僕たち四人はそのビルのエレベーターに乗り込んでいた。
目的地は7階にあるはずのプール。
だがその位置は曖昧で、検査が行われているかどうかも不確かだった。
エレベーターのドアが7階で開くと、一緒に乗っていたつよぴーが「プールは端の方にあった」と、自信満々に言いながら先頭を切ってスタスタと歩いていった。
彼の言葉を信じてついて行くと、小さなプールがある場所に着いた。
でも検査をするにはどう見てもスペースが足りないようだ。
途方に暮れてエレベーターに戻る。
エレベーターが1階に止まると、つよぴーがなぜか一人でさっさと降りてしまった。
彼が外に出るとドアは無情にも閉まったが、僕は慌てず”開”と書かれたボタンを押した。彼は待ちかまえていたかのようにするりと乗り込んできた。
その瞬間、つよぴーの服装がどこかジョン・トラボルタのように見えたのは気のせいだろうか。
エレベーターの案内板には6階や8階にも小さなプールがあると書かれていたが、僕たちの探しているものとは違うようだった。
再び7階で降りてみると、さっきとは反対側に長い列ができていた。
プールの利用を待つ人々だ。
つよぴーが「チケット持ってる人はこっちや」と言って列を飛ばした前方に歩いていく。
前方に機械があって何人かの人が機械で認証してる。
順番が来て、つよぴーが手際よくカードを機械で認証する。
次は俺の番でまずカードを認証させて、その後お金(お札)をビニール製の吸引袋に差し込む。
が、うまくいかずにお札が詰まる。
まわりの人が助けてくれて一枚ずつ入れるとうまくいった。
流れるプールに入ると、つよぴーはもう先に行っていた。
すぐ目の前にミホさんともう一人の女性がいたので、軽く挨拶を交わす。
少し先に進むとつよぴーが待っていてくれた。
さっきミホさんに会ったと言うと「ああ、あの冷たい…」と返ってきた。
どうやら別の人を思い浮かべているようだった。
流れるプールを終え、建物の中へ。
大勢の人で賑わう場所を抜けると、そこは日が暮れ始めた野外空間だった。
所々にシャワーが設置されているが、尋常ではない勢いで水が噴き出している。
若者たちが「バチバチ祭りや!」と叫びながら駆けていく。
恐る恐るシャワーを浴びてみる。
確かに、これはバチバチだ。
そこかしこで、「バチバチ、バチバチ」と叫ぶ声が響き渡る。
奇妙な熱気に包まれながら、俺はただ水圧に耐えるのだった。
今日の検査は一体何だったのだろうか。

タオルで体を拭きながら、ふと、今回の検査の目的を思い出す。
確か健康診断の一環で、体組成の検査を受けるはずだった。
しかしここまでで、体組成どころか健康とは真逆の体験をしている気がする。
つよぴーはどこに行ったのか。
あたりを見回すと、野外スペースの隅でジョン・トラボルタ風の衣装を身につけたまま、子供たちと一緒になってシャワーの水しぶきを浴びている。
つよぴーは相変わらずの調子で、派手な格好について突っ込まれると、「今日は特別さ」と得意気に笑い飛ばしていた。
「つよぴー、そろそろ行かないと。」
声をかけると、つよぴーは満面の笑みでこちらを振り返った。
「最高やん!このバチバチ!」
どうやら、今日の健康診断はこのバチバチ祭りで終わりらしい。
諦めた俺はつよぴーに連れられ、もう一度シャワーの前に立った。
水圧に耐えながらふと思った。
これが現代社会の健康診断なのかもしれない。
ストレス社会で疲弊した心身を容赦ない水圧で叩き起こし、アドレナリンを分泌させることで一時的に活力を与える。
そしてバチバチと叫ぶことで日頃の鬱憤を晴らす。
そう考えるとこのバチバチ祭りもあながち的外れではないのかもしれない。
俺もつられて「バチバチ!」と叫んでみた。
心なしか体が軽くなった気がする。
結局、体組成の検査は受けられなかった。
しかしなぜか清々しい気持ちで、俺とつよぴーはバチバチ祭りの会場を後にした。
エレベーターで1階へ向かう途中、つよぴーが言った。
「なあ、また来ようぜ、バチバチ祭りに」
俺は、笑って頷いた。そして、心の中で呟いた。
次こそは、体組成を測ってやる。
そして、バチバチ祭りにも参加してやる。