しばりやトーマスの斜陽産業・続 -11ページ目

サメ殺しの女節『松島トモ子 サメ遊戯』

 日本どころか世界に燦然と光り輝くバカ映画界の巨匠、河崎実の最新バカ映画『松島トモ子 サメ遊戯』はかつてTVの取材でアフリカ・ケニアに訪れた先でライオンのエサやり中に襲われ負傷。その後、さらにヒョウに襲われるという不幸に見舞われながら奇跡の生還を果たした女優・松島トモ子が「今度はサメと死闘を繰り広げる!」というのがセールスポイントのサバイバル・アクション映画(誇張表現)である。

 

 古来、人間は野獣と戦って己の強さを誇示したものである。ゴッドハンド大山倍達は「牛殺し」の異名で知られ、極真空手のウィリー・ウィリアムスも熊殺しを名乗った。戦国武将の加藤清正も虎を殺したというエピソードがある。

 

「でも松島トモ子は格闘家や武将じゃないよね?」

 

 と細かいことをいう人がいるかもしれない。今では誰も振り返らないが、松島トモ子さんは戦後の芸能界に燦然と輝く大スタアなのだ。ポジション的には美空ひばり石原裕次郎高倉健らに匹敵している。大スタアだからこそライオンやヒョウを相手に回したのだ(別に戦ったわけじゃないけど・・・)

 

 映画『松島トモ子 サメ遊戯』はそんな松島の70年ぶりの主演作。主演といってもまもなく傘寿を迎える大女優・松島に激しいアクションを求めるのは難しい。そこで河崎監督は劇中で松島は異空間アンバランス・ゾーンに飲み込まれ、そこでは松島は若返る・・・と言う設定に。通称ヤングトモ子がサメと戦うのだ(ヤングトモ子を演じるのは『ウルトラマンR/B』『仮面ライダーガッチャード』『忍者戦隊カクレンジャー第三部・中年奮闘編』の木下彩音)。

 

 そう、これは制作中にブルース・リーが亡くなったので、大半は別の役者を吹き替えにして撮影された『ブルース・リー 死亡遊戯』のパロディなのだ。『死亡遊戯』では塔を登って階ごとにいる格闘家と対決するが、こちらもサイコロを振って移動した先(現案がモノポリーのサメ版『サメポリー』なので)で様々な人物と遭い、全く役に立たない助言を受けながら数々のサメと戦う。サメのスーツは頭部だけを交換して数がいるように見せかけているが、一体だけである。

 

 ヤングトモ子はこのアンバランス・ゾーンを脱出しようとして延々とサイコロを振らされ、あちこち移動しながらサメに追い回される。アンバランス・ゾーンの移動中にトモ子は自身の芸能人生を振り返る。関連性があるんだかないんだかわからない人々が出ては消え、脈絡のないギャグを繰り返し、死んでゆく。特に最高なのは完全に尺稼ぎに使われているぐんぴぃの逃亡シーン。まるで『ゼイリブ』のロディ・パイパーとキース・デイヴィッドの「サングラスかけろ」「やなこった」シーン並みに長い!人気声優・戸松遥の出演時間より長い!(普通逆だろ!)それでもこの映画71分というコンパクト設計なのだった。

 

 円谷プロの『恐怖劇場アンバランス』ばりの不条理ミステリーの応酬に観客は煙に巻かれっぱなしだが、監督曰く

「『地下鉄のザジ』を参考にした」

 とのこと。

 

 1960年のルイ・マル監督作『地下鉄のザジ』は10歳のおてんば娘、ザジ(カトリーヌ・ドモンジョ)が生まれて初めてやってきたパリの街をさまよい、あらゆる変人たちに追い回され、ドタバタを繰り広げるスラップスティック・コメディ。フランスの映画運動、ヌーヴェル・バーグを代表する一本で意味があるだかないんだかわからない、脈絡のないギャグとドタバタの繰り返しというコンセプトは『松島トモ子 サメ遊戯』と似てなくもない(まさか)。

 これは日本のヌーヴェル・バーグだったんだ!

