私が初めてひとり旅をしたのは20代前半、今から30年前にまで遡ります。
パリに住む遠い親戚を訪ねて、一週間ほど旅行をすることに。
その親戚のお宅に居候させてもらったため、完全にひとり旅とは言えないかもしれません。
でも、少なくとも日中はひとりきりで過ごしたので、私の中では初一人旅としてカウントしています。
ルーブル美術館、エッフェル塔、凱旋門、シャンゼリゼ通りなど。
ガイドブックに書かれている有名な観光名所は、パリ初心者でも、地下鉄と徒歩で簡単にまわることが可能です。
来る日も来る日も、カフェでクロワッサンとカフェオレの簡単な朝食を済ませて、一日中パリ市内を歩き回りました。
ただ、若かった私は、どこに行ってもなんとなく物足りなさを感じていました。
たとえば、エッフェル塔。
たしかにテレビや雑誌などで何度も見たあの姿を目の前にすると、「おお!」とは思う。
が、逆に言うとそれだけ。
「おお!本物のエッフェル塔だ」
で終わってしまうのです。
これがもし、同じくらいの年代の友人が一緒だったとしたら。
「本物のエッフェル塔だ!」
「テレビで見るより大きく感じない?」
「いやぁ、パリにいるって気分になるね!」
などと言い合って、さらにテンションが高まるはず。
ところがひとりだと、この『同行者の感動』というブースターがない。
そのため、どうしても心の動きが緩やかになってしまうのです。
「ああ、エッフェル塔だな」と思ったあとは、しばらく眺めたり、写真を何枚か撮ったらそれでおしまい。
この経験から、私は「ひとり旅はつまらない」と思い込むようになってしまいました。
ただ逆に、誰かと一緒の旅行は気を遣うことも間違いありません。
私はわりと、誰にでも合わせられる質。
それでも朝から晩まで、しかも数日一緒となると、「ひとりになりたい」と感じることがあります。
また、いくら気の置けない友人でも、旅のスタイルがすべて合っているとは限りません。
たとえば、行く先をあらかじめきちんと決めておきたいか、行き当たりばったりがいいか。
地元の食材を楽しみたいか、あまり冒険はしたくないか。
早起き派か、夜ふかし派か。
こうしたことがずれていると、旅を100%満喫できなくなってしまいます。
さらに年を重ねると、こうした小さなこだわりが強くなってくる始末。
若いころなら豆電球を点けていないと怖くて眠れない、という友人に合わせることは全く問題なかったのに。
でも今は、真っ暗でないと熟睡できない自分がいる。
ああ、年を取るって不便!
と文句を言っていても、悲しいかな、時間の流れは止められません。
だったら、年を重ねたからこそ楽しめる旅のスタイルを見つけたい、と思うのです。
若いころと嗜好が変わってきたのなら逆に、今なら一人旅だって楽しめるかもしれないのだから。