<フロマンタン、
ロンドン、
カポーティ>
1370「ドミニック」
ウジェーヌ・フロマンタン
長編 安藤元雄:訳 中公文庫
「友のような本だ。
読んでいると何か自分自身を語っているように思われる」
――アンドレ・ジード
年上の人妻への恋の甘さと苦さのなかに、
悩みさまよう若い魂の
自己形成過程と厳しい自己省察を
つつましくかつ的確に描き出し、
プルーストの先駆とされる
フランス恋愛小説の代表的名作。
<ウラスジ>
内面的資質の強かった画家フロマンタン(1820‐1876)が,
本質的な欲求によって生んだ私小説。
孤独で平和な生活を送る主人公の,
過去に渦巻いた愛欲と省察癖の葛藤の物語。
ジイドは「我が好むフランス小説10種」の中にこの作を選び,
この作者独特の慎ましい素直な手法と,
画家としての繊細な観察眼を愛している。
<岩波文庫>
心理小説としてプルーストの先駈けと評価されたり、
さしたるドラマもない恋愛風景が堀辰雄になぞらえたり、
画家であるゆえに小説はこれっきり、
それが厳然と輝いています。
同じく、
画家で小説を一編だけ書いたビアズレー。
『美神の館』。
ちょっと趣きが違うか。
<余談 1>
わたくし的、フランス文学の、
文庫における ”一発屋(一作のみ)” 列伝。
ケッセル 『昼顔』
コンスタン 『アドルフ』
アベ・プレヴォー 『マノン・レスコー』
ラファイエット夫人 『クレーヴの奥方』
サン・ピエール 『ポールとヴィルジニー』
オードゥー 『孤児マリー』
プリニエ 『醜女の日記』
デュマ・フィス 『椿姫』
新潮文庫が多いなあ……。
しかし外せない名作の誉れ高き作品ばかり。
で、中公文庫でいうと、
本作『ドミニック』と前述したビアズレーの『美神の館』。
あとフールニエの『さすらいの青春』とかも。
<余談 2>
フロマンタンが画家として書いた
『オランダ・ベルギー絵画紀行』 ー昔日の巨匠たちー
が岩波文庫から上下巻で出ています。
<余談 3>
”ドミニク” っていうと、
どうしてもこの曲が頭のなかで木霊します。
♫ ~ドミニッカ、ニッカニッカ~ ♫
このフレーズは中毒性があります。
1371「白い牙」
ジャック・ロンドン
長編 白石佑光:訳 新潮文庫
四分の一だけイヌの血をひいて
北国の荒野に生れたオオカミの仔 ”白い牙” ――
インディアンに飼われ、
立派な橇イヌに育ったが、
白人の手に売り渡されて苛酷な訓練の結果、
野性を呼びさまされた獰猛な闘犬になる。
しかし、親切な白人に買われて橇の先導犬になった時、
彼の中には主人に対する愛情が芽生えていた……
動物の眼を通して人間世界を鋭く批判した
動物文学の傑作である。
<ウラスジ>
ほとんど灰色オオカミ。
そして、やっぱり ”橇犬”。
で、当然この ”姉妹編(?)” も。
野性に戻るバックと、
人間の暮らしに入る白い牙(ホワイト・ファング)。
最後に飼われた判事の家では
家族を襲う脱獄犯を退け、
家族の一員として迎えられます。
そして――
ラストは父犬となる描写で幕を閉じます。
子イヌは、ホワイト・ファングの前にはい寄ってきた。
ホワイト・ファングは、耳を立てて、物珍しそうに見守った。
やがて、両方の鼻がふれ合った。
ホワイト・ファングは、子イヌの暖かい小さな舌を、
下あごに感じた。
すると、なぜとも知れず、舌がつき出てきて、
子イヌの顔をなめ返していた。
このエンディング、
じわあ~ときます。
1372「 冷 血 」
トルーマン・カポーティ
長編 龍口直太郎:訳 新潮文庫
アメリカ中西部の片田舎の農村で、
大農場主クラター一家の4人が惨殺された。
著者は、事件発生から、
ペリー、ディックの2人の殺人者が
絞首台の露と消えるまで、
犯人の内面の襞深くわけ入り、
特にペリーには異常なほどの感情移入をして、
この犯人の本質に鋭く迫っていく。
細密な調査と収集した厖大なデータの整理に
5年間の全生活を賭けて完成した
衝撃のノンフィクション・ノベル。
<ウラスジ>
これはとにかく、映画が先にありき、でした。
<日曜洋画劇場>だったと思います。
あの屋敷には金が唸ってる、
という失敗フラグを二人の男が立てるところ。
案の定、屋内に金は無く、
子ども部屋で女の子(だったと思う)に
貯金箱を指摘され、
それを落して粉々にし、
ころころと転がるコイン。
そのコインがベッドに下に行き着く。
男は跪いて手を伸ばし、
コインをベッドの下から掴み出そうとする。
そして、やっとのことでコインを手にする男。
そこで、ふと、
「おれは何をしてるんだ?」
突然狂気に襲われる男。
むやみやたらに銃をぶっ放し始める……。
一家皆殺し。
原作はちょっと違っていました。
わたしは娘の部屋の中を探しまわり、
人形の財布のような小さな財布をみつけた。
その中に一ドル銀貨が一枚あった。
どうしたはずみか、わたしはそれを落してしまい、
それが床の上をころがった。
わたしは膝をつかなきゃならなかった。
ちょうどそのとき、
自分が自分の中から抜け出したような感じがした。
<中略>
おれさまはここにこうやって、
子供の一ドル銀貨一枚を盗もうてんで、
這いずりまわっているんだ。
たかが一ドルだ。
しかも、そいつを拾うために、
おれは腹這いになっているんだ。
<本編>
原作は、
これが虐殺の引き金となったようには書いてありません。
本末転倒とはなりますが、
ここは映画の演出の方に軍配を上げたいと思います。
何となく、解ってしまうから。
【涼風映画堂の】
”読んでから見るか、見てから読むか”
◎「冷血」 In Cold Blood
1967年(米)コロンビア
製作:リチャード・ブルックス
監督:リチャード・ブルックス
脚本:リチャード・ブルックス
撮影:コンラッド・ホール
音楽:クィンシー・ジョーンズ
原作:トルーマン・カポーティ
出演
ロバート・ブレイク
スコット・ウィルソン
ジョン・フォーサイス
ポール・ステュワート
ジェラルド・S・オローリン
ジェフ・コーリー
* まだまだプロデューサーの力が強かった時代。
ハリウッド式分業制が当たり前だった頃。
* のちのニューシネマを予感させる、
作家性を求めた、監督兼脚本の走りとも言えるブルックス。
* 『カラマーゾフの兄弟』『熱いトタン屋根の猫』
『雨の朝巴里に死す』 etc.
* 原作ありきの映画が多いから
”脚色家” と言った方がいいかも。
*しかし、地味な配役だなあ……。
* ロバート・ブレイク
* 『刑事バレッタ』なんて覚えている人いるかな。
* それとも、”第二のO・J・シンプソン事件” と言われた
奥さん殺しの容疑者として、その名を耳にしたかも。
* 同じイタリア系のジョー・ペシっぽい。
* スコット・ウィルソン。
* 『傷だらけの挽歌』のスリム役。
* スコット・グレンとよく間違えちゃう。
* ジョン・フォーサイス。
* 『チャーリーズ・エンジェル』のチャーリー。
* 日本で言えば、中村正さんってところ。