地元の人が「山の御殿」と呼ぶこの大きな新しい家から省三は白鳥中学校に入学した。1年前の旧友達とも久しぶりで再会した。

「おー省三よう帰ってきた」チャンバラ仲間の悪友たちも暖かく省三を迎えてくれた。

1年間の空白が彼らの胸の中で一層熱く友情を感じさせた。友達とは本当にありがたいものだ。一時は彼らと別れて都会の学校に転校した後ろめたさもあって省三はこの幼馴染の旧友達との友情をもっともっと大切にしようとしみじみ感じていた。


家の2階は3つの和室が襖で仕切られいちばん奥の12畳の和室には舞台が作れていた。父の秀雄はこの舞台が自慢らしくいつも週末の土曜日の夜は手袋の下請け工場の親父さんたちを集めて宴会をしていた。母の美奈子とキュウちゃんは土曜日になると朝からいそがしく宴会の準備をしていた。


父はこの舞台でよくどじょうすくいの踊りを踊っていた。ぽってり出たおなかを突き出し。ゆかたのおしりをからげて手ぬぐいでほうかぶりし、自慢の鼻ひげふるわせながら腰をかがめて踊りだすと来客たちは一斉にはやしたて笑い転げた。母とキュウちゃんも父のどじょうすくいが始まるとエプロン姿のまま2階に上がってきて来客たちの後ろで大きな声ではやし立てていた。


父は大阪の渡瀬貿易㈱が倒産して軸足を白鳥に移して自家工場も家に隣接して建て、100件以上もの下請工場を傘下に入れようと盛んに宴会を開いて下請工場の親父さんたちの心をひきつけていた。この頃から父の持病の糖尿病はだんだんと悪化し、ほていさんのような太鼓腹を抱えて父はそれでも宴会をやめずビールを盛んにあおっていた。

~第40話に続く~

庭の西側に大きな門があり門から家の南側に沿って東の玄関まで砂利が轢かれ砂利道に沿って両側に池が作られていた。右側の池の真ん中では噴水が勢いよく水を吹き上げていた。少し離れた左側の池では赤白模様の大きな数匹の鯉がゆっくりと泳いでいるのが見えた。赤い瓦の屋根の下には池を眺めるように大きな廊下が南側と西側に作られていた。


勇はどんどん家の方に向かって下りて行った。

「お兄ちゃん早くおいでようー」勇が大理石で出来た玄関に立って山の頂上の省三に向かって大きな声で叫んだ。

省三とキュウちゃんも急いで山をおりた。玄関の脇に植えられた桜が満開だった。母の美奈子も少し遅れて二人の後を追うように山を下りてきた。


「ここが玄関」勇がゆっくり大きな引き戸を両手で左右に開いた。碁石のような黒い石が白セメントで平らに固められたたたきは2間以上もありこの家の威容を瞬時に感じさせた。



~第39話に続く~

省三はプラットホームが終わったあたりで線路を横断した。信号も何もない砂利で盛り上がった線路を大またで横断して行った。

「省三、こんなとこ横断して駅員に見つかったらしかられますよ」母の美奈子は駅の改札口のほうを見ながらそれでも急いで線路を渡った。キュウちゃんも勇も急いで線路を渡った。


線路を渡るとすぐに細い山道を省三は先頭に立って登って行った。山道は人間が1人通れるだけの細さだった。省三の後を3人が1列になって登っていった。

「お兄ちゃん、今度のおうちの建っている場所知っているの」勇が息を切らしながら前をどんどん登っていく省三に声かけた。

「以前お父さんから土地の場所は聞いていたから大体わかっている。ここを登りきったらすぐ下に家が見えるはずだ」省三はどんな家が建ったのか早く見たいと思って早足で登って行った。


10分くらいで山の頂上に着いた。右斜め下に大きな赤い瓦葺の家が建っていた。家の東、南、西側に池が作られその周りを植えられたばかりで幹をわらで巻かれた庭木が数十本も見えた。

「すっげー。大きな家だ!」

「お父さんのやることはいつもこうなのよ。何しろ大きいことをするのが好きな人だから」

省三の後をはーはー言いながら登ってきた美奈子が言った。

「大きなおうちね」キュウちゃんも感嘆の声を上げた。3人はしばらく頂上の草むらに腰を下ろして家の全容を見続けていた。


~第38話に続く~