旨いアロノフスキーは宵に食え。

ということで開催してる「ひとりアロノフスキー祭」、最終夜は・・・
 
「レスラー」THE WRESTLER
2008年 アメリカ
 
このお祭りを始めるまでは「ブラック・スワン」しか観たことがなかったアロノフスキー。「レスラー」ってもっと最近の映画だと思ってたけど「ブラック・スワン」より前だったのか。
 
さて、ミッキー・ロークがやや苦手で避けていた本作、今まで観てなくて大正解!だってこんな傑作を知った今夜、こんなにも興奮してるんだから!今まで観てなくてラッキーとしか言いようがない。
 
まあ随分とハリウッドな作風になったものだなと、「レクイエム・フォー・ドリーム」「π」を観たところなので思ってしまった。
例えば、ミッキー・ローク演じるランディ”ザ・ラム”ロビンソンがサプリか鎮痛剤を服用する場面などは、レクイエムらしさもπ成分も皆無だ。
えー、そこアロノフスキーだったらさあ、蓋をパカっと開けて変な効果音入れて、タブレットを経口したら瞳孔開くカット入れなあかんやろー、それぞれ超短いカットで!!などと思ったり。
 
でも、中盤の見せ場が「レクイエム・フォー・ドリーム」のラスト15分に酷似していて、そんな思いは吹き飛んだ。ステイプラー(勝手命名)との対戦のことだ。
場外乱闘でどろどろの汗と血にまみれたふたりはジェニファー・コネリーとその相手だ。ほら、遂には観衆が投げ出した義足(長い1本の棒)を使用するではないか。
われを失い、異常なまでに興奮している観衆は、ジェニファー・コネリーの凌辱プレイに大枚はたく変態どもだ。
踊る中毒者に見る中毒者、同じ中毒者なら…ことが終わり、吐瀉してしまうところも同じだ。
 
そもそも、場外に投げだされて真っ二つに折れた鎖骨はいまもなお呼吸すると痛むのに、大歓声を聞くと痛みを忘れるプロレスジャンキーなんていかにもアロノフスキー好みの設定。
 
ミッキー・ロークが凄い。
日焼けサロンのマシンに入る時、ジーンズをちゃんと脱がない(脱げない)情けない初老っぷりが見事。
心臓発作を起こして、いよいよレスラーやってる場合ではないなと感じて、心の安らぎを感じているお気に入りストリッパーを真っ先に訪ねたり、別居中の娘を訪ねてみたところ「二度と現れんなボケ」とこっぴどくあしらわれたり・・・情けない演技が最高ですね。
区役所みたいなファンミーティング会場でファンに見せるやさしい表情も、娘の前で流す涙も、気分良く惣菜売り場で働く姿も…アロノフスキーがこんな「うまくいきそうな」シーン撮るなんて!!
あ、ファンミ会場で暇そうにしてるレスラーたちの雰囲気も実に良かった。悪いレスラーが1人もいないのもいいですね。あ!作品通して悪い人まったく出てこないのか!ランディが働くスーパーの上司が軽くムカつくくらいだ。アロノフスキー謎すぎる。ってかいつまでも「レクイエム・フォー・ドリーム」引きずってるこっちが悪いのか?

語るところ多すぎるからプロレスの話はあんまりしません。ほんとに飛んでてビックリしました。

場末のストリッパー キャシディ(本名パム)を演じたマリサ・トメイにも相当驚かされた。だって出てるって知らずに見たから。いまだに僕の中のマリサは「忘れられない人」だから、あんな姿でポールダンスを見せるなんて…
ランディとの距離が詰まらないように抗いながらも、ランディ娘の買い物に付き合うキャシディに泣いた。本当は想いを寄せてくれるランディの胸に飛び込みたいのにそれをしない。キャシディもまた、そこから抜け出せない人なんですよね。現状中毒者。

で、ランディがヤバイって時に本名のパムとして駆け付けたのに、その想いが届かなくて…悲しすぎる人生。

娘ステファニーもまた、和解したのに結局はランディを許すことができず、そこから抜け出せない人として描かれる。


コロナ禍のいま、世界規模で試されていることにリンクしますね。
コロナ前に戻るなんてことはないのに。
前の状態から抜け出せるかどうか。
戻ろうとしない覚悟はあるか。
新しい、もしかしたら本来的な生活をさっさと受け入れられるか。

最後に、ハードロック好きとしては音楽について触れておかねば。
クワイエットライオット、シンデレラ、ファイヤーハウス、ラットは2曲、ガンズほか、アロノフスキーの選曲だとしたら意外すぎる!ファイヤーハウス使った映画なんて間違いなく他にないし、ラット2曲中1曲が「I'm insane」だなんて!

ランディとキャシディの「80年代が最高、90年代死ね」的なセリフも面白かった。ニルヴァーナをズバリ嫌いって言うセリフなんていままで聞いたことがない。しかもエンディングがBOSSのオリジナル曲…

なんら落ち度のない、沁みる素晴らしい傑作でした。

■「レクイエム・フォー・ドリーム」はこちらです!