 

 サメと果てしない戦いの果てにトモ子は疲れ果て、すべてを終わらせたいと願う。まるで『地下鉄のザジ』で地下鉄に乗れなかったザジが「もう疲れちゃった」とあきらめてしまうように(本当は乗っていたけれど眠っていて気付かなかった)。だがトモ子は最後の力を振り絞ってサメに抗う。芸能人生を振り返り、ライオン、ヒョウ、サメにも襲われたけど、いい人生だったわ、と。

 

 松島トモ子と言うタレントの人生の全肯定であり、最大の賛辞であろう(映画自体は大惨事だって?やかましいよ!)

『松島トモ子 サメ遊戯』とは、もはや遠い過去になってしまった昭和の大スタアの功績を改めて評価しようという壮大な試みでる。河崎実監督でなければ不可能な仕事だ。単なるバカ映画とは一味違うのだ。永野希が歌う主題歌『おんな鮫追節』も必聴!(音源化希望)

 

 あと、ジョシュ・バーネットとサメが水場で格闘するシーンは例のプールなのはすぐ気づくんだけど、

バーネットがアリキックをお見舞いする異種格闘技戦のところや、アンバランス・ゾーンを撮っているスタジオは他のAVでも観たことある場所に似てる。

 これぞサメと生死をかけた戦いということか。

 

 

 

 

 

ほぼリアルタイムの香港ノワール『ブレイキング・ニュース』

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』のヒットで久々に活気づいている香港映画。1970年代のゴールデン・ハーベスト全盛期や90年代半ばまでの絶好調の時代は過去に消え去り、今や中国資本が投下された新しい時代の中国・香港合作映画の時代となり、『トワイライト~』には70~90年代の懐かしい香港映画の匂いを感じ取った。

 そんな絶好調の90年代から陰りが見えてきた2000年代を駆け抜けてきた監督がジョニー・トーで、実は『トワイライト・ウォリアーズ』は当初、ジョニー・トーとジョン・ウーが共同で監督するというプロジェクトだったなつかしの香港映画を代表する二人のタッグも見てみたかった気がする。

 

 ハトが飛んでコートが翻り、二丁拳銃をぶっ放すイメージが強いウーに比べ、トーはアクションから香港ノワール、ラブロマンス、コメディ、キョンシー(笑)と幅が広い職人である。しかも多作で、年に何本も撮ってしまうパワフルさを持っているのが香港映画人らしい。

 トー監督が2004年に発表した『ブレイキング・ニュース』(原題・大事件)はトーの持ち味が存分に出まくっている快作。

 

 5人の男が銀行を襲う強盗計画をアパートの一室で練っており、今まさに出かけようとしている。ところが彼らの行動は警察に筒抜けで、アパートの前ではチョン警部(『ゴッド・ギャンブラー』シリーズでおなじみのニック・チョン)率いる刑事捜査課のメンバーが見張っている。

 そうとは知らず車に乗り込もうとする犯人グループは事情を知らず偶然通りがかった警察官に呼び止められ、意図しない銃撃戦が勃発する。

 駆け付けた救急車両を乗っ取り、市街に飛び出した犯人を追って刑事捜査課は走り出し、通行人でごった返す市街で再び銃撃戦となる。

 

 この銃撃戦は7分間の1カットで展開し、道路の銃撃戦を映したと思えば、階上から連射する強盗団をクレーンカメラの視点で捉える。救急車で逃亡する犯人を走って追いかける警察を息もつかせぬカメラワークで一気に見せる。

 

 犯人のひとりは死んだものの、残りの4人の逃亡を許してしまい、さらに居合わせたTVクルーが犯人に銃口を向けられ命乞いをする姿がスクープ映像として報じられてしまう。

 

 警察の威信は地に落ち、緊急対策本部の席上で新任の警部補レベッカ(日本の映画やテレビドラマに一時期出まくっていたケリー・チャン)がマスコミによって貶められたものはマスコミを使って取り戻すべきとし、犯人を逮捕する瞬間をマスコミを使って報道しようとする。

 こうして強盗団の一件はレベッカが指揮する組織犯罪課に移るが、チョン警部らは独自で強盗団を追い続け、4人が潜んでいるマンションにたどり着く。そのころ強盗団は今こそ逆にチャンスだとして現金輸送車を強奪する行動に出るが、またもやマンションの入り口で捜査課と鉢合わせになる。

