪審員裁判でレナードへの支持を集めようとしたが、裁判長は企業に有利な判断を下すタイプの人で、陪審員を採用せずともよい略式裁判が選択された。関係者の証言を一切聞かずに行われる裁判の結果、「CMはジョークであり、分別のある人間なら本気にしない」

 と結論づけられレナードの訴訟は棄却された。

 

 カナダでも同様のCMが放送され、そちらでは初めから「ジョークです」の文言が入っていたのだ。「なぜ700万ポイントか、なぜジョークと書かなかったのか、本当に手に入れられるかもしれないと思わせておいて、後になってからジョークだったなんて。関係者にそれを裁判で証言させたかったのに」と憤るアベナッティたち。この疑問に対してハリアーCMを製作した元ペプシの広報担当、マイケル・パティは証言する。

 

「最初の原案は7億ポイントだったんだ。それを見せるとクライアントのひとりが言った。『見づらくない?』数字をひとつ取った。それでも『まだ読みづらい』っていうんだ。『何ポイントで手に入るのか一目でわかるようにしないと』って。それで700万ポイントになった。少しは意見を言ったけどその場にいた全員が賛成したんで諦めた」

 

 原案通りなら7億ポイントを集めるのは不可能だし、ポイント購入でもハリアー一機の代金を上回るから、お得じゃない。こんな騒動は起きなかったろう。この証言が取れればペプシは裁判で相当不利になったはずだ。商品を手に入れさせようと視聴者に思わせるためのCMだったことがわかるからだ。当時、パティは裁判に召喚されるかもと言われて、出られない、出たら原案を修正したことを証言しなくてはいけない。僕はペプシにとって最悪の証人だと告げた。そして…関係者は誰も裁判に呼ばれなかった。

 

 相手に勝つためになりふり構わず、視聴者にインパクトを与えるために、面白けりゃなんでもいいんだ、と暴走したコーラ戦争の弊害ともいえるこの一件はアメリカの法曹界に‟レナードVSペプシコ事件”として契約法の境界を理解するうえで重要な訴訟として記録され、今もロースクールの学生らは議論を戦わせている。

 アメリカではレナードの気持ちもわからなくはない、という意見が多くて、このドキュメントでもレナードと争う羽目になったペプシコの元CEOブライアン・スウィッチやパティも彼を嫌っておらず、好意的な意見を寄せているのだ。

 ハリアー700万ポイントは彼にとってものすごい冒険だったはずだ。根っからの冒険家気質だったホフマンが突然ガンに襲われたように、人生はままならぬことだらけだ。けれど挑戦する気持ちを捨てられない。そんなチャレンジング・スピリッツに魅せられるのだろう。

 

 レナードとホフマンは今も固い友情で結ばれているという。

 

※日刊サイゾーに書いたコーラ戦争に関する記事

 

 

 

 

 

 

2022年12月予定

2022年12月予定

 

12月10日(土)

『アイドル十戒 新たなる支配者其の四』

場所:アワーズルーム 開演:19:00 

料金:¥1500(drink代別)

出演:竹内義和 しばりやトーマス

今年一年間のアイドルニュース総決算!

 

12月13日(火)

『旧シネマパラダイス』

会場:アワーズルーム 

開演:20:00 

料金:¥1000(1drink込)

解説:しばりやトーマス

カルトを研究する若人の会。お送りするのは最も衝撃的なマカロニウェスタン『殺しが静かにやって来る』(1968)を大研究!

沈黙の銃弾がお前を狙う!

 

12月20日(火)

『キネマサロン肥後橋』

会場:アワーズルーム

開演:19:30 ¥1000(1drink込) 

解説:しばりやトーマス

深夜の映画番組みたいな企画。今月は恐怖シリーズ第三弾、『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-01 口裂け女捕獲作戦』を研究しよう!

 

 

12月22日(木)

『スーパーヒーロートーク』

場所:なんば紅鶴 

開場:19:30

料金:¥1000(1drink別)

出演:にしね・ザ・タイガー ソエジマ隊員 しばりやトーマス

 

今年最後のスーパーヒーロートーク。ニチアサからヒーローショー、イベントまで。

 

12月27日(火)

『僕の宗教へようこそ第一五七教義~地下ニュースグランプリ2022』

場所:なんば紅鶴

開演:19:30

料金:¥1500(1drink付)

出演:しばりやトーマス アシスタント・トモ

 

年度末の締めくくり、地下ニュースグランプリ2022は例年通りなんば紅鶴で開催!

3時間のお祭りをお楽しみください