風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」 -114ページ目

ぽちっと芽吹いた固い蕾は、季節を読みながら次第に膨らみ、ほどなくふわりと花が咲く。

その花も、絢爛(けんらん)たる成熟を経て、遠からず、はらりはらりと散り落ちる。

咲いた花は、いつか散る。

その運命(さだめ)を知ってか知らずか、咲き誇る花たち。
そのさまは、死を知らぬかのように生きている人間に、どこか似ている。

けれど、咲かない花もある。咲いたつもりが咲いていない花の群れがある。

それは咲いていないよなんて、誰も指摘しない蕾。それに気づかない花未満。

恋には恐れと自惚れが混在する。君が恋をしているか、恋に恋しているか、まったく恋していないかはそれでわかる。

君が恋していたら、恐れが生まれ、君が恋に恋しているなら、うぬぼれと不足感が生まれる。
恋に恐れもうぬぼれもいらない。ましてや、駆け引きも。

〝愛というのは、どんどん自分を磨いていくことなんだよ〟
そう言ったのは尾崎豊だったけれど、早くに散った「十代の教祖」も生きていれば今年で50歳になる。



僕は思うんだ、君の花は、自分を磨くだけではおそらく咲かないって。

従属するのではなく尊重しよう。ときには同調しよう。一緒に笑おう。一緒に泣こう。
やがて恋する相手も磨かれてゆくに違いない。

そして、忘れる癖をつけよう。新しい明日のために。

君が何ものにも囚われない風になったとき、周りを驚かすような綺麗な花が、きっと咲く。



ハンク・モブレーの「リカード・ボサノバ」良いですな。

Hank Mobley - Recado Bossa Nova


同じく、リカード・ボサノバに歌詞のついた耳に馴染みのあるイーディ・ゴーメの「ギフト」も良いです。ここは歌詞付きで。

Eydie Gorme The Gift!(Recado Bossa Nova)

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─悪い夢─

ふいに土埃が舞った。眼前が黄土色に染められて景色がかすむ。

なぜ、倒れたのだ?……。

瞬きをしようとしたが、まぶたが動かない。首が熱い、痺れるようだ。

やがて土埃が収まり、地面をなめるような角度で男たちが走りながら剣を振るう姿が見えてきた。

ミランダを連れて早く村へ戻らねば。我が名を呼んだのは、なにか起こったに違いない。
起き上がろうとしたとき、異変に気づいた。手も肘も肩も足も動かない。
ミランダを見ようとしたが、頭さえ動かせない。

なにが起こったのだ。

そのとき、視界の隅で血飛沫を上げる胴体が、大地にゆっくりと倒れるのが見えた。あれは……ミネラは我が目を疑った。
なんなのだこれは。

幼い頃、抜けた歯を手にして奇妙な感覚を覚えたことがある。しかしこれは歯ではなく、この目に見えたのは紛れもなく、血飛沫を上げる己の身体だ。けれど自分はここにいる。この光景の意味が飲み込めない。ミネラは必死で身体をまさぐろうとした、けれど、やはり、手も足も動かない。
「ミランダ」呼んでみたが声は出なかった。

「ミネラー!」再び、ミランダの叫ぶ声が聞こえた。
ミランダ、ミランダ、ミランダ! 叫んだつもりがついぞ声になることはなく、景色がかすんでゆく。無性に眠い。

そうだ、このまま眠れば、きっとまた朝がやってくるに違いない。悪い夢は忘れて眠ろう。ゆっくりと眠れば……。
そのとき、視界が暗転した。



「今はそんなときではない!」
「お前がやられてしまうぞ!」村へ走る男たちの声が聞こえる。

止めどなく血の流れ出るミネラの頭部を抱えた。カッと見開かれた両の目を手のひらで閉じた。ミネラをこんな形で胸に抱くとは想像もしなかった。
右手で渾身の力を込めて足を引っ張る。しかし女の手では動かない。左の頬にまだ温かみの残るミネラの頬がふれる。

「なんということじゃ」セブナが立っていた。
「ミシュン! シオン! 男ども手伝え!」
セブナの声に応じて男たちが走り戻ってくる。
「村へ運べ! 丁重に運べ!」

「ミネラ殿!」ミシュンが目を見開き呆然とする。
「クロン様、守れなかった。わしのせいじゃ」セブナが苦悶の表情を浮かべた。
「急げ! 大事に村へ運べ!」シオンが叫ぶ。


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スイカに塩かける? ブログネタ:スイカに塩かける? 参加中

私はかける派!



