涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  140. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<モンゴメリ、

スピレイン、

エミリ・ブロンテ>

 
 

441.「赤毛のアン」

ルーシィ・モウド・モンゴメリ
長編   村岡花子:訳  新潮文庫
 
ちょっとした手違いから、グリン・ゲイブルスの老兄妹に
引き取られたやせっぽちの孤児 アン。
 
はじめは迷惑がった二人も、明るいアンを愛するようになり、
アンは夢のように美しく移り変るカナダの自然の中で、
少女から乙女へと成長してゆく……。
 
愛情に飢えた、愛すべき人参あたまのアンが巻き起す、
愉快で滑稽な事件の中に、人生のきびしさと暖かい人情が
織りこまれた少女文学の名作。
                                <ウラスジ>
 
NHKの朝ドラ、『花子とアン』でお馴染みになった村岡花子さんの
”アン・ブックス” 全十巻の一巻目です。
 
なんかその後、遺稿とか未発表の短編なんかが出て来て、
<アン・シリーズ>は十巻以上になっているみたいですが、
それはそれ。
 
こっちは、村岡花子さんの訳による、
<アン・シャーリーという女性の一代記を描いた大河小説>
として読んでいますから、最初に読んだ印象を大切にしています。
 
話は変わりますが、著名な文豪の新たに発見された未発表原稿などが
ニュースになると、我先に読もうとする人がいます。
 
私にはそういう心理があまり働かないようです。
無論、好きな作家だったり、興味のある作家のものでしたら
読んでみたい気もしますが、是が非でも、と言う訳でもありません。
それが、オダサクやラディゲであったとしても。
 
これは以前に書いた、<山椒魚論争>に通じているのかな……。
 
 
あれは原文改稿の話だけど、新たな未発表原稿ってのは、
それと同じぐらいの印象破壊を招きかねないからなあ……。
作者に対しても、作品に対しても。
 
 
 
 
 

442.「裁くのは俺だ」

ミッキー・スピレイン
長編   中田耕治:訳  早川文庫
 
私立探偵マイク・ハマーの棟にグッと嗚咽がこみあげてきた。
友に戦火の下をくぐり、みずから右腕を失ってまで彼を救ってくれた
かつての戦友ジャックが至近距離から下腹部に銃弾をぶちこまれて
見るも無残な死体となっていた!
 
マイク・ハマーは誓った。
この犯人は俺が裁く!
この俺の45口径が裁くんだ!
 
金と顔にものをいわせる特権階級、ボスどもを憎悪し、
法律の盲点をついた犯罪をあばいてゆく、
ハードボイルド探偵マイク・ハマー登場!
 
全世界に大センセーションをまき起こした衝撃作!
                                <ウラスジ>
 
正統派ハードボイルドからは、
常に除外されてきたスピレインの
『マイク・ハマー』初登場です。
 
しかし、『赤毛のアン』の次が『マイク・ハマー』とは……。
 
 
ここからしばらく、久々に藤原宰太郎さんの
『世界の名探偵50人』を引用させていただきます。

 

 

<マイク・ハマー>
タフで暴力的な一匹狼の私立探偵である。
第二次大戦直後、彼がデビューしたとき、
そのあまりにサディスティックな行動に、読者は驚いて、
「こんな血に飢えた殺し屋みたいな男が
探偵になっては、推理小説は滅亡する」
と、激しい非難を浴びせたほどである。
 
たいていの私立探偵は法律を守って、犯人を見つけたら、
跡は警察にまかす。
ところが、マイク・ハマーは<目には目を>式に自分が死刑執行人に
なって、犯人を片づけてしまうのだ。
 
じっくり考えたり、
こつこつ証拠を集めたりするような、
まだるっこいことはしない。
推理するより先に、行動があるのだ。
その行動は、常に暴力と硝煙と血で彩られる。
そして、もう一つの彩りにセックスがある。
 
……まったく、どこが<名探偵>なんでしょう。
 
 
この作品でも最後にぶっぱなします。
 
 
「どうして、こ、こんなことを、×××?」
と○○は喘いだ。
一瞬後にはもう死骸になってしまうのだが、俺はいってやった。
「楽なものだよ」
と俺はいった。
 
 
××、○○、ともに男女が判らないように腐心した結果です。
あしからず。
 
 
 
 
 
 
 

443.「嵐が丘」 (上)

エミリ・ジェーン・ブロンテ
長編   田中西二郎:訳  新潮文庫
 
ヨークシャーの荒地の屋敷 
”嵐が丘” の主人に拾われたジプシーの子 ヒースクリフは、
その娘キャサリンへの激しい愛を胸に、
養父の死後若主人となったヒンドリーの虐待に耐えていた。
 
しかし、キャサリンが旧家であるリントン家の長男エドガーと
結婚することを知ったヒースクリフは、絶望のあまり家出する……。
 
みごとな自然描写の中に、
激しい愛憎のドラマを鋭い感覚で捉えた名作。
                                <ウラスジ>
 
 
 

444.「嵐が丘」 (下)

