翌々日朝10時頃省三は秀雄に連れられ大阪の埠頭から関西汽船“るり丸”に乗って高松に向かった。1等の個室はデッキより一段と高いところにあり展望台のように見晴らしがよく部屋にはベッドが2つと窓際のテーブルには2つの肘つきの籐椅子があった。
出帆してまもなく船長がお盆に昆布茶を載せて挨拶に来た。父と顔馴染みらしくしばらく父と談笑して「どうぞごゆっくり船旅をお楽しみください」と省三にも丁寧に挨拶して出て行った。
「このお茶おいしいね」昆布茶に浮いている丸い米粒大のおかきは噛み砕くと香ばしい味がして昆布茶の塩味とよくあって海の汽船のお茶という感じがした。
「どうだ省三。来たときの貨物船とこの客船の違いは」秀雄は太い葉巻を口にくわえたまま省三に言った。
「そりゃこの豪華客船がよっぽどいいよ。貨物船の船底の畳で毛布に包まって寝るのとこの1等の部屋のベッドと比べると天と地ほどの違いがあるよ」省三はベッドで飛び跳ねながら父に言った。
「昼の瀬戸内海航路の景色はすばらしいぞ。少し外へ出てみようか」秀雄が先にデッキに出て行って省三もすぐ後に続いた。青い空に夏の白い入道雲がぽっかり浮かんでいた。青い海に緑の小島が転々と続いている。波は静かで秀雄と省三を乗せた白い豪華客船が島々の間をすべるように進んでいく。二人はデッキの手すりに寄りかかって海の風を全身で心地よく受けていた。
第25話に続く