<バラード、
小松左京、
豊田有恒>
1441「時の声」
ジェイムズ・グラハム・バラード
短編集 吉田誠一:訳 創元推理文庫
収録作品
1.時の声
2.音響清掃
3.重荷を負いすぎた男
4.恐怖地帯
5.マンホール69
6.待ち受ける場所
7.深淵
プールの底一面に不可解な模様を刻みつける生物学者……
超音波音楽時代の到来、
凋落したかつてのプリマドンナ、
過去の音を清掃する啞の青年……
開頭手術によって睡眠機能を奪われた男たち……
灼熱の小惑星上にそそり立つ巨大な石柱の謎……
海洋が消滅して死に瀕している地球、
その最後の水たまりに生き残っていた一匹の魚……
読者を魅了する現代SFの鬼才バラードが描く異様な新世界!
<ウラスジ>
『時の声』
少々長くなるけど、
睡眠時間が徐々に長くなっていき、
やがては永遠に眠りつづけるようになるという
麻酔昏睡症候群が数年前から全世界に現われはじめ、
その診療にあたっていた神経外科医ロバート・パワーズもまた、
いつかその症候にとりつかれていた。
こういった舞台が前提としてあって、
*<沈黙の対ペア>について考察していた生物学者ホイットビイ。
*<沈黙の対ペア>とは――。
*”新たな進化段階へのメッセージを持っているのではないかと
憶測されている二つの無為な遺伝子である。
*「睡眠時間の長さ」
➡ 「基礎代謝の低下」
➡「生物の寿命の終焉」
➡「その終末を切り抜けるための<沈黙の対ペア>の発動。
*<沈黙の対ペア>が、
放射線の増大という環境変化に適応する
新しい生物学機能を生み出す、
という仮説を得たホイットビイ。
*様々な生物に放射線の投射実験を行う。
*その結果――。
さまざまな命題が提示され、それらが絡み合い、
表題となった ”時の声” に向かって集約していくさまは、
一種のカタルシスを味合せてくれます。
60ページ前後の短編に凝縮された、
バラードの言う<小宇宙>がここにあります。
<蛇足 その1>
ここに用いた用語の数々は、
例によって『世界のSF文学:総解説』から借り受けたものですが、
最後に『時の声』を分析されている山田和子さんの言葉を
またまた借りて、締めにしたいと思います。
<沈黙の対ペア>という生物学的ファクトと
麻酔昏睡症候群という精神医学的シチュエイションを
統合して宇宙の終末にエクストラポレートする展開は
まさしくハード・SFの極みというべきであり、
そこに主人公のアイデンティティの問題を導入したところに、
バラードの新しいSFへの指向性が如実に表れている。
<山田和子:『世界のSF文学:総解説』より>
<蛇足 その2>
アンナ・カヴァンの『氷』を
山田和子さん訳で読んだばかりだったな……。
1442「時の顔」
小松左京
短編集 吉田夏彦:解説 早川文庫
収録作品
1.時の顔
2.物体O
3.お召し
4.サテライト・オペレーション
5.自然の呼ぶ声
6.終りなき負債
7.地には平和を
8.黴
ストーリイ・テリングの巧みさ、
コンポジションの確かさ、
レパートリーの広さ
で並ぶものなき
本邦SF界の第一人者の傑作を網羅した
傾向別短篇集第一弾!
時空を超えて作用する呪法の恐怖を描いた
「時の顔」、
太平洋戦争がいまなお続いている別の歴史の物語
「地には平和を」
など
ハードSF八篇を集める。
<ハヤカワ文庫解説目録:1986>
『時の声』の次は『時の顔』か……。
小松左京の(初期)短編を語る上で外せない三編が、
『易仙逃里記』
『お茶漬の味』
『地には平和を』
それぞれデビュー作だったり、
コンテスト入賞作品だったりするんですが、
何故か『地には平和を』以外は、
短編集の表題作にはなり切れていません。
その『地には平和を』さえ、
角川文庫になる前は、
ここに示した『時の顔』に紛れ込んでいる有様ですので……。
これは ”御三家” の他の二人にも当てはまる状況でして、
星新一
『人造美人』(『ボッコちゃん』に改名)
『セキストラ』
その前の直木賞候補作のショートショート。
筒井康隆
『無機世界へ』(『幻想の未来』の原型)
『お助け』
……これらの作品は、
何と言う短編集に入っているでしょうか?
またこのお三方に限らず、
次に紹介する豊田有恒さんも含め、
黎明時のSF作家の短編は、
SF雑誌、中間小説誌に書き飛ばされ(?)
短編集として刊行される時に
出世作や○○受賞作が表題に上ることが少なかったようで……。
<余談>
60年代から70年代にかけては、
芥川賞や直木賞受賞作もそんな憂き目にあっています。
五味康祐 芥川賞受賞作 『喪神』
(『秘剣・柳生連也斎』所収)
中山義秀 芥川賞受賞作 『厚物咲』
(『碑・テニヤンの末日』所収)
藤原審爾 直木賞受賞作 『罪な女』
(『泥だらけの純情』所収)
……
いまじゃ考えられないですよね。
ビジネス的にも。
……こういうの、どっかで書いた気がする……。
1443「自殺コンサルタント」
豊田有恒
短編集 あとがき 早川文庫
収録作品
(目次)
第一部
◯メビウス・インターチェンジ
◯ハイウェイマン
◯スピードマン
◯マシンは変わらない
◯マイカー悪女
◯スーパーマン
第二部
◯停視料
◯ニュース時代
◯免許時代
◯クーデター
◯解放区
◯ベスト・ワイフ
◯美人ポスター
◯坊や
第三部
◯明日をわが手に
◯魔界へ来た男
◯欲望ゼロの日
◯動物上位時代
◯新・日本海海戦
◯自殺コンサルタント
≪悩める自殺志願者よ来れ!
あなたのお好みに応じ、
各種の ”死に方” を用意してお待ちしています≫
私は自殺コンサルタントだ。
死を決意した人が心おきなく死ねるよう、
面倒な手続きを代行するのが任務である。
ある日、
私の事務所にすごい美人の依頼人がやってきた。
いま死んではもったいないような女だ。
しかし、ビジネスはビジネス。
私は早速、とっておきのお勧めコースを紹介した。
だが……。
痛烈に現代を諷刺するユーモアSFの傑作、
ほか19編を収録。
<角川文庫によるウラスジ>
さてさて、
”SF御三家” の次に位置する作家さんたち。
この人たちを私は<二人セット>にして、
扱っていました。
曰く、
光瀬龍&眉村卓 (ジュブナイル)
平井和正&豊田有恒 (テレビアニメ)
矢野徹&福島正実 (大御所&翻訳者)
みたいな感じ。
かなりザックリしたくくり。
独立した
”ユーモアSF短編集” が刊行されているのは、
その手のエキスパート筒井さんを除いては、
豊田さんと平井さんぐらいかな。
豊田さんはこの『自殺コンサルタント』。
平井さんは『怪物はだれだ』。
ハードボイルドな平井和正さんはともかく、
豊田さんには<時間もの>とともに、
ユーモア系の作品も多数あります。
『タイムスリップ大戦争』
『スペースオペラ大戦争』
『パラレルワールド大戦争』
このうち『パラレルワールド大戦争』だけを
読みそびれてしまいました。
(この他にもあるようなんだけど、
取りあえず角川文庫から出ていた三作を
コンプリートしたい)
<追記>
豊田さんは集英社文庫から
『ユーモアSF傑作選』を編者として刊行しています。
(『ロマンチックSF傑作選』とともに)