地元の人が「山の御殿」と呼ぶこの大きな新しい家から省三は白鳥中学校に入学した。1年前の旧友達とも久しぶりで再会した。
「おー省三よう帰ってきた」チャンバラ仲間の悪友たちも暖かく省三を迎えてくれた。
1年間の空白が彼らの胸の中で一層熱く友情を感じさせた。友達とは本当にありがたいものだ。一時は彼らと別れて都会の学校に転校した後ろめたさもあって省三はこの幼馴染の旧友達との友情をもっともっと大切にしようとしみじみ感じていた。
家の2階は3つの和室が襖で仕切られいちばん奥の12畳の和室には舞台が作れていた。父の秀雄はこの舞台が自慢らしくいつも週末の土曜日の夜は手袋の下請け工場の親父さんたちを集めて宴会をしていた。母の美奈子とキュウちゃんは土曜日になると朝からいそがしく宴会の準備をしていた。
父はこの舞台でよくどじょうすくいの踊りを踊っていた。ぽってり出たおなかを突き出し。ゆかたのおしりをからげて手ぬぐいでほうかぶりし、自慢の鼻ひげふるわせながら腰をかがめて踊りだすと来客たちは一斉にはやしたて笑い転げた。母とキュウちゃんも父のどじょうすくいが始まるとエプロン姿のまま2階に上がってきて来客たちの後ろで大きな声ではやし立てていた。
父は大阪の渡瀬貿易㈱が倒産して軸足を白鳥に移して自家工場も家に隣接して建て、100件以上もの下請工場を傘下に入れようと盛んに宴会を開いて下請工場の親父さんたちの心をひきつけていた。この頃から父の持病の糖尿病はだんだんと悪化し、ほていさんのような太鼓腹を抱えて父はそれでも宴会をやめずビールを盛んにあおっていた。
~第40話に続く~