しばりやトーマスの斜陽産業・続 -121ページ目

ダイナマイトでぶっ飛ばせ『ピーターラビット』

※この記事は前ブログの過去記事(2018年05月30日)の再録です



 ヘレン・ビアトリクス・ポターは若いうちから菌類とキノコの研究をしていてアマチュアでありながら論文を書き上げたが、当時のイギリス社会は日本をはじめとするアジア各国ものけぞるほどの男尊女卑社会であり、学会はポターの論文をまともに取り扱わなかった。やがてポターは研究から離れ、うさぎを主人公にした絵本作家として花開いていく。その作品『ピーターラビットのおはなし』には瑞々しい自然と動物、キノコが描かれていた…

 という漫画『もやしもん』で読みかじった知識を書いてみましたが、そういった予備知識は一切必要としない映画である。ピーターラビットシリーズ初の実写映画である本作は見た目のイメージからは想像もできないバイオレンス映画だからだ!


 湖水地方に住むピーターラビット(吹き替えの声は千葉雄大)と家族たちは近所の頑固おやじジョー・マグレガー(サム・ニール)の屋敷の畑からいつものように野菜を盗む。マグレガーはかつて畑に忍び込んだピーターの父親を捕まえてミートパイの具にして食ってしまったのだ。以来ピーターはマグレガーをからかっている。
 ある日マグレガーは心臓発作で死んでしまい、ピーターたち動物は「マグレガーが死んだ!この家も畑も僕たちのものだ!」と屋敷で大騒ぎを始める。
 しかし主のいなくなった屋敷にマグレガーの甥、トーマス(ドーナル・グリーソン)がやってくる。トーマスはハロッズのおもちゃ売り場で働いていたが、社長の甥が副支配人になって自分より出世したことを聞いて大暴れ、首になってしまう。
 大叔父であるマグレガーの屋敷と土地を相続することになったトーマスはそれを売り飛ばした元手で新しいおもちゃ店をつくってハロッズを見返してやろうとたくらむ。
 せっかく手に入れた屋敷と畑が奪われてしまう!ピーターたちはあの手この手でトーマスの追い出しを図るが、ピーターたちの味方である隣家の画家の女性、ビア(ローズ・バーン)はトーマスと仲良くなってしまうのだった。畑だけでなく、仲良しのビアさえ奪われてしまう!ピーターたちの追い出し作戦はエスカレート。柵とドアノブに電流を流し、何も知らないトーマスは高圧電流を食らって吹っ飛ぶ!アレルギーのブラックベリーを食わされ、アナフィラキシーショックで命の危険にまで晒され、我慢の限界を超えたトーマスはダイナマイトでウサギの巣を吹っ飛ばそうとする。ピーターは野菜を武器に、トーマスはダイナマイトを投げつける!敷地のあちこちがダイナマイトで吹っ飛び穴だらけに…

 おい、こんなバイオレンス描写があると思わなかったよ!ちなみにダイナマイトを投げるシーンは『プライベート・ライアン』を参考にしており、CG全盛の映画なのに本当の火薬を使っている!何考えてんの!!

 このバイオレンス描写の上、「この世の終わりと思い込んで自棄になって卵を生みまくる鶏」といった狂気を孕んだキャラクターが登場し、見ているこっちの頭がどうかしそうだ!(ちなみに吹き替えの声が千葉繁なのでより狂気のキャラに!)

 安易な子供映画と思い込んでいた観客の脳みそをものの見事に吹き飛ばしてくれた本作は愉快痛快!

 

 

 

 

怒りの棘が刺さりまくる『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』

※この記事は前ブログの過去記事(2018年05月28日)の再録です



 山田洋次監督が『東京家族』と同じ出演者で撮り続けているシリーズ最新作。頑固で口が悪く、一人よがりな性格の周蔵(橋爪功)が家長の三世代家庭、平田家の騒動を描く。前二作は周蔵と富子(吉行和子)の夫婦関係をテーマにしたものであったが、今回は長男の幸之助(西村まさ彦)の妻、史枝(夏川結衣)が主役級の扱いになっている。

 ある日、史枝が掃除の途中でうとうと居眠りした隙に空き巣と出くわしてしまう。そのまま空き巣は出て行ってしまったので史枝にこれと言ったケガはなく、被害も大したことはなかったが史枝が結婚して以来貯めていたへそくりの40万円が盗られてしまう。事情を知った夫の幸之助はあきれ果て「俺が昼間、汗水垂らして働いている間に昼寝とは良い身分だな」「へそくりって旦那の給料をピンハネしてるのと同じだぞ」とまったく妻を気遣わない罵詈雑言を浴びせるのであった。翌日、史枝は平田家を飛び出してしまう。こりゃあひどいよ…誰だって出ていくよ…

