『技術と感性の逆輸入?』 | 伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

伝統技術を現代のライフスタイルに合わせて発信するプロジェクト  ”ARLNATA” アルルナータ ディレクターの独り言

約11年に渡るヨーロッパの様々なステージのラグジュアリーブランドを経て日本に帰国し、衰退産業とも言われている日本の伝統技術を今の形で発信するためのプロジェクト”ARLNATA”アルルナータを主催しているディレクターの独り言です。
https://arlnata.com/index.html


<今回の記事はフリーランスパタンナーの北村悦子さんに書いていただきました>


9月初旬、先日パリで行われたあるセミナーの報告会に参加してきました。
セミナーの講師は自身でオートクチュールのアトリエを営む傍らエスモードジャポンの現役講師でもある垣田幸男氏です。
(その時の様子はこちらをご参照ください。ハトホルホームページ内楽しくすごそう'14秋 「垣田先生を囲む会」 Report by Hiroko Yano
因みにエスモードジャポンとは、170年前にパリに創設された世界最古のファッション専門教育機関の日本校です。

垣田氏は1970~80年代にパリの有名メゾン(Christian Dior他)でオートクチュール技術を習得し、今も現役で高い技術を持つ希少な日本人の一人です。
それだけでなく、垣田氏の作る服はとてもシルエットが美しいのです。
日本人にも熟練の技術者はたくさんいますが、必ずしも「高い技術力=美しく格好良い服を作る」であるとは限りません。
これは氏が美的センスというものを大切に考え、絶えず美しいものを見て感性を磨き続けているからこそ成し得る技なのです。
普段は日本で一般の学生にその技術を教えている氏ですが、今回エスモードパリ校に招かれ世界各国(世界14カ国に21校)の講師陣を受講生としてセミナーを行いました。
つまり先生達の先生です。
内容はジャケットを本格的にオートクチュール仕立てで作り上げるという実践の技術セミナーです。
今回の『垣田氏を囲む会』なる報告会ではご本人自らその時の様子を色々お話くださいました。
その中のエピソードで驚いたのは世界の講師陣が誰も本格的なクチュール技術を学んだ経験が無いということでした。
本場のパリ校ですらです!
講師たちの話では現在こういう本格的な仕立ては高級老舗メゾンくらいでしか行われておらず、習う機会もなかったのだそう。
感情表現の豊かな人達なので講師のアイロンワークや巧みにミシンを操る姿を見る度に大歓声が沸き起こったそうです。

パリで行われたそんな貴重な技術セミナーですが、実は私を含む何人もの日本人が垣田氏の手ほどきを既に受けているのです。
もちろん少し習ったくらいで到底身につくものではありませんが、エスモード講師陣よりも10年以上前から日本では既にこの技術を学んできているのです。
垣田氏はこの技術をパリで身に付けたのですからなんだか皮肉な話です。
「これって外国人に日本舞踊やお茶を習うようなものだよね」と言って皆で笑いました。
でも見方を変えればこれは素晴らしいことです。
ファッション発祥の地であることに誇りを持っているであろうパリの人々がお家芸をアジア人から学ぼうというのです。その素直な姿勢に感銘を受けました。
これが校長の方針だとすれば、実に柔軟で進歩的な考え方持った素晴らしい学校だと思いました。
またこの度垣田氏による著書「The Art of Tailoring」という技術書が出版されました。
日本より先にパリの書店には既に並んでいます。
セミナーだけではなく書籍でも技術を日本から本場パリに伝えているのです。
世界に影響を与えることが出来る日本人技術者が身近にいることをとても誇らしく思いました。

我々日本で働くパタンナー達もいつか世界中の同業者達と有意義な意見交換が出来る時が来るでしょうか?
万が一そんな機会が訪れたときに恥ずかしくない人間に成長していたいものです。



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