「煙草?」コンビニの前で煙草の吸殻を拾うホームレスに、博之は思わず声をかけた。
ちびた吸い殻を拾い上げたホームレスがこっちを見た。コンビニの灯りに照らされる伸びたひげは、ほとんど白に近かった。いや、薄汚れているから、正確には白とは言い難いけれど。
なぜそうしたのかは自分でも分からない。今日、上司にあんなことを言われなければ、このホームレスだって顧(かえり)みることなく通り過ぎただろう。
首を洗っておけと言われた。この不景気に取り立てて特技など持っていない自分が放り出されたら、すぐさま食い詰めるに違いない。
職を失った自分とホームレスが重なった。それだけのこと。自分が持ち合わせている善意なんて、所詮はそんなものだ。
「煙草、あるよ」パッケージを振り、一本差し出した。
「あ、これ少ないからあげるね」残りは4、5本だろう。振り出した煙草を指で押し戻した。
ホームレスはありがたそうにそれを受け取った。
「あ、ライター」
「ライターは持ってるんだよ。ありがとうね」
「それより、お腹、空いてるよね」
ホームレスは恥ずかしそう頷いた。
お金、いくらあったろう。給料日までまだある。余計なこと口走ってしまったな。
財布を確認する。ま、いいか。なんとかなるだろう。口にした以上、引くに引けない。
「少ないけど」博之は千円札を一枚抜き取って男に渡した。
「いいのかい」
「うん。腹が減っては戦はできないでしょ」
「戦なんてしないけど」にゅっと笑った男は薄汚れたジャケットのポケットを探った。
「これ、お礼に」
「指輪? 俺、男だよ」博之は苦笑した。
「もしもさ……」男はじっと博之を見た。
「もしも?」
「そう。もしも透明人間になれたら、願うことのほとんどをやれると思わないかい。これは魔法の指輪さ」
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