涼風文庫堂の「文庫おでっせい」457 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<牧野信一、

森内俊雄、

村松友視>

 

1378「鬼涙村」

牧野信一
短編集   保昌正夫:解説  旺文社文庫
収録作品
 
1.父を売る子
2.村のストア派
3.吊籠と月光と
4.西部劇通信
5.ゼーロン
6.酒盗人
7.泉岳寺附近
8.鬼涙村
9.裸虫抄
10.淡雪
11.サクラの花びら
12.文学的自叙伝
 
 
ドン・キホーテのロシナンテさながら、
駄馬ゼーロンを龍巻村目指して疾駆させるかと思えば、
「担がれる」と呼ばれる奇態な因習の遺る鬼涙村へ
読者を誘うマキノ幻想世界――。
 
本書は、
露悪的ともみえる筆致で父と子の愛憎を描き、
やがて牧歌的・空想的作風を展開して
無類の文学世界を構築した
鬼才 牧野信一の代表作11編と
「文学的自叙伝」を収めた。
 
                        <ウラスジ>
 
牧野信一。
 
前回の葛西善蔵、太宰の流れで読んだようなんですが……。
 
初期:私小説
中期:幻想小説
後期:再び私小説
 
中期は、文壇内で、
”ギリシア牧野” と呼ばれていたそう。
 
私小説の代表作が『父を売る子』。
 
彼は、自分の父親を取りいれた短篇小説を続けて二つ書いた。
或る事情で、或日彼は父と口論した。
その口論の余勢と余憤とで、
彼はそれまで思い惑うていたところの父を取りいれた
第一の短篇を書いたのだ。
その小説が偶然、父の眼に触れた。
父親は憤怒のあまり、
「もう一生彼奴とは口を利かない。
――俺が死ぬ時は、病院で他人の看護で死ぬ」
と顔を赤くして怒鳴ったそうだ。
 
この出だし、
”諧謔に充ちた自虐” の観が窺え、
陰鬱で内向的な私小説とは
一線を画しているようです。
 
幻想小説の代表作『鬼涙村』『ゼーロン』
 
同じ舞台が使われています。
「鬼涙沼」に「鬼涙村」
 
ある意味、幻想小説の常套手段、
場所や地域における、”異世界の構築” 。
 
世界的に言えば、”クトゥルフ聖地(?)” 。
 
「ゾティーク」「ヒュペルポレオス」「アヴェロワーニュ」
C・A・スミスの<クトゥルフ>に基づいた、
地域限定妖異譚。
 
<余談>
三島由紀夫が『作家論』の中で、
牧野信一を取り上げています。
 
内田百閒、稲垣足穂、と同じ並びで。
 
まず夭逝した作家を
梶井基次郎、中島敦、牧野信一、
と同列に置き、
 
 
牧野信一は前述の三人のうちでは、
又さらに異色の作家であって、
あとの二人のストイックな生き方と作品形成に比べると、
ヴァガボンド的要素に富み、私小説の系統ながら、
独自の幻想とどす黒いユーモアに溢れ、
文章も他二人に比べれば破格で、
それだけに他の二人よりも読者の好悪のある作家である。
 
本集に集めた百閒、足穂の間に置くと、
牧野信一は、その幻想味においては百閒にもやや近いが、
その無頼と放浪の生活、その日本的風土に託した西欧の幻想、
その知的ユーモア、その精神生活の飛翔による私小説からの脱却、
等の要素において、むしろはるかに足穂に近い。
 
             <三島由紀夫:『作家論』より>
 
三島が取り上げるんだから、
まあ、太宰の系譜ではないんでしょうね。
 
少なくとも、三島の中では。
 
<追記>
牧野信一は1936年(昭和11年)、
40歳になる前に縊死自殺をしています。
 
 
 

1379「翔ぶ影」 泉鏡花賞受賞作

森内俊雄
短編集   奥野健男:解説  角川文庫
収録作品
 
1.駅まで
2.春の往復
3.盲亀
4.暗い廊下
5.翔ぶ影  (泉鏡花賞受賞作)
6.架空索道
 
 
妖精のような美しい少女を激しく恋した主人公。
 
二人の旅を、執拗に尾行しつづける影の男達。
 
生と死を超えた禁断の愛を、
ミステリアスな手法で展開した
表題の秀作中編「翔ぶ影」。
 
他に、
本書の序章的な好短編「駅まで」、
 
南紀への自転車旅行に
三人の高校生の友情と青春の鬱屈を
鮮烈に写す佳作「春の往復」
 
等五篇を収める。
 
絶望からの祈りをひめた独自の官能美を構築して、
かつて川端康成に絶賛された俊英作家の、
第一回泉鏡花文学賞に輝く珠玉小説集。
 
                        <ウラスジ>
 
 
何度も候補になりながら、
ついに<芥川賞>に手が届かなかった森内俊雄――。
 
早稲田の同級生だった宮原昭夫や李恢成はモノにしたのに……。
 
しかし、『翔ぶ影』で鏡花賞を受賞。
同時受賞はなんと半村良の『産霊山秘録』。
 
 
”森内俊雄氏の作品の特色として、
その一つに鋭い官能描写がある”
                      <吉行淳之介>
 
その道の達人が言うんだから間違いない。
 
 
さて、<ウラスジ>だけを読むと、
メルヘンチックな純愛物語風に
受け取られるかもしれませんが、
内容は全然違っています。
 
ここは太宰作品でお馴染みの
奥野健男さんの内容紹介をひとくさり。
 
 
ただのおとなしいサラリーマンが安い飲屋で、
相客から ”ためらい傷” だろうと
ホータイの傷を指摘されてから、
反撥するように女に積極的に働きかけ、
ついに結婚する。
しかしその女の影に暴力団の父がいて、
愛する娘をかすめ取った男を殺すことに熱情を燃やす――
 