 強盗団は手榴弾や爆弾を使って抵抗し、遅れて到着したPTU(武装した機動隊)らもやってきて大混乱に陥るマンションの騒動はレベッカが手配したTVクルーによって逐一報道される。

 強盗団のリーダー、ユアン(『トワイライト・ウォリアーズ』にも出てたリッチー・レン)は8階で二人の子供と住む父親イップの部屋に部下と一緒に立てこもる。

 そのマンションには偶然、今回の事件と一切無関係の殺し屋チュン(ユウ・ヨン)と手下が潜んでおり、逃げそこなった二人はこれまた偶然にユアンが隠れているイップの部屋に逃げ込んでしまう。なりゆきで手を組むことにしたユアンとチュン。正体不明の二人が強盗団に加わったことを誰も知らないままことは進む。

 ユアンはイップの息子のパソコンを利用して警察がマスコミに公開しなかった爆弾の炸裂場面をネットにアップロードするなどして、警察を情報戦で翻弄しようとする。

 レベッカ、チョン警部、そして強盗団+殺し屋たち、TVを利用したショーを制するのはどちらか?

 

 

 冒頭のみならず、ワンカットの銃撃戦が何度か出てきてインパクト大の銃撃戦も見物だが、ジョニー・トーらしい遊びの場面も出てくる。

 イップの部屋に潜んだユアンらは「腹が減った」と食事を作らせようとするのだが、父親であるイップは全く料理が出来ず(小学生の子供たちが食事をつくっていた)、仕方ないのでユアンと殺し屋チュンが料理をつくりだす!チュンなんか強面なのにエプロンまでしっかり巻いちゃう。その時に

 

チュン「食べるのが好きで稼いだ金は食費に消える」

ユアン「自分の店を持ちたい。本気だぞ」

チュン「俺もだ」

 

 なんて会話までかわす!強盗団のリーダーと殺し屋のする会話ではない。しかもイップら家族を含めて仲良くメシを食らうシーンをネットにアップすると、レベッカも対抗してマンションを包囲する警官隊とマスコミに食事を配る!叉焼に鶏足、卵、リンゴ

「警察では過去最高の豪華弁当との噂です」

 とマスコミに余計なこと言われてるけど。

 

 ここまで強盗団や殺し屋のバックボーンなどは一切描かれず状況だけを一気呵成に描いていくのでここでようやく犯人たちも普通の人間であることが示される。

 普通の映画なら犯人やそれを追う警察官がどういう人間かを描いていくのに、『ブレイキング・ニュース』はそれらを省いてスピーディーに展開するので息つく暇もない。それを料理、食事のシーンで描いてしまうというは驚きしかない。

 

 出会ったばかりの強盗団と殺し屋が刹那の友情を交わすシーンは香港ノワールらしい「男の友情」物語で、クライマックスにお互いの目的を交換するところはヘタなBLより男らしい!

 それに引き換え、父親のイップは子供を見捨てて自分だけ逃げようとしたり、情けないことこの上ない!演じているのがジョニー・トー作品の常連ラム・シューってのが驚き!いつもは冷静沈着な指揮官とか寡黙なマフィア役とかなのに。

 

 91分のほぼリアルタイムで展開する犯罪アクション、ワンカット銃撃戦、男の友情、エプロン、叉焼!これが香港ノワールだ!

 

 

 

 

 

 

これが千恵蔵の”タメ”だ!『荒獅子判官』

竹内義和先生の影響で片岡千恵蔵の『多羅尾伴内』シリーズを見、『いれずみ判官』シリーズもいいぞ、というのでそちらも見ることに。『いれずみ判官』とはいわゆる『遠山の金さん』シリーズのことだ。

昭和25年(1950)に『いれずみ判官 桜花乱舞の巻』『いれずみ判官 落花対決の巻』の前後編として公開。千恵蔵は剣劇スタア、時代劇スタアとしてその名を轟かせていたが、敗戦の折り、GHQによってチャンバラ映画の制作は中止され、千恵蔵も現代劇に活躍の場を映していた。それでも『多羅尾伴内』シリーズでヒットを飛ばし、『金田一耕助』シリーズや『にっぽんGメン』シリーズなどヒット作を連発するあたりはさすがスタアである。

