<水上勉、
太宰治、
葛西善蔵>
1375「越後つついし親不知」
水上勉
短編集 野口富士男:解説 新潮文庫
収録作品
1.越後つついし親不知
2.桑の子
3.有明物語
4.棺
5.西陣の蝶
6.三条木屋町通り
7.北野踊り
雪深い越後の村から
京都伏見の酒蔵へ杜氏に出た夫の留守に、
おしんは村人の卑劣な行為によって、
他人の子を身ごもってしまった……。
貧しく閉ざされた寒村の生活で、
愛するゆえに死を招かざるをえない悲劇を描く
表題作など7編。
また京都の四季の移ろいの中で、
名もなく生き、
人知れず死んでいった男女の生に、
風土に根ざした宿命の哀しさを見つめた
珠玉短編集。
<ウラスジ>
う~。
水上勉。
暗いよ~狭いよ~怖いよ~。
と、面堂終太郎(『うる星やつら』)
のような叫びが響いてきます。
特に表題作の『越後つついし親不知』は、
悲惨で胸糞悪くて救いようがなくて……。
夫…留吉
妻…おしん
村人…権助
この権助というのが極悪人で、
留吉とは杜氏仲間でありながら、
彼の留守中に妻のおしんを手籠めにしてしまいます。
そして、おしんには口止めしておきながら、
留吉にはそれとなく、
おしんが他の男(菰買いの若い男)と密通してると匂わせ、
夫婦仲にひびを入れるのです。
妊娠の月日が合わず、
留吉はおしんの不倫を確信します。
しかし、問いただしても真相を言わないおしん
(何で黙ってるんだ、というもどかしさ全開)を
首を締めて殺害してしまうのです。
そして、
なぜかおしんは ”首吊り自殺” ということになり、
物語は終りを告げようとしました。
(解決してもなんか引っかかる社会派推理みたい)
が、
「しかし、これでこの物語は終ったのではない。
おしんの死について、疑いをはさむ者が出たことで、
ふたたび、留吉が村の噂にのぼった。」
エンディング近くになって
いきなり、ミステリー調になって
墓を掘り返すという場面が待っています。
(ここからは『飢餓海峡』『海の牙』の作者の真骨頂か)
最後は……。
”飴屋の幽霊”
<余談>
この作品は映画化されていますが、
ラストが変えられていて(未見)
溜飲が下がるようになっているようです。
<追記>
つついし(筒石) …新潟県糸魚川市にある地名
親不知(おやしらず)…新潟県糸魚川市にある地帯
<P.S.>
「越後つついし親不知」……「越中ふんどし恥不知」
<『欠陥大百科』:筒井(つつい)康隆より>
どっかで書いたかなあ……。
1376「ろまん燈籠」
太宰治
短編集 奥野健男:解説 新潮文庫
収録作品
1.ろまん燈籠
2.みみずく通信
3.服装について
4.令嬢アユ
5.誰
6.恥
7.新郎
8.十二月八日
9.小さいアルバム
10.禁酒の心
11.鉄面皮
12.作家の手帖
13.佳日
14.散華
15.雪の夜の話
16.東京だより
小説好きの五人兄妹が
順々に書きついでいく物語のなかに、
五人の性格の違いを浮き彫りにするという
立体的で野心的な構成をもった
『ろまん燈籠』。
太平洋戦争突入の日の高揚と
虚無感が交錯した心情を、
夫とそれを眺める妻との両面から定着させた
『新郎』『十二月八日』。
日本全体が滅亡に向かってつき進んでいるなかで、
曇りない目で文学と生活と戦時下の庶民の姿を
見つめた16編。
<ウラスジ>
表題作『ろまん燈籠』は、
『愛と美について』(『新樹の言葉』所収)と設定が同じ。
兄妹全員が<ロマン好き>ということで、
彼らのリレー方式で作品は綴られてゆきます。
末弟、長女、次男、次女、長兄の順。
題材はグリムの ”ラプンツェル” 。
このラプンツェルが徐々にオリジナルと乖離していきます……。
三人称でありながら、それぞれの個性が反映されて、
あたかも一人称で書かれているような感じ――。
とくの姉妹のもの。
この辺は ”女一人称” の使い手の熟練、
太宰ならではの効果。
<余談>
この文庫で一区切り。
この『ろまん燈籠』で、
新潮文庫の太宰治の本は十七冊目になる。
そうしてこの十七冊で太宰治の殆どすべての作品、
エッセイが網羅された。
新潮文庫版太宰治全集が完結したと言ってよいだろう。
(初期習作と若干の雑文、断片、そして書簡は別として……)
<奥野健男:解説より>
『ろまん燈籠』 1983年(昭和58年)発行。
その後、20数年の時を隔て、
『地図』<初期作品集>が、
2009年(平成21年)に発行。
根強い太宰ファンの存在と、
漱石と並ぶ新潮文庫の稼ぎ頭ゆえの登場か。
<追記>
このあと、ちくま文庫が出て、
芥川龍之介や夢野久作なんかとともに、
『太宰治全集(全10巻)』
とか出ちゃうんだよなあ……。
1377「椎の若葉・湖畔手記」
葛西善蔵
短編集 松原新一:解説 旺文社文庫
収録作品
1.哀しき父
2.悪魔
3.子をつれて
4.馬糞石
5.不能者
6.遊動円木
7.おせい
8.蠢く者
9.椎の若葉
10.湖畔手記
11.酔狂者の独白
白根山雲の海原夕焼けて、
妻し思へば胸いたむなり――。
赤貧洗うが如き生活の中で、
故郷津軽に在るわが子を想い、
妻と愛人おせいとの
二つの絆の縺れに懊悩する主人公は、
遁れてきた日光湯元の湖畔の地で
ひたむきに天然自然との合一を希うのだった。
昭和三年、
四十二歳で逝った私小説の鬼才
葛西善蔵の代表作十一編を収めた。
<ウラスジ>
太宰を読んでりゃあ必ずブチ当たる名前、
その一人が葛西善蔵です。
家賃が払えず家を追ん出て、
幼い長男と長女を連れて、
バーで飯を食うはなし
『子を連れて』
妻と子供を故郷に置いて、
愛人と暮らし、子までなす。
その愛人が ”おせいさん”
『おせい』
いずれ劣らぬ <クズ>の生き様。
太宰と同じ、青森出身で、
破滅的な私生活を送った葛西善蔵。
太宰から、
私小説的なところだけを抜き出したような作品群。
<余談>
ここで顔を覗かせる、
もう一人の青森県の作家が、石坂洋次郎。
葛西善蔵のいくつかの作品は
石坂洋次郎の代作だ、
という話。
あまりの作風の違いに、にわかには信じられません。
そう言えば、
太宰も洋次郎のもとを訪れたようなことを書いてたと思うけど、
あまりの文学的な接点のなさに、早々に引き上げたとか。
……違ったっけ?
石坂洋次郎文学――。
戦前の話だから
『青い山脈』を念頭に置いたらいけないんでしょうが。
でも、『若い人』にしたってねえ。
いろいろある ”健全さ” の範囲を逸脱していないような……。