エミリ・ジェーン・ブロンテ
長編   田中西二郎:訳  新潮文庫
 
三年後、莫大な富を得て ”嵐が丘” に帰ったヒースクリフは、
かつて、自分を虐待した人々に対して冷酷で執拗な復讐を開始する。
 
ついに ”嵐が丘” とリントン家の土地屋敷を手中に収めた彼は、
今は亡き恋人キャサリンの幻を追い続けながら、恍惚として死ぬ……。
 
失恋によって悪鬼と化したヒースクリフの生涯を、
家政婦ネリーを語り手に描き、
世界文学史上に不朽の名をとどめる作品。
                               <ウラスジ>
 
 
お話は ”スラシュクロス屋敷” の借家人、
ロックウッドという青年の語りから始まります。
 
彼がその屋敷の大家を訪ねて挨拶をするくだり――。
その大家の名は ”ヒースクリフ”――。
 
――この時点で、『嵐が丘』で語られる殆んどの話が、
過去のものである事が窺い知れます。
 
 
「嵐が丘」(ワザリング・ハイツ)というのが、
ヒースクリフ氏の屋敷の名だ。
「ワザリング」とは、嵐のときにこの丘のようなところに吹きすさぶ風の怒り騒ぐさまを形容した、巧みなこの辺の方言である。
 
 
 
それで、ヒースクリフを筆頭として、『嵐が丘』の住人たちに
興味をいだいたロックウッド青年は、
古株の女中ネリーから、今に至るまでの話を聞くことになります。
 
そこからが本番です。
 
この話の内容は、かなり人口に膾炙しているように、
ヒースクリフの復讐譚であることに間違いはありません。
 
復讐譚というものは、概ね、それが行動に移され成就する事で、
読者にカタルシスを味わわせてくれます。
 
『嵐が丘』もその例に洩れることはありませんが、
ただ、成し遂げたはずの ”復讐” が長くて執拗です。
 
相手を抹殺するでなく、生殺しの状態で囲って置く――
この異常さが、本当のエンディングに向けて、
ヒースクリフを死へといざなう――
 
残された救いは、ヒースクリフの虐待に耐えた若者たちの、
明るさを仄めかす未来図にあるでしょう。
 
かつて、ヒースクリフがヒンドリーの
虐待に耐えたように。
 
 
 
 
【涼風映画堂の】
”読んでから見るか、見てから読むか”
 
今回は当然、この一本。
 
 
 
◎「嵐が丘」 Wuthering Heights
1939年 (米)
 
監督:ウィリアム・ワイラー
脚本:チャールズ・マッカーサー
    ベン・ヘクト
撮影:グレッグ・トーランド
音楽:アルフレッド・ニューマン
出演
マール・オベロン
ローレンス・オリヴィエ
デヴィッド・ニーヴン
ジェラルディン・フィッツジェラルド
フローラ・ロブソン
ヒュー・ウィリアムズ
 
 
*巨匠ウィリアム・ワイラーの戦前の名作。
*しかし、ワイラーって監督は、『ベン・ハー』から『ローマの休日』、
 はたまた『コレクター』まで、いろんな映画を撮ってる。
*脚色は、チャールズ・マッカーサーとベン・ヘクト。
 この二人は戦前、結構一緒に仕事してる名コンビ。
*私にとってのベン・ヘクト、<ヘクト・ヒル・ランカスター・プロ>の
 ハロルド・ヘクトと長いあいだ間違えていた。
*撮影、音楽は『怒りの葡萄』と同じ。
 
*キャサリン役のマール・オベロンは、母親がインド人。
*それでどこか、東洋人っぽく見える。
*ワイラーお気に入りの『子供の時間』(リリアン・ヘルマン)を
 映画化した『この三人』にも出ていた。
*お気に入りと言ったのは、ワイラーが同じ原作で、
 のちに再映画化したゆえ。
*ちなみにその映画は『噂の二人』。
 主演は、オードリー・ヘップバーンとシャーリー・マクレーン。
 
*エドガー役のデヴィッド・ニーヴンには髭がない。
 まだのちの、”ダンディな英国紳士” というスタイルを確立する前。
*ジェラルディン・フィッツジェラルド。
 私はマール・オベロンより、イザベラを演じた彼女の
 いたいけな風情が好きでした。
*フローラ・ロブソン。
 『レベッカ』のジュディス・アンダーソンよりも細身で面長。
 『オースティン・パワーズ』のミンディ・スターリングを思い出す。
*彼女、『無敵艦隊』でエリザベス一世を演じてた。
 
*『無敵艦隊』と言えば、――。
 
*この映画を象徴するのは何と言っても
  ローレンス・オリヴィエ。
*彼の映画は二十本前後観ていますが、
 『百面相役者』と言われた彼が、
  一番若く見えた作品でした。
 
ローレンス・オリヴィエとマール・オベロン
 
*で、再び『無敵艦隊』と言えば、
 ローレンス・オリヴィエとヴィヴィアン・リー。
*『嵐が丘』はオリヴィエ初のハリウッド進出映画で、
 その撮影現場を見に来ていたのがヴィヴィアン・リー。
*そこで、スカウトされて『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラ役に
 抜擢されたのは有名な話。
 
ローレンス・オリヴィエとヴィヴィアン・リー夫妻
 
 
他人事なんだけど、
<理想の夫婦>だったなあ……。