そりゃかけるでしょ?
塩気の後にスイカの甘みが来て、それでスイカがより甘く感じるからね。
これ何て言ったっけ?
対比効果……だったっけかな?
おしるこにお塩を入れるのもそうかな?
スイカの甘みと水分と塩気、夏にうってつけだね。



ちょっと話は脱線して、トマトに塩をかけると甘く感じるかというと、感じない。
まあ、トマトはそもそも甘いものじゃないし、酸味もあるしね。
だから、トマトには砂糖。

トマトに砂糖はどうも少数派のようで肩身が狭いのだけれど、おかずの付け合わせで食べるトマトにはマヨ。おやつ感覚で食べるトマトには砂糖。
かといって僕は、北海道や東北方面の出身者ではない。

トマトには砂糖派の方、ちょくちょく白い目で見られる僕にどうかご賛同のコメントをくだちゃい。
スイカに砂糖はやめてね。

もっと話は脱線して、スイカにレモンをかけると美味しいというのが話題になった。
イタリア風なのかな?
やってみる気? そのためだけにレモンを買う気は、あまりないかな。

ま、スイカに塩をかけるかけないは本人の自由だけれど、スイカを食べ終わったら、その皮は絶対に漬け物にしよう。
表面の青い堅い部分は剝いて、適当な大きさに切って塩を振って冷蔵庫に。これがものすごく美味しい。

すぐに漬かるので、しなっとする前にキンキンに冷えたら食べるぐらいがちょうどいい。
数あるお漬け物の中で、これが一番美味しいと僕は思っている。


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スイカに塩かける?
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─異変─

藍色に広がる空に徐々に白みが差して、星たちが静かに消えてゆく。
冴え渡る空気を揺らして吹いた風は枝葉をざわめかせ、やがて、木々の隙間から村に朝日が差し込み始めた。

陽が荒野をくまなく照らしたとき、セブナが口を開いた。
「自信を持って最善を尽くせ。皆のもの、出陣じゃ」



30人は再び荒野に立った。五感を研ぎ澄ませてゆっくりと歩く。風を感じようとする。

来た! ミランダは剣を振るった。しかし、それは空を切っただけだった。

ぶしょ!
嫌な予感に振り向くと、男の身体が三つに斬り刻まれ、大地に散った。

怒りのこもった声を張り上げ剣を振り回す男たち。けれど、どれも空を切るばかりだ。やがて剣を持った男の腕が落ち、両足が切断される。頭部が宙を飛び、身体が斜めに斬り落とされる。大地はみるみる血に染まっていった。

風を、感じない。

「待ってはならん! 剣を振るえ!」イシュリムの声が響き渡る。

「チェーイ!」
そのとき、荒野に鋭い声が響き渡った。振り向くと千切れた黒い塊が次々と宙を舞ってゆく。
「どけどけどけー!」黒い飛沫(しぶき)は右へ左へと飛んでゆく。

千切れ飛んだ黒い飛沫の下を走るのは老女セブナだった。
「ミランダ! ミシュン! みなのもの! 待ってはならん! 斬って斬って斬りまくって前へ進め!」

「はい!」ミランダは上段に振りかぶった剣を右へ左へと斬りつけながら走った。やがて手応えと共に黒い塊が千切れ飛んだ。風を受けよとは、このことか。
しかし、なんという衝撃。手はもちろん、肘から肩まで痺れるようだ。