 そんな千恵蔵が本格的に時代劇に軸を戻したのが『いれずみ判官』シリーズだ。東映の前身のひとつである東横映画で制作、東映に合併吸収された後も延々と作られ、最終的に18作ものドル箱シリーズとなった。今回ご紹介する『荒獅子判官』は第9作目。

 

 大塩平八郎は生きていた、と言うサブプロットを転がしたストーリー。失政の責任をとらされた木戸但馬守、美濃部筑前守、田口加賀守は老中水野によって職を追われる。

 老中の失墜を狙う北町奉行大草能登守(一心太助シリーズに出てくる進藤英太郎)は職を追われた3人と組むことに。大草は「大塩事件」で幕府に恨みを持つ大塩平八郎の義弟、大町新之助を使い武器の抜け買い(幕府の規則を破って違法な取引をすること)で私服を肥やしていた。3人はその武器を使って討幕を目論む。

 大塩平八郎を処刑した大目付跡部山城守の元には抜け買いの密告がもたらされ、跡部は甥っ子の遠山金四郎(片岡千恵蔵)に調査を依頼。金四郎は両国の盛り場が怪しいと睨み、見世物小屋のおらんだ屋を目をつける。

 木戸ら3人はからくり人形の指に引き金を仕込んで老中水野暗殺を目論み、将軍家慶らが姿を見せる久能山参詣の日までにからくり人形5体を作るよう、人形師の目吉に依頼(もちろん目的は伏せた上で)。しかし目吉の家の二階に怪しげな男(金四郎のこと)が住み込み、企みが漏れてしまうことを恐れた3人は目吉と娘のお景を攫いおらんだ屋の地下室に監禁。

 

 目吉は人形が悪事に使われることを悟り、制作中の人形を破壊。おらんだ屋に金四郎が目をつけたことを知ると証拠隠滅のため、目吉親子ともども地下室を爆破しようとする。あくまで跡部への復讐だけを考えていた新之助は大草、木戸らの目的が老中水野打倒、討幕にあると知って縁を切り、目吉親子を救い金四郎と和解するのだった。

 大草らは新之助にすべての罪を擦り付けようとし、北町奉行所のお白洲で一方的な裁きを下す。そこに新たに北町奉行として任命された金四郎こと遠山左衛門尉景本元は大草らの陰謀を白日の下に晒すのだった。

 

 お白洲で桜吹雪を見せるお約束の場面なんだけど『荒獅子判官』では直前に北町奉行に任命される際、将軍家慶からいれずみに苦言を呈されながらも不問とし、「奉行となったものが見だりに肌を晒してはならん」と釘を刺される。

 大草らは現場に金さんと名乗る男がいたことを証拠に出され、「そんなものがいたというなら、ぜひここに呼んできてもらいましょう」と悪あがきを見せるいつもの場面だ。

 遠山は将軍に釘を刺されたことを思いだし、躊躇する。だが意を決し「下がれ下がれ!」と悪党を下に蹴落とし、桜吹雪をご披露!このタメのシーンが効いていて、いよっ名場面!と囃し立てたくなる。

 

 これにて一件、めでたく落着!

 

 

 

これが世界の縮図です『教皇選挙』

 ローマ教皇が心臓発作で亡くなり、バチカンは次代の教皇を選出するコンクラーヴェ(教皇選挙)を行うこととなり、主席枢機卿の英国人トマス・ローレンス(レイフ・ファインズ)の指導の下、108名の枢機卿が世界中からバチカンに集められる。

 彼らの投票により候補者の誰かが過半数を得ない限り投票は延々と続く。外部の圧力などにさらされないようスマートフォンなどは没収され、隔離された屋内で新教皇が選出されるまで出られない。コンクラーヴェはラテン語で「鍵のかかった部屋」密室のこと。

 

 第97回アカデミー賞で脚色賞を受賞したイギリス映画『教皇選挙』はバチカンの元首であるローマ教皇を選出するコンクラーヴェを密室サスペンスに準えたミステリー劇でもある。セットでつくられたシスティーナ礼拝堂が映画の舞台ほぼすべてで部屋からほとんど出ない!出てくる登場人物もほとんど爺なので地味なことこの上ないが画面作りはリッチかつゴージャスでオールド映画ファンが痺れる雰囲気を醸し出す。

