安全のためにはお金も手間も惜しんではダメ!
パソコンウイルスの恐ろしさが喧伝されるなか、日常、コアなパソコン業務に従事しているプロは、リスクフルな現状をどうとらえているのか。ネットセキュリティ対策に詳しく、長年にわたってPC講座で講師を務めている山田氏に、自分でできる具体的なセキュリティ対策をうかがった。
Q.生徒さんのウイルスやサイバーテロに対する意識はどのように感じられますか。また、どんな不安や相談が寄せられていますか?
A.多くの方が、漠然と不安がっている、というのが実情でしょう。
テレビニュースなどでは、こういった話題を掘り下げて伝えるのが難しいですから、イメージが先行して実態がよくわからないまま無用に怖がってしまう方も散見されます。
そんな中で、インターネットに接続するということは、世界中に張り巡らされたネットワークの一部に繋がるということですよ、とお伝えしてもなかなか実感がわかないでしょうね。
そのうえ、インターネットは双方向の通信ですよ、とお話してもさらにピンとこない方が多いです。
でも、考えてみてください。クリックひとつで画面にいろいろな情報が届けられてくるわけですよ。
よく、「アクセスする」という言葉が使われるので、さも自分からそこに出向いていると錯覚している方が多いのですが、違います。
注文して、品物がそこに届く、みたいなものなのです。
品物が届く、ということは、届け先の住所、つまり情報=表示されるパソコンの場所が、こちらからも送られているということなのです。
簡単に言うと、その仕組みを利用して場所だけでなく他の情報も盗み取っていくようにプログラムされた(設計された)ものがマルウェアなわけです。
このように漠然とした危機感を感じている皆さんですが、幸いなことに、今まで深刻な被害の相談を受けたことはありません。
そんな中で、比較的多いのが、アダルトサイトの請求がパソコンを起動するたびに出てきて困っている、という類のそうだんでしょうか(笑)
なかにはそのせいでパソコンを捨ててしまおうと考えた、という方もいらっしゃいましたから、笑いごとではないのですが。
まあ、そういうサイトの請求が出てくるということは、そのサイトを悪戯心で覗いてしまった、ということですから、他人に相談しにくいのかもしれませんけど。
でも、身の回りにいるパソコンに詳しい人に恥ずかしがらずに相談してみてください。
5分で直してくれます。
ビール1杯おごれば、相手も喜んでくれるでしょう。パソコンを買い替えるのに比べたら安い出費です。
Q.知識が豊富な山田さんですが、ご自身がウイルス感染の被害に遭った経験はありますか?そのときは、どんな苦労がありましたか?また、お知り合いで、こんなひどい目に遭ったというようなエピソードはありますか?
A.これも幸いなことに、今まで自分が直接的に被害に遭ったことはありません。
ネットショッピングなどもかなりの頻度で利用していますが、今のところクレジットカードも無傷です。
ただ、名刺には当然メールアドレスを印刷していますから、そのアドレスに迷惑メールが来ることはあります。
これは、どう頑張っても防ぎようがないですね。名刺は配ってなんぼのものですから、それを怖がっていては仕事になりません。
それで思い出しましたが、会社には他にネットワーク管理会社がいるので、あまり口を出していないのですが、管理がずさんで、ある社員がノートパソコンを家に持ち帰って仕事をするふりをして、アダルトサイト巡りをし、マルウェアにアドレス帳を持っていかれ、会社全員に迷惑メールがきた、という笑えない話がありました。
まだ、初期のころで大事になりませんでしたが、今ならその社員は懲戒解雇ものです。
余談ですが、会社のネットワークログというのが、残っていますから、ネットワーク管理会社は、誰が何時にどこのサイトにアクセスしたか調べることができます。
会社のパソコンでは、くれぐれも余計なことはしないようにしましょう。
Q.SNS全盛時代で、老若男女が割と気軽に情報を晒す傾向がみられます。こうした状況について、どうお感じですか?
A.さきほどお話したとおり、個人レベルでマルウェアやハッキングによる情報の漏えいはわずかで、実は自分で情報を晒しているケースが多いような気がします。
パスワードに誕生日の数字を使ったりするのも避けたほうがいいでしょう。
ネットバンキング(インターネットで銀行の出入金記録や振り込みができるサイト)では、誕生日にまつわる数字が暗証番号やパスワードに使えないようにしているシステムもありますが、一般的なパスワードには、そういう制限はまだないようです。
とくに、SNSなどでニックネームではなくIDが表示されていて、そのうえ類推されやすいパスワードを使用していたら、他の誰かに簡単に自分の情報を盗み見られる危険があるということも意識したほうがよいでしょうね。
類推しやすいパスワードを使用することは、ポストの上に家の鍵を置いて出かけるようなものだと思ってください。
それから、もはやインターネットは、バーチャルな空間ではないと認識することも大切です。
だって、簡単に買い物ができて、それがちゃんと届くわけですから。
当然、買い物だけでなく人間関係でも同様です。
そう考えれば、おのずと発言にも気を使うことになります。
有象無象の掲示板でよく炎上が起こるのは、未だに匿名性やバーチャルな空間だ、という時代錯誤の感性を持った人間が多いからでしょうね、
Q.私自身、カード情報を盗まれる被害に遭ったばかりですが、犯人は特定できていません。往々にして、PC関連の犯罪では犯人がわからずじまいというケースが多い気がしますが、その理由はなぜ?
