2020年の恋人たち 島本理生

 

超有名な作家さんですが、お初です(これまであまり恋愛小説は読んでこなかったのです)。

 

東京に住むちょっと特殊な生育歴を持つ、とてもモテる30代独身女性のお話です。

ヒロインの葵には、まったく共感する部分はなかったのですが、それでもすいすいと面白く読めたのは、作者の力量なのかなあと。

東京に住んでいたということもあって、描写も伝わってきました。

 

お金もあって、ばりばり仕事もしていて、多分おしゃれで魅力的な独身女性、30代とまだ若く、でもどこか空虚な感じ。

東京の女の人感がリアル。

葵は、母親が愛人だったので、「普通」からはちょっと違うかもしれないけど。

 

世代のこともあるけれど、男性の財力にのっかって生きていた母。

その母に反発する大きな出来事が過去にあったのに嫌いになれず、危うく不倫もしかけて母と同じ立場になりかける葵。

同棲中の恋人・港は完全に引きこもりで、葵との関係は膠着状態だけど、その関係を手放さなかったのは、葵にある罪悪感もあったけど、「恋人がいる」ことが牽制球としても利用できたから。

したたかな面も母親に似ているけど、葵自身は気がついていない。

 

情報だけ聞くと「やな女~」って感じだけど、実際に会ってみると「でもいい子なんだよ」と言わせてしまうような魅力があります。

葵の肝は「自分を売らなかった」こと。

これも、「現在」の東京の女性っぽい。この部分が、いろんな男にふらふらしてても、キャラとして嫌いになれない部分なんだろうなと思いました。

 

物語は2020年の春で終わっています。世の中はコロナ禍だった時。

 

あれから4年たって、こんなにいろんな意味でパワフルな女性って今はいるのかな、東京にはいるのかな?

なんだか(コロナとは関係なく)すっかり暮らしにくい世の中になってしまった気がします。

葵も今頃「インボイスってなんなの」と言いながら、店の帳簿を入力してるのでは?

それとも結婚して、お店はまかせてしまっているかもしれない。

 

東京に住んでた時、東京で仕事をしている女性(私もしてましたけどもw)に感じてたリアルな空気が葵からよく伝わってきたので、それだけでこの小説はすごいなと思いました。

テキストもとても読みやすかった。

 

 

「そうか、もう君はいないのか」城山三郎

 

作家・城山三郎が亡くなった奥さんにまつわるエピソードが収録されたエッセイ集。

著者が亡くなった後に発行されたみたいです。

たしか出版された時は、ベストセラーになった記憶。

 

薄めの本なのですぐ読めますが、20代の出会いから奥さんの容子さんが亡くなるまでの濃厚な50年近くの話。

そこまで書いてええんか、みたいな話もあるけど、もう今となっては遠い過去の話。

 

戦後の名古屋や、若者たちの文化や恋愛模様の様子も読み取れて面白いです。

夫の立場からみたので、奥さんの本当の気持ちはわからないけど、奥さんは生活のことなど相当苦労したと思うんですよねw

でも、夫は立派な作家になったし、奥さんとしては満足だったのではないでしょうか。

亡くなるまで仲睦まじく過ごしていたようですし、最後も旦那さんに看取られて亡くなりました。

 

で、妻を亡くした夫は早く死ぬ説とかありますが、城山三郎も容子さんの死後はつらかったようです。

その様子を娘さんが記述した文章も収録されているのですが、娘さんもびっくりするくらい文章がうまいのですけど、何者なんでしょうか。

 

奥さんがいなくて晩年は寂しかったようですが、娘さんも息子さんも父親のことを気にかけていて、よい家族だったことがみてとれます。

こんな家族は、本当は少数なんじゃないかな。

 

介護士をやっている友達が

「子供がいて施設にはいってる人も多いけど、見舞いに

くる人なんてほんの一部だよ」と言ってました。

 

子供世代はなにかと忙しいし、近くにいないかもしれないし、近くにいりゃいいってもんでもないですしね。

親が嫌いな人がいても当然だし。

 

世の中の事件の多くは、家族関係に根があると思っているんですけど、だからこそ、このまっすぐな夫婦の愛情の物語が尊ばれるのかもしれません。

 

 

 

 

「雨夜の星たち」 寺地はるな

 

 

初めての作家さんです。

恋愛小説強化月間を個人的に展開中なのですが、書評サイトで勧められていたこの本を手に取ったのですけど、恋愛小説ではありませんでした。

どこのサイトでみたのかも忘れた。

 

