涼風文庫堂の「文庫おでっせい」356 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<勝目梓

河野典正、

井上靖>

 

1078「獣たちの熱い眠り」

勝目梓
長編   南里征典:解説  徳間文庫
 
 
 
プロテニスの花形プレーヤー三村浩司は
一夜の情事のために抜きがたい陥穽にはまり込んだ。
 
三千万円を脅迫され、選手資格は停止された。
 
栄光の世界から泥濘の地獄へ――
 
眼には眼を、歯には歯を、
プロの恐喝組織を相手に復讐鬼と化した三村の
凄絶な死闘が展開する。
 
長崎から東京へ、
ギブ・アップするわけにはいかない男の
”存在理由” を賭けて戦う一匹狼を描破する
勝目梓の長篇出世作!
 
                        <ウラスジ>
 
 
一時期、隆盛を誇った 
”ハード・ロマン” 
なる小説のジャンル。
 
バイオレンスとエロスで味付けされた、
サスペンス・アクション、とでもいうべきものか。
 
おもに西村寿行作品に冠せられた称号でしょうが、
他にも
この勝目梓の一連の作品、
門田泰明の<黒豹シリーズ>、
なんかが入ってくるのかな。
 
ちなみに、
<1984年版・徳間文庫・解説目録>
には、『推理』『SF』とともに『ハードロマン』
のジャンルが設けられていて、
 
 
そこに登場するのは、
西村寿行、大藪春彦、勝目梓、志茂田景樹、
という顔ぶれになっています。
 
まあ、エロスとバイオレンスって言うと、
元祖は大藪だろうからな……。
 
海外だと前回やったスピレインとチェイス。
 
志茂田景樹さんはちょっと違うと思うけど。
 
とにかく、紹介文をチラと覗いただけでも、
 
”涯しない凌辱の日々”
”美貌の女たちを足下にかしずかせる”
”魔手に陥ちた”
 
と、
女主人公さえ容赦しない性描写を窺わせるものが
多数存在していました。
 
閑話休題。
 
<ハードロマン>にありがちな、
”荒唐無稽” という要素はこの作品には無縁のようです。
 

主人公の三村を陥れるプロの脅迫屋軍団は、

戦争中の部隊仲間で形成されたもので、
いきおい、
かなりドメスティックな活動範囲にとどまっています。
 
各章のタイトルがこれ。
 
嵌まる
手繰る
傷める
捕る
焼く
砕かれる
待つ
 
なんとなく想像がつく展開が待っているような。
 
この作品、三浦友和さんで映画化されたっけ。
 
 
かなり際どいSEX描写もあって、
当時騒がれていました。
 
そして、この後の『台風クラブ』で
完全に<アイドル俳優>からの脱却に成功したと、
私は思っています。
 
あんな怠惰な教師役がハマるとは……。
 
 
<余談>
1970年代半ばから出て来た<ハードロマン>は、
やがて、
伝奇的要素とESP(超能力)要素が加味され、
荒唐無稽さをアウターにもインナーにも拡げてゆき――
 
1980年半ばの、
夢枕獏<魔獣狩り>
菊地秀行<魔界行>
へと繋がっていったように思えます。
 
週プレで、
”漫画のような小説” 
って感じで特集されてました。
 
栗本薫<魔界水滸伝>や笠井潔<ヴァンパイヤー・ウォーズ>
も載ってたっけ。
 
いささか揶揄っぽい取り上げられ方ではありましたが、
今の<ライト・ノベル>の礎となったような感じからすると、
”漫画のような小説” って
ある種 ”誉め言葉” であるとも言えるでしょう。
 
このお二方、
<ノベルズ>にとどまらず、

 

キマイラ・シリーズ(夢枕)

吸血鬼ハンター・シリーズ(菊地)
<いずれもソノラマ文庫>
 
と、
ジュブナイル展開もされていたので、
先輩にあたる<ハードロマン>作家たちよりも
かなり息が長く続いています。
 
私、いまだに獏さんの<陰陽師・シリーズ>は
文庫で出るとすぐに買っています。
 
 
 
 
 

1079「殺意という名の家畜」

日本推理作家協会賞受賞作
河野典正
長編   星新一:解説  角川文庫
 
 
その娘から電話がかかって来たのは深夜だった。
 
しきりに私に会いたがっていた。
 
翌々日、相談したいと思って来ました……と、
私の家の郵便受けに、
鉛筆で走り書きした薄汚れた紙片を残して、
とつぜん失踪した。
 
星村美智、
一度だけだが、私は彼女と寝たことがある。
 
自堕落な生活にふけり、
睡眠薬を齧っては、朦朧となって、
いつまでも笑いころげているような娘だった。
 
何人かの男の影が浮かび上がってきた。
 
いつしか私は、
失踪した彼女の跡をたどりはじめていた。
 
退廃ムードにひたる現代の青春群像と
いとましい<暴行事件>を描いた、
正統ハードボイルドの傑作
=第17回日本推理作家協会賞受賞作。
 
                        <ウラスジ>
 
久々の河野典正。
 

 

