木ノ下歌舞伎 舞踊公演「三番叟」 | 坂口涼太郎 オフィシャルブログ powered by Ameba

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木ノ下歌舞伎 舞踊公演「三番叟

先日千穐楽を迎えました。

今回も2年前の「勧進帳」に引き続き、信州・まつもと大歌舞伎に参加させていただきました。


松本に訪れるのは四度目で、2016年から毎年この地で作品を上演する機会に恵まれています。

四度目ともなると、まるで家から二駅ほど離れた街へふらっと出かけてきたような、そんな身近さを感じました。

ここへ来るたびに新しいことを発見でき、俳優として成長させてもらえるので、松本は僕にとって特別な場所です。


能の「」をもとにした「三番叟」には千歳三番叟の三柱の神が登場します。

僕はを演じました。

現代においての祝福、寿ぐとは何なのかを探しながら創作していき、最終的には舞踊作品というカテゴリーに収まりきらない異次元の祝祭のような作品が完成しました。

踊り続けることによって肉体を限界に到達させると精神が興奮状態になり、最後は自分の気持ちをコントロールできなくなるほどでした。

スリリングで貴重な体験をさせていただきました。


千穐楽はなんと会場から手拍子が起こり、まんまとそれに乗せられて、気持ちが高揚し、自分で踊りながら驚くほどの力を発揮できました。

あのカーテンコールの喝采は忘れられません。

まさかこんな経験ができるだなんて。

今までの人生が全て報われた気がしました。

お客様の人生を肯定していたはずが、自分の存在を肯定されているようで、ああ、生きていていいんだ、と思えました。

本当に素晴らしいひとときでした。


コクーン歌舞伎の「切られの与三」に出演されている歌舞伎俳優の方々をはじめ、出演者、スタッフの皆さんも観に来てくださり、とても嬉しかったです。



十七歳のときにダンス公演で初舞台を経験してから十年。

今回十年ぶりに踊りと真正面から向き合う機会をいただき、改めて踊ることの喜び、難しさ、怖さや開放感を感じることができました。

久しぶりに踊りと向き合ってみて思ったことは、踊ることとお芝居をすることは全く同じだということでした。

台詞という自分の言葉ではないものを、いかに自分の心から湧き出る真実の言葉にできるかどうかという作業と同じで、踊りは振付という指示を体に叩き込んで、いかに自分の身体から自然と湧き出てくるようにするかという作業でした。

言葉を発するより身体はもっと正直で、まるで振付という異物を体内に取り込み、拒否反応を示しながらも細胞たちが格闘し、分解して、やがて自分の肉体の新たな一部にしてしまうような感覚でした。

北尾亘さんの振付は全てに意味があり、まさにひとつの戯曲のようでした。

亘さんから与えられた筋書きをどう読み解くかを考えるのはとても面白い作業でした。

だから、今回の「三番叟」は僕にとって身体の動き一つ一つが言葉であり、思いであり、意思でした。

全てがそのまま伝わるわけではないですが、きっと感覚的に共鳴するはずだと信じているので、もっと身体を通して雄大で豊かな表現ができるように、技術と心を磨きたいと思います。


同時上演の「道成」を創作された素晴らしい踊り手のきたまりさんと「三番叟」の神々

この座組みの一員になれて光栄でした。


きたまりさんは僕が心から尊敬する踊り手の一人です。

一年前に初めてきたまりさんの踊りを観たときの衝撃と感動は今でも忘れられません。

今回近くで作品を創作する姿を見ることができてとても刺激を受けました。


「三番叟」の振付と三番叟役を務めた北尾亘さんとは以前から交流があり、今回やっとご一緒することができました。

こんこんと湧き出る緻密でオリジナリティ溢れる振付は驚きの連続でした。

常に僕らの気持ちに寄り添ってくださり、奮闘する姿を見守ってくださいました。


千歳役の内海正考さんは温和で木漏れ日のような人でした。

翁と三番叟を結ぶ架け橋として、大きな身体で穏やかに力一杯表現してくださいました。


45分ビートが鳴り続ける「三番叟」の最高にdopeな大曲を創り上げてくださったTaichi Masterさん!

Taichiさんの音楽にどんどん身体が埋没していって、音楽と一体化しているようでした。

音楽から踊り方や気持ちの流れのヒントをもらえました。

最高の音楽をありがとうございました!


これは千穐楽直後の写真。

杉原邦生さんの演出はやっぱり凄い。

僕にとって全ての面で絶対的な信頼を置ける存在です。

今回も最高に刺激的でわくわくする創作を一緒にできて楽しかったし、いつも特別な経験をさせてくださいます。

本当にありがたい。

大好きな演出家です。


そして、木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一さんはいつも僕に劇的な"気づき"を与えてくださいます。

先生のふとした一言で心の霧が晴れて、そういうことかと納得ができ、いい方向に導かれます。

二年前の「勧進帳」に続き、このお二人と一緒に創作すると、なんて楽しくて有意義な時間を過ごせるんだろうと幸せな気持ちになりました。

今回の「三番叟」も、何か特別なものが宿った演目ができた気がします。


最高で大好きなスタッフ、クリエイター、ダンサーの皆さんと最後まで完璧を追い求め続けました。

公演を支えてくださった方々。
そして何より、観に来てくださったお客様。

心から、ありがとうございます。


きっとまた、木ノ下歌舞伎の「三番叟」をどこかで上演できると信じています。

そして、もしその機会があれば、できれば生きる気力を失ってしまった人に観ていただきたいです。

この作品でなくとも、もし今、死にたいと思っている人がいたら、近くの劇場に足を運んでみてほしいです。

どんな作品でもいいので観ていただければ、きっと少しは自分を許せたり、もう少し生きてみようかな、と思っていただけると思います。

どうか、そんな人達に僕らの思いが届いてほしいと願っています。


最後に、皆さんの人生が祝福されることを祈って、翁の呪文を綴ります。


とうとうたらり

とうたらり