只今新宿の喫茶店で、K's cinemaの台湾巨匠傑作選2018で上映される「牯嶺街少年殺人事件」の開映を待っているところです。
先週はそのプログラムのひとつである「非情城市」を観てきました。
なぜ、そんなにもいま台湾映画に興味があるのかというと、少し前に台湾に行ってきたからです。
昨年韓国に行き、とても刺激を受けたので、次はどこに行こうか思案していたのですが、今回は食文化や映画作品などから興味を持っていた台湾に行くことにしました。
まず向かったのは台北。
到着して街を歩くと、舗道や建築の雰囲気は少し韓国に似ている感じがしましたが、街から漂ってくる空気感は全く異なり、どことなく怪しさを感じました。
驚いたのは飲食店の多さ。
街にある建物の9割が飲食店なのではないかと思うほど、どこもかしこも飲食店。
建物だけでは収まらず、道路にも屋台がたくさん出店しているので、台北の面積のほとんどが飲食店なのではないかと思ってしまいます。
そんなに飲食店ばかりだと商売敵が多くて経営は大丈夫なのだろうかと余計な心配をしていましたが、割とどの時間帯でもほとんどのお店が賑わっていて、不思議に思っていました。
後にそのことを台湾の方に聞いてみたら、台湾には外食文化があるらしいのです。
台湾の人達は家であまり料理をせず、お店で食べるか、テイクアウトをして家で食べるのだそう。
確かに驚くほど安いし美味しいので、食材を買って作るよりもいろいろと効率的なのかもしれません。
そう思うと、ひとつひとつの飲食店がその地域に暮らす人達の食生活を支えていて、良い関係だな、と思いました。
台北ではいくつもの夜市、朝市に赴き、食欲を満たしました。
饒河街夜市では胡椒餅。
士林夜市ではフライドチキンや包子、そして胡椒餅。
寧夏夜市では牛肉麺や炒め物。
光復市場では野菜の包子。
その他の朝市では豆漿や焼餅、豆花などを食べました。
どれもこれも美味しくて、お店の方のこだわりを感じました。
これが台北で食べたものの写真。
一番感動したのは「正好鮮肉小篭湯包」というお店の小籠包。
肉と野菜とネギの風味が口に広がり、思考が停止するほど美味しかったです。
忘れられない味になりました。
問屋街の迪化街には、漢方や陶器、アンティークショップなどが立ち並んでいます。
軒先を見て回るだけでも普段日本ではあまり見ないものがたくさんあり、これは何に使うのだろう、と思いながら、植物なのか生き物なのかわからないものをじっと見つめたりしていました。
茶芸館もあり、美しい茶器でお茶をいただきました。
日本茶や紅茶とも違う独特の香りに心が安らぎました。
台北の街にはたくさんの廟、いわゆる寺院がありました。
松山慈祐宮は煌びやかな佇まいで、夜市で賑わう通りにあります。
地元の方が立ち寄る姿をよく見たので、身近な廟なのかなと思いました。
龍山寺は切実な願いを持った人々が集っている印象を受けました。
ちょうど訪れたときに大勢の人が声明を唱えていて、その響きに圧倒されました。
声明というのはお経を歌にして唱える仏教音楽です。
その大合唱の中に身を置いていると身体が熱を帯びてくるようでした。
ひとりひとりの願いや祈りに押し潰されるのではないかと思うほど熱狂的な念が立ち込めていて、気丈さを保つのが難しくなるほどでした。
人々が熱心に集う、それほどの何かがある場所なのだと思いました。
日本の神社仏閣では感じ得ない雰囲気を味わいました。
中正紀念堂にも行きました。
複雑な歴史をもつ台湾。
蒋介石の像が撤去されるなど、今も問題が残る中、民進党政権が中正紀念堂の改革に着手し、工事も進んでいるようでした。
この場所を今後どうしていくのか、まさに過渡期である今の台湾を象徴するような光景でした。
映画「非情城市」の舞台になった九份にも行きました。
九份にある台湾最古の映画館「昇平戲院」
スクリーンで映像を観ることもできて、感激しました。
侯孝賢監督作品はもちろん、日本映画のポスターもありました。
日本統治時代に上映されていたのかと思うと、当時日本に対して複雑な思いがあったであろう台湾の方々が純粋にひとつの芸術として日本映画を観て楽しんでくれていたら良いな、という気持ちになりました。
台湾映画を観るとインテリアが素敵だと思うことが多かったのですが、実際に台湾に行ってお店に入ると、映画で観たような木の椅子や机が多く使われ、その使い込まれて光沢の出た家具に囲まれた空間に温もりを感じました。
安くて美味しい食べ物が身近にあり、美しい家具や食器を使う台湾の人々。
その姿を見て、経済的な格差に関係なく、精神的に豊かな生活を送ることのできる気品と知恵を感じ、僕も見習わなければと思いました。
ふと思いついて訪れた台湾。
たくさん収穫のある旅でした。