 

 

そちらでも書いていた、

<正統派ハードボイルド> の代表作です。

 

そして、

<正統派>にも<非正統派>にも通じる、

”女を探せ(捜せ)”

がストーリーの骨格になっています。

 

あとは謎を構成する、

過去の出来事と現在の恐喝――。

 

押さえどころはしっかりしている。

 

で、

ここで星新一さんの解説が生きてきます。

 

 

――星村という妙な姓の女性が出て来るし、

わが家から遠からぬ品川あたりに

事件が及んだりしている点にまず興味を持ったが、

たちまち引き込まれた。

 

文章がいいのである。

 

<何か言葉自身が勝手に逃げて行くような口調……>

<人間の顔で、最も醜悪なものは、

告白することになれていない男が

告白を始めた時の表情かもしれない>

 

そのほか、みずみずしい感性が、

各所で読む者をひきつけるのだ。

 

それ以前の推理小説界では、

トリックに熱中するあまり、

文章のほうがおざなりになっている作品が

まかり通っていたのである。

 

まさに画期的なことといっていい。

 

                   <星新一:解説より>

 

この文章から入る(構築する)ってやり方、

ロス・マクドナルドがチャンドラーに対して

同じ様なことを言ってたような。

 

フィリップ・マーロウにために用意された

文章(文体)みたいなこと。

 

 

<余談>

日本における ”正統ハードボイルド” の作家は、

この後、生島治郎さんで完成され、

後々の原尞さんへと引き継がれていったと思います。

 

”私が殺した少女を追いつめる”

 

 

 
 
 
 

1080「 氷 壁 」

井上靖
長編   福田宏年/佐伯彰一:解説
新潮文庫
 
 
奧穂高の難所に挑んだ小坂乙彦は、
切れる筈のないザイルが切れて墜死する。
 
小坂と同行し、
遭難の真因をつきとめようとする魚津恭太は、
自殺説も含め数々の臆測と戦いながら、
小坂の恋人であった美貌の人妻 
八代美那子への思慕を胸に、
死の単独行を開始する……。
 
完璧な構成のもとに
雄大な自然と都会の雑踏を照応させつつ、
恋愛と男同士の友情を
ドラマチックに展開させた長編小説。
 
                        <ウラスジ>
 
途中で出て来る、
全編カタカナの詩――。
インパクト大です。
 
 
魚津はまたこんな風に、
小坂と話していた。
――小坂、お前は好きだったな、デュブラの詩が。
酔っぱらうと、いつでもデュブラの 
”モシカアル日” を朗読したな。
 
モシカアル日、
モシカアル日、私ガ山デ死ンダラ、
古イ山友達ノオ前ニダ、
コノ遺書ヲ残スノハ――
 
 

フランスの登山家、ロジェ・デュブラの詩で、

山を登る人たちの間ではポピュラーなものだそうです。
 
私はメロディ付きで覚えていました。
歌に合わせて詩も少し違ってました。
 
原曲の仏民謡を西前四郎がアレンジ、
訳詞は深田久弥、
お両人とも山の一人者。
 
♫ 雪よ岩よ われらが宿り ♫ (雪山賛歌)
♫ 娘さん よく聞けよ 山男にゃ惚れるなよ ♫ (山男の歌)
 
この二つの歌とともに、平地人にも馴染みがあるものです。
 
 
<余談>1
運動オンチからくる憧れなのか、
”辛いもの” みたさからなのか、
山や登山に関する本もちょっとは目にしています。
 
まずはマストアイテム。
 
 
最近、文庫を出すようになった<山と渓谷社>。
その名も<ヤマケイ文庫>。
 
 
 

<余談>2

山岳小説というと、
殆んど専門家レベルで新田次郎さんを思い出してしまいます。
 
その新田さんが<山岳推理小説集>と銘打たれた
『チンネの裁き・消えたシュプール』(新潮文庫)<未読>
を上梓なさっています。
 
しかし、プロのミステリー作家で、
山岳推理って言うと、森村誠一さんかなあ……。
『密閉山脈』、『日本アルプス殺人事件』、
ぐらいしか読んでないけど。
 
団地を舞台に
登山技術を用いたトリックの作品があったっけ。
 
あとは太田蘭三さん。
『脱獄山脈』、『誘拐山脈』と角川文庫から
立て続けに出てた。
 
その後も山を舞台にしたミステリーを書き続けた、
文字通りの ”山岳推理小説” の第一人者。
 
<余談>3
登山における想像力を掻き立ててくれたはいいが、
「怖い」「寒い」「痛い」
を感じさせるきっかけを作ってしまった作品がこれ。
 
 
クラック、ビヴァーク、ピトン、トラヴァース、チムニー……。
読むだけで充分。
 
 
 
 
これで1080冊。