昼下がり、高級ホテルの中にひっそりと佇む店の前で、私はスジャータ(仮名)とカーリー(仮名)を待っていました。
店までの距離は入口から約10メートル。しばらくすると二人がホテルの入口から姿を現しました。
ホテルのスタッフが二人に黒い布を渡し、目隠しをするよう促しました。
この店では目隠しをして香りと味だけを楽しむことができるという趣向でした。
二人は最初こそ戸惑っていましたがすぐに目隠しを受け入れ、スタッフの案内で店の前までやってきました。
そこで私たちは軽く挨拶を交わしました。扉の向こうから芳醇な香りが風に乗って漂ってきていました。
調理の匂いなのか、あるいは何か新たな体験の予感なのか。
二人は目隠しをしたまま、この香りをどう感じているのか、私も想像を巡らせました。

店の正面にはスタイリッシュなディスプレイがあり、メニューが表示されています。
しかし目隠しをしている二人には見ることができません。そこで私が代わりにメニューを説明しました。
「うどん、そば、中華そばがあるよ。」
スジャータは落ち着いた声でそばを選び、続いてカーリーも同じ選択をしました。
そしてカーリーが「ごはんの小」を追加すると、スジャータもまた同じ物を選びました。
その小さな同調の様子につい笑みがこぼれます。それに合わせて私は中華そばの大盛りを選びました。
静かに笑い合いながら、私たちは店の前でのひと時を共有しました。
目に見えないものを感じながら、これからの食事への期待で胸が高鳴ります。まだ店内には一歩も入っていないのにその香りと雰囲気が、まるで未来の一瞬を映し出しているように思えました。