─間合い─
「触れずに斬ってくるとするなら」ミシュンと共に剣を抜いて、セブナに叱責された若者が口を開いた。
「間合いの見きわめが、まさしく命がけですね」
「間合いを見きわめるとは、どういうことじゃ」セブナが若者を見上げる。
「ですから、斬られぬ間合いを見つけることです」
「馬鹿者、その間合いがわかったときには斬られておるわ」セブナがあきれたように眉を曲げた。
セブナの接し方は、孫にあたるミシュンとこの若者には厳しいようだ。それだけ見込まれているということだろうか。
「そのとおりだ。死者だけが斬られる距離を知っているなどとは笑い話にもならん。そしてだ」
イシュリムが杖を左の肩から振りかぶり、ぴたりと水平に止めた。
「我らが剣は、人の英気によって斬れる距離が違う。闘い方はその人間だけのものゆえ、誰も助言はできん」イシュリムの琥珀色の瞳がぎろりと光った。
「さらにだ」イシュリムが杖の先を男たちひとりひとりに向けた。
「我らよりも遠くから斬ることができるとしたらどうだ」杖をコンと地面に打ち立てみなを見回すイシュリムの姿に、一同を重い空気が包んだ。
「どうだと訊いておる」シンと静まりかえったきり、誰も声を発しない。
咳払いひとつ憚(はばか)られる静寂を破ったのはセブナだった。
「遠くから斬りつけることができるということは、長い剣と同じであろう。長かろうと短かろうと、かわしさえすれば負けるはずはない。魔物の正面に立てば黒い剣の軌跡は見えるのじゃ。大きい者が勝つと誰が決めた。長い剣が必ず勝つとなどという愚かしいことを誰が信じる」セブナが意気消沈する男たちを一喝する。

「イシュリム様が剣を取った闘いは100人で挑んで半数が命を落とした。先の闘いは、寄せ集めに等しい23人だった。そして、生き残ったのはたったの8人。忠告しておく。死を恐れるものから先に死んでゆく」
セブナが、男たちひとりひとりの心胆を吟味するように眺めていく。真っ直ぐにセブナを見つめる男もいれば、うつむき加減の男もいる。
「かつてイシュリム様が闘った。イエナ様が、クロン様が、スベラ様が闘った。我が父ティエンも闘った。我らは歴史に名を残す闘う部族。お前たちはこのときのために研鑽を積んできたのではないのか?」セブナが再び、みなを睥睨(へいげい)する。男たち全員が強く頷く。
「だとするなら」セブナが小振りの剣を持った腕を前に突き出す。
「我らが剣の前に敵はないのじゃ!」
イシュリムが強く同意するように頷いた。
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