オーダーメイド(オートクチュール)と既製服(プレタポルテ)の違い (後編) | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

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 前回に既製服(プレタポルテ)とオーダーメイド(オートクチュールとも)の違いについて書き始めました。 オーダーメイドの就労経験の無い僕の個人的な見解ではありますが既製服とオーダーメイドの違いについて簡単に書こうと思います。


<参照:オーダーメイド(オートクチュール)と既製服(プレタポルテ)の違い (前編)


 まずは既製服ですが、既製服は大量生産を前提にしているため、何層にも重ねられた生地を一気に裁断するための型が必要になります。この裁断のための型を持った紙を型紙(パターン)と呼んでおり、この形を作る人をパタンナー(パターンカッターとも)と呼んでいます。洋服には縫い目があり、縫い目を全てほどくといくつかの平らなパーツに分かれますが、この一つ一つの型紙を裁断のために用意しなければなりません。これらの型紙さえ保存しておけば後日また追加発注があってもまたすぐに裁断ができるので、量産には必要不可欠な物なのです。そしてその裁断されたたくさんのパーツを指示通りに縫製し、縫い目をアイロンで整えて洋服が出来上がります。


 一方オーダーメイドの場合を考えてみると、オーダーメイドには需要の多さからスーツが良く知られていると思いますが、それ以外にもドレス等の柔らかい生地などのオーダーメイド専門など、アイテムによって分野が分かれていますし、それぞれの職人さんで作り方に差異はあるでしょうが、裁断の際に型紙(パターン)を使用していたとしても、そのまま縫って終わり、にはなりません。なぜならオーダーメイドの場合は大量生産は前提では無いので、お客一人一人の寸法に合わせて制作するため、型紙(パターン)を保存する事にあまり意味がありません。同じデザインを色々な人にそれぞれの寸法に合わせて提供する場合は次の人の制作時の参照にするために保存する意味はあるでしょう。ですのでほとんどデザインが変わる事が無いオーダーメイドスーツの場合はパターンオーダーなどと言われる様に、その人の寸法から一番近い型紙を選び出して作ったりするなどの型紙(パターン)の利用方法もあるわけです。

 
 オーダーメイドのドレス等の場合(パリのオートクチュールなど)はお客の寸法に合わせて布やパッドなどで調整したマネキンに、最終的に商品として使われる高級な生地を巻いて直接裁断するという失敗が許されない高い技術が要される行程で作られます(生地によって布の落ち感などの振る舞いが全く違うし、結局量産ではなく客一人一人にあわせて作らないといけないため型紙を作る意味が無い)。ですのでオーダーメイドの職人はパタンナー的な技術や知識と縫製の技術と知識を両方持ち合わせていなければなりませんので、職として成り立たせるためには相当な時間が必要になる訳です。いずれにせよ、型紙(パターン)は存在する必要がなかったり、もしくはあっても参考程度で、本人に着てもらって直接確認が必要な箇所は少し大きめに裁断して仮縫いをし(修正が必要かどうかのフィッティング)、職人の眼と手の感覚で微調整を行い(人の体は左右で異なるので、片身だけの修正等も行ったりします)手作業を使いながら縫い上げていくわけです。手で縫う場合は手加減一つで縫い目を縮めたり伸ばしたりして微妙な立体感を付ける事もできるわけです。そしてなによりも決定的に既製服と異なるのはアイロン過程です。アイロンはシワを伸ばすという役割だけではなく、平面の布を立体に化けさせるためにも活用されます。これらの話は以前に写真付きで紹介したので是非参照して下さい。

<参照:洋服ができるまで (前編:テキスタイル、副資材とデザイナー)

<参照:洋服ができるまで (中編:パタンナーと縫製過程)

<参照:洋服ができるまで (後編:アイロン仕上げとサイズ展開)


 職人が必要だと感じた部分に丁寧に立体化を施し、その結果既製服では表現できない洋服全体の立体感が表面に現れます。ここがオーダーメイドの素晴らしい所であり、この仕上がりは完全に職人の技術と眼次第なのですのです。つまり、もともと平面だった布が立体に化けるということは、裁断する時に使用する平面の型紙はもはやその原型をとどめていないという事にもなりますので、型紙がシルエットを決めてはいないとも言えるのです(もちろん既製服でもアイロン操作は適宜行いますが、オーダーメイドの比ではありません)。


 ということは、既製服とオーダーメイドの違いは平面である布を如何に立体化するかの程度の違いとも言えると思いますし、そもそも洋服が布で出来ている理由を考えれば、元は平面でありながら重力や張力によってその形をある程度柔軟に変形できる所にある訳ですから、より立体的な仕上がりを求めるオーダーメイド・オートクチュールが世間一般的に高級なラインと位置づけられるのもうなずけます。既製服は型紙を使用して裁断された布の形そのものが比較的直接シルエットに影響してくる作り方ですので、僕は既製服の方が型紙の可能性をより注意深く追求しなければならないと思いますし、それが自分の性格にはあっているのかなと今の所は思っています。このようにオーダーメイドと既製服では洋服を作るという目的は一緒でも、アプローチが全く違います。


 少し長いウンチクで話がそれましたが、ここで言い表しきれていない、僕も知らないたくさんの技術が他にもオーダーメイドの職人の世界にはあるのでしょうが、こういった過程を経て垣田幸男先生などの職人さんは洋服を仕立て、しかもその仕上がりが時代にあった美しいシルエットであるという点が本当の意味でのオートクチュール(高級仕立て服)の存在価値だと思うのです。北村さんの文中にもある様に、残念ながらこういった技術をこれだけ大量生産(既製服、プレタポルテ)が主流になった今、引き続き採用している会社はもう少ないようです。本場フランスの大きな有名メゾンでもプレタポルテラインとオートクチュールラインに分かれていたり、プレタポルテラインのみだったりと、オートクチュールは徐々に下火になって来ているようです。そんな時代にあって垣田幸男先生の技術は本家フランスにとっても貴重なものになっているのだと思います。


 このような現状もあるのですが、それでもフランス人が自分達の先祖が編み出してきたにも関わらず失われつつある技術を学ぶために、外国人である日本の技術者を引っ張ってきて講義をお願いするということはやはり並々ならぬ事だと僕は思います。北村さんの記事を読んだ時に僕はフランスの多様性に対する寛容さというものを改めて感じたのです。次回はこれについて書こうと思います。




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