【言論弾圧】豪ラグビー協会「差別」投稿で選手追放する危うさ | 中谷良子の落書き帳

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世界中の言論空間が「ヘイトスピーチ」という言葉に過敏になりすぎています。まるで腫れ物に触れるかのような神経質さ。息苦しすぎますし、このような世の中では寛容な人間が育つわけがないし、どこかギスギスした神経質で了見の狭い、いや~な大人が増えるだけです。



★【言論弾圧】豪ラグビー協会「差別」投稿で選手追放する危うさ★

オーストラリア・ラグビー協会は看板選手の契約を解除したが過剰反応というほかなく、表現の自由を脅かしかねない。
~ピーター・シンガー(プリンストン大学教授)~

サッカーと違って、ラグビーに「オウンゴール」は存在しない。だが、5月にイズラエル・フォラウ選手との契約を解除したオーストラリア・ラグビー協会の決定は、オウンゴールと言うほかない。

これで、オーストラリア代表として73試合の出場歴を持つ看板選手が代表チームから追放されることになった。

この厳しい処分が下された理由は、フォラウが4月にインスタグラムに投稿した画像だ。そこには、

「飲酒者、同性愛者、姦通者、嘘つき、姦淫者、盗人、無神論者、偶像崇拝者には・・・地獄が待っている」という言葉が記されていた。

誤解がないように述べておくと、この言葉は私の信条とは全く相いれない。私は地獄に落ちるとフォラウが信じるような筋金入りの無神論者だし、同性愛と異性愛の間に倫理的な差があるとも思わない。

これはキリスト教の伝統的な教えそのものだ。保守派のキリスト教徒であるフォラウは、自らの信仰を表現したにすぎなかった。

投稿の内容は明らかに、新約聖書の「コリントの信徒への手紙一」で使徒パウロが伝えた言葉を下敷きにしている。もしパウロがオーストラリアのラグビー選手だったら、この手紙が公になった時点で解雇されていたことになる。

ところが、オーストラリア・ラグビー協会のレイリーン・キャッスルCEOは、フォラウの契約解除に関連してこう述べている。

「ラグビーの世界では、性別、人種、出自、信仰、性的指向に関係なく、誰もが危険を感じず、受け入れられていると思えるべきである」

●憎悪表現には当たらない
この考え方を前提にすると、今回の処分はおかしい。信仰の自由を公にしない場合に限って認められるということなのか。それは、同性愛者に対し、「自宅の寝室では何をしても自由だが、気分を害する人がいるかもしれないので、公の場でいちやついてはならない」と言い渡すに等しい。

19世紀イギリスの思想家ジョン・スチュアート・ミルが『自由論』で指摘したように、誰かが気分を害したという理由で表現や行動の自由を制限することを容認すれば、自由が全面的に失われる危険性が高まる。

何か意味のあることを言おうとすれば、誰かの気分を害する可能性は常にある。

ミルの念頭にあったのは国家による規制だが、社員が自らの発言を理由に会社をクビになるようなことがあれば、それも言論の自由を脅かす。ラグビー代表選手にとってのラグビー協会のような唯一の雇用主の場合、その危険はひときわ大きい。

投稿が同性愛者への憎悪を表現していたり、暴力を煽る内容だったならまだ理解できる。しかし、あの投稿が同性愛者への憎悪表現だとみなされるのなら、煙草の箱に記される警告文も喫煙者への憎悪表現になる。

地獄に向かって歩いているのに、そのことに気付いていない人がいるように見えれば、警告してやりたいと思うのは不思議ではない。フォラウは、そのような感覚でインスタグラムに投稿したのだろう。

実際、写真に添えて「イエス・キリストはあなたたちを愛している」と書き、反省して行動を改めるよう呼びかけている。そうすれば地獄から逃れられる、というわけだ。これがヘイトスピーチだとは思えない。


では、オーストラリア・ラグビー協会はどうすべきだったのか?人は誰もが自らの信仰を表明する権利があるとだけ述べておけばよかった。

オーストラリア人のうち、信仰を非常に重んじているという人は14%だけ。しかも、この全てが地獄の存在を信じる宗教を信仰しているわけではない。つまり、ほとんどのオーストラリア人は、フォラウの投稿を真剣に受け取るよりも、笑い飛ばす可能性のほうが高い。

笑い飛ばして終わりにする、それがフォラウの投稿に対する最も適切な反応だったのかもしれない。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/post-12358.php


★歴史戦争が欧州サッカーに飛び火★

サッカーの国際大会に、歴史認識をめぐる争いが持ち込まれた。6月10日、ヨーロッパ選手予選でポーランドがイスラエルに快勝すると、ポーランドサッカー協会がフェイスブックに「ポグロムだ!イスラエルに4-0で勝った!」と投稿。



ポグロムとはもともとロシア語で組織的虐殺を意味し、英語ではとくにロシア帝国におけるユダヤ人殺戮を指して用いられるようになった言葉。

この言葉が想起させるのは、第二次大戦中のナチスドイツによるユダヤ人虐殺。多くがヨーロッパ各地からポーランドの強制収容所に送られたが、戦後ポーランド人の多くは、ポーランド国内で個人がホロコーストに加担していたとする歴史認識を受け入れてこなかった。

ポーランドの右派政権は昨年、ホロコーストへの同国関与を示唆することを違法とする法律を成立。一方で、今年2月にはイスラエル首相がホロコーストで「ポーランド人はドイツ人に協力していた」と発言。歴史認識を巡る争いが、サッカーにまで飛び火した形。

ニューズウイーク、カラム・ペイトン氏。