 

 有力な候補者は4名。リベラルの米国人アルド・ベリーニ(スタンリー・トゥッチ)、カナダ出身の穏健保守派ジョセフ・トレンブレ(ジョン・リスゴー)、頑固一徹の伝統主義を貫く保守派イタリア人ゴッフレド・テデスコ(セルジオ・カステリット)、もし選ばれれば初のアフリカ系教皇となるナイジェリア人アディエミ(ルシアン・ムサマティ)。

 リベラル傾向のあった先代の教皇を信奉していたローレンスは保守派の新教皇にして以前の時代に逆戻りするのを避けたいが、愛する人(前教皇)を亡くしたショックから立ち直れず、気もそぞろ。

 

 そんな彼に追い打ちをかけるようにイレギュラーが舞い込む。直前になり前教皇に任命されたばかりのアフガニスタン・カブール教区のメキシコ人ヴィンセント・ベニテス(カルロス・ディエス)が枢機卿団に加わり、ウォズニアック大司教(ジャセック・コーマン)からトレンブレが前教皇によって辞任を迫られていたと告げられる。ベリーニはテデスコのような伝統主義者が教皇になればバチカンの改革は遅れると支持者にアピール、またアディエミも初のアフリカ系教皇への野心を隠さない。

 

 強大な権力を手に入れることとなるコンクラーヴェは一筋縄ではいかない。あちらこちらで票のまとめあい、候補者同士の足の引っ張りあいが行われる。清廉潔白な候補者など誰もいないのである。

 アディエミはかつて未成年のシスターと不適切な関係を持って私生児を産ませていたことが判明。ローレンスの追求に

「確かにひどいことをしたけれどわたしは立ち直りました。なのに30年も前のことを蒸し返されるのか?」

 とキャンセルカルチャーみたいなこと言ったために追放キャンペーンを張られ脱落。ローレンスはアディエミを追い落とす企みをトレンブレが計画していたのではないかと捜査を始め、封印された前教皇の部屋に隠されたダイイングメッセージを入手。シスターアグネス(イザベラ・ロッセリーニ!)の協力でトレンブレの排除に成功。

 しかしコンクラーヴェは混迷を極める一方。新教皇が決まらなければバチカンが混乱していることを世界中に知らしめるだけ。6回目の投票の最中、大事件が勃発する。

 

 

 混迷する政争、人種問題、保守派とリベラルの対立。破壊と暴力による分断。『教皇選挙』は単にバチカンの中だけの話ではない(現在のバチカンも保守とリベラルが対立していて崩壊寸前)。世界の縮図なのだ。

 

 なんでこれがアカデミー作品賞取れなかったのか。きっと映画の展開があまりに劇的、強引すぎるからだろう。次々と明らかにされる真相がジェットコースターのようにめぐり、クライマックスの大オチはほとんどやりすぎのレベルに達する。大映ドラマも真っ青。だからこそ脚色賞が取れたのではないかと。これがホントの強行選挙か。

 

 

 

お化けは弱肉強食のサバイバル『鬼才の道』

 台湾のアカデミー賞にあたる金馬奨(ゴールデンホースアワード)5部門制覇、2024年の台湾興行ランキング3位というヒット作『鬼才の道Dead Talents Societyがネットフリックスで配信中。大阪アジアン映画祭2025で日本初公開されていたが見逃したので助かった。

 ポスターからしてホラー色を感じさせるが、むしろコメディの方に振り切った作風だ。

 

 

 死んだ人間は幽霊となって生者を怖がらせる労働を強要される(!)。どれだけ怖がらせたかに応じて冥銭が幽霊協会(何それ)から渡される。稼げる者は富み、そうでないものは貧しい生活(死んでるのに)を余儀なくされる。生者の間に語り継がれる「怪談」にまで至ったものは協会が主催するアカデミー賞みたいなゴールデン・ゴースト・アワードで表彰される名誉に授かる。

 名女霊賞8年連続受賞の大スター、キャサリンはホテルの414号室を根城にし宿泊客を必殺のスパイダー・ウォークで恐怖させ、「ホテル414号室の幽霊女」として生者たちの間で有名な怪談として語り継がれている・・・

 

