「おい!起きろ。とっくに神戸に着いとるぞ」

昨夜の若い船員に毛布を剥ぎ取られて起こされた。省三は寝ぼけ眼で腕の時計を見た。8時に近かった。目をこすってもう1度腕時計を見直した。間違いない7時50分だ。昨夜眠りにつくまで体中に響いていたゴトゴトいうエンジンの音も止まって貨物室がシーンと静まり返っていた。



「降りるしたくしろ。親父さんも迎えに来とるぞ」

「えー!お父さんもう来てくれとんですか」

省三は昨夜工場の仕事を手伝ったままの半ズボンとTシャツを両手でパタパタとはたいて「はい、降りるしたくできました」右手をあげ指をこめかみあたりにつけて敬礼の仕草をした。

若い船員はわっははと大きな口をあけて笑いながら省三の手を引いて貨物室の階段を上っていった。



甲板へ出ると神戸の埠頭の大きな倉庫がたくさん建っているのが見えた。

さすが神戸だ。省三は埠頭の大きさと倉庫の多さにびっくりした。

「親父さんのいるところへ連れて行ってあげる。ついておいで」

若い船員の後を省三は小走りについていった。



船を下りた真向かいの大きな倉庫の事務所に船員は省三を連れて行った。事務所の左側の会議室に父秀雄と若い社員の井沢隼人が会議用の大きいテーブルに座っていた。



「省三よく来たな」鼻ひげを蓄えた色の黒い父の顔を久しぶりに見て思わず泣き出しそうになったが横でにこにこしている隼人兄ちゃんの笑顔につられて省三も笑顔で父に対することが出来た。

「びっくりしたぞ。母さんからの電話で省三が1人で貨物船に乗ったちゅうから。無茶するやっちゃな」

父の英雄のまなざしはやさしかった。



ー第13話に続くー

危ないから階段の手すりにつかまりながら降りてきな」
船員は先に階段を下りていった。続いて省三も鉄製の急な階段を下りていった。



船員は階段の下の畳6枚を敷いた場所に省三を案内し毛布と枕を渡してくれた。
船腹には海面すれすれに丸い窓があり波が後方に飛び散っていくのが見えた。
壁には裸電球の入ったカンテラがぶら下がって畳の部分だけがうっすらと明るかった。


貨物室のほうは真っ暗でどれだけの広さか見当もつかなかった。ちょっと不気味な感じがしたが眠たさのほうが強かった。
「着いたら起こしてあげるからゆっくりやすんだらええ」
若い船員はにっこり省三に微笑んで階段を上って行った。



省三は毛布に包まって丸い窓ガラスに波しぶきが勢いよくぶつかって後方に飛んでいくのを眺めているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。



ー第12話に続くー
            

時折汽船や漁船が"佐藤丸"の前方に急に現れては後方に去っていった。
船長はそのつど汽笛を鳴らして舵を右左に切ってそれらの船を交わしていた。


「いや鳴門はとうらん。あそこは底に岩がいっぱいあるからこの船は無理や。淡路の兵庫側の福良を通る」
やがて前方に淡路島が見えてきた。夏の瀬戸の夜風が省三の頬を気持ちよく撫ぜながら後方に飛んでいく。


「少し寝ておいたほうがええぞ」
靖男に言われて時計を見ると午前1時を過ぎていた。
「そうします。もう寝ます」
「貨物室に下りた階段の下に畳を敷いたところがある。そこで寝ればええ。毛布も枕もあるから好きなように使ってくれ」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
省三は靖男に挨拶して貨物室の方へ歩いて行った。


二人の船員が船の両側に立って注意深く前方を監視していた。
「貨物室の入り口はどこですか?」
省三は若い方の船員に声をかけた。
「こっちだ」
船員は省三の手を引いて貨物室の階段の降り口までつれていった。
「危ないから階段の手すりにつかまりながら降りてきな」
船員は先に階段を下りていった。続いて省三も鉄製の急な階段を下りていった。



ー第11話に続くー