この国の精神 緊急 なぜ日本の感染者数は少ないのか | 秋 隆三のブログ

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昭和21年 坂口安吾は戦後荒廃のなかで「堕落論」を発表した。混沌とした世情に堕落を見、堕落から人が再生する様を予感した。現代人の思想、精神とは何か。これまで営々と築いてきた思想、精神を振り返りながら考える。

この国の精神 緊急 なぜ日本の感染者数は少ないのか

 

 

    行動自粛の効果によるものか、ウイルスの変異によるものか、原因はわからないが感染者数は減少している。欧米の感染者数の増加率も少なくなっているようだが、ロシア、ブラジルが増加傾向にある。

 

 とにもかくにも、日本の感染者数、死亡者数が欧米に比べて格段に低い。何故なのか。日本の奇跡とも呼ばれるが果たしてそうなのか。直近のニュースによれば、なぜ日本の感染者数が少ないかを究明するための国の研究班が発足したそうである。日本を礼賛する都合の良い根拠だけを挙げるような愚行にならなければ良いが。日本には、コロナウイルスの研究者は、僅かに畜産関係にいるだけで、ヒトコロナウイルスの研究者は誰もいないのだから、COVID-19ウイルスの専門家はゼロと言って良い。一方、中国と米国には、それなりに研究者がいるが、米国の研究者の大多数が中国人の研究者だというのも不思議ではある。

 

<日本の感染者数が異常に少ない謎に少し迫ってみよう>

 

日本の感染者数が少ないとされる仮説は下記のように整理される。

 

(1)日本人の衛生観念が優れているからという仮説

 

①日本の住宅は土足ではないから。

 住宅が土足ではない国は、日本、韓国、中東諸国である。しかし、中東のイラン・トルコの感染者数は極めて多いので、この仮説は妥当とは言いがたいが、それなりの感染率の低下には寄与している可能性は考えられる。

②手洗いの習慣があるから。

 外から家に帰ると手を洗う習慣があるというのは、ごく一部の家庭に限られているが、小学校の給食などでは習慣になっているので、それなりの効果はある。今回のCOVID-19では、国が手洗いを推奨してことで、かなり高い割合で習慣化したと考えられるが、ヒト-モノ-ヒトの感染率がどの程度なのかはほとんどわかっていないので、効果評価は難しいのが実態だろう。

③握手・ハグ・キスなどの習慣がないから

 感染防止効果としては、かなり効果があると考えられる。ヒトからヒトへの感染が最も危険であることから、日本人のソーシャル・ディスタンスはそれなりに保たれていると考えられる。そのため、感染ウイルス量が少ないため重症化しにくいと考えられる。

④マスクが習慣化しているから。

 冬期になると日本ではマスクをしているヒトを多く見るようになる。インフルエンザ対策として付けているヒトが多いと思われる。しかし、東京の人混みをみるとせいぜい30%程度ではないだろうか。ただ、風邪をひいたヒトが他人に感染させないためにマスクを付ける習慣は、日本人特有の習慣ではないだろうか。このことが、ヒトへの感染を防止している効果は高い。また、ナノフィルターマスクは、花粉症対策として10年ほど前から生産されるようになったことも大きく貢献している。インフルエンザの流行最盛期は2月上旬であり、この頃から東京では花粉症が出始める。首都圏を中心とするCOVID-19の感染予防効果として30%以上の効果があったと推定される。感染していないヒトのマスク効果は、ウイルスの曝露量であり重症化の予防効果だろう。

 

(2)BCGの接種効果ではないか。

 世界各国の単位人口当り感染者数の低い国とBCG接種とには相関があるという調査報告があり、BCGが感染予防に効果があるのではないかという仮説である。BCGというのは、弱毒化した牛結核菌を投与することで抗体が作られ、かつ免疫記憶されるという予防効果である。COVID-19に効果があるとすれば、免疫記憶された抗体によるものであるが結核菌とCOVID-19ウイルスでは天と地ほどの差があるので、抗体効果であるとは考えられない。ただし、免疫記憶機構もほとんどわかっていないため、全てを否定することもできない。免疫記憶における抗原認識と樹状細胞の関係等の解明はこれからの研究であるからだ。

 

(3)HCoV・SARSウイルスの感染による交差免疫の効果ではないか。

 科学誌Natureに掲載された論文によれば、SARS感染患者の免疫記憶B細胞から発見された抗体がCOVID-19ウイルスの感染を防ぐことが可能だという。まだ、実験室レベルであり、臨床応用には今後の研究が必要であるが、日本人がCOVID-19ウイルスに感染しにくく重症化しないのは抗体を持っているからではないかと考える研究者もいる。