「お前たち、わしを誰じゃと思うておる!」セブナの怒声が聞こえる。
「ティエンの子、イエナの同志、セブナを忘れたか! どけどけどけー!」

「闘いが終わったら!」走りながら剣を振るうミネラの叫ぶ声がする。
「もしもふたりが生き延びたら!」
「どけどけどけー!」ミランダはセブナをまねてみた。
黒い塊が千切れて飛ぶ。
「夫婦になろう!」
「チェーイ!」ミランダは気合いで応えた。

「交代じゃ!」イシュリムの声と、杖を大きく左右に振る動作と共に、黄金色に輝く剣をひっさげた男たちが村から走り出てくる。その土埃で辺りは煙った。
「完全に交代するまで剣は振るえ! 逃げ腰になるでない!」再びイシュリムの声がする。
「ミランダ! 戻るぞ!」ミネラの呼び声に、剣を振り回しながら、ミランダはミネラを見た。

ぶしょ!
肉を切るような音と共にミネラが目を見開いた。
「ミネラ! ミネラー!」ミランダは立ちすくむミネラに向かって走った。


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─風─

「苦戦だなミランダ」
「シャメーナ様、お力を」隣で膝をついたミランダが両手を組んで頭を下げた。ミネラもそれに倣った。地表に小さくまとまった二つの影が並ぶ。ミネラはミランダの影を見つめて、たいした力にもなれぬ己を恥じた。

「見えないとのことだな」
「はい、まったく見えません」ミランダは顔を上げた。ミネラもシャメーナを見上げた。なんと柔和で神々しい顔をしているのだろう。
「そこの切り株でよい。腰掛けなさい」

「では訊こう、見えるとはどういうことだ」
「そこにあるものが、この目に映ることでしょうか」ミランダは人差し指を目の前に立てた。

「では、見えぬとはどういうことだ」
「そこにないことですか」
「いや、風は見えぬであろう。けれど存在し、木々を揺らす」
「はい、確かに」
「ものが動くときには、大なり小なり風を起こすものである、その風を感じて闘うがよい。風を感じぬ時は風を受けよ。魔物の悲しい性として、彼らはさらに醜悪になりつつある。風はお前たちに味方するに違いない」
「風、ですね。はい、ありがとうございます」



「ただひとつ、気がかりなことがあるが、それは手立てを教える類のものではなく、お前たちで解決してゆくしかない。どう判断を下そうと、悔やまぬことだ」
「それを、その気がかりなことを、教えていただくわけにはまいらぬのでしょうか」
「この世には、聞かぬ方がよいこともある」

シャメーナの助言はこれだけだった。
ミランダはなぜ、それだけですかと訊かないのだろう。これしきの助言で闘えるのだろうか。しかし、イシュリムが手立てを求めるほど偉大な人に向かって、自分だって訊けるだろうか。
ミネラはシャメーナの言葉の意味を反芻した。

「闘いはやがて終わる。どんな結果が待っていようとも、怖じけず進むことだ。魔物にも一片の良心はある。魔物の剣は魔物を斬ることにおいて、もっとも威力を発揮する」
シャメーナは諭すように、穏やかに頷いた。


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─シャメーナ─

「ミランダ、シャメーナ様は答えをくれるだろうか」声をかけたミランダは少し首をかしげた。
「会ってみなければなんとも言えないけれど、なんらかの方策は与えてくれるでしょう」

こうして馬に揺られていると眠気を催すほどだ。
日は高く、空は青く、時折吹く風に散在する草が揺れる平和な荒野だ。今このときも魔物が襲い来ているなどとは、とても信じられない。クロン爺とイエナ爺に聞かされた魔物との闘いなど、ミネラにとっては遠い昔のおとぎ話だった。

「ミネラはどう思う?」
「なにを?」横を向いたが、ミランダは真っ直ぐ前を見つめている。
「イエナ爺は、撃退を祝う祭りの魔物より、自分たちが闘った魔物の方が力を強めていたと言ったわ」
「それはクロン爺も言ってたな。伝説に残る魔物は斬ってきたりはしなかったらしいと」

