ガラスを割れ ~暗闇の中の絆~8(終) | じゅりれなよ永遠に

じゅりれなよ永遠に

じゅりれな・坂道小説書いてます。

クラブ「J」の薄暗い照明の下、

友梨奈は一人、

スタンディングテーブルに寄りかかりながら、

ゆっくりとウイスキーを傾けていた。

 

彼女の目は遠くを見つめ

思索にふけるように静かだった。

 

そこに、静かな足音を立てながら

松井珠理奈が現れた。

 

彼女の姿は、

クラブの入り口からの光に照らされ、

一瞬だけシルエットとして浮かび上がる。

 

「どうも、刑事さん。何か用ですか?」

 

珠理奈は、

友梨奈の声に顔を上げ軽く頷いた。

 

珠理奈は友梨奈の右横に並んで立ち、

バーテンダーから受け取った

ウーロン茶を手にしていた。

 

彼女の表情は冷静で、

しかし目には何かを秘めたような輝きがあった。

 

「君島達が殺されたわ。」

 

「へえ〜そうですか。」

 

友梨奈の返答は軽く、

まるで他人事のようだった。

 

「貴方が殺したんでしょ?」

 

珠理奈は直接的に問いかけた。

彼女の目は友梨奈を捉え、

一瞬たりとも逸らさなかった。

 

「さぁ?なんのことだか。」

 

友梨奈は肩をすくめ、無関心を装った。

 

「まあ、お礼は言っておくわ。

あいつらを野放しにしていれば

もっと被害者が出たはずよ。」

 

珠理奈は感謝の意を込めて言ったが、

その声には複雑な感情が交じっていた。

 

「そりゃどうも。」

 

友梨奈は軽く会釈し、

口元にかすかな笑みを浮かべた。

 

「昔ね、今回同様ある犯罪者に圧力が掛かって

捜査がストップしたことがあるの。

その時に私はその犯罪者を殺そうと思って

そいつの自宅前まで行ったわ。」

 

珠理奈は過去を振り返りながら、

深いため息をついた。

 

その言葉に友梨奈は

顔を右に向けて珠理奈を見た。

彼女の目には驚きが浮かんでいた。

 

「そしたらね、玲奈ちゃんが私を止めて

そいつを暗殺したの。私には刑事を続けて

正義を貫いてほしかったみたいなの。

だから、今回は玲奈ちゃんの役を

貴方にやってもらったって訳よ。」

 

珠理奈は友梨奈に向き直り、

真剣な眼差しで語った。

 

珠理奈は左を向き、友梨奈と見つめ合った。

二人の間には、

言葉にならない強い絆が流れていた。

 

「そうだったんですか、

でも流石玲奈さんですね。

あの人らしいや。」

 

友梨奈は笑みを浮かべながらも、

その目には尊敬と哀愁が混じっていた。

 

「そうね、今頃どこで何してるんだか・・・」

 

珠理奈はぼんやりとした表情で呟いた。

 

珠理奈と友梨奈は同時に前を向いて、

少し切ない表情を浮かべた。

 

「じゃあ、帰るね。平手友梨奈。

私に逮捕されないように気をつけてね。」

 

珠理奈は立ち去る前に

友梨奈に向けて軽く警告した。

 

「肝に銘じておきます。」

 

友梨奈は深々と頭を下げ、

珠理奈の背中を見送った。

 

珠理奈は店を後にし、夜の街に溶け込んでいった。

 

友梨奈はしばらくその場に立ち尽くし、

彼女の去った方向を見つめていた。

 

そして、ふとした瞬間に、

彼女の唇から小さなつぶやきが漏れた。

 

「愛されてるね、玲奈さん・・・」

 

玲奈の思い出をさかなに

友梨奈は再び一人でアルコールを

飲むのであった