涼風文庫堂の「文庫おでっせい」365 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<小松左京、

つかこうへい>

 

1103「蟻の国」

小松左京
短編集   柴野拓美:解説  早川文庫
収録作品
 
1.易仙逃里記
2.釈迦の掌
3.ホクサイの世界
4.お茶漬の味
5.蟻の園
 
 
時間と空間をこえて
地球に帰還した光子宇宙船が地球に見出したものは……
「お茶漬の味」
 
同じ規格品が整然と立ち並ぶ、
典型的な都会の団地――
その建物のどこかに潜む奇妙な、
非人間的な恐怖を描く表題作
「蟻の園」
 
他「易仙逃里記」「釈迦の掌」など、
巨匠小松左京が放つ自選傾向別短篇集第三弾!
 
<時間・次元テーマ>篇。
 
         <1986年ハヤカワ文庫解説目録より>
 
 
今は昔――
世にいう作家の出世作や処女作というもの、
どうしたって短編が多く、
たとえ何らかの受賞作品であっても、
芥川賞クラスのものでないかぎり、
本に収録されるのが遅くなる傾向がありました。
 
 

とりわけSF小説ともなれば、

発表する雑誌も限られていて、
いきおいファン以外の目に触れる機会も
そう多くはなかったようです。
 
”ハヤカワこけたら皆こけた” の時代。
 
そんな時代のなか、
SFの御三家と言われた三人もご多分に洩れず、

星新一 『セキストラ』、筒井康隆 『お助け』

(このあたりには、例のごとく ”乱歩” が絡んでいる)
と、見つけにくい時代がありました。
 
これって表題になってるの?
何という短編集に収録されてるの?
 
小松左京は
プロとしてのデビュー作 『易仙逃里記』
その前のSFコンテスト応募作品、
『地には平和を』と一年遅れの『お茶漬の味』。
 
『地には平和を』は表題として本になってるけど、
あとの二作品はどこだ?
 
この三つをコンプリートするには
いろんな情報が必要でした。
(手っ取り早いのは書店でそれらしき新刊を目にすること)
 
特に文庫の場合、
発表順に文庫化される事がなかった頃なので……。
 
 
ま、過去の愚痴はこれぐらいにして――。
 
 
<本編>
 
『易仙逃里記』

”エキセントリック”のもじりか。

 

明の時代に住んでいたコーカソイドのお話。

時間テーマが窺えます。

 

中島敦を意識したような文体。

パスティーシュ。

 

この辺が小松さんの力量だなあ……。

これが商業誌デビューなんだもんな。

 

釈迦の掌』

まさかの『たんぽぽ娘』?

20年と25年の違い。

 

かの有名なロマンティックSFが

ちょっと捩じれるとこうなるのか。

 

ロバート・F・ヤングもびっくり。

 

ホクサイの世界』

一回まわって、

”お江戸でござる”

 

<TOKIO>がもう一度、<O・EDO>になったお話。

ジュリーから氏神一番へ。

 

 
『お茶漬の味』
ザックリ例えると――
 
道場◯三郎的和食の料理人が、
宇宙から帰還したあと、
ターミネーター(機械)が勝利した未来の地球で、
自給自足で材料を調達し、
絶品の ”鯛茶漬” をお品書きにしたためるお話。
 
何のこっちゃ。
 
『蟻の園』
ハミルトンの、
『フェッセンデンの宇宙』的宇宙。
 
うりうり。
動いてみろ。
 
何のこっちゃ、パート2。
 
<結果>
短くて少ないから、
久々の全作品紹介やっちゃった。
 
と、言うことで、
二つ後の『御先祖様万歳』は
簡略化させていただきます。
 
 
 
 
 
 