 のだが、インターネットの動画を駆使してバズりに成功し、海外にまで名を轟かす新人女霊のジェシカにスターの地位を奪われてしまう。自分の後輩だったジェシカは独立し飛ぶ鳥を落とす勢い。キャサリンは「あの霊は今」状態に追い込まれる。

 死んでも尚弱肉強食、競争社会が待っているのだからこんなに恐ろしい話はない。

 

 そんな世界に新人がやってくる。名前はなくルーキーと呼ばれる。彼女は度のキツイメガネをかけ地味で冴えないことこの上ない。幽霊協会の発行する免許(これがないと生者にその姿は見えない)もないので公園のトイレに居座ろうにも立ち入り禁止を宣言されてしまう。ルーキーを気遣ってくれるのは親友霊のカミラだけだ。

 生きていた時の自宅に戻ったルーキーは父親が飾っていたピアノコンテストの努力賞の賞状が手違いで捨てられてしまったことを知る。生前の自分にとって一番大切なものが失われれば現世とのつながりが絶たれてしまい、このままではルーキーは30日後に消滅する。消えたくない一心で新人幽霊をスカウトする死者才能協会のオーディションを受けることにしたが地味で取柄もないルーキーのパフォーマンスはひどすぎて失笑を買う。ところがいかにも胡散臭そうなエージェントのマコトに拾われたルーキーとカミラは事務所であるホテルへ。そこはかつての大スター、キャサリンのいるホテルだった。

 

「あの霊は今」なキャサリンと技術スタッフのコウジ(温和な顔つきなので怖がらせることもできない)しかいない落ち目事務所でルーキーは悪戦苦闘するがまったく目が出ず、キャサリンからも冷たい扱いを受けてしまう。

「自分には才能なんかない。ただの落ちこぼれだ」

  と落ち込む一方のルーキー。消えるまであと数日となった時にホテルにやってきたカップルをマコト以下全員総出でビビらせまくり、最後に逃げ出そうとするカップルの前にホテルの屋上からルーキーが飛び降りてくるという大仕掛けは失敗するのだが、ホテルのネオンサインに突き刺さったルーキーが電飾ショートを起こしてしまう瞬間をカップルがビデオに収めたことで動画はネットに拡散。初の大バズりを経験したルーキーは無事免許を獲得し、キャサリンも再び人気幽霊に返り咲く。

 

 こうして再び注目の心霊スポットとなったホテルに人気Youtuber3人が喧嘩をふっかける。

「幽霊なんかいるわけないだろ。俺たちがデタラメを暴いてやるぜ!」

これは幽霊に対する挑戦・冒涜だ!協会長が挑戦者を募り、ホテルを根城にするキャサリン・ルーキーたちとジェシカの一派が「どちらが連中をより怖がらせられるか?」を競うことに。果たして勝者は!?

 

 

現実の社会、芸能界さながらに生き残り競争を強いられる幽霊たちの姿、死んでも辛い世界が待っているなんて嫌だなあ。おばけにゃ学校も試験も何にもないんじゃなかったのか。

 

 ルーキー役を演じるのは台湾で人気上昇中の若手女優、ワン・ジン『返校 言葉が消えた日』『赤い糸 輪廻のひみつ』でフレッシュかつキュートな魅力を振りまいていたが、今回は本当に地味~で冴えない雰囲気を漂わせていて、彼女目当てで観たら凄まじい変身ぶりに驚かされる。生前のルーキーは優等生の姉に何もしてもかなわず、劣等感に苛まれ幽霊になってもダメなまんまというキャラが観客の感情移入を誘う。

 落ち目のエージェント役、マコトを演じるのは日本の映画『シュガー&スパイス 風味絶佳』『暗いところで待ち合わせ』などに出ているチェン・ボーリン。美男子スターなのに胡散臭い雰囲気のギャップがたまらない。元売れないポップアイドルだったという役どころで唯一の作品であるMVの腰砕けなダサさがなんともいえない。

 

 才能のあるなしですべてが決められがちな世界で才能なんかに左右されるな、あるがままに生きればいいと説く本作は身に染みた。こんな世の中なら死んでもいいかもしれないと思えるのは『赤い糸 輪廻の秘密」と相通じているようで台湾オカルト映画は見逃せないな。