2020年、コロナ禍下の物語。

偶然にも、前回書いた「肩ごしの恋人」のように惑えるアラサーが主人公なのですが、令和っぽくさめた感じのヒロイン。

会社を辞めた後、「お見舞い代行」という仕事で暮らしているヒロインは、他人に関心がない性格で、できないことはやらないし、やりたくないことはやらない。

ちょっとめんどい性格の人。

 

この小説は、そのヒロイン以外にも基本的にめんどい人しか出てこなくて、ふわっとした透明感のある文体のあちらこちらから不協和音しか聞こえてこない。

この主人公の存在で、その不協和音が響いている気がしなくもない。

主人公のお姉さんは、完全にそれ。

 

そして、誰も悪くないというのがこの話の肝で「ま、世の中こんなもんだよな」っていう。

主人公も、母親と軋轢があるんだけど、しれっと冠婚葬祭のイベントには参加したりしてて、「盗んだバイクで走り出す」世代の私からみたら(その場にいけば、母親からいやな思いをさせられるのがわかりきってるので)、なんでや!?って感じでした。

 

でも、とても今っぽいというか、ゆるくふわっと抵抗していく感じとか、令和感あるな。25年前なら受け入れられない小説だと思う。

私は、古い人間なので誰ひとりとして共感できない小説だったけど、そのあたりは面白かったです。

若い作者さんなのかなと思ったら、そうでもなく(失礼。20代とかかなと)、コロナ禍の時のいいようのない不安だけど、静かな世界の雰囲気がすごく出ていて、今やもう懐かしいようなそんな気持ちになりました。

 

文体や文章の雰囲気はすごく好きで、喫茶店の描写とかもよかったです。

 

 

 

 

 

 

『肩ごしの恋人』唯川恵(2004 集英社文庫)

 

久々に恋愛小説を読んでみようと思って、評判のいいこの作品を手にとったところ、百合だった!w

 

でも女性の理想かもしれない。

けんかもするけど、よいところも悪いところも知り尽くしている女友達と生きていく。

そこには上下がない。

支配も被支配もない。

「もう生理やだよねー」「それな~」で理解しあえる関係。

 

性愛なんて一瞬のこと。

なんだったら、女性同士だって出来ないことないし。

 

ヒロイン二人には、全く親近感はないんだけど(私は)、アラサーという誰もが惑う季節が嫌味なく描かれていて、読みやすかった。

25年前の作品だけど、彼女たちの悩みは今のアラサーも共感できるものだろう。

 

しかし、25年前だなと思えるところもある。

ゲイの人たちに対する描写とか、今ならないな~とか(ヘイトしているわけじゃないし、ヒロイン・るり子の言動も当時なら残念ながら普通だったと思う)。

なにより、登場人物たちが裕福だ。

男性たちも裕福だし、女性たちも生活にあくせくしてない。

るり子は、夫のクレジットカード使いまくりで、夫がゴールドマンサックスとかならともかく、頭の悪そうな若い女がいるような職場である。

萌も、理由は理解できるが、職場をやめてバイト生活。

失業保険が出てる、という設定だけど、それで三人暮らしができるようなところに住んでいる。

令和の今なら「引っ越さなきゃ!」→シェアハウスに転居、そこで出会い、みたいになるだろう。

 

やっぱり、日本は貧しくなったなと思う。

今ならるり子は生活を考えて離婚できないだろうし、萌は会社を辞められないだろう。

恋愛と経済活動は切っても切り離せない。

 

 

 

 

図解 脳に悪い七つの習慣』林成之(幻冬舎 2015)

 

新書版を要約してイラストや図をいれた薄い本で、30分くらいで読めました。

が、内容はなかなかよかった。

 

脳の働きの特徴と共にそのパフォーマンスをあげるための簡単な習慣・方法が説明されています。

どれも難しいものじゃないので、すぐ出来る。

 

「あるあるある!」と思ったのが、「できた、と考えると思考力が落ちる」という項目。

期限がある仕事などで、たとえばあと三日で終わらせなきゃいけなものの終わりが見えてきて「間に合いそう」と思った瞬間、途端にやる気がなくなりスピードが落ちる。

 

我ながら、この現象なんだろうと思っていて、自分では「油断してしまう」って言ってたんだけど、これは、脳自体が「だいたいできた」と思うと「できた」と判断してしまうそうで……。

私もよく「間に合いそう」と思うけど、脳は「間に合う」って思ってしまってるのかも。

 

こういう時は「ここからが本番」「ここからが大切」と思うといいそうです。

そんなふうに考えたことなかった。

ぜひ、次からは実践したい。

 

この本を買ったのは、600円(税別)という安さもあったんだけど、この項目だけでも十分元が取れました。