1104「弁護士バイロン」

つかこうへい
長編   高橋三千綱:解説  角川文庫
 
 
醜女しこめの女工をこともあろうに腰ヒモで絞殺した、
大山金太郎の裁判がいよいよ始まる。
 
小さな町工場の職工フゼイ、
今まで陽の当らなかった金太郎にとって、
一生一度の晴れ舞台だ。
 
<死刑を宣告されてもいい、
今こそ世間の耳目を一身に集める絶好のチャンス!>
と、思い上がりも甚だしい。
 
ところが、彼の味方といえば、
ようやく補欠で検事に任官された
とっぽい亀有清十郎がいるだけ。
 
敵は、いつもバイロンの詩集を小脇にかかえ、
キザで嫌みな二階堂君彦弁護士だから、
ちょっとばかり厄介だ。
 
果たして金太郎は、
栄光ある ”死刑台への道、13階段” を
登れるだろうか。
 
逆説頓死の理論をいかんなく発揮した痛快ユーモア長編小説。
 
「小説熱海殺人事件」の傑作続編。
 
                        <ウラスジ>
 
……と、言うことで、
『小説熱海殺人事件』
を振り返ります。
う~ん。
なんか無難なことしか書いてないな……。
 
”しこめ” と叩いても漢字変換されない時代だもんね。
 
<本編>
開始早々、こんな文章が飛びこんできます。
 
警察の仕事が
「ただの人」を容疑者に仕立てあげることだとすれば、
検事たちの仕事は警察から送検されてきた
「ただの容疑者」に、罪と罰を与えた。
そして犯人としての華々しい市民権を与えることに
あるといえるだろう。
 
 
なんかこの物語の方向性が見えている、
と思いきや、
最終的に民法130条を引っ張り出して、
こじつけに走った途端、
 
この時 君彦(弁護士バイロン)には
ゆみ子(バイロンの秘書)の存在しか眼中になかった。
すべてゆみ子のための法廷だった。
 
あからさまに自分の秘書に想いを告げ始めます。
 
挙句、裁判長からこんなお達しを喰らいます。
 
「困るんだよね、
俺の裁判で女を口説かれちゃ」
 
で、肝心の大山金太郎の裁判結果は――。
 
<余談>
さきほど ”物語の方向性” と言った時、
脳裡に浮かんだのは筒井康隆さんの
『12人の浮かれる男』
でした。
 
日本にも陪審員制度が持ち込まれているという設定で、
アメリカのように12人の陪審員が、
無罪っぽい被告をいかにして有罪に導くか、
というドタバタ反転劇です。
 
三谷幸喜さんの
『12人の優しい日本人』
も似たような話じゃなかったっけ。
……観てないけど。
 
で……その大元になったのが、
レジナルド・ローズ原作のこちら、
『十二人の怒れる男』
 
 
この作品、
直接的にも逆説的にも
後の法廷ものに影響を与えていますので、
観ておいて損はないと思います。
 
……皮肉な見方をすれば、
”これが民主主義の行き着く先”
みたいな。
 
 
 
 
 

1105「御先祖様万歳」

小松左京
短編集   井上ひさし:解説  早川文庫
収録作品
 
1.三界の首枷
2.紙か髪か
3.痩せがまんの系譜
4.日本売ります
5.ぬすまれた味
6.聖六角女学院の崩壊
7.機械の花嫁
8.女か怪物ベム
9.ダブル三角
10.カマガサキ二〇一三年
11.SOS印の特製ワイン
12.墓標かえりぬ
13.御先祖様万歳
 
 
巨匠の傾向別短篇集第二弾!
 
現代に突如明治維新の世界へ抜けるトンネルが現出する
「御先祖様万歳」、
 
過去から

結婚相手を探してくるお節介ものの話

「痩せがまんの系譜」、
 
日本が売りとばされるという奇想天外な
「日本売ります」、
 
ほか、
独特の味わいをもつ著者得意の
ユーモア・タッチの作品を十三篇収録。
 
                        <ウラスジ>
 
ちなみに短篇集第一弾は、
『時の顔』 <本格ハード篇>。
 
この『御先祖様万歳』は<奇想ユーモア篇>。
 
<総括>
『蟻の園』『御先祖様万歳』
この二つをひっくるめて。
 
”盗っ人を捕えて見れば我が子なり”
 
という故事がありますが、
SFのタイムパラドックス・テーマでは、
 
”盗っ人を捕えて見れば自分なり”
 
というものが往々にしてあります。
 
それが
過去の自分か、未来の自分か、
という違いはありますが。
 
<追記>
 
『時の顔』
はまだやってなかったっけ?
 
こん中に<地には平和を>が入ってるんだけど……。
 
段々、記憶が曖昧になってきました。