時折汽船や漁船が"佐藤丸"の前方に急に現れては後方に去っていった。
船長はそのつど汽笛を鳴らして舵を右左に切ってそれらの船を交わしていた。


「いや鳴門はとうらん。あそこは底に岩がいっぱいあるからこの船は無理や。淡路の兵庫側の福良を通る」
やがて前方に淡路島が見えてきた。夏の瀬戸の夜風が省三の頬を気持ちよく撫ぜながら後方に飛んでいく。


「少し寝ておいたほうがええぞ」
靖男に言われて時計を見ると午前1時を過ぎていた。
「そうします。もう寝ます」
「貨物室に下りた階段の下に畳を敷いたところがある。そこで寝ればええ。毛布も枕もあるから好きなように使ってくれ」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
省三は靖男に挨拶して貨物室の方へ歩いて行った。


二人の船員が船の両側に立って注意深く前方を監視していた。
「貨物室の入り口はどこですか?」
省三は若い方の船員に声をかけた。
「こっちだ」
船員は省三の手を引いて貨物室の階段の降り口までつれていった。
「危ないから階段の手すりにつかまりながら降りてきな」
船員は先に階段を下りていった。続いて省三も鉄製の急な階段を下りていった。



ー第11話に続くー