「まったく姿が見えないということは、さらに力を強めたとしか思えないわね」
「そうなのかもしれない。それよりミランダ、どうしてこっちを見ない」
「馬に慣れていないから、横を見たら落ちてしまうわ」
「落ちたりはしないさ」
ミランダが恐る恐るこちらを見た。女のくせに短く切った髪と、通った鼻筋。誰もが口にするように、彼女の淡い褐色の瞳は引き込まれそうな色を放っている。

二人は幼い頃から兄妹のように育ってきた。ミランダが美しい女だということに気がついたのはいつのことだったろう。
「ミネラ、こっちを見過ぎ」



川沿いを進んでたどり着いたシャメーナの村もまた、森のようであった。しかし、うっそうとはしておらず開放的な雰囲気を漂わせていた。

「ミネラ、お願いします」ミランダに言われて一歩前に出た。
「どなたか、おられますでしょうか」村の入り口で声を上げた。すぐさま、木陰から腰の低そうな男がひとり出てきた。
「もしや、ミランダ様とミネラ様でしょうか」
「は、はい」隣に立つミランダは驚いたように答えた。シャーマン・シャメーナは二人の動きをすでに知っていた。

「さ、こちらへ」男の声にミランダの背を押し、歩みを促した。男に案内されて木立を抜けた。なんと広い村なのだろう。畑もあれば果実の実った一角もある。飼われている鳥たちがのんびりと歩いている。
「イエナ爺もクロン爺もここを歩いたのね」ミランダが振り向いた。その瞳は疑うということを知らぬ色に見えた。この子を魔物の手に掛けさせてはならない。ミネラは再び、強く思った。


「よく来たな、ミランダにミネラ」
「イエナ爺に聞いたとおりでした」
「なにがだ?」
「わたしたちがここへ向かったことを、シャメーナ様はすでにご存じだったことです」
「そうか、そんなことまで」シャメーナは優雅に笑った。
「それでは、私が人ではないことも」
「はい、木に宿った神だと」
「神などとは恐れ多い。ただのシャーマンにすぎん」シャメーナは腕を広げ衣を揺らした。



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─策を求めて─

イシュリムの撤退指示に、村の中は騒然としていた。
村で待機していたシオンが走り寄ってくる。
「ミランダ殿、なにが起こったのだ」
「シオン様、魔物が見えないのです」
ミランダの答えに、男たちがざわめいた。
「正対しても見えぬのですか」
「正対したかどうかはわかりません。けれど、影も形も見えないのです」


「イシュリム様、見えません」村に走り込んできたミシュンが息を切らせている。
ざわめきはさらに大きくなる。
「ミシュンにも見えぬか」
「まったく」
「わしにも見えぬのだから当然と言えば当然だが」イシュリムの顔も深刻さを増している。
「セブナは見えたか」 
「ぼんやりとは」頷くセブナの顔も険しい。先の闘いではしっかりと見えていたと聞いた。人の悪意はセブナの眼力もかわすほどに、より酷くなったということか。

「してセブナ、どれほどおるのじゃ」
「奥行きはわかりませんが、幅およそ10間(18m)ほど。前回よりも多勢に見えます」
「なんと……」イシュリムは眉間に苦悩をにじませた。
「始末の悪いことに、奴らは湧いて出てきますからの」セブナもまた、厳しい表情のまま荒野を睨んだ。

「イシュリム様、どう闘えばよいのでしょうか」シオンの声に、イシュリムは天を仰いだ。
「ミランダ、シャメーナの村へ行き手立てを聞いてきてはくれまいか。このまま闘えば被害が増すだけだ」
「はい、わかりました」
「村の正面は男たちが出て引きつけておこう。ミランダは馬に乗り、川向こうから出るがよい」
「私も参ります」ミネラが前に進み出る。
「もちろんじゃ、しかと送り届けよ」



