「大丈夫です。僕はどこでもよく眠れるたち(性質)ですから。だけどしばらく船長の運転室に居てもいいですか」
「ああええよ。すぐ出帆すっからな」
船長は省三を甲板の上の運転室に連れて行った。省三は船長の横の助手席に座った。

貨物船”佐藤丸“はゴトゴトとエンジン音を立てるとまもなく東の淡路島方向に向かって進みだした。すぐにランプロファイアの白と黒の縦縞の断崖の横を通過した。
いつも白鳥の砂浜から見ている白と黒の縦縞の岬が月明かりにくっきりと不気味に現れてきた。



船で間近かに見ると岩は荒々しく白と黒の縞模様も均等でなく大分いびつになっているのが月明かりにはっきり見えた。”佐藤丸”はスピードを上げて波しぶきを立てながら瀬戸の海を淡路島方向に進んでいく。ランプロファイアもだんだんと後方に遠去かってしまった。


「船長さん、何であの白と黒の断崖をランプロファイアというんだろう?」
省三は後方に小さくなっていく断崖を振り返りながら靖男に聞いた。

「わしもよう知らん。入水自殺した死体が潮に乗ってあの崖に打ち上がるということは聞いたことがあるけどな」


「ふーん、潮はランプロファイアに向かって流れているんだ」
「この先に、といってもまだ大分先だが鳴門の渦潮が巻いとる。潮は鳴門に向かって流れとるんや、その途中にあのランプルファイアの岬が突き出ているから潮が岬にぶつかるということや」
「じゃーこの船も潮にのって走っとるということですか?鳴門の渦潮を通って行くんですか?」
省三は渦潮を見られるかもしれないと期待を持って前方を見たまま真剣に舵を取っている靖男に聞いた。



ー第10話ーに続く

「そこに鉄のはしごが付いとるやろ。そのはしごを登っていくんや」
「わかりました。これなら簡単に登っていけそうです」
省三は感謝の気持ちをこめて源三に言いながら鉄のはしごに手をかけて伝馬船を鉄のはしごに引き寄せながら船首からはしごに飛び移った。



「源じいさん、どうもありがとうございました。行ってきます」
「気つけてな」
源三は省三がするすると鉄のはしごを登っていくのを伝馬船から見守っていた。いつもわしの船で遊んでいるだけあるわ、達者なもんや。源三は大きく安堵の深呼吸をして甲板に向かって上がって行く省三を見続けていた。


甲板では帽子をかぶった船長が鉄のはしごを登ってくる省三を見下ろしていた。
「僕1人で神戸行くんか?」
船長は登ってきた省三の手を握って甲板に引き上げながらあきれ顔で省三に言った。
「はい、神戸の港に父が来てくれる事になっています。渡瀬省三です。よろしくお願いいたします」
省三はわれながら上手な挨拶ができたと思いながら船頭にぺこんと頭を下げた。


「そうか渡瀬手袋の倅さんか」船長の靖男も改まった口調で言うと省三の手をひいて貨物船の運転室のほうへ連れて行った。


途中甲板の大きな穴の下のほうで先ほどの木箱の荷物を積みなおしている4人の船員が見えた。
「今夜は、あの荷物の横で寝るんや。大丈夫か?」
船長に言われて省三は改めて甲板から船底の貨物室を見下ろした。
木箱がたくさん積まれていたがまだ2割ほどの空きスペースがあった。


ー第9話に続くー

源三は木箱が引き上げられていく間に積んできた短いロープを次の木箱にかけていった。
最初の木箱を甲板に下ろしたリフトが伝馬船の上まで半回転してするすると黒いフックのついたロープを下ろしてきた。



源三は次の木箱に架けてあった2本のロープをフックに引っ掛けてOK!と声かけて頭上で両手で丸い円を作った。6個の木箱は30分くらいですべて貨物船に引き上げられた。省三は源三のすばやい荷上げ作業に感動して無言で見続けていた。


源三は荷物を降ろして軽くなった伝馬船を貨物船の後ろ側に漕いでいった。


「省ちゃん、この船の船長はやっさんゆうてわしと小学校が一緒や。なんでも相談したらえー」
「やっさんて?なにやっさんですか」


省三は次は自分が貨物船に乗り移るんだ。うまく乗れるだろうか。船長はただで乗せてくれるんだろうか。そんな不安に襲われて源三に聞いた。
「楠木靖男言うてな。わしより8つも歳下やけど、気のええ男や」


伝馬船が貨物船の後ろに回り中央でその部分だけU字型に海面近くまでへこんでいるところに近付いた。



-第8話に続くー