 一家の家事をすべて任されていた史枝が居なくなったことで平田家は大混乱。朝飯はバナナ、昼飯はパン、晩は店屋物とカップラーメン。洗濯物は溜まりまくり…史枝のありがたみを今更になって実感する平田家。すべては幸之助の暴言が原因なのだから一言謝れば済むことなんだけど父譲りの性格ゆえか自分が悪いと思っていないので謝ろうとしない。史枝は次男・庄太(妻夫木聡)の妻・憲子(蒼井優)にだけ現在の居場所を教えるのだが(なにしろこのシリーズでは蒼井優が家庭に入る理想の女性として扱われているので)それがまた気に食わない幸之助は「憲子さんは他人なのに。あいつはなんで俺や父さんじゃなくて憲子さんに居場所を教えるんだ!」とまた余計なことを。ついには平田家の全員から非難されて「俺は絶対謝らないぞ!」と意固地になってしまう幸之助…ちょっとは反省したらどう?


 この話のオチとしては幸之助が謝罪して史枝と仲直りする、以外にないと思うのだがなんと最後の最後まで幸之助は一言も謝らないのであった!出張先で買った薔薇模様のスカーフをあげて「本当は妻のことを想っていた」てなことで史枝は帰ってくるんだけど、そんなもんで腹の虫が収まるか!
 反省しないのは幸之助だけではない。義父の周蔵は持病の腰痛が再発した妻の富子に代わって慣れない家事をやることになるのだが、それをいいことに行きつけの小料理屋の女将、かよ(風吹ジュン)を「家政婦協会から来た助っ人」と偽らせて家でイチャイチャしはじめる!二人の息子も「腹減ったー!」「ごはんはー?」というだけで家事は一切手伝わない!長女の成子(中嶋朋子)は幸之助とケンカしたので距離を置き、夫の泰蔵(林家正蔵)は役に立たないアドバイスしかせず(正蔵だしな)、事態の収拾に乗り出すのは末っ子夫婦の妻夫木聡と蒼井優。

 蒼井優はシリーズ共通で登場人物の全員から信頼される存在で、自分自身も認知症のおばあちゃんを抱えて看護師としてフルタイム活動する「小さい史枝さん」。毎回問題の解決に尽力するのは彼女なのだ。作品に共通して「立派な家庭の女性」として描かれるのは夏川結衣と蒼井優だけで、中嶋朋子演じる弁護士の成子なんて嫌味な人物のようにされているし。
 これには昭和一桁生まれの男、山田洋次のかなりヤバイ専業主婦観が出ているのではないか。ズバリ「主婦は黙って家庭の犠牲になれ」って言っているようにしか見えない。
「主婦のありがたみがわかった」「主婦って大変なんだねえ」と口先だけで気遣うフリをしたところで男の方が全然反省していないのだからダメだこりゃあ!「妻と一緒に観に行きましょう」なんて宣伝をしているのだけど、逆に映画館で夫婦喧嘩が勃発しそうな気がする。妻よ薔薇のようにって、妻の本音という薔薇の棘が刺さりまくってることに気付いた方がいいですよ監督!

 

 

 

コロナ禍に悩む映画館の救世主になるか?劇場版鬼滅の刃、前代未聞の大爆発スタート

 10月16日から公開となった映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が前代未聞の大爆発スタート。なんと公開3日間で興収46億円の記録をたたき出した。

 

 

https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202010190000307.html?fbclid=IwAR1CqGtPqt4GIoOqOQiyTvcCp0e_Y24OeIDVlSraPjrTT1z1lkBF3bVoe90&utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=nikkansports_ogp

 

 

  初日の金曜に12億6000万円、17日土曜には17億100万円、18日に16億5000万円という圧倒的数字で、国内映画の記録とされている『天気の子』(2019)の持つオープニング3日間で16億4380万円を土曜日の興収だけでも上回っており、公開前に設定した目標100億円は余裕で達成可能で、200億も夢ではなく、国内唯一の300億越えの記録を持つ『千と千尋の神隠し』の308億円に届くかどうかが注目されている。

 

