After tone -11ページ目

ファインダー

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息が止まりそうだった。




気ままに動く私をその瞳で自由に捕らえるあなた。

レンズの向こう側に私が世界で一番好きな瞳がある。

優しく髪を撫でるようにシャッターを押すあなた。

あなたに見つめられ抱きしめられるようにファインダーに揺れる私。

あなたが描き出した私。

そこには 私の知らない私がいた。

私は見つめていたのはレンズではなくあなた。

あなたを見つめている私の笑顔は大好きな恋人に向ける誰も知らない私の笑顔。

こんな顔…してるんだ…。

泣きそうになった。



優しく呼ばれて振り向いた顔も
空を見上げて深呼吸した柔らかな顔も
ふと あなたを見た何気ない顔も

キラキラと降る光の中にふわりと佇む宝石のように写し出された真っ白な私。

飾らない
気取らない
力も入らない
素のままの裸の私




抱かれるように私を預ける


その腕の中で

私が私になる時間



私を撮れるのがあなたしかいないように、あなたの事もいつかちゃんと撮れるようになりたい。
「カメラマンはモデルになれないんだよ」
カメラを向けると笑えないあなた。
あなたの笑顔を撮れるのもきっと私しかいない。


私の最期の笑顔もあなたのその瞳でその指で、柔らかく私を撫でるように描いて。

あなたしか撮れない 私も知らない私を。







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戦士

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日常の  音…音…音…

見るもの  聞くもの  手にするもの

視覚 聴覚 感覚の全て

あなたのカラダに降り続ける 矢 のような言葉達


情報の渦に呑まれ
呑まれた事に気づく事も無い   それが日常


それでも あなたは鎧も着けず
盾だけ小脇に抱えて世を疾る


ねえ…
降り注ぐ矢を受け 傷だらけな事に気付いてる?

向かう将兵の波を抜けて
向かう先に目を凝らして
辿り着いて やっとため息…



あなたの腕の中で 仔猫になる私のように 
あなたは どこで その身を癒すのだろう


たまに見せる 少年のような微笑みと
私だけが知る 甘い声と…


抱きしめる 胸に 顔を埋めて
ふーっと 息を吐き出してくれたら
耳を塞いで 目を閉じて  ゆっくり呼吸を整えてあげたい


私といるその時間が  全ての機能を停止して
あなたが あなたに戻れる場所であってほしい


猛き もののふの心をも慰むるは我なり



あなたが私を抱きしめるように
ふわりと包む 場所で在りたい

疲れた戦士
ここが あなたの 還る場所








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ふたりだけで旅をしたい。

君がそう言ったのは 嵐のような君の夏が終わった頃だった。

リクエストは 大好きな高原。
子供の頃から行き慣れた場所。

時間も気にせず  予定も立てず、お天気と気分と 体調と だけで 車を走らせる。


高原の風は爽やかで 空は青い

お気に入りの音楽と ゆったりと流れる時間が  いつになく君を饒舌にした。

本来は 急かされるような生き方はしたくない君が、一日が24時間で 廻っている事を全く無視した環境で 揉まれながら生活して 暫く経った。

時に 悩み 、時に立ち止まり、考え、向かい また立ち止まる。

溢れるように 溢れて来た言葉達。
もう すっかり大人になった 君が そこにいた。

君の人生の 端々に 私が投げて来た言葉が、今の君を支えていると言う。

あの頃 わからなかった 言葉の意味が  今ならよくわかる。
そして染み渡るように噛み締めていると。

日常の小さなやりとり ひとつひとつ 全てが 君の人生の基礎となって来た。
どんな言葉も 真っ直ぐに君に投げ続けて来た。


今の君を  そして これからの君の人生に 私の言葉達が寄り添える存在で在るなら、大丈夫、道の途中に  人生の岐路に 私を思い出してほしい。


今回の旅の中で  たくさんたくさん語り合った その中でも、また いつか  降るように思い出してくれたなら…。





開け放した 窓で 緑の風が舞っていた。
木々が歌う 森の朝。
柔らかな日差しが 季節の交代を告げている。



また ふたりだけで旅に出よう。



日常は 街に置いたまま  時計を外し PCは開かず お気に入りの音楽と 君と僕と。


ハンドルを握りながら  助手席で眠る君の寝顔を見ていた。


変わらない。
それもまた 嬉しくて。








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