 YouTubeデモクラシータイムズでCOVID-19について児玉氏(東大先端研)が、似たような仮説を展開している。児玉氏は、日常的に感染する4種類のコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV)に日本人が冬期にさらされていることから、日本人はHCoVの抗体を保有しており、HCoVとCOVID-19ウイルスの基本的遺伝子配列は同じなので、重症化を抑える効果があるのではないかという仮説をたてている。

 免疫記憶という機構はまだよくわかっていない。また、非常によく似たウイルスに対する抗体が、中和抗体の機能を有する(交差免疫)かどうかも確認されてはいない。中和抗体が、体内のウイルス量を少なくして重症化を防ぐという仮説も考えられるメカニズムではあるが、未だ確かめられてはいない。しかし、これらは重要な仮説であり、今後の研究が必要だろう。

 

(4)キクガシラコウモリを宿主とするHCoVウイルスとCOVID-19ウイルスとの遺伝子組み替えによる効果ではないか。・・・・・・私の仮説・・・

 

 児玉氏は、通常の4種類のHCoVに着目したが、私の仮説もこれらのウイルスに着目したものである。そこで、SARSウイルスの自然宿主であるキクガシラコウモリについて調べてみた。それは、アジアでは感染者数、死亡者数が欧米やブラジルに比べて格段に少ないのは何故かを説明するためには、人獣感染ウイルスまで遡る必要があると考えたからである。

 HCoV(ヒトコロナウイルス)の自然宿主はヒトであるとされている。HCoVには4種類のコロナウイルス、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1があり、HCoV-229E、HCoV-OC43が最初に発見されたのは1960年代、HCoV-NL63とHCoV-HKU1は2000年代に入って新たに発見されたと言われている。ウイルスそのものを人類が発見してから実は100年も経っていない。HCoVは、恐らく相当昔から・・・日本では縄文時代よりはるか昔から・・・日本人に感染していたと考えられ、推定であるが、元々のウイルスは、キクガシラコウモリを宿主としていたのではないかと思われる。コウモリのウイルスについては、下記のサイトで詳しく説明している。

https://www.ayyoshi.com/%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AA%E3%81%A8%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/

 

 MERS-CoV、SARS-CoV、HCoV-OC43HCoV-HKU1はβコロナウイルスに分類されており、ヒトの細胞への侵入受容体はほぼ同じとされている。

 1889年にウズベキスタンで最初に発生したHCoV-OC43感染症は、当初はインフルエンザではないかと言われたが、コロナウイルスであることが判明している(Wikipediaより)。世界中に広まり、死亡者数は100万人程度であった。

 HCoV-OC43は、コウモリ(オオコウモリかキクガシラコウモリかは不明)からウシに感染したウシコロナウイルスがヒトに感染したものである。

 SARSは、キクガシラコウモリから中国南部に生息するデマレルーセットオオコウモリに感染した後、動物からヒトに感染した。

 MERS-CoVは、エジプシャントゥームバットというオオコウモリからラクダに感染してヒトに感染した。

 

 このようにMERS-CoV、SARS-CoV、HCoV-OC43、HCoV-HKU1はよく似たウイルスであるが、HCoV-OC43に対するヒトの部分的抗体は免疫記憶としてかなりの割合で保有していると考えられているが、科学的根拠は見られないので推測の域は出ない。また、HCoVによる感冒様症状は、何度も発現するので免疫記憶による抗体保有説は疑問である。

 

 以上のウイルスはいずれもコウモリに関連するが、オオコウモリの生息域はかなり限られることから、ユーラシア大陸、北アフリカ、日本に広く生息するキクガシラコウモリが元々の宿主ではないかと推測される。HCoVウイルスは、キクガシラコウモリから動物へ、動物からヒトへとうつり変異し、ヒト-動物-ヒトの間を循環して生き残ることになった。キクガシラコウモリは、南北アメリカ大陸、アフリカ南部には生息していないので、この地域の人はHCoVウイルスへの感染機会が少ないと考えられる。勿論、現代ではヒトの移動が激しいので多くの人は一度は感染していると考えられるが、HCoVウイルスに対して部分的であれ免疫記憶を獲得しているという科学的根拠は見られない。

 

