涼風文庫堂の「文庫おでっせい」479 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<バラード、

小松左京、

豊田有恒>

 

1441「時の声」

ジェイムズ・グラハム・バラード
短編集   吉田誠一:訳  創元推理文庫
収録作品
 
1.時の声
2.音響清掃
3.重荷を負いすぎた男
4.恐怖地帯
5.マンホール69
6.待ち受ける場所
7.深淵
 
プールの底一面に不可解な模様を刻みつける生物学者……
 
超音波音楽時代の到来、
凋落したかつてのプリマドンナ、
過去の音を清掃する啞の青年……
 
開頭手術によって睡眠機能を奪われた男たち……
 
灼熱の小惑星上にそそり立つ巨大な石柱の謎……
 
海洋が消滅して死に瀕している地球、
その最後の水たまりに生き残っていた一匹の魚……
 
読者を魅了する現代SFの鬼才バラードが描く異様な新世界!
 
                        <ウラスジ>
 
『時の声』
少々長くなるけど、
 
睡眠時間が徐々に長くなっていき、
やがては永遠に眠りつづけるようになるという
麻酔昏睡症候群が数年前から全世界に現われはじめ、
その診療にあたっていた神経外科医ロバート・パワーズもまた、
いつかその症候にとりつかれていた。
 
こういった舞台が前提としてあって、
 
*<沈黙の対ペア>について考察していた生物学者ホイットビイ。
*<沈黙の対ペア>とは――。
*”新たな進化段階へのメッセージを持っているのではないかと
  憶測されている二つの無為な遺伝子である。
*「睡眠時間の長さ」
   ➡ 「基礎代謝の低下」
   ➡「生物の寿命の終焉」
   ➡「その終末を切り抜けるための<沈黙の対ペア>の発動。
 
*<沈黙の対ペア>が、
  放射線の増大という環境変化に適応する
 新しい生物学機能を生み出す、
   という仮説を得たホイットビイ。
*様々な生物に放射線の投射実験を行う。
*その結果――。
 
さまざまな命題が提示され、それらが絡み合い、
表題となった ”時の声” に向かって集約していくさまは、
一種のカタルシスを味合せてくれます。
 
60ページ前後の短編に凝縮された、
バラードの言う<小宇宙>がここにあります。
 
<蛇足 その1>
ここに用いた用語の数々は、
例によって『世界のSF文学:総解説』から借り受けたものですが、
最後に『時の声』を分析されている山田和子さんの言葉を
またまた借りて、締めにしたいと思います。
 
 
<沈黙の対ペア>という生物学的ファクトと
麻酔昏睡症候群という精神医学的シチュエイションを
統合して宇宙の終末にエクストラポレートする展開は
まさしくハード・SFの極みというべきであり、
そこに主人公のアイデンティティの問題を導入したところに、
バラードの新しいSFへの指向性が如実に表れている。
 
<山田和子:『世界のSF文学:総解説』より>
 
<蛇足 その2>
アンナ・カヴァンの『氷』を
山田和子さん訳で読んだばかりだったな……。
 
 
 
 

1442「時の顔」

小松左京
短編集   吉田夏彦:解説  早川文庫
収録作品
 
1.時の顔
2.物体O
3.お召し
4.サテライト・オペレーション
5.自然の呼ぶ声
6.終りなき負債
7.地には平和を
8.黴
 
ストーリイ・テリングの巧みさ、
コンポジションの確かさ、
レパートリーの広さ
で並ぶものなき
本邦SF界の第一人者の傑作を網羅した
傾向別短篇集第一弾!
 
