基礎的な官能基変換反応 / カルボキシル基 ⇒ エステル | 創薬メモ

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基礎的な官能基変換反応 < カルボキシル基 ⇒ エステル > 

 

1. フィッシャー・スペイア エステル合成 / Fischer-Speier Esterification

 

 

ex. 

 

 

Med. Chem. Res. 2014, 23, 2080.

 

信頼性が高く、安価な反応条件。酸に安定な基質なら、まずはこれという感じ。

アルコールを過剰量(溶媒として)用いることができない場合は、

トルエンを溶媒にして Dean-Stark を用いた reflux を行うと良い。

酸触媒としては、p-トルエンスルホン酸なども有用。

 

2. 酸クロ

 

 

ex.

 

Bioorg. Med. Chem. 2013, 21, 1564.

 

基質をアルコール溶媒に溶かし、塩化チオニルを滴下する。

スケールによっては、氷浴で 0 ℃ に冷やしてから滴下する。

(一気に入れると危ない)

 

加え終わったら、加熱して撹拌を行う。

系中で酸クロが生成、そのままアルコール溶媒と反応する。

当然、酸に不安定な基質には用いることができない。

塩化オキサリルも同様に利用可能。

 

DMF を加えると、系中で Vilsmeier reagent が生成する(触媒量で良い)。

副反応の懸念がないなら、こちらの中間体を経由させる選択肢もある。

 

3. TMS ジアゾメタン

 

 

ex.

 

 

J. Med. Chem. 200144, 531.

 

TMS ジアゾメタンを用いたメチルエステル化反応。

中性条件で反応が進行し、反応速度も非常に速い。

試薬コストを度外視すれば、もっとも有用なメチルエステル化反応の一つだと言える。

収率向上のためには、メタノールの共存が必須。精製は溶媒除去だけで済む場合が多い。

 

4. TMSCl

 

 

J. Org. Chem. 2001, 66, 3747.

 

アルコール溶媒中、TMSCl を2等量作用させ、エステルを合成する方法。

まず最初に、トリメチルシリルエステルが形成し、

続いてアルコールがシラノールを置換、エステルが生成する。

 

5. 活性エステル(縮合剤)

 

 

ex.

 

 

ChemBioChem 2012, 13, 2527. 

 

活性エステルもエステル合成に用いることができる。

DCC は、副生するジシクロヘキシル尿素の除去が面倒である。

したがって、EDC を用いると良い。こちらは、副生成物が水溶性。

他の縮合剤も同様に利用可能。

 

6. SN2 反応

 

 

ex.

 

 

J. Med. Chem. 2014, 57, 2334.

 

カルボキシラートアニオンの求核性は低いが、

ヨウ化物に対するSN2反応を経由して、エステル化を行うことは可能。

ただし、他の求核部位が分子内に含まれる場合は、アルキル化のリスクが生じるので注意。

 

7. 光延反応

 

ex.

 

 

J. Org. Chem. 2001, 66, 8779.

 

光延反応は「pKa < 13 の求核剤」と「アルコール」の反応である。

したがって、カルボキシル基のエステル化にも使うことができる。

反応条件はマイルドであり、適用範囲が広いと言える。

立体反転を伴うことから、不斉点の制御にも活用できる。

 

ただし、副生するトリフェニルホスフィンオキシド(TPPO)の除去問題が生じる。

最近では、トリフェニルホスフィンのレジン担持等価体も市販されている。

こちらは、副生するTPPOがレジン上に固定されるため、副生成物の除去問題が生じない。

ただし、コスト面でちょっと不満足という感じ。今後のコストダウンに期待している。

 

8. 接触的エステル化反応

 

 

ex.

 

 

Tetrahedron Lett. 2000, 41, 5249.

 

エステル化触媒の利点は、脱水剤の添加や共沸脱水操作を必要としない点。

選択肢の一つとして知っておくと有用である。

 

(参考)

 

接触的エステル化反応 / Useful Ammonium Triflate Catalysts for Esterification / TCI

 

■ エステル化についての補足(脂溶性の観点)

 

有機合成において、カルボキシル基のエステル化は、

「カルボン酸の保護」という目的で行われる場合が多い。

 

エステル化を行う場合、普通はグリーンケミストリーの観点から、

原子効率に優れた「メチルエステル化」が選択されると思う。

しかしながら、目的物の脂溶性が非常に低く、分液操作や精製時に問題が生じる場合は、

導入する置換基の脂溶性を調整することで、実験操作を効率化することができる。

 

以下は、ニコチン酸のエステル体である。

数字は LogP の値である。(Marvin sketch により算出)

置換基の種類によって、化合物の脂溶性が大きく異なることが分かる。

 

 

 

 

有機合成化学者は通常、扱いづらい化合物に遭遇した時、実験操作の方を工夫する。

分液時に水層に移行しやすい化合物に遭遇したとすると、

塩析効果の高い硫酸ナトリウム水溶液を用いたり、水層ごとエバポにかけたりする。

 

一方で、有機合成化学者は、分子設計を自由に変更することもできる。

実験操作の効率化を、構造化学の観点から達成する。

こういったアプローチもあるわけである。

 

そもそも、探索研究やアカデミックリサーチで使われる合成経路が、

プロセスケミストリーの要求を完全に満たすことは難しい。

探索研究やアカデミックリサーチの目的は、0を1にすることである。

例えば、付加価値の高い新規化合物の発見であったり、概念実証のためのキー化合物の合成、

リード化合物や開発候補化合物の創出などに、基本的な目的があるわけである。

 

したがって、探索研究における中間体デザインは、扱いやすさを重視しても問題が少ない。

求められている成果の性質から言って、実験操作に手間取る方が、非合理的だと言える。

 

知識労働者のコストは高い。

研究者の時間をムダにすることは、試薬コストよりも遥かに大きな損失である。

ムダのないエレガントな合成は、確かに魅力的である。

しかし、実験操作の手間、時間コストの蓄積も、同時に考慮しなくてはならない。

 

エステル基の種類を工夫して、化合物を扱いやすくし、実験操作上の問題を回避する。

これは、原子効率の観点からは褒められたものではない。

しかし、時間を含めたトータルコストの面で、メリットが期待されるアプローチである。

 

扱いづらい化合物に出会った時は、

化合物デザインの観点から、問題回避が可能かを考える。

このような判断があっても良いと思われる。

 

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