 日本には3種類のキクガシラコウモリが、北海道から鹿児島県まで広く分布しており、富士山麓樹海等の洞窟にも生息していることは知られている。日本人は、キクガシラコウモリ由来のHCoVを野生動物や家畜、ペットを通して昔からかつ日常的に感染していた、とも考えられるのである。

 今回の中国武漢で発生したCOVID-19ウイルスは、SARSウイルスとHCoV-OC43等のウイルスとが動物あるいはヒトの細胞の中で遺伝子組み換えが発生して誕生したウイルスであるという仮説も考えられる。

 ヒトの細胞の中に2種類以上のウイルスが侵入し、塩基配列の組み替えが発生することは日常的であると言われる。

 

 タラ・C・スミス(ケント州立大学公衆衛生学部疫学教授)が、QuantaMagazineに掲載した記事では次のような解説がある。

 

 「ウイルスがその遺伝物質と他の循環コロナウイルスの遺伝物質とが混ざり合う組換えです。このような現象は頻繁に発生し、まったく新しいウイルスが出現する可能性があります。例えば、2017年に確認されたイヌ呼吸器コロナウイルスの新規株は、既存のイヌやウシコロナウイルスの組換え体である可能性が高い。SARS-CoV-2と他のヒトコロナウイルス、あるいは動物コロナウイルスとの組み換えは可能かもしれないが、そのような事象の結果(良い、悪い、またはその中間)を事前に予測することはほとんど不可能」

 

 動物のコロナウイルスの中には、猫腹膜炎コロナウイルスのように通常の腸炎コロナウイルスとして感染した後、数ヶ月体内に留まり、腹膜炎コロナウイルスに変質し、強毒性を持つものもあるとも説明しており、今回のCOVID-19ウイルスの変異についてもわからないとしている。

 

 さて、私の仮説の結論である。

 

 

 日本人、中国南部、台湾等ではキクガシラコウモリを宿主とするHCoV-OC43等のHCoVの変異種に多くの人が日常的に感染しており、特に日本では、昨年秋から流行し始めた風邪の大半は、インフルエンザではなくHCoV-OC43等のヒトコロナウイルスの流行ではなかったのかと推測される。全国各地の学校での学級閉鎖では、インフルエンザウイルス検査が行われていなかった可能性も高く、またインフルエンザワクチンもほとんど効果がなかったことを考えるとHCoV-OC43による感冒であった可能性は否定できない。

 日本における感染者数、死亡者数の少ない原因は、COVID-19と弱毒性に変異したHCoV-OC43との間で組み替えが起こり、弱毒性のCOVID-19に変異したというのが、私の仮説の結論である。

 逆に、欧米で何故死亡者数が多いかと言えば、欧米ではHCoV-OC43等のヒトコロナウイルスによる感染者数が少なかったからではないだろうか。フランス、イタリア、イギリス、スペイン、南北アメリカではヒトコロナウイルスによる流行性感冒がほとんどなかったためと考えられる。この冬のヒトコロナウイルスの流行が、中国南部、台湾、日本に集中していたか、あるいはキクガシラコウモリの生息地であったことのどちらかの要因によるものと推定することができよう。

 

 

<COVID-19の第2波は来るのか?>

 

 全く分からないが、1889年にウズベキスタンで最初に発生したHCoV-OC43感染症は、第1波の大感染で収束したようである。ネコ伝染性腹膜炎コロナウイルスのように、感染細胞の選択という複雑な変異を同一生体内で長期間にわたって起こす場合には、強毒性化して第2波が発生する可能性がある。

 COVID-19の第2波が発生し、強毒性化する可能性としては、今年の秋以後にヒトコロナウイルスの流行が発生しない場合が考えられる。今回のCOVID-19の結果、ウイルス感染予防が習慣化し、昨年のようにヒトコロナウイルスの感冒にかからなくなると、COVID-19ウイルスの遺伝子組み替えが発生せず、HCoV-OC43のような弱毒性へと変異しにくくなる。COVID-19ウイルスは、複写ミスを修復する機能があるらしいので、他のウイルスとの組み替えがなくなると、元のSARSウイルスへ修復するように複写される。この場合にはかなり強毒性に変異することも考えられる。つまり致死率10%以上、30%程度までの猛毒のウイルスへの変異である。第2波が発生すると相当にやっかいなことになりそうである。

 以上のように、COVID-19ウイルスは、HCoV-OC43等のヒトコロナウイルスよりも受容体の多様性等の複雑な機能を有していることから、強毒性への変異の可能性もあり、全く分からないというのが現実であろう。今のところ強毒性化の確率は、50%といったところだろうか。

                                                         2020/05/26