<小松左京、
スピレイン、
安部公房>
682.「果しなき流れの果に」
小松左京
長編 石川喬司:解説 早川文庫
巨大な剣竜や爬虫類がいた六千万年も前の中生代の岩層から、
奇妙な砂時計が発見された。
その砂は、いくら落ちても減らず、
上から下へ間断なく砂がこぼれおちて、
四次元の不思議な世界を作り出していた。
常識では考えられない超科学的現象……!
さらに不可解な事件が起きた。
この出土品の発見場所の古墳へ出向いていた関係者が、
次々と行方不明となり、変死を遂げてしまったのだ――。
強大な内なる闇に対抗するための、
遥かな時間と空間を超えた壮大な戦いを、
迫力に満ちたイマジネーションで描く日本を代表するSF長編作。
<角川文庫版:ウラスジ>
早川文庫版には<ウラスジ>がなかったので、
角川文庫のものを拝借させていただきました。
何と言う反則技。
ただし、この時代あたりから、角川が何故か突然、
日本のSF作家を大量に囲い込み始めました。
それまで、
”早川こけたら、みなこけた” (筒井康隆さんの言葉)
などとあざ笑われていたSF作家が大挙して
角川に、角川文庫に移ってきました。
星新一さん、筒井康隆さんはさほどでもなかったのですが、
小松左京、光瀬龍、眉村卓、豊田有恒、半村良 (敬称略)
といった大物が角川文庫で、旧作・新作含めて再登場し出したのです。
なかでも、圧倒的な冊数を誇ったのは平井和正さんだったと思います。
『幻魔大戦』 全20巻、及び<ウルフガイ>シリーズ。
小松左京さんも、『復活の日』 が映画化されましたね。
いま、何かと、<コロナ禍>と結び付けられて、その名を聞きます。
カミュの 『ペスト』 か、小松左京の 『復活の日』 か。
はたまたクライトンの 『アンドロメダ病原体』 か。
もとい。
『果しなき流れの果に』
これは先輩の下宿で、<一気読み>をした覚えがあります。
BGMはプログレ。
イエスかキング・クリムゾンか。
先輩曰く、
『こんな環境でその本は読めんだろう』
確かに。
一章、二章ぐらいまでは、事件があって、謎があって、
その謎解きが仄めかされて――と言う感じで
落語の枕のように引っ張られて行ったんですが、
その後が怪しくなる。
”悠久の時を経て” に連なる話は、
どこか全体像が見えにくくなって、
破綻しがちになる。
この作品がそうだとは言いませんが、
知識・雑学・蘊蓄モンスターの小松さんが、
確固たる理論と、
それを具象化する大まかな発想で、
無理やり捻じ込んできたイメージを、
「ほら、こういう現象は、こういうことにつながるかも知れへんのやで」
と、読者側に投げ出された感じがしないでもない。
と言う訳で、ここから先は
<世界のSF文学総解説>から
抜萃していきたいと思います。
『10億年の時空の中で、
”人類と文明” の意義を問い直した本格SF』
ジャンル:<時間・次元テーマ>
プロローグは、何者かに連れ去られた、
N大理論物理研究所の野々村の話。
時は移り、さらに果てしない時間がひろがっていく。
「ポーカー・ダイス計画」
超科学研究所は、歴史の上に点々とバラまかれた遺物を
所有する五基の電子脳衛星に厖大なデータとして記憶させ、
静止軌道上に配列して、”討論” させて、
遺物にこめられたメッセージを解読しようとしていた。
その結論は、”未来からの干渉”。
未来から何かを訴えようとするものと、
それを妨げようとする、二つの干渉のパターンがあるということ。
やがて何者かによって、衛生は爆破され、
「ポーカー・ダイス計画」は中止を余儀なくされる。
ここまでは大丈夫ですか?