「身体は真っ直ぐに保て。前屈みになっても後ろにのけぞってもならん。顔を上げて遠くを見よ。肩の力を抜け。手綱は左右均等に持て。ふくらはぎは馬に接していよ」
初めて乗った馬上でイシュリムの教えを聞きながら、ミランダはひとつひとつ頷いた。

「気が急(せ)いても、慣れるまでは走らせてはならぬぞ」
「わかりました」
「気をつけてゆけ」

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─逃避─

イシュリムが歩み出た。その横を走り抜け、ミランダは倒れ込むように結界に逃れた。
「ミランダ、なにが起こっておる!」
「なにも見えません!」イシュリムの背中に叫んだ。
「なにも、見えぬだと」
「はい」

剣を振りかざし、イシュリムは走った。長い衣が風に乱れる。腹ばいになり、ミランダはそれを見つめた。息と共に砂埃が舞う。ミランダはあごを上げた。

「ミネラ! ここはわしに任せて、結界へ急げ!」
ミネラが結界に向けて走る。
ミネラ早く……それは、震える小さい声にしかならなかった。

射るように見つめ続けるミランダの視界で、イシュリムが剣を振るう。黒い飛沫(しぶき)が派手に飛ぶ。
走り、剣を振り上げ、前を斬りつけ横を払う。そのたび、黒い飛沫は確実に舞い飛んだ。

なんということだろう、イシュリムは見えているのではなく、気配を感じて闘っているに違いない。
イシュリムを凌いだと言われた我が祖先ネイトンとは、どのような男だったのだろう。イシュリム以上の剣の使い手がいたとは、とても信じられない光景だった。



ミネラが飛び込んできた。イシュリムも後に続く。
「イシュリム様、何も見えません!」立ち上がったミランダは再び訴えた。
「イシュリム様、魔物はまったく見えません!」ミネラも肩で息をしながら声を上げる。

「引け! 全員村へ入れ! 引け! 戻れ!」イシュリムの、叫びにも似た声が荒野に響き渡った。
「お前たち、走れるか」
「はい、なんとか」ミランダは答えた。
「後ろはわしが守る。背後は気にせず走れ」

「早く戻れ! 早く早く!」
援護のために剣を振りかざして村から走り出てきた男たちが口々に叫ぶ。荒野にもうもうと土埃が舞い立つ。
「イシュリム様! 後は任せてお戻りを!」
その男たちの間をすり抜け、ミランダとミネラは村へ飛び込んだ。

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─闘いへ─

ミランダはイエナの、ミネラはクロンの剣を手にしていた。それぞれが黄金色に輝きを放ったことは、ミランダにとって何を置いても喜ばしいことだった。

剣を振り切るときには、濡れた衣を絞るように両の手を絞れ。手練れならいざ知らず、魔物を片手で斬りつけるようなまねはするな。それがイシュリムの教えだった。魔物を斬って捨てたときの衝撃は想像を超えて強いらしい。

闘いに挑む男たちおそよ30人。残りは村で臨戦態勢を整えて見つめている。緊急の逃げ場所として、結界を作ったイシュリムが大地に座る。

それぞれが、すでに黄金色に輝かせた剣を持ち、距離を置いて注意深く荒野を歩く。風が吹き、砂塵を巻き上げる。

「遠くへ行かずともよい! 奴らはやってくる」イシュリムの声がする。男たちは無言で頷く。
「ミランダ、大丈夫か」隣を歩くミネラの声にミランダは頷いた。
「怖いけど、大丈夫よミネラ」



ブフッと鈍い音がして、近くにいた男たちが驚いたように音の源を注視する。ミランダとミネラも弾かれたように振り向いた。
そこには立ち止まっている男がひとり。前を向いたまま、その目は虚ろだ。
「どうした! 今のはなんの音だ」他の男が問いかける。

