涼風文庫堂の「文庫おでっせい」433 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<原民喜、

坂口安吾、

大岡昇平>

 

1303「夏の花・心願の国」

原民喜
短編集   大江健三郎:解説  新潮文庫
目次
 
苦しく美しき夏
秋日記
冬日記
美しき死の岸に
死のなかの風景
 
Ⅱ  夏の花
壊滅の序曲
夏の花 (水上滝太郎賞受賞作)
廃墟から
 
火の唇
鎮魂歌
永遠のみどり
心願の国
 
 
現代日本文学史上もっとも美しい散文で、
人類はじめての原爆体験を描き、
朝鮮戦争勃発のさ中に自殺して逝った
原民喜の代表的作品集。
 
被爆の前年に亡くなった妻への哀悼と
終末への予感をみなぎらせた
『美しき死の岸に』の作品群、
被爆直後の終末的世界を、
その数カ月後に正確な筆致で描出した
『夏の花』三部作、
さらに絶筆『心願の国』『鎮魂歌』
などを収録する。
 
大江健三郎編・解説
 
                        <ウラスジ>
 
<原爆文学>
 
『黒い雨』 井伏鱒二
『祭りの場』 林京子
読了。
 
『地の群れ』 井上光晴
もそうか。
 
『屍の街』 太田洋子
『原爆詩集』 峠三吉
未読。
 
 
原題はストレートに『原子爆弾』。
GHQの検閲を考慮して『夏の花』になったそうです。
 
<『夏の花』三部作>

『夏の花』 昭和22年6月

『廃墟から』 昭和22年11月
『壊滅の序曲』 昭和24年1月
 
時系列的には
『壊滅の序曲』『夏の花』『廃墟から』
の順になります。
 
『壊滅の序曲』のラストの一文――
 
……原子爆弾がこの街を訪れるまでには、
まだ四十時間あまりあった。
 
そこから『夏の花』へ。
 
私は街に出て花を買うと、
妻の墓を訪れようと思った。
<中略>
朝から花をもって街を歩いている男は、
私のほかには見あたらなかった。
その花は何という名称なのか知らないが、
黄色の小瓣の可憐な野趣を帯び、
いかにも夏の花らしかった。
 
<中略>
 
原子爆弾に襲われたのは、
その翌々日のことであった。
 
 
避難する先々で目にする人々の様子――。
 
被災した人たちが一様に口にする言葉――
「水をくれ」
「水を、水を、水をください、」
 
これに似た言葉は、
長崎の平和公園の石碑にも刻んでありました。
 
身体の奥底から襲ってくる猛烈な熱さ、
喘ぐような咽喉の渇き――。
 
石碑にはこう書かれていたと記憶しています。
 
――のどがかわいてたまりません――。
 
原爆が、
いわゆる ”ピカドン” で
終わらなかったことが分かります。
 
原爆が投下されてから、”黒い雨” までのあいだ――。
二重、三重の地獄絵図が描かれています。
 
<余談>
これは私だけの感覚なのかもしれませんが、
”原爆” というと、
「広島」ではなく「長崎」が先に出てきます。
 
同じ九州、
そして小学校時代の初めての修学旅行先が「長崎」、
ということがあったからかもしれません。
(当時、多くの九州の小学校が
 長崎を修学旅行先に選んでいると聞きました)
 
……バスガイドさんが歌った
 
「ああ許すまじ原爆を
 二度と許すまじ原爆を」
 
という歌詞が今でも耳に ”焼きついて” います。
 
 
そして長崎の原爆というと、
林京子さんの『祭りの場』を
避けて通ることはできません。
 
実際の被爆者だけに許されるであろう、
”祭り” という ”レトリック” ――。
 
 

1304「ふるさとに寄する讃歌」

坂口安吾
短編集   川嶋至:解説  角川文庫
収録作品
 
1.ふるさとに寄する讃歌
2.黒谷村
3.海の霧
4.霓にじ博士の廃頽
5.蝉
6.姦淫に寄す
7.淫者山に乗り込む
8.蒼茫夢
9.おみな
10.木々の精、谷の精
11.波子
 
 
「私は蒼空を見た。蒼空は私に沁みた。
 私は瑠璃色の波に噎むせぶ。
 私は蒼空の中を泳いだ。
 そして私は、もはや透明な波でしかなかった。」
……
有名な書出しで始まる「ふるさとに寄する讃歌」は、
安吾デビュー作の一つ。
 
都会で青春彷徨に疲れた魂が、
生の実感を求めて呼びかける抒情的散文詩。
 
他に初期代表作9編を収める。
 
                        <ウラスジ>
 
『ふるさとに寄する讃歌』
<ウラスジ>の続き。
 
私は磯の音を私の脊髄にきいた。
単調なリズムは、其処から、鈍い蠕動を空へ撒いた。
(室生犀星も ”かくや” と思わせる。
 ちなみに犀星はこの後すぐに出て来ます)
 