A.これはセキュリティが常に対処療法であるということが原因でしょうか。
悪意ある第三者は、セキュリティの綻びを狙って侵入してきます。
セキュリティ側は、侵入されるまでそこに綻びがあることに気付かない。
侵入されたからそこを塞ぐ。
こういう過程が繰り返されてきたからだと思います。
というわけで、最近はホワイトハッカー(善意で綻びを探すエンジニア)の育成が課題となっています。
Q.対策ソフトは一定の効果があると思いますが、たくさん種類があり、価格帯もさまざま。選び方がわからないという人も多いと思います。いいソフト選びのコツは?
A.大切なのは、お手持ちのパソコンのスペック(性能)に見合ったセキュリティソフトを探すということです。
一番早いのは、店員さんに聞くことですね(笑)処理能力の十分でないパソコンに重たいセキュリティソフトを載せたのでは、パソコンが軽快に動いてくれません。これでは、本末転倒。
ただ、現在市販されているセキュリティソフトは、どれも十分な機能を備えていますから、あとは予算と相談して決めればよいでしょう。
新たにパソコンを購入される際は、パソコンのグレードを1つ落としても、有料のセキュリティソフトを購入してくださいね。
あとは、いくらセキュリティ強化といってもセキュリティソフトを複数個入れるのはNGです。
有料ソフト1つで十分です。
新規購入したとき、90日間無料、みたいなセキュリティソフトがインストールされていることがありますが、継続して有料で利用しない場合は、必ずアンインストールをしてから、購入したセキュリティソフトをインストールしましょう。
Q.中古PCや故障したPCを業者に売ったり、無料で引き取ってもらう人がたくさんいますが、(PC内に残った個人情報の)安全性に問題はないのでしょうか?また、PCを処分する際に注意すべきことは?
A.パソコンの中のデータは補助記憶装置であるハードディスクに書き込まれています。
ですから、ハードディスクを完全に消去してしまえば、情報が漏れることはありません。
しかし、パソコンの基本ソフトであるOSもこのハードディスクに書き込まれていますから、OSが起動している状態では、実はハードディスクの情報を完全に消去することはできないのです。
ですから、一番安全なのはハードディスクを取り外してしまうことです。
これは、デスクトップパソコンでもノートパソコンでもドライバー(工具)1本で簡単に取り外せます。
取り外したハードディスクは、故障していなければ、そのまま再利用できます。
パソコンショップに行けばハードディスクケースという商品が売られていますから、これを購入し、外付けのハードディスクとしてリサイクルすることをお勧めします。
USB接続用のハードディスクケースを買ってくれば、そのままテレビに繋いで録画用にも使えます。ただ、ハードディスクにはサイズがあるので(デスクトップは3.5インチ、ノートは2.5インチが一般的)注意しましょう。
Q.スパムメールにイライラしている人は多いと思います。ソフトだけでは100%解決できないのでしょうが、それ以外に出来得る対策はありますか?
A.これには、私も困っています。ただ、パソコンにあまり詳しくない方ができる方法としては、セキュリティソフトのセキュリティレベルを「強」にしておくことくらいですね。
慣れてきたら、パソコンに届く前の段階で、ブロックしてしまうこともできます。
メールを提供しているプロバイダーにもよるのですが、だいたいのプロバイダーで、ウェブメールのサービスを提供しているはずです。
パソコンに届く前にウェブメールでメールを閲覧できるので、そこで設定して迷惑メールのアドレスやドメインをブロックしておけば、パソコンのメールソフトに迷惑メールが届くことがなくなります。ただ、アドレスやドメインの登録は手作業でやる場合が多いので、面倒なのは変わりませんが。
Q.最後に安心安全なパソコンライフを楽しむためのアドバイスを。
A.先ほどもお話しましたが、インターネットはバーチャルで匿名だという意識を捨てることです。
極めてリアルで身近な世界だという感覚で、現実世界並みのモラルを持っていれば、危険な目に遭うことはないでしょう。
繁華街で看板も出てないし怪しげなスナックには普通入らないでしょ?でも、インターネットでは「危険」と書いてあるのに敢えて入ってしまう(笑)そんなことさえしなければパソコンもインターネットも生活を豊かにしてくれるものだと思います。
それから、セキュリティソフトにお金を惜しまないことです。100%安心が手に入るわけではないですが、セキュリティソフトなしでインターネットに接続するのは、服を着ないで外を歩くことと同じだと思ってください。
もうひとつは、近くにパソコンに詳しい友人を見つけておくことです。私もそうですが、こんなふうにパソコンの話をする機会はそれほど多くないので、いろいろと説明したくなる、これはパソコンにちょっと詳しい人間共通の性質のようです(笑)
そういう友人がいると、とても助かります。でも、時間があるときに相談しないと、長々話を聞かされることになるので用心してください。
【スパムメール】
受信者の意向を無視し、無差別かつ大量に一括して送信される電子メールを主としたメッセージのこと。
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