ここから先はキーワードとなるものを順を置いて並べていきます。
なんせ、”果しない流れ” の一環を取り出すんで。
* 21世紀半ば、『太陽嵐』により地球の滅亡迫る。
* 数千隻の大宇宙船団、突然現る。
* 宇宙人は人類の救済を申し出、人類はそれを受け入れる。
* 人類は異星から来た宇宙船に乗り移る。
* その宇宙船団は超空間に入り、
いずことも知れぬ目的地へ飛行し始める。
もう少しで、久々の主役が登場します。
* 宇宙船の中で、「選別」がはじまる。
* 宇宙生命種を管理する上部の階梯の知性体アイは、
上の階梯へ進みうるものを選びながら、人類の一部が救出寸前、
別の組織によって奪われているのを知った。
ここでまた舞台は1968年のニューヨーク。
* そのニューヨーク基地が、襲撃され消滅する。
* 襲ったのは、「ルキッフ」と呼ばれる存在から指令を受けた
<N>だった。
* 「ルキッフ」は宇宙生命の進化を管理する存在に対して
反逆する存在だった。
* 一方で火星の観測員だった松浦が登場し、上の階梯へ上る過程で
<知性体アイ>と融合し――。
ええ。
ここまでを踏まえて、残りをお楽しみ下さい。
作品の中にバラまかれたSF的 『ガジェット』 が、
徐々にひとつところに集まり始めます。
<追記>
この作品でも重要な役割を果す<ルキッフ>。
”変化のベクトルへの抵抗の形象化”
とされるその存在意義は、
『結晶星団』、『ゴルディアスの結び目』にも登場してくる、とあります。
二つとも読んではいるんですが、
この手のテーマものは長編でないと
なかなか記憶に留めにくいもんで……はい。
その回が来て、再び手に取るまでは、全くの白紙状態です。
683.「復讐は俺の手に」
ミッキー・スピレイン
長編 平井イサク:訳 早川文庫
戦友との再会を祝した酒は、
一夜明けるとにがい死の媚薬と化した。
私立探偵マイク・ハマーは
戦友のウィーラーに誘われるままにホテルに泊りこんだが、
目を醒ますと彼は死んでいたのだ。
手にはマイクの拳銃を握りしめて……。
彼には自殺の動機も殺されるいわれも全くない。
それをどこかの野郎がぶち殺してしまったのだ。
こみ上げる怒りを抑えて友人の前日の行動を洗い始めたマイク――
が、その彼の行く手にも
見えざる敵の消音ピストルの銃口が待ち構えていた!
スリルとスピーディな展開を身上とする
スピレイン・ハードボイルドの雄篇。
<ウラスジ>
またもや<戦友>。
これじゃ、マイク・ハマーの戦友だったってことで、
<死亡フラグ>が立ってしまいそう。
<余談>
マイク・ハマー物のレギュラー陣と言えば、
秘書のヴェルダ(のちに恋人になる)と
刑事のパット・チェンバース。
秘書との関係もどうかと思うが、
この作品でもありそうな、”容疑者候補” となった時、
他のハードボイルド探偵なら警察と一悶着ありそうだが、
マイク・ハマーものでは多くない。
それと言うのも、殺人課の警部パット・チェンバースが
マイクの友達だからである。
だから、ここでストレスがかかることはまずない。
この辺が逆に受けたのかも。
684.「第四間氷期」
安部公房
長編 磯田光一:解説 新潮文庫
現在にとって未来とは何か?
文明の行きつく先にあらわれる未来は天国か地獄か?
万能の電子頭脳に
平凡な中年男の未来を予言させようとしたことに
端を発して事態は急転直下、
つぎつぎと意外な方向へ展開してゆき、
やがて機械は人類の苛酷な未来を語りだすのであった……。
薔薇色の未来を盲信して現在に安住しているものを
痛烈に告発し衝撃へと投げやる異色のSF長編。
<ウラスジ>
『第四間氷期』と『山椒魚戦争』。
これは高校時代の地学の先生が、授業そっちのけで、
紹介していた作品でした。
以前にも書いたので、その辺はこちらをどうぞ。
ええ。
これもまずは<世界のSF文学>の紹介文を丸パクリで。
『第四間氷期』 1959年
ここで設定された舞台は、現在の地球の状態を
第四氷期(ウルム期)と次に来るべき第五氷期の、
いわゆる第四間氷期としてだけではなく、
5000万年に一度訪れる「地質大変動期」としてとらえ、
その仮説のもとに、
来たるべき苛酷な未来で人類がどう生きられるかを描いている。
前半をミステリー風に、後半を壮大な未来予想図で描いた本書は、
日本におけるSFの先駆的作品として評価が高い。
<奥野健男:世界のSF文学総解説より>
前半のミステリー部分というのは、
まったく偶然の産物で、
ヒッチコック作品をを思わせるテイストです。
そこから、<胎児掠奪>というロビン・クック風の流れになって来て、
次に人体改造、<水棲人間>へのすみやかな移行。
ショッカーかドクター・モリス風の話へと進んで行く。
『水中都市』を科学的に説明した感じ。
片方で、
<未来からの声>が、主役の勝見の
生殺与奪の権を握る事になるのだが、
勝見に死刑を宣告した人物というのが……。
最後の文章。
ドアの向うで、足音がとまる。
……これ、死刑執行人の足音かな。
しかし、この死刑宣告はやりきれない。
だって・・・・・・。






