最初に区役所に話を聞きに行ったときに、
僕らは自分たちの持っている保育点数について
初めて知りました。


僕ら夫婦のもっている保育点数は、
なにひとつ加点要素のない、最低限のスコアでした。


ドラクエで言えば
「布の服」や「ひのきの棒」さえ装備していない
素っ裸の状態だったわけです。


裸一貫のストロングスタイル。


このむき出しの点数のまま
保活を戦い抜かなければならなかったわけです。




「今の点数だと、どこの保育園もおそらく入れません」


僕らの点数を見て
保育課の女性職員は言いずらそうに口にしました。


「え、どうしてですか?」


もちろん僕は聞き返しました。

 


「それはですね……こちらを見てもらっていいですか。

 去年のデータなんですが
 各保育園に入園できた児童たちのなかの、
 最低保育点数のラインがこの一覧表に出ています」


と彼女は1枚の表を机の上に置きました。

いわば、入園できる最低ラインの点数表です。


「これを見ると分かるのですが、
 いまお二人が持たれている点数で入園できている保育園は
 ひとつもないんです」


「……たしかにそうだけど、
 これって去年のデータだから……」


「残念ですが、毎年ほとんどかわりません。
 そして、保育園入園は多くの場合、
 同じ点数を持たれている家庭同士の間での
 同点決戦となります」


「つまり、この入園最低点を持っていたとしても、
 入園できない人がいるってことですか?」


「そうなります。
 この同点内でもさらに細かい優先事項があるので、
 それを満たしている家庭が優先的に入園できます」


「なるほど。でもうちの場合、
 そもそもその土俵にすら上がれない、というわけですね」


「すみません、そうなります」


「でも、でもですよ」


と僕は焦りつつ、

頭に浮かんだ疑問を口にしました。


「どうして僕らだけ丸裸のストロングスタイルなんですかね」


「スト? 丸裸?」


「いやだから、なんでうちだけ加点ナシなんですか?」
 他の家庭だって同じなんじゃないんですか?」


僕が聞くと、職員の女性は首を振りました。


たしかに、保育園入園を希望している家庭の多くは、
僕らと同じ夫婦共働きです。

その点は変わらない。


でも、一般的に両親共働きの家庭は
どちらかが会社員である場合が多いのです。



「その場合、会社の育児休業制度を利用して
 子育てをしているケースがあります」


「なるほど、育休ってやつですね」


「そうです。
 それで、両親のどちらかが育児休業給付金を受け取っている場合は、
 保育点数が加点される仕組みなんです」


「……つまり、その育休の点数を持っていて、
 初めて保育園入園争いの土俵に上がれると」


「そういうことになります」


「でも」


柴崎家は夫婦共に自営業者です。


育休制度などありません。

とうぜん、育児休業給付金など
もらえるわけがありません。


だから育休に加点される点数をもらえない。



それが分かった時点で、
すこしイライラしてきました。



「なんで育児休業給付金を受け取っていると
 点数がもらえるんですか?」


「え、いや、そうですね
 仕事を休まないと子育てができないという証明になるからだと思います」


「じゃあ、丸裸のストロングスタイルの人間はどうなるんですか?」


「ス、丸……」


「だから、自営業者はどうなるんですか?」


「それは……」


「会社員よりも仕事時間の融通がきくだろうから点数ナシってことですか?」


「そいういう意見もたしかにあるとは思います……」


「でも自営業が
 仕事に融通が利くとは限らないんです」


「そうだと思います……」


「だいたい育休使ってる人は、
 仕事を休んでいる上で、
 給付金まで受け取っているわけですよね」


「はぁ、まぁ」


「でも自営業者は休めない上に
 自分で稼ぎ出さなきゃいけないんです!
 だって自分が休んだら
 収入はなくなっちゃうんだから!
 それなのに休んで給付金もらってる会社員は点数までもらえて、

 自営業者だけが点数をもらえないなんて
 そんなバカな話ってありますか、そうでしょう?
 しかもこのままじゃ、
 永遠にうちの子は保育園に入れないじゃないですか!
 なんですかこの加点方式、おかしくないですか
 どうなんですか、そう思いますよね? こちとら丸裸なんですよ!!

 それならいっそ相撲で気持ちよく順位でもなんでも決めたら良いじゃないですか気持ちよく! はっけよーい!」



とまぁ、そんなに威勢良く言うことはなかったけど。

だいたい相撲なんかで決めたら

僕のようなやせっぽちが勝ち上がれる可能性なんて

まずなくなります。


でも、この仕組み自体には

かなりの疑問と不満をもったまま
僕ら夫婦は肩を落として帰ってきました。



……ちなみにさっきも書いたけど、

この加点は区によってだいぶ方式が変わるみたいです。
僕らと同じ条件であっても
そのままで五分の戦いができる地域もあるかと思います。


でもいずれにせよ、
僕らの住んでいる地域では
夫婦揃って自営業者である僕らは
かなり後方からのスタートとなりました。


しかし、ルールはルール。

僕らは持っているカードだけで
なんとか勝負しなくてはなりません。


妻は臨月のまあるいお腹を撫でながら
深いため息をついていました。


このままでは生まれてくる前から、
保育園に入れないことが決定してる。


これは、なんとかしなきゃいけない。


なんとかして、
保育点数を稼がなくちゃいけない。






といっても、区役所の案内を読めば読むほど
僕らにできることは
たった1つしかないことが明白となりました。



つづく。

 

 

 

 

【熱闘、保育園!シリーズ】

その① 保育園への道。

 

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