夏の終わりの、ピンク色の水 | 非日常的日常ブログ

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日々過ごしていく中であった出来事や、なかった出来事、夢で見た出来事を淡々と綴ったり、綴らなかったりしていきます。

去年の夏の話。

夏の終わり、テリーと近所の誰もいない浜辺に行った。
二人で砂の上に寝そべって海からの風にあたる。
じっとりした空気が少しだけマシになる感じだ。

何気なく持ってた花火が急に燃え出した。
左前の方に白い光が走る。
テリーと二人で青い空に咲いたほんの小さな火花を見てた。
そしたら海の中にいた人たちが慌てて浜辺に上がってくる。
テリーは俺の横顔見て話しかけてくるから騒ぎには気付いてない。
「帰ろうか」
そう言ったら、テリーは黙って頷いた

浜辺を出て、土の道を歩き出す。
ブラジル人っぽい少年が何か探してるみたいに地面を見てる。
俺はテリーを置いて先に歩く。
後ろから聞こえる足音はあの少年とコロンボみたいな刑事の二人分だ



古びたアパートの一室。
テリーと見知らぬ二人と俺。

喉が渇いたから蛇口をひねると薄いピンク色の水が出てきた。



誰かが確認するために部屋を出て行った。
数分待つ。
水は徐々に透明になっていく。
まるでさっきまでの不可思議な出来事が少しずつ薄れていくみたいに。

水が透明になった頃、さっきの男が帰ってきた。
少し安心した顔をしてる。
「上の階の配管から染料が漏れてたみたいです」
説明を聞いて俺たちは納得した。
でもテリーの目が何か言いたげに揺れてる。
「あのさ」
テリーが言った。
「さっきの花火のこと、謝らなきゃいけないと思って」

その時、ドアをノックする音がした。
開けてみるとさっきの刑事と少年が立ってる。
刑事は皺だらけのコートの襟を正して、ゆっくりと口を開いた。
「すみません、ちょっと確認したいことが」
テリーの肩が小さく震えた。
「実は、海岸で不審な光が目撃されて。
この少年が証言してくれたんですが…」
「あの、それは」
俺が口を挟もうとした瞬間、テリーが一歩前に出た。
「私です。私が誤って花火を」
刑事は意外そうな顔をしたけど、すぐに穏やかな微笑みを浮かべた。
「正直に話してくれてありがとうございます。
実はその花火が原因で、上階の染料工房に小さな火災があったんです。
幸い大事には至りませんでしたが」
俺たちは唖然とした。
ピンク色の水の謎がこんな形で解けるなんて。

「損害については、私が責任を」
テリーが申し出ると、刑事は首を振った。
「工房の主人が事故を機に長年の配管の不備に気付けたと。
むしろ感謝したいそうです」

帰り際少年は満面の笑みを浮かべながら手を振ってくれた。



夜も更けた頃、テリーと俺は再び浜辺に立っていた。
「ね」
テリーが呟いた。
「人生ってピンク色の水みたいだよね。
最初は訳が分からないけど、時間が経てば自然と透明になっていく」

俺は黙って頷いた。
潮風が俺たちの髪を優しく撫でていった。