ファッションの多様性に寛容なパリという街 | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
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 ファッションと言えばどこの街を思い起こすかという質問に対して、多くの人はヨーロッパ、特にパリを思い起こすのではないでしょうか。僕自身ファッションの中心は残念ながら東京でもミラノでもなくパリだと思っていますが、フランス(パリ)がファッションの中心と言われている理由の一つとして、パリは多様性に寛容で(特に文化面,ファッション面では)、人種や国籍などにとらわれる事無く受け入れられる空気があるという事があると僕は考えます(差別が無いということではありませんが)。残念ながら僕はパリには短期でしばしば出かける事はあっても長期で生活をしたことはありませんのであくまで自分の受けた印象と色々な人からの話から推定してしか書けませんが、例えばパリコレクションの参加ブランドを見てみると、日本勢をはじめアジア諸国からやフランスだけでなく世界各地からそれはたくさんの国のデザイナーが参加しています。ヨーロッパにはミラノやロンドンなどの大都市があるのにもかかわらずです。もちろんフランス人自身がファッションの歴史の変遷を知り、先人達の奮闘や功績などを学び、それらを自分達の文化として誇りを持っているということが間違いなく前提にあるでしょうし、それがゆえに自分達の文化を尊重、発展してくれる人はどこの人間であろうとこちら側からも尊重するという姿勢の現れなのだと思うのです。


 ファッションの多様性に対する寛容さとは少し違いますが、生活においても実際パリの地下鉄等に乗ったりすると実感する事が一つあります。ミラノではこちらがミラノに来てもう6年経とうが10年経とうがいつまでたっても自分がアジア人ということで、周りからのうっとうしい視線を常に感じますが、パリではその視線の数が圧倒的に少ないことです(この意味だけで言うとロンドンも少ないと思います)。移民を多数受け入れている国ですし、超観光都市でもあるのでヨーロッパ人以外の外人がたくさんいるのでもう見慣れているというのが実情かもしれません。しかし産まれたときからそういった環境で育ち、ある意味でそういった多様性に免疫が出来ているという事は、他国のモノや文化を受け入れる時に少なからず影響しているのではないでしょうか。外のモノだろうが何だろうが良い物はいい、悪い物ならば悪いという公平な視線が自然と出来上がっている様に思うのです。ファッションに関しては文化としての誇りがある分、単なる“慣れ”で語れるものではありませんが、日本が誇るデザイナーのYOHJI YAMAMOTO山本耀司さんやCOMME des GARÇONS川久保玲さん等の新しい日本人の洋服が登場した時にはボロルックだの原爆ルックだのさんざん議論されてにもかかわらず、結果的に認められたのもパリですし、その影響は今でも間違いなく受け継がれてパリコレクションには本当に様々なスタイルのデザイナーの作品を見る事ができます。昨今はイタリアのブランドでも敢えてパリに発表の場を選ぶこともしばしばです(VALENTINO, MIUMIUなど)。それだけ色々な国籍の様々なスタイルが一同に会する場所ですので、当然の事ながら買い付けにくるバイヤーさんや雑誌等のジャーナリストも他の都市の比ではありません。誇りを持つ余裕から外からの流入を容認することで、さらにその地位をより確固たるものにする。素晴らしい、僕たちも見習う所がある様な気がします。


 話は以前のフリーランスパタンナー北村悦子さんの記事に戻りますが<フリーランスパタンナー北村悦子さんの参照記事:技術と感性の逆輸入?>、そんなパリで日本人である垣田幸男先生のオートクチュール講義がパリエスモードの先生方の前で披露されたということはある意味不思議な事ではないのかもしれません。すなわち、優れた技術、すぐれた人材に国籍は関係ない、むしろ自分たちの文化を尊重してくれてありがとう、という感謝の意も表されているのでしょうし、またこれは上記でも述べた様にパリが世界のファッションの中心なのだという自負があるからこそだという点は非常に重要だと考えます。実際にフランスでは「芸術・文学の領域での創造、もしくはこれらのフランスや世界での普及に傑出した功績のあった人物」に対して国籍を問わず与えられる賞、芸術文化勲章(L'Ordre des Arts et des Lettres)があるのです。自分達の文化を誇りに思い、だからこそそれを尊重してくれる人には国籍を問わず敬意を表すということ。もちろん国の成り立ちや、歴史、国を構成する人種の多様性など日本と単純に比較する事は出来ませんが、日本にある問題を解決する際のヒントになるかもしれません。


 例えば今の日本には伝統技術や伝統文化の分野等で若い人が後を継ぎたがらずに継承が危ぶまれているという現状があります。一番良いのはこの状況を興味を持った外国人に伝授するよりも我々自身の手で打開する事にありますが、それはまさに上で述べた様に日本人自身が自分達の伝統文化、技術に対して誇りを持たない限りは解決できないと思うのです。 つまりは、我々の先人達が歴史の上でが脈々と築いて来た文化にみんなが誇りを持つ様な環境を築き上げることが大事だと思います。先ほどの伝統工芸などにしても、僕も含めですが日本に生まれ育ったのにも関わらずそれらの事を良く知らないということがあります。これは個人個人の視野の狭さというよりも、教育や環境づくりにも問題があると思わざるを得ないのです。今まで幾度か書いて来ましたが、海外に対して日本の文化などを積極的に発信する事もおおいに結構ですが、何よりもまず日本人が日本人自身に対して積極的に語る姿勢を取るべきだと思うのです。本当の意味で日本人がそれらの文化・技術に対して誇りを持つ様になった時、海外から学びにくる人々に感謝と敬意が自然とこみ上げてくるでしょうし、そこで初めて世界に通用する文化へと昇華するのではないでしょうか。


 そう考えていくと、我々日本はファッションでいくら頑張ってもフランス(パリ)には勝てないのか、という点にたどり着きます。そこは次回に考えようと思います。





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