立ち止まっていた男の両腕がドサリと落ちた。すぐさま胴体から血しぶきが上がる。それを待っていたかのように、胸から上が斜めに滑り落ちてゆく。続いて腹部が反対側へぐにゃりと崩れ落ちた。
闘いに出ている男たちがその男へ走り寄る。たどり着く前に腰から下がどうと音を立てて倒れた。

「なんだこれは!」
「油断したな」
「いや、後ろから斬られたのやもし……」言葉を終える前に男の上半身が宙に飛んだ。激しく血しぶきが上がる。続けざまに両の腿が斬り離された。
「来てるぞ!」
全員が走って互いから離れた。同士討ちを避けるためだ。

左の耳元で風が鳴った。ミランダは跳び退(すさ)り転げ回り、立ち上がって剣を振るった。右の耳元で風が鳴り、風圧が襲った。
見えない。何も見えない。

「ミランダ! 結界へ逃れろ!」剣を振り回すミネラが叫ぶ。ミランダはイシュリムの結界へ向けて走った。
背後から斬られる恐怖に膝に力が入らない。足がもつれる。鼓動が耳の奥で激しく鳴る。

「ミネラも早く!」ミランダは叫んだ。
結界の中でイシュリムは仁王立ちをしている。白い衣が風に翻(ひるがえ)り、その表情は怒れる神のようであった。

「イシュリム様!」恐怖のあまり、ミランダは助けを求める声を上げた。
「ミランダ急げ!」叫ぶやいなや、イシュリムは杖の剣を抜いた。黄金色の細く長い剣が、朝日を受けて輝いた。


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─シオン─

「目が覚めました、セブナ様」
「静かになったと思えば、お前寝ておったのか?」セブナが歩み寄る。
「このようなときに気合いの足りん男じゃ。ところで名は名乗ったのか? ミランダがどう接していいものか困り顔じゃ」セブナが、自身が困ったようにゆらゆらと頭を左右に傾ける。

「ああ、遅れました。シオンと申します」若者は律儀に頭を下げた。
「スベラ様の?」
「ご存じで?」
「剣の鍔の透かし彫りでわかりました。イエナ爺とお揃いだと聞いております」
「お揃いとは恐れ多いですが、我が祖先と伝説のネイトン様とは仲がよかったようですね」シオンが微笑んだ。ごつごつと厳(いか)つい感じのミシュンに比べ、穏やかな顔をした青年だった。

「スベラ様は、イシュリム様に腰抜けとあだ名されたが、それは普段のこと。剣の腕は他を圧倒した」セブナが口を開いた。
「シオンもそれを引いておる。けれども、実戦をした者はここには誰もおらん」セブナが素早く辺りを見回した。
「わしと、イシュリム様を除けばな」
その事実の大きさに、男たちに動揺が走る。

「しかし、かつての闘いも先の闘いも、みな初めて魔物に接した。そして、被害は出たけれども勝ったのだ。荒野の民を救ったのだ。案ずるな、己と剣を信じるのだ」



「イエナ爺が言っていました。魔物は人の悪意の塊(かたまり)だと」
「うむ、それはわしも聞いた。シャメーナがそう伝えてきたそうだ」イシュリムは頷いた。
「今回もまた、人の心が乱れたから出現したのでしょうか」
「それはわからぬ。しかし、相手が何であれ、我らは闘うのみ。余計なことなど考えぬことだ」
「はい」ミランダは頷いた。

「ところで剣を使える人の数は幾人ほどでしょうか」ミランダはもっとも気にかかっていたことを口にした。
「100人は下らぬ」イシュリムの目は自信に満ちている。
「それは心強いです」

「かつての闘いは総員戦だった。見えない魔物に初めて接して、わしも指揮官の立場を降りて剣を振るった。
先の闘いは二手に分かれたが、みな疲労困憊であった。よって、今回は3つの集団に分かれて闘うこととする。戦況を見て随時交代する。もしもの時のために、前回と同じく、わしは結界を作って村の外にいることとする。よいな」


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