『千と千尋~』はスタート時に全国336館で封切られており、『劇場版 鬼滅の刃~』は406館でのスタートという公開規模だけでも上回っている。現状、新型コロナの影響で映画館では座席の間を空けたソーシャルディスタンスで上映されていることを考えればこの大ヒットは奇跡ともいえる。あまりにヒットしすぎて一部の劇場は座席の間を埋めて公開しているそうで、コロナだ新しい生活様式だなんだといったところで興行的魅力の前には抗えないのである。なにしろTOHOシネマズ新宿の初日は11スクリーンで42回も上映していて、一日中劇場内を無限列車ならぬ無限ループしながら見ていたファンも居たという。

 

 この驚天動地のヒットの要因は原作の連載が終了し、ついでアニメの終了直後からの続きであるとか、最高のタイミングで公開されたことや、コロナ禍の影響で映画館の興行規模が自粛されている中で観客自体が話題性のある作品に飢えていたというのもあるだろうが、純粋に作品自体の魅力があるからだろう。日本の劇場アニメでありがちな話題性のために芸能人のキャスティングをするといった猿知恵を働かせなかったのもよかった。21年公開のセーラームーンの新作映画に菜々緒がキャストされたと発表されて肩を落としたところだけに本当によかった。話題性なんかなくても作品自体がよかったらみんな見に来るんだよ?

 

 アニメでの爆発ぶりを見て、関係者が次は実写で!と鼻息を荒くしているかもしれませんが原作者の吾峠先生は実写というジャンルがお気に召さないそうなのでアニメ至上主義の人はご安心を(前にやった2.5次元舞台版も「渋々」だったとのこと)

 

 

 

 

 

10周年!ももクロデイリー

※この記事は前ブログの過去記事(2018年05月24日)の再録です

 先日23日は『ももいろクローバーZ 10th Anniversary The Diamond Four -in 桃響導夢-』のため東京にいた。ももクロライブの遠征は何度もしてきたが東京ドームは初めて行く。

 到着するまでは知らなかったが、当日の天気は雨だ。現地についてもきっちり小雨が降っていてどんよりした気分になる。JR水道橋につくと改札前のコンビニでおばちゃんがせっせと何かをビニール袋に入れている。デイリースポーツ特別号のももクロ新聞だ。10周年記念ライブを記念したもので一部250円。

 内容はメンバーインタビューとヒャダイン、宮本純乃介、そして南国ピーナッツこと松崎しげるらの「重要な」キーパーソンインタビュー。南国ピーナッツさんは東京ドームにも出てました。
 南国さんは基本サプライズ登場なので当日は控室も一番遠い位置にして、絶対にももクロ及び関係者に顔を合わせないようにしているとのこと。なのでトイレも大変らしい。導線はマネージャーがチェック。でも顔を最近覚えかけられてるので別のスタッフを使おうかという話に。一度だけ本番前にお客の前をどうしても通らないといけなことになって、バレないように台車のついたゴミ箱風の箱に入って移動したという…しかもリハーサルできない(!)。イヤモニのチェックをするだけだという。あれで毎回『愛のメモリー』を完璧に歌ってるのだからさすがだわ。ちなみに来年70歳だそうです。

 特別号の〆は早見あかりインタビュー!


 あかりん曰く当時はプロ意識よりも楽しくやりたいという心持ちだったけど、杏果の卒コンの時メンバーが涙をこらえてたというところにプロ意識を感じたという。あかりん卒コンの時は全員大号泣で進行が完全に止まっていたからな~
 そういうところを見ると今のももクロは本当にプロ意識の塊だし、東京ドームでは最後のメッセージでそれが少し崩れていたのが忘れがたい瞬間だった。その辺の話は次のアイドル十戒で…(宣伝)

80年代オタク万歳『レディ・プレイヤー1』

※この記事は前ブログの過去記事(2018年05月16日)の再録です


 2045年の世界は貧富の差が拡大し、多くの人間はスラムと化した街での暮らしを余儀なくされたため、世界中の人々は仮想現実OASISに入り浸るようになった。OASISを開発したクリエイター、ジェームズ・ハリデーは自分が亡くなった後にビデオメッセージを残し、OASIS内にイースター・エッグを隠し、エッグにたどり着くために必要な3つの鍵を手に入れ、一番最初にエッグを手に入れたものに自分の遺産56兆円とOASISの管理権を渡すという遺言を公開した。
 ハリデーの意思を継ごうとするハリデー信者たちをはじめとするガンターと呼ばれるエッグハンター、そしてOASISを手に入れ金もうけのために利用することを企む大企業IOIの送り込んだシクサーズが激しい争奪戦を繰り広げる。しかし最初の鍵を見つけることすらかなわぬまま数年が過ぎていった。鍵を見つけるためにはハリデーが青春時代を過ごした80年代のポップカルチャーに詳しくなくてはならないからだ!


 72年生まれの作家、アーネスト・クラインはアメリカのゲーム会社、アタリが崩壊するきっかけとなったアタリショックの原因のひとつと言われるゲームソフト『E.T.』があまりの売り上げ不振のため、売れ残ったソフトを穴を掘って埋めた、とされる「ゲームの墓場」を探り当てるドキュメント『アタリ:ゲームオーバー』を制作し、穴を掘り起こす作業には愛車のデロリアンで駆け付け、『ディグダグ』のシャツ姿で颯爽とデロリアンを降りる様子を見せつけていた、筋金入りのオタクである。

 そんな彼は小説『ゲーム・ウォーズ』(原題『レディ・プレイヤー1』)に自分の好きな映画、音楽、ゲーム、アニメ、特撮といった要素をぶち込んだ。OASISで鍵を見つけるためにはゲームや映画、音楽、特撮に詳しくなくてはいけないという…要するにオタクじゃないとハリデーの遺産を受け継ぐ資格がない!原作小説で主人公たちは『フェリスはある朝突然に』を全部再現させられたり、『ジャウスト』(ファミコン『バルーンファイト』の元ネタとなったゲーム)をクリアさせられたりする。
 クラインのオタクっぷりは日本のアニメや特撮にまで発揮される。特にクライマックスはハンター同士の巨大ロボット戦になるのだが、勇者ライディーンやマジンガーZ、エヴァンゲリオンにボルトロン(日本のロボットアニメ百獣王ゴライオン)、超電磁ロボ コン・バトラーVが敵のメカゴジラ(!)と激突する。主人公もひとつロボットを選んで参戦するのだが、なんと主人公が選んだのはレオパルドン!あの東映版スパイダーマンに登場する巨大ロボットだ。日本人でも忘れてる人がほとんどなのに、なぜアメリカ人のクラインが知ってるんだよレオパルドン!(最近になってアメコミのスパイダーバースシリーズに登場してるけどさ…)
 残念ながらレオパルドンは「アメリカでは誰も知らない」という制作側の偉いさんのひとことで登場できなかったが、映画では代わりにガンダムが登場する。日本人ガンターのダイトウ(PrizmaXの森崎ウィンが熱演!)が仲間の危機にガンダムに乗って駆け付ける。
「俺は、ガンダムで行く!」
 のセリフとともに…


 原作ではウルトラマンが登場してメカゴジラと決戦を繰り広げるドリームマッチなのだが、ウルトラマンは例の権利関係の問題で出すことができなかったため、ガンダムが3分しか活動できないという要素が付け足されることになった。しかし日本での映画公開後に円谷プロが勝訴。もう少し制作が遅れたらウルトラマンが出られたのに…!残念!

 このように小説ならば文字だけだから問題ないだろうけど、映像作品にするにはハードルが高そうな内容だ。この監督に選ばれたのはスティーヴン・スピルバーグ!80年代に『インディ・ジョーンズ』シリーズや『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、『E.T.』などを制作して第一線で活躍していた男が「80年代最高だぜ!」な映画をつくるという奇跡の企画なのだ。
 映画版では80年代最高!という描写はやや抑えられ、ハリデーの人生を追うことでイースター・エッグにたどり着くことが可能になるという展開になってはいるが、OASIS内にはありとあらゆる映画のキャラクターが登場する。権利関係を越えて登場させることが可能になったのはスピルバーグの威光があったからに違いない。80年代に青春を過ごした僕なんかはわかるのだが、当時は70年代のカルチャーこそが最高で、80年代には何もないとされていたのだ。そんな中、80年代のエンターテイメント界をほとんど一人で牽引していたのがスピルバーグだった。スピルバーグがいなけりゃ80年代は本当に何もないゴミクズのような年代になってたところだ。
 御年71歳のスピルバーグが80年代、30代半ばの頃にやってたような冒険活劇を撮れるというのが何しろ凄い。宮崎駿に30代の頃にやってた作品がまたやれるかっていうと、絶対無理だと思う。

 物語は「仮想現実ばかりに閉じこもってないで、現実世界を楽しもうぜ!」っていう僕のような人間には耳が痛いオチなんだけど、スピルバーグだから優しく肩を抱いてくれるオチなんだよ。庵野秀明なら「現実に帰れ!」って上から目線になるところだ。ありがとうスピルバーグ。僕も56兆円あったら現実に帰ろうと思います。