時空を超えて作用する呪法の恐怖を描いた
「時の顔」、
太平洋戦争がいまなお続いている別の歴史の物語
「地には平和を」
など
ハードSF八篇を集める。
 
            <ハヤカワ文庫解説目録:1986>
 
 
『時の声』の次は『時の顔』か……。
 
小松左京の(初期)短編を語る上で外せない三編が、
『易仙逃里記』
『お茶漬の味』
『地には平和を』
 
それぞれデビュー作だったり、
コンテスト入賞作品だったりするんですが、
何故か『地には平和を』以外は、
短編集の表題作にはなり切れていません。
 
その『地には平和を』さえ、
角川文庫になる前は、
ここに示した『時の顔』に紛れ込んでいる有様ですので……。
 
これは ”御三家” の他の二人にも当てはまる状況でして、
 
星新一
『人造美人』(『ボッコちゃん』に改名)
『セキストラ』
その前の直木賞候補作のショートショート。
 
筒井康隆
『無機世界へ』(『幻想の未来』の原型)
『お助け』
 
……これらの作品は、
何と言う短編集に入っているでしょうか?
 
またこのお三方に限らず、
次に紹介する豊田有恒さんも含め、
黎明時のSF作家の短編は、
SF雑誌、中間小説誌に書き飛ばされ(?)
短編集として刊行される時に
出世作や○○受賞作が表題に上ることが少なかったようで……。
 
 
<余談>
60年代から70年代にかけては、
芥川賞や直木賞受賞作もそんな憂き目にあっています。
 
五味康祐 芥川賞受賞作 『喪神』 
(『秘剣・柳生連也斎』所収)
中山義秀 芥川賞受賞作 『厚物咲』 
(『碑・テニヤンの末日』所収)
藤原審爾 直木賞受賞作 『罪な女』 
(『泥だらけの純情』所収)
……
 
いまじゃ考えられないですよね。
ビジネス的にも。
 
……こういうの、どっかで書いた気がする……。
 

1443「自殺コンサルタント」

豊田有恒
短編集   あとがき  早川文庫
収録作品
(目次)
 
第一部
◯メビウス・インターチェンジ
◯ハイウェイマン
◯スピードマン
◯マシンは変わらない
◯マイカー悪女
◯スーパーマン
 
第二部
◯停視料
◯ニュース時代
◯免許時代
◯クーデター
◯解放区
◯ベスト・ワイフ
◯美人ポスター
◯坊や
 
第三部
◯明日をわが手に
◯魔界へ来た男
◯欲望ゼロの日
◯動物上位時代
◯新・日本海海戦
◯自殺コンサルタント
 
 
≪悩める自殺志願者よ来れ!
 あなたのお好みに応じ、
 各種の ”死に方” を用意してお待ちしています≫
 
私は自殺コンサルタントだ。
死を決意した人が心おきなく死ねるよう、
面倒な手続きを代行するのが任務である。
 
ある日、
私の事務所にすごい美人の依頼人がやってきた。
 
いま死んではもったいないような女だ。
 
しかし、ビジネスはビジネス。
 
私は早速、とっておきのお勧めコースを紹介した。
 
だが……。
 
痛烈に現代を諷刺するユーモアSFの傑作、
ほか19編を収録。
 
              <角川文庫によるウラスジ>
 
さてさて、
”SF御三家” の次に位置する作家さんたち。
 
この人たちを私は<二人セット>にして、
扱っていました。
 
曰く、
光瀬龍&眉村卓  (ジュブナイル)
平井和正&豊田有恒 (テレビアニメ)
矢野徹&福島正実 (大御所&翻訳者)
 
みたいな感じ。
 
かなりザックリしたくくり。
 
独立した 
”ユーモアSF短編集” が刊行されているのは、
その手のエキスパート筒井さんを除いては、
豊田さんと平井さんぐらいかな。
 
豊田さんはこの『自殺コンサルタント』。
平井さんは『怪物はだれだ』。
 
ハードボイルドな平井和正さんはともかく、
豊田さんには<時間もの>とともに、
ユーモア系の作品も多数あります。
 
『タイムスリップ大戦争』
『スペースオペラ大戦争』
『パラレルワールド大戦争』
 
このうち『パラレルワールド大戦争』だけを
読みそびれてしまいました。
 
(この他にもあるようなんだけど、
取りあえず角川文庫から出ていた三作を
コンプリートしたい)
 
<追記>
豊田さんは集英社文庫から
『ユーモアSF傑作選』を編者として刊行しています。
(『ロマンチックSF傑作選』とともに)