『黒谷村』
黒谷村は猥褻な村であった。
(AVのジャンルにありそうか。
 「夜這い村」みたいな)
 
海の霧』
――尊敬は恋愛の畢りなり。
この不思議な逆説を、間もなく僕達は経験した。
(男女の仲の終焉近く)
 
『霓にじ博士の廃頽』
「坂口アンゴウは落第じゃァよ!」
(『風博士』のスピンオフ)
 
『蝉』
あるミザントロープの話。
(モリエールの『人間ぎらい』)
 
『姦淫に寄す』
そして、まだ浅い春の一日、
彼は澄江にまねかれて、
彼女の大磯の別荘へ行った。――
(『あれで頭がいっぱい』)
 
『淫者山に乗り込む』
もともと恋と幸福は同じものではありません。
(安吾版『永すぎた春』)
 
『蒼茫夢』
略。
 
『おみな』
母、――為体の知れぬその影がまた私を悩ましはじめる。
 
私はいつも言いきる用意ができているが、
かりそめにも母を愛した覚えが、
生れてこのかた一度だってありはしない。
 
ひとえに憎み通してきたのだ「あの女」を、
母は「あの女」でしかなかった。
(逆マザコンではない)
 
木々の精、谷の精』
割愛。
 
『波子』
同上。
 
(短編集の一つ一つの作品を、
 実際に書いてある一文だけを掲載して紹介するという
 ”手抜き工事” はこれからも使っていこうと思います)
 
 
 
 
 
 

1305「 花 影 」 

新潮社文学賞・毎日出版文化賞受賞作

大岡昇平
長編   杉森久英:解説  新潮文庫
 
 
女の盛りを過ぎようとしていたホステス葉子は、
大学教師松崎との愛人生活に終止符を打ち、
古巣の銀座のバーに戻った。
 
無垢なこころを持ちながら、
遊戯のように次々と空しい恋愛を繰り返し、
やがて睡眠薬自殺を遂げる。
 
その桜花の幻のようにはかない生に捧げられた鎮魂の曲。
 
実在の人物をモデルとして、
抑制の効いた筆致によって、
純粋なロマネスクの結構に仕立てた現代文学屈指の名作。
 
                    <Google Books>
 
 
地雷を踏んじゃったみたい。
 
 
この作品のモデルとされる、
坂本睦子
という女性。
 
 
 
若い頃から様々な文士と浮名を流していたようですが、
「直木三十五によって破瓜」
というのは多くの伝聞に共通しています。
 
その後、関係する文学者たち。
(順番に)
 
中原中也 
小林秀雄
坂口安吾 1
菊池寛
河上徹太郎
坂口安吾 2
大岡昇平
 
昭和33(1958)年 睦子44歳 睡眠薬で自殺
 
 
<概要>
 
* 中原中也と小林秀雄が
  一人の女性を争ったことは知っていましたが、
  その女性のことまでは詳しくしりませんでした。
 
* 安吾と最初の出奔。
  安吾の『二十七歳』という作品に、

  色々と出て来ます。

 

 

この戦争中に矢田世津子が死んだ。

 

とあり、ミレンたらたらであったことを書き連ねたあと、

 

ある夜更け、河上(徹太郎)と私がこの店(ウヰンザア)の

女給をつれて、飲み歩き、河上の家へ泊まったことがある。

河上は下心があったので、女の一人をつれて別室へ去ったが、

残された私は大いに迷惑した。

なぜなら、実は私も河上の連れ去った娘の方に

オボシメシがあったからで――。

 

このオボシメシがあった女性こそ

睦子で、時に十七歳、最初の出会い。

 

実は俺はお前の方が好きなんだと十七の娘に言ったら、

私もよ、と言って、だらしなく仲がよくなってしまったのである。

<中略>

この娘はひどい酒飲みだった。

私がこんなに惚れられたのは珍しい。

<中略>

私は処女ではないのよ、と娘は言う。

そのくせ処女とはいかなるものか、

この娘は知らなかった。

 

             <坂口安吾 『二十七歳』より>

 

 

 

 

こん時は、

「坂本睦子」の「む」の字も出て来なかったなあ……。

 

続いて――。

 

* 菊池寛の愛人となる。
  突然現われた感じ。
* 河上徹太郎の愛人となる。
  念願叶ってか、さすがアウトサイダー。
 
ついに――
 
* 坂口安吾と同棲。
  このころすでに三千代夫人と結婚していたはず――。
 
で、
 
* 大岡昇平の愛人となる。
 
戦前から戦後にかけて、
まさに文壇の<ウラ歴史>に跳梁跋扈した、
”妖女” と言えるでしょうか。
 
今回、
やっと顔と名前が出て来て、
脳裡に刻むことが出来そうです。