                 <奥野健男:解説より>
 
「父が言うの。
自分の手でおまえを美しいものにするんだ。
そしてそのときがきたら、おれがおまえを女にして、
自分の気に入りの男に妻としてあずける。
 
ただし、おまえをもっと美しい女に出来て、
いつでもおれが自由に出来るところへおく条件つきでだ。
 
もし、傷物にでもしたら、
おれはおまえが夫を愛していても、その男を殺すだろう……」
 
 
こういう台詞が登場するや、
幻想的な意味合いは薄くなって、
散文的に堕してしまう恐れがありますが――。
 
『ロリータ』のハンバートに匹敵する、変態オヤジ。
しかも実の娘に対してのこの言い草。
 
三島の『女神』もそんな感じだったな……。
 
 
<余談>
私が「芥川賞」「直木賞」「乱歩賞」に次いで、
読む目安としているのが、「鏡花賞」。
 
なんたって、”またもや化物ばなし” 
と囃された鏡花の名を冠した文学賞。
 
先の『産霊山秘録』をはじめ、
『消滅の光輪』(眉村卓)みたいな
ガチガチのハードSFも受賞している、
わたし好みの文学賞。
 
筒井さんも『虚人たち』で獲ってる。
 
<追記>
森内俊雄さんはもう一作、
『幼き者は驢馬に乗って』
が登場します。
 
 
 
 

1380「時代屋の女房・泪橋」 

直木賞受賞作

村松友視
中編   椎名誠:解説  角川文庫
収録作品
 
1.時代屋の女房 (直木賞受賞作)
2.泪橋
 
〔時代屋の女房〕
銀色の日傘をさし、
ピンクのTシャツを着て、
夏の盛りにやってきた真弓が、
骨董店<時代屋>の女房として居ついたのは5年前。
 
4度目の家出をし、6日が過ぎた……。
 
東京の一隅にひそむ、
書割りのような二階家を舞台にした、
男と女の静謐な愛の持続。
 
そして、深夜に生気を帯びる男たちの、
苦い交流ゲーム
 
〔泪橋〕
かつて、
女がらみで人に追われ、
ひと月ほどもかくまってもらった
鈴ヶ森刑場址近辺の家を訪ねてみると、
同じ部屋に今度は、
若い女がかくまわれていた……。
 
部屋を提供してくれる不思議な老人二人と
御仕置場の風にいざなわれ、
そそのかされるようにして、
<仮名の男女>が演じ合う、
夢幻劇にも似たひと夏の恋物語。
 
                        <ウラスジ>
 
<時代屋の女房>
 
歩道橋の上、
陽炎の中から、パラソルを廻しながらやってきた真弓……。
 
真弓は、これまでに三度、
同じように一週間ほど姿を消したことがあった。
 
だが、真弓はきっちり七日目には帰ってきた。、
 
今回も――。
 
とは言え、
時代屋の主人で夫の安さんは、一抹の不安を拭えません。
”戦場に出かけた兵士を待つ妻の涙をためるなみだ壺”
を前にして……。
 
しかし、杞憂とはこのことか。
 
「あいつ、やっぱり七日目に帰ってきやがった。
律儀な女だぜ……」
 
最後のシーンが余韻を残して終わります。
 
歩道橋の上の女は、
安さんに向ってパラソルで合図し、
ペコリと頭を下げた。
 
その姿が一瞬、
夕焼けに染まった
空の中へ溶け込んでしまったような気がして、
安さんはなみだ壺をもった右腕で目をこすった。
 
すると、
真っ赤な色の中へかくれようとした小さな影が、
徐々に輪郭をあらわし、
時代屋の女房の姿となって安さんの目にもどってきた。
 
 
私にとって、このエンディングの部分は、
アーウィン・ショーの『夏服を着た女』と
双璧をなすぐらいの印象を残しています。
 
<蛇足>
陽炎から徐々に姿を現わすのは、
『アラビアのロレンス』。
 
くるくる日傘を廻すのは、
『シャーロック・ホームズの冒険』。
 
<余談>
村松友視さんといったら、
小説より先に来るのが
<プロレス三部作>のエッセイ集。
 
『私、プロレスの味方です』
『当然、プロレスの味方です』
ダーティ・ヒロイズム宣言 』
 
アントニオ猪木選手のカリスマ性に
一役買っているとの分析もされていました。
 
当時ベストセラーとなり、
早々と文庫化されたんですが――。
 

エッセイ集は賞味期限が短い。

 
角川文庫からはずれ、
ブックオフに並ぶこともなくなってしまいました。
 
結局読まずじまい。
 
読みたい。
 
新日は結構観てたのに……。
 
 
